大学受験の最難関・東京大学。その個別試験は2日間にわたり、2時間を超える科目もある長丁場だ。深い洞察力、論理的思考力、記述力が求められる東大の入試。少子化による大学全入時代、親世代よりはるかに大学に入りやすくなっていると言われる今、なぜあえて日本一難しい入試に挑むのか。高校生活との両立に苦労しながらも、なぜ楽な道を選ばず、自らを律して頑張れるのか。現役で東大に合格を果たした2人に、それでも東大を「推す」理由について語ってもらった。
岡野 史(おかの ふひと)さん:東京大学 文科II類1年生、東京都立日比谷高校出身、駿台予備学校 御茶ノ水2号館クラスリーダー
加藤 慶大(かとう けいた)さん:東京大学 理科II類1年生、東京都立小石川中等教育学校出身、駿台予備学校 御茶ノ水3号館クラスリーダー

日本でいちばん勉強量が多い入試
--大学受験にはさまざまな選択肢がありますが、あえてなぜ、もっとも受験勉強が大変な東大を目指そうと思ったのか、その理由からお聞かせいただけますか。
岡野さん:日比谷高校は周囲の意識が高く、切磋琢磨して一緒に頑張ろうという雰囲気だったので、僕もそれに刺激を受けて「目指すなら東大」という気持ちになりました。文系では社会が2科目も必要なのは東大だけで、日本でいちばん勉強量が多い入試なのですが、それでも挑戦してみようと思えたのは、周囲が自然と志を高めてくれたおかげだと思います。
加えて、受験の段階で自分が本当に何をしたいのかがわからなかったので、東大の進学選択の制度に魅力を感じました。2年生の夏まで、どの学部・学科へ進学するかを考える時間があり、僕が在籍している文科II類からは約4分の3が経済学部に進みますが、約4分の1は農学部、文学部、工学部など、他学部に進学しています。
加藤さん:僕は中学受験で中高一貫校に進学しました。その際、まだ漠然とでしたが「次は大学受験だな」と思い、東大を意識するようになりました。文部科学省からSSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定を受け、科学技術人材の育成を目指した教育活動を推進している学校だったので、自然と理系分野への関心が高まっていきました。
ただ、自分が本当に興味がもてるのがどの分野かを高校までの勉強で決めるのは早すぎると感じました。その点、岡野さんが言ったように、東大には2年生の夏までじっくり考える時間があるところが魅力でしたね。理科II類にしたのは、教養学部前期課程で、理科II類では物理、化学、生物と3分野にわたって基礎実験ができると知ったからです。3分野を幅広く学びながら、自分の興味をはっきりさせたいと思いました。

本格的な受験勉強はいつから?
--東大を目指し、本格的に勉強を始めたのはいつからですか。合格までの道のりを教えてください。
岡野さん:テニス部に所属しており、週5回の練習に加えて土日は大会もあったので、引退する高2の3月までは部活中心の生活でした。週1回数学の塾に通っていましたが、勉強は学校の課題をこなすのに精一杯で、平日の勉強時間はおよそ2~3時間でした。
東大を目指すと決めたのが高2の夏だったので、スタートは遅かったほうだと思います。それでも目標を東大にしたのは、挑戦しない後悔をしたくなかったからです。「質と効率を重視すれば今からでも挽回できる」と信じて、高2の夏以降は本格的に受験勉強に取り組むようになりました。
そこで、それまで通っていた数学の塾を辞め、駿台で数学と国語を受講することにしました。東大受験に必要な社会2科目は学校の進度が遅かったので、自分で教科書を読んで先取り学習を進めていきました。高3からは駿台で世界史も追加し1日10時間ほど、直前期は1日12時間ほど勉強していたと思います。
--日比谷高校は、高3も文化祭で演劇を行うことで有名ですね。
岡野さん:そうなんです。日比谷高校の文化祭では全クラスが演劇をすることになっていて、高3になるとクオリティも上がり、かなり気合いが入ります。そのため、実は高3の夏休みは駿台に通いながらも、文化祭に向けた演劇の練習が結構忙しかったですね。
ただ、日比谷高校には先輩方から伝授された「不合格体験記」という貴重な資料があり、これがとても役立ちました。学校行事との両立から生活習慣、体調管理、共通テスト対策を含めた直前期の勉強法まで、先輩方の失敗談を教訓にできたことで、部活も文化祭もやり切り、メリハリを付けて受験体制に入れたと思います。

