可能性は無限大…女子の自由な選択を促す三菱みらい育成財団「理系ブロッサム」

 三菱みらい育成財団は2025年7月12日、全国の女子高校生を対象としたオンラインセミナー「第4回理系ブロッサム」を開催した。当日のようすと、後日開催された企業講師の対談をお伝えする。

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 三菱みらい育成財団は2025年7月12日、全国の女子高校生を対象としたオンラインセミナー「第4回理系ブロッサム」を開催した。女子高校生が、理系の女子大学生・女性企業人たちと直接対話できるイベントとして4回目を迎えたもので、文理選択や志望大学・学部の絞り込み、将来の夢とキャリアについてなど、進路に悩む女子高校生に大きなヒントが示される、毎年恒例のイベントとして定着している。

 今回も機械、化学、素材といったメーカーをはじめ、銀行や保険、シンクタンクなど幅広い業種の16社から28名の理系女性企業人が参加して講師を務めた。また、28名の理系女性大学生・大学院生がファシリテーターとして参加した。

無意識の「自制」を払拭し、女性自ら可能性を開く

 内閣府が2025年7月31日に公表した「女性活躍・男女共同参画の現状と課題」よると、女性就業者数は2012年からの12年間で424万人増加。民間企業管理職相当の女性割合においても近年上昇傾向にあるが、上位の役職ほど割合が低く、女性役員比率も諸外国とのギャップは依然として大きいままだ。科学技術・学術の分野でも大学の学部生に占める女性の割合は理学で28.3%、工学で16.7%と低いままであり、国は2020年に策定した第5次男女共同参画基本計画にて、大学(学部)の理工系の学生に占める女性の割合の成果目標を「毎年度 前年度以上」に据え、女子生徒の理工系分野への進学促進に向けた啓発等の取組みを推進している。

「女性活躍・男女共同参画の現状と課題」より「科学技術・学術における男女共同参画の推進に係る現状」

 こうした現状や政策を踏まえ、三菱みらい育成財団は毎年、女子生徒が自ら理系選択を行うべく、不安を取り除き、背中を押す取組みとしてオンラインセミナー「理系ブロッサム」を開催している。これは女子高校生が多様な分野で活躍する理系女性企業人と対話し、理系女子のキャリア観を拡張して自らの可能性を開いていくことを目指すもので、日本のリケジョがなかなか増えない要因のひとつとされる「女性は理系に向いていない」といった無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)を払拭し、進路選択に迷う女子高校生の背中を押す内容になっている。

 第4回理系ブロッサムは、「理系の話がおもしろい!」をキャッチコピーに掲げ、2025年7月12日に開催された。今回のイベントではまず、東京大学教授・横山広美氏およびYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」を運営する葉一氏によるトークセッションが行われ、科学と社会の関りに関する研究と数学教育の分野で先端を歩む2人のこれまでの経歴や体験などについて共有。その後、「理系女性企業人講師1名・理系女子大学生ファシリテーター1名・女子高校生数名」という少人数のルームにわかれブレイクアウトセッションを実施。具体的には、企業人講師がそれぞれのキャリアを振り返り、どんな高校生活を送り、どうやって進路を決めてきたのか、学部選び、企業選びなどそれぞれの進路選択や現在の業務内容といったことを講話したのち、理系女子大生および女子高校生を交えての質疑応答・対話を2回開催し、大いに交流を行った。また、セッション後は企業講師のみ、女子大生と女子高生のみの2つのグループにわかれて、振り返りを行い、感想や質問などをシェアし合った。

東京大学教授・横山広美氏(左)と教育系YouTuber・葉一氏(右)

幅広い興味を1つに絞らず柔軟に学びがつながっていく

 ブレイクアウトセッションの間には、「学生ファシリテーター×高校生」「企業講師のみ」にわかれて、振り返りの時間が設けられた。学生スタッフ・高校生の振り返りでは、「あるきっかけで自分自身を見つめ直して自己理解を深めたと聞いたので、自分もやってみたい」「可能性がいろいろある道を選んできた人の話を聞いて、1つに絞らないことが大切なのかなと思った」「職業は文系理系にとらわれなくて良いと思った」「好きなことを極めるのが大事」など、さまざまな気づきや感想をシェアしていた。

 全体セッションや、終了後の高校生アンケートで寄せられた感想をみると、「自分の好きなことや興味のあることに突き進んでいくと良いとわかった」「幅広い分野に興味をもっているが、何か1つに決める必要はなく、柔軟に学んでいるとどんどん学びがつながっていくと知ることができた」「いろいろな人の話を聞いて、理系に進みたいという選択に自信をもてるようになった」「理系として学んだことはいろいろな分野で生かすことができると聞き、とてもワクワクした」「企業講師の方々のお話を聞いて、より一層理系に進みたいと思った」など、理系の進路を前向きにとらえ、希望を抱いた感想が相次いだ

