星野学園中学校(埼玉県川越市)は、2026年度入試から第1回理数選抜入試を特待生入試として実施することを発表した。当該入試での合格者全員が特待生の対象となる画期的な制度で、最大で入学金と学費が3年間免除される。
広報担当の永峯弘一先生は、特待生入試の目的について「これまで当学園からは多くの素晴らしい人材が巣立っています。これからも学園で学ぶ意欲のある子供たちに集っていただけるよう、学費面におけるサポートを強化します」と話す。
その背景や星野学園中学校での学びを詳しく知るべく、リセマム編集部では、2025年10月13日に開催された入試説明会を取材。説明会では、教頭の渡邉朋子先生による学校概要、永峯先生による入試詳細の説明のほか、多様な分野で活躍する卒業生4名が登壇し、星野学園での経験が大学での学びや現在の仕事にどのように生きているかを語った。
129年の伝統が育む「生徒全員が主役」の教育

明治30年、創立者の星野りちが「誰もが学べる学校を作りたい」との想いから開校した星野学園は、来年で129周年を迎える。「全人教育」を学園全体で共有し、「礼儀正しく品格のある人間形成」「失敗を恐れずチャレンジする人間の育成」「真理や正義を探求する人間の育成」を教育目標に掲げている。
星野学園中学・高等学校は、理数選抜クラスと進学クラスに分けたうえで習熟度別指導を実施。中2への進級時には成績に応じてクラス変更も可能で、生徒の理解度を最優先する。現在の高1生が中1から中3にかけて受けたベネッセの中高一貫校対象の「学力推移調査」の結果からは、明確に偏差値が上昇していることが分かる。特に数学の伸びは、理数選抜・進学コースともに目覚ましいものがあり、これは同校の指導の成果の現れと言えるだろう。

さまざまなイベントやサポートで行う「全人教育」
星野学園は、国際人教育にも力を入れている。今年6年ぶりに復活したオーストラリアへのホームステイを含む海外修学旅行のほか、希望者向けにカナダ、ニュージーランド、フィリピン・セブ島での語学研修が用意されている。また、国内では福島県のブリティッシュヒルズでの英語研修が人気で、「2年連続で参加する生徒もいる」(渡邉先生)。
校内では、豊かな文化・表現に直接触れられる芸術鑑賞会や、合唱祭など、多彩な学校行事を開催。渡邉先生は「中高でさまざまな体験をしておくことが将来、『もっと頑張りたい』という気持ちにつながっていく」と、行事や体験活動の教育的意義を説明した。
進路指導では「学校完結型」を掲げ、同校教員が担当する無料講習が充実している。たとえば、高校では今年の夏、東大二次試験対策、医学部小論文対策等をはじめ、各教科合計175講座をレベル別で実施された。
成果は進学実績にも表れており、2025年は高校全体で国公立大学に現役41名が合格し、現役合格率は96.5%。部活動に精力的に参加しながら、現役で東大に合格した生徒もいるという。

中学入試に「特待生制度」を導入
星野学園中学校の2026年度入試は、埼玉県の入試解禁日の1月10日から14日にかけて全5回実施される。募集定員は内部進学60名を含む160名だ。

入試説明では広報担当の永峯先生が、2026年度から新設される特待生入試について詳しく解説した。
今回新設される特待生入試は1月10日午後に行われる第1回理数選抜入試で、国語(50分・100点)、算数(50分・100点)、理科(40分・80点)の3教科、計280点満点で実施される。最大の特徴は、理数選抜クラス合格者全員が特待生として認定される点だ。

特待生の区分は上位10%が「星野特待生」として入学金と学費が3年間免除、次の30%が「特待生」として入学金と学費が1年間免除、入学後の定期試験の成績などを踏まえて次年度の更新が決定される。それ以外は「準特待生」として入学金が免除される。
永峯先生は「試験の難易度も合否判定基準も、例年の第1回理数選抜入試と同様。過去の合格率などから大きく変わることはない」と説明。2025年度入試では第1回理数選抜入試の合格率が37.5%だったことを示し、特待生入試という名称になっても受験生にとって不利になることはなく、むしろ特待生のメリットが追加される形だと強調した。
理数選抜入試では、理数選抜クラスの合格ラインに届かなかった受験生でも、一定の成績を収めていれば進学クラスへのスライド合格が認められていた。この制度は特待生入試でも継続されるが、スライド合格者は特待生の対象外となる点に注意が必要だ。2025年度入試を例にとると、第1回理数選抜入試で理数選抜合格者が131名、進学クラスへのスライド合格者が84名となっており、多くの受験生にチャンスが与えられている。
また、総合点での合否判定を行っており、「合格の可能性は最後まで残っている。諦めずに1点でも多く取ってほしい」(永峯先生)と、粘り強く受験に臨むことの重要性を訴えた。