--加藤さんは中1から東大を意識したということですが、塾には通っていましたか。
加藤さん:はい。中1から駿台に通っていました。駿台にしたのは、いくつか塾の体験授業を受けた中で、駿台の授業が1番楽しかったからです。僕はもともと飽きっぽい性格なのですが、駿台は授業が楽しかったからこそ6年間も通い続けられたのだと思います。
中1からは週1回ずつ、英語と数学の授業を受けました。僕が在籍したクラスは中高一貫校の生徒向けで、大学受験に向けて勉強を進めていくので公立中学より1年ほど進度が早いです。もっと進度が早い塾もありますが、基礎が固まらないうちに進んでも身に付かないので、これは良いペースだったと思います。
英語と数学以外の科目については、学校の定期テスト前に2週間ほど集中して対策をしました。高2の3学期からは駿台で化学も追加しましたが、学校でも理科の範囲は夏までに終わったので、秋からは実践演習に入ることができました。
--加藤さんの場合は、中1から大学受験を意識してコツコツと着実に積み上げていったという感じですね。勉強以外の部活動や学校行事にはどのように関わっていましたか。
加藤さん:僕はサッカー部に所属し、週4日練習がありました。文化祭も運営に携わっていて、高3では僕も演劇をやったので、9月まではそれに全力投球でしたね。学校全体も、文化祭が終わると同時に受験モードへ切り替わるという雰囲気でした。忙しい毎日でしたが、学校生活は充実していてとても楽しかったです。1日中勉強ばかりだとつらいので、部活動や学校行事では思い切り発散し、そのぶん勉強では集中する。この切り替えが、効率の良さにつながっていたと感じます。
岡野さん: とても共感します。部活でも演劇でも、ひとつのことに集中するあまり周りの声が聞こえなくなるような、いわゆるゾーンに入る経験をすると思うんです。今、この瞬間に向き合っているという経験を積み重ねると、集中力がものすごく鍛えられます。勉強はダラダラ続けても意味がない。常に集中して取り組むからこそ知識や理論が定着し、学力の伸びにつながるのだと思います。

現役合格を果たした2人の「学校・塾・模試の活用法」
--駿台の授業や模試はどのように活用しましたか。
加藤さん:駿台の模試は問題も解説も質がとても高く、自分ができていない部分が浮き彫りになってくるので、具体的に弱点を把握できるところが魅力だと思います。特に東大実戦模試は本番さながらの内容で、じっくり解説を読んでいると駿台の先生方と直接対話しているような感覚でした。よく、難関大学に合格した駿台の卒業生が「ていねいに模試の復習をすることで学力が伸びた」「逆転合格につながったのは模試の復習のおかげ」といったコメントを寄せていますが、あれは僕自身の経験からも真理だと思いますね。
テキストについても同様で、駿台の教材は分厚くはないのに、必要なエッセンスが凝縮されているんです。掲載されているのは良問ばかりで、こちらもしっかりと復習するだけで答案作成に必要な考え方が身に付きます。もちろん予習も大事なのですが、それ以上に復習を徹底することで力が付きましたね。特に英語は学校の授業とは違い、厳選された難易度の高い文章を徹底的に突き詰めていくスタイルで、周りの人のレベルも高く、そうした環境に身を置けたこと自体が自分にとっては大きな刺激になりました。
岡野さん:僕も駿台のテキストには大いに助けられました。特に東大の社会は、単なる知識の暗記ではなく、原因と結果の流れを問われたり、ある事象をいくつかの観点から比較して分析させたり、高度な論理的思考力が求められます。駿台の論述教材は採点ポイントが具体的に示されているので非常にわかりやすかったですし、選択していた世界史の授業では、加点される書き方について具体的な指導を受けられました。「東大とキャッチボールをするように答案を書け」というアドバイスは印象深く、授業の復習を何度も繰り返すことで、求められている要素を限られた字数で的確に盛り込む感覚が身に付きました。
模試については、僕も受けた後のほうがすごく大事だと実感しました。東大ならではの出題傾向を駿台の講師陣が事細かに把握した上で作られた問題なので、結果に一喜一憂して終わるのではなく、優先度がもっとも高い教材としてしっかりと復習に取り組むべきです。
--一方、今振り返って最大の後悔はありますか。
岡野さん:2つあります。1つは、多くの参考書に手を出しすぎたこと。今思えば、新しい教材に飛びつくより、1冊を徹底的にやり込むべきでした。良いと言われる参考書に焦ってあれこれ手をつけるのではなく、これと決めた1冊を1周目、2周目はそれぞれいつまでにといった具合にロードマップを作って進めればもっと効率的だったと思います。
もう1つは、受験を意識した勉強を始めるのが遅かったことです。加藤さんのように、中高一貫校では中学から東大を目指す人が多いので、僕も高1から本格的に取り組むべきだったと感じています。