理系ブロッサム参加者の皆さん(一部)

 また、後日行われた振り返りミーティングでは、企業講師から「自分が高校生当時、こんなに理系進学のことや将来の職業について考えていなかったと思い、今の高校生の目的意識を素晴らしいと感じた」「学生ファシリテーターのファシリテーション能力がすごかった」と称賛する声が、学生ファシリテーターからは「『リケジョ』と銘打ってイベントをわけなくても、男子もいる説明会やイベントに気兼ねなく参加する女子を増やしたい」と高い問題意識をもった声が寄せられた。

自信をもって理系選択を~女性理系企業人のメッセージ

 会終了後、企業講師として参加したAGCで有機材料の研究を担当するの片瀬優香氏(応用化学専攻出身)、東京海上日動火災保険で個人向け商品開発を担当するの田澁和希氏(生物学科出身)、三菱UFJ銀行のシンガポール拠点で情報システムを担当する中山友里氏(生命情報学科出身)の3名の女性理系企業人に、オンラインでざっくばらんに語っていただいた。

--理系ブロッサム講師を引き受けた経緯をお聞かせください。

片瀬氏:大学生のときにアルバイトで予備校のチューターをしていて、高校生の勉強面や進路面の相談に乗ることが多く、そうした経験から学生の役に立つことが好きだったので、今回上司からこの話をいただいたときに、企業に勤めている一社会人として、女子高校生に役に立つことができたらと思い、引き受けました。

田澁氏:私も同じですね。大学生のときに家庭教師のバイトで中3から高3まで教えていたのですが、その際、進路選択について話す機会があり、一緒に考えるなどしていたので、そのときの経験からお役に立てればと思って引き受けました。

中山氏:私は理系分野に進むことの不安を感じている学生に少しでも前向きなきっかけを与えられたらと思って引き受けました。私自身が理系学部のクラスで女性が4人しかおらず、理系に進む女性は少数派だと感じていました。今でも「理系に本当に進んで良いのか」と悩む女性は少なくないのでは、と思ったのもあります。

--みなさんは進路選択時に、なにか悩みはありましたか。

片瀬氏:高校生の時点で進路を決めるにあたって、大学の先に何があるのかという仕事の種類などが具体的にイメージできなかったので、そういう状態で理系とか学部を決めてしまって良いのかという戸惑いがあったのを覚えています。

田澁氏:私自身は理系に進むことに迷いはなかったものの、大学の学部選択では迷いました。学部によって勉強内容がある程度限定されるためです。親が製薬会社で研究職をしているのですが、親の話を聞いて、学部選択が就職まで影響することもあるのだと思いました。そのため、比較的職業が狭まらない大学に行きたいと考え、入ってからも選択肢が豊富な理学部に決めました。

中山氏:進路については結構悩みました。これで人生が決まってしまうのではないか、と。それと、高校生の頃から分子生物学に関心があったので、その勉強をしたいと思ったものの、志望大学の受験科目が一番興味のある生物ではなく物理だったのです。葛藤を抱えつつ物理で受験勉強したのですが、今振り返ると、結果的に生物も物理もつながっていて、科目を関連付けながら勉強することが面白いと気づきました。今だから言えるのは、たとえ高1で進路選択してもそれで人生が決まることはないし、自分の興味とは違う科目を学ぶことになっても、学びは必ずどこかでつながっていて、無駄になることはないということです。

(上段)AGCの片瀬優香氏、(下段左)東京海上日動火災保険の田澁和希氏、(下段右)三菱UFJ銀行の中山友里氏

--当日印象的だったことをお聞かせください。

片瀬氏:1つ印象的だった質問として、「自分の好きな科目と将来なりたい職業がまったく違っていて困っている」というのがありました。なりたい職業が明確に決まっているのがすごいと思ったのと、私自身も理系を選びつつ、雑誌の編集者になりたいとぼんやり思っていた時期があったので、学びたいことと将来就きたい職業のギャップ があることに共感できたのが印象に残っていますね。

 それとは別に、「宇宙物理学に興味があって、この大学のこの学部に行ってこういう仕事がしたい」と進路を絞っている人もいて、高校1年の時点でそこまで決めていることに驚いたのもありました。私自身は高校当時、大学の先にある仕事や生活を具体的にイメージすることができなかったこともあり、そこまで絞れていなかったので 。

中山氏:同感です。こんなに若いのに、たとえば食品会社に勤めたいなど、自分の夢を具体的に語っているのがすごいなと思いました。また、私が海外赴任していることもあって、「宇宙分野の学問に興味があって、海外の人と情報交換したいけれど英語は勉強した方が良いか」といった具体的な質問もありまして、若いにもかかわらずグローバルな視点や問題意識をもっていることに共感し、未来を見据えて具体的に考えていることに感心しました。