最終日の総合選抜入試にも注目が集まる。こちらは2教科・3教科・4教科いずれかの科目数の試験を選べる進学クラスの合否判定を行う入試だが、3教科または4教科受験者の成績上位者には理数選抜クラスへのスライド合格がある。2025年度入試では、総合選抜入試で進学クラス合格が51名、理数選抜クラスへのスライド合格が47名と、合格者の約半数が理数選抜クラスへの切符を手にしている。3教科受験を選択する場合は英語が含まれるため、英語が得意な受験生にとっては有利な選択肢となるだろう。
なお、2026年度入試から、午後入試の集合時間を従来の午後2時から2時20分に変更し、試験開始も2時30分となる。対象となるのは1月10日午後の第1回理数選抜入試(特待生入試)と、1月11日午後の第2回進学クラス入試だ。この変更について永峯先生は「午前と午後を連続で受ける受験生が多く、昼食の時間がとれなかったり、午前中に他の学校で受験して、移動してきてすぐに試験が始まってしまったり、時間的に余裕のない生徒さんが多い。少しゆとりをもった午後受験を、受験するうえでのひとつの安心材料にしてほしい」と述べ、受験生への配慮を示した。
このほか、英検加点制度も2026年度入試から変更され、新たに準2級プラスが対象に加わった。加点は、3級が10点、準2級が20点、準2級プラスが25点、2級以上が30点で、全入試回で、取得級に応じて加点される。出願時に英検の合格証明書のコピーを提出すれば以降のすべての試験回で自動的に加点されるため、複数回受験する場合でも手続きは一度で済む。
また、出願はWeb出願(ミライコンパス)で、12月1日から各試験日の前日午後11時59分まで受け付ける。受験料は一律2万5,000円で、1回受けても5回全て受けても同額だ。入学手続き期限は全回共通で2月5日午後11時59分まで。延納金や延納手続き書類の提出、連絡は一切不要で、東京都内の学校との併願もしやすいスケジュールとなっている。
なお、詳細は入試要項を確認してほしい。
卒業生が語る「真面目がかっこいい」学校生活
説明会では、東海テレビアナウンサーの篠田愛純さん、ソフトバンクでエンジニアとして働く川島俊祐さん、総合商社の丸紅で活躍中の渡辺葵雛さん、大阪ガスに勤める藤井裕真さんという4名の卒業生によるパネルディスカッションが行われた。多様な分野で活躍する卒業生たちが、星野学園での学びや経験が現在の職業にどう生きているかを語った。
修学旅行での成功体験が進路を決めた
篠田さん:私は2015年度に星野高校を卒業し、現在は名古屋の東海テレビでアナウンサーをしています。今日は私が司会を務めます。まずは皆さんの経歴を教えてください。

川島さん:星野学園を卒業した後、明治大学の総合数理学部に進学しました。現在はソフトバンクでエンジニアとして、6Gと言われる次世代通信の国際標準化の仕事に携わっています。中学時代はバドミントン部に所属していました。
渡辺さん:星野学園中学校・高校と6年間通い、2018年度に卒業しました。その後、横浜国立大学の経営学部を卒業し、2023年4月から総合商社の丸紅で働いています。エネルギー化学品部門で営業経理の仕事をしており、ちょうど今、9月末で締まった四半期の決算業務をしているところです。
藤井さん:2018年度の卒業です。小中高と星野でお世話になり、卒業後は東京外国語大学でスペイン語を勉強し、在学中にスペイン南部のセビリアで民俗学や歴史学を学びました。現在は大阪ガスの資源・海外事業部で、アメリカとオーストラリアの発電所設備の権益取得や資産管理、売却等を担当しています。
篠田さん:現在までを振り返り、星野学園での経験が生きたことはありますか。
川島さん:今の仕事では海外の方と英語で議論することが多いのですが、中学3年生の修学旅行でオーストラリアにホームステイした経験が今に生きています。日本では味わえない国際経験ができました。現地に行ったからこそ理解できることがたくさんありましたね。

渡辺さん:私も修学旅行が今の会社に勤めるきっかけでした。ホームステイに行く際、お土産として摩擦で消えるペンを持って行ったんです。当時日本ではすっかり浸透していましたが、オーストラリアではすごく驚かれて。これが「日本のものが褒められるのが嬉しい」と感じた原体験です。その後、日本の技術を海外に発信できるような仕事に就きたいと思うようになり、総合商社を視野に入れて就職活動をしました。
藤井さん:自分にとっての修学旅行は、成功体験としての側面が大きかったです。小学生のころは英語もまったくわからない状態でしたが、星野の英語の授業はとても充実していて、丁寧に論理的に教えてくれるので、中学3年生になる頃には深いニュアンスまで伝えられるようになりました。初めて行ったオーストラリアで、英語で話したことが伝わった経験ができ、相手が言っていることもなんとなくわかる状況になっていて、勉強したことが実践できることがすごく嬉しくて。そこから海外の人と話すことが楽しいという気持ちが芽生え、外語大に進学しましたし、今は仕事で海外に携わっています。
小テストと再テストで定着する学習習慣
篠田さん:小テストも多かったですよね。
渡辺さん:英語、数学ともう1教科で、週に3回小テストがありました。1回あたり10問程度なんですが、合格点を取らないと延々と再テストが繰り広げられるという仕組みなんです。