加藤さん:僕は高3の9月に文化祭が終わったあと燃え尽きてしまい、しばらく勉強に身が入らなかったことです。中高6年間やり切った満足感というか、気持ちのピークがその時期に来てしまって、「勉強なんてやってられない」というメンタルになってしまいました。ただ、学力面では中1から曲がりなりにも少しずつ積み上げてきた貯金があったので、入試本番までに何をやれば良いか、自分のやるべき課題はわかっていました。そのおかげで、しばらくして気持ちを立て直した後は、やるべきことを淡々と進められたと思います。
東大合格の決め手になったのは?
--お二人にとって、東大合格の決め手になったのは何だったと思いますか。
岡野さん:「時間管理」と「効率」です。受験勉強は「質」と「量」の掛け合わせであり、両方がそろって初めて成果につながると思います。僕は受験に向けた勉強のスタートが遅かった分、「質」を高めるしかないと思っていました。とはいえ、時間は有限です。そこで意識したのは、得意科目をさらに伸ばすことよりも、苦手科目の克服に時間をかけることでした。東大の入試は科目数が多く、総合力が問われます。そのため、大きな穴を作らないことが重要なので、苦手科目を平均以上に引き上げることに注力しました。また、東大が求めているのは細かい知識ではなく論理的な思考力です。だからこそ、過去問を繰り返すことでその力を集中的に磨いたのは、東大に合格するための勉強としては無駄がなく、効率的だったと思います。
加藤さん:僕は、孫子の有名な言葉にあるように、「彼を知り、己を知れば、百戦して殆(あや)うからず」が決め手だったと思います。相手、つまり東大のことも、自分自身のこともちゃんと研究して理解していれば、100回勝負しても大丈夫だということです。
岡野さんが今話したように、過去問を通じて東大の出題傾向を知ることはもちろん大事です。ただ、それと同時に、自分が「どんなタイプの人間か」を把握し、そんな自分に合った勉強法を選ぶこと、そして常に「自分の課題は何か」を意識して勉強することが大事だと思います。僕は飽きっぽい性格なので、短時間で集中できる勉強法を工夫しました。
中でも駿台の授業では学校では扱わないようなユニークな問題にも触れられ、「こんな考え方もできるのか!」と新しい発見ができ、新鮮な気持ちになれたことが勉強を続けるドライブになりました。また、自分の課題は、定期的に模試を受けることでインプットの定着度を測ることができました。そこで必ず復習をし、弱点を補っていけば、中高の6年間、あるいは高校3年間でかなり高いレベルの学力が身に付くと思います。

岡野さん:もうひとつあげるとすると、「継続力」も大事でしたね。僕は高2の3月まで部活中心の生活でしたが、部活が終わってから学校の自習室が終わるまでの1時間と、帰宅後の1~2時間は勉強に充てていました。学校行事にも全力で取り組みましたが、どれだけ疲れていても「勉強ゼロの日」は絶対に作らず、必ず机に向かうことを徹底していました。
加藤さん:最初から長時間勉強しようとするとハードルが高く感じるので、小さな1歩から始めることがコツだと思います。机の前に座るだけでも良いし、授業のノートを見返して内容を思い出すだけでも良い。それでも復習になりますから、継続するにはスモールステップに刻んでいくことが大事ですね。
岡野さん:0から1にするのは大変だけど、まずは0から0.1でも良いですよね。毎日ご飯を食べること、歯を磨いたりお風呂に入ったりすることと同じように、最初は5分とか10分だけでも勉強を毎日の習慣にしてしまえば良いのではないでしょうか。
負けには偶然の負けはない
--とりあえず机の前に座ってみる。これなら心のハードルがぐんと下がり、始められそうです。東大生は、勉強が毎日の生活習慣に組み込まれているからこそ、合格するために必要な並外れた勉強量をこなすことができるのですね。最後に、東大を目指す受験生にエールをお願いします。
岡野さん:「勝ちには偶然の勝ちがあり、負けには偶然の負けはない」という言葉があるように、失敗から学ぶ姿勢を忘れないでほしいです。ネット上にはさまざまな勉強法や体験談があふれていますが、受験勉強に唯一の正解はありません。自分に合わないなと思ったら他の方法を試してみること。また、模試や演習でつまずいたところや解けるはずの問題なのに解けなかったところはしっかりと復習することも大切です。周りで不合格だった人の話にも耳を傾け、参考にしてほしいと思います。
加藤さん:駿台でもクラスリーダーが自分の失敗談を共有してくれますが、僕もそれを素直に聞くことはとても大切だと思います。また、岡野さんが言ったように、自分のやり方に固執しすぎず、違うなと思ったら他の方法に切り替える柔軟さも必要です。
東大受験は、合格するか否かの結果ではなく、東大を目指す挑戦そのものに価値があります。世界トップレベルの教育・研究環境に身を置くため、高いハードルを自分に課すという機会は、人生でそう多くありません。自分なんかできるわけないと最初から怯まず、ぜひ一度は挑戦してほしい。その挑戦自体が、人生の大きな財産になるはずです。
--貴重な体験談をありがとうございました。
部活動や学校行事にも全力で取り組みながら、東大現役合格を勝ち取ったリアルな体験談。効率を意識する、ゾーンに入る経験をする、メリハリをつける、勉強を習慣にする、復習を怠らないなど、2人にはいくつも共通点があった。これから挑戦する受験生は、おおいに参考にしてほしい。
第一志望は、ゆずれない。駿台式「東大合格」への道