 一方で、文理選択で迷っている人もいる。これは私の体験談ですが、実は大学時代、第二外国語に熱中したんです。学問・分野の枠を超えて、多くのことを学ぶことができました。だからたとえここで理系を選択しても、進まなかった方への道が完全に閉ざされることはないんですよね。

田澁氏:私が接した高校生は文理選択や勉強の悩みが多かった印象です。心に残ったコメントは2点あって、ひとつは中山さんがおっしゃったこととも重なるのですが、「文系就職もできるし理系に進んだからといって職業の選択肢が狭まるわけではないことが印象的だった」という意見です。「将来の進路が狭まる」という思い込みで理系を躊躇している子たちもいると思うと、そうではないと伝えることの重要性を強く感じました。

 もう1つは、「理系に進んで勉強についていけるか」という悩みです。これは塾講師をやっていた際に男子高校生からは聞いたことがなかったので、女子ならではの悩みなのかなとも思いました。具体的に理系学部で学ぶ内容やその先のイメージがつきにくいことが一因なのかな、とも。

--これからの「女性の理系進学」についての課題と期待、理系ブロッサムの今後に期待することを教えてください。

片瀬氏:自分の興味や意志がはっきりしている人が多かったので、今後もそういう人が増えていって、ブレずに理系に進んでくれたら良いなと思います。課題については、やはり理系女子は比率としては少ないので、こうしたイベントを通して理系女性を身近に感じてもらって、理系女子は少数派といったイメージも薄まったら良いように思いますね。

 理系ブロッサムについては、私が学生のときは一部の伝手を通してしか女性の先輩に話が聞けなかったので、こうしたイベントが浸透して多くの女性学生が進路を選ぶときに視野が広がる機会がもてるのは非常に貴重だと思います。文理選択関係なく、全国の女子生徒全員に参加してほしいくらい良い機会だと思いますので、規模が増えて、回数も増えてどんどん視野を広げる機会をもってくれたらと思います。

田澁氏:理系に進む女性が少ないのは確かにそうで、原因として、周りの大人から「理系に行くと結婚が遅くなる」などと言われたり、「研究職はずっと閉じこもって研究している、一般的な会社員とは違うイメージ」がついていたりすることが考えられるかと思います。そういう不安を取り除くことが理系に進学する女性を増やす一策なのではと思うので、その部分を理系ブロッサムには期待しています。

 理系に進む=研究職だけでなく、私のように文系就職をした先でも理系の知見を生かして、保険商品の予測業務や収益予測を行うなど、キャリアの幅を広げることができます。将来の選択肢は広がっていることを、多くの女子高生に知ってほしいです。

中山氏:私はトークセッションを聞いてアンコンシャス・バイアスに改めて気づかされたの ですが、確かに今振り返ると、「理系の勉強は大変」という話はよく耳にしていましたし、実際に苦労する場面もあったと思います。ただ、それ以上に、自分の興味関心に根差した学びや、好きな授業や実験に取り組めることが何より面白いく、充実した時間だったと思います。

 今はグローバル社会の中で、多様性やいろいろなバックグラウンドの人を認める時代。理系に進んでも文系や芸術など、分野を超えて学んでいくことも可能で、女性がキャリアを考えるうえで、今後はそういった興味を広げていくことも検討してほしいと思います。

 理系ブロッサムについても、ぜひ継続してほしいですね。直接その人の言葉で語られる体験談や、思いに触れる機会はなかなかないので、たくさんのリアルな声をぜひ聞いてもらいたいと思います。多くの人に会ってこんな選択もあるんだとか、このまま進んで良いという自信をもってもらえるようなセッションになれば良いと思っています。

--ありがとうございました。

理系文系にとらわれず、好きを貫き社会で輝く

 理系ブロッサムも4回目を迎えたが、回数を重ねるごとに「理系」「女性」に捉われずに、好きを貫き、それまでの経験をフルに活かして仕事をしている理系女性企業人たちの生き生きとした姿に心打たれ、励まされるものとなっている。女子高校生らは目の前に「文理選択」「大学受験」があるがために、文系・理系やそれにまつわる進路選択が気になり、それが人生すべてを決めるのではと不安になるが、企業人の先輩達はそれだけで決まるものではないと示す。

 彼女らは後輩たちの「理系は向いていない、難しそう」の思い込みを払拭し、「好き」「興味」を貫いて、と力強いエールを送っていた。理系ブロッサムを受講した女子高校生たちが自信をもって自らの道を選択し、理系の知見を身に付け、社会で活躍するようになる日もそう遠くはない。

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《羽田美里》

羽田美里

執筆歴約20年。様々な媒体で旅行や住宅、金融など幅広く執筆してきましたが、現在は農業をメインに、時々教育について書いています。農も教育も国の基であり、携わる人々に心からの敬意と感謝を抱きつつ、人々の思いが伝わる記事を届けたいと思っています。趣味は保・小・中・高と15年目のPTAと、哲学対話。

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