川島さん:定着するまでやるんですよね。
渡辺さん:そうです。そして、一度、再テストを繰り返す経験をすると、次からはちゃんとやろうって思うんです。それによって勉強の習慣が身に付いて、たとえばスクールバスに乗ってる間や、帰りの電車でも勉強するようになりました。
藤井さん:先生方も諦めず、粘り強く面倒を見てくださいましたよね。

「真面目がかっこいい」を体現する合唱祭
篠田さん:学校行事で印象に残っているものはありますか。
藤井さん:自分は合唱祭です。一般的には合唱祭は「男子は声を出さない」ケースが多いと聞きますが、我々の学年は、男子が圧倒的に少ないながらも、その分女子に負けるまいと全力で頑張る仲間ばかりで、そのおかげで最優秀賞をとることができました。変にひねくれず、まっすぐみんなで面白がりながら取り組む経験ができたのが良かったです。
渡辺さん:私も藤井さんと同じクラスだったので、合唱祭はとても印象に残っています。先生が動画を撮ってくれて、それを見返しつつ、「ここはもっとできる」「もうちょい行けた」と会話を楽しみながら、完成に向けて近づけていくのが良い経験になりました。音楽の先生が「この学校では真面目がかっこいいから、真面目に歌う人を馬鹿にする人はいないんだよ」とおっしゃったのをよく覚えています。
川島さん:真面目といえば、スクールバスでもみんな、運転手さんに「お願いします」「ありがとうございました」と挨拶するんですよね。私たちにとっては当たり前のことですが、これも星野の教育の積み重ねの現れだと思います。
渡辺さん:中学で毎年行われるスキー実習も楽しかったです。各クラスで技術別に分かれて練習し、夜は友達と一緒に滑ることができて。
篠田さん:私は芸術鑑賞会が印象に残っているんです。大きなホールで、本格的なオペラやK・バレエ・カンパニーの皆さんのバレエ、東京フィルハーモニー交響楽団の広がる音を、みんなで一緒に聴くことができたのが印象深いです。
このように、中学生・高校生にはなかなか得難いたくさんの経験を、6年間で積み重ねることができたのは大きかったと思います。

卒業後もつながる質の高いコミュニティ
篠田さん:最後に、星野の魅力を一言で表すとしたら。
川島さん:僕は、いろいろな行事があって、それが新しい経験をさせてくれるきっかけになっていた点だと思います。芸術鑑賞会で一流の方が来てくださったおかげで、卒業してからも「あの人のコンサートだ」と気づいて「行ってみようかな」と思える。さまざまな行事を通じて、僕たちの心の中の小さな壁を、いつの間にかそっと壊してくれていた感じがします。
藤井さん:帰属意識の強さですね。大学時代、渡辺さんを含めた星野の卒業生4人でビジネスコンテストに参加したことがあって、そこで720チーム中上位4チームに選ばれました。質の高いコミュニティが残っているのが一番良いところだと思います。
渡辺さん:ビジネスコンテストでは4人それぞれが良い味をもっていたんですよね。プレゼンが得意な人、ビジネスの枠組みを作るのが得意な人、英語の文献をひたすら漁る人。私は比較的数字に強いので試算とか保険のビジネスモデルを考えましたが、良い感じにサイクルを乗せられて。このような多様性も、星野の魅力のひとつだと思います。

篠田さん:社会で生きていくためには、周りの人と協力する必要があります。すると規律が生まれます。星野中学校・高等学校で過ごした6年間は、規律がある中で、いかに自分が楽しい道を見つけられるか、いかに自分の発想を広げられるかを模索する経験の積み重ねでした。それは「自分で自分を伸ばす力」を培うことだと思います。6年間でその力をしっかりと培うことができたのは、今につながるとても大きな財産だと思っています。

印象的だったのは、星野学園の「真面目がかっこいい」という文化が、単なるスローガンではなく、実際に生徒たちの心に深く根付いていることだ。卒業生たちが語った修学旅行での成功体験、合唱祭で全力で取り組んだ思い出、小テストを通じて身に付いた学習習慣。これらの日々の積み重ねが、社会で活躍する力の基盤となっていることが伝わってきた。
2026年度から始まる特待生入試は、理数選抜クラス合格者全員が対象となり、最大で入学金と学費が3年間免除される。試験の難易度や合格者数は例年通りで、受験生にとって特待生というメリットが追加される形だ。5回の入試機会があり、最終日まで理数選抜クラスへの道が開かれている柔軟な制度設計も魅力的だ。129年の伝統が育む確かな学力と豊かな人間性、そして卒業後も続く質の高いコミュニティは、星野学園の真の魅力といえるだろう。
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