博士号取得者、米国や韓国は公的機関で積極採用

 文部科学省は2023年9月29日、「公的機関における博士号取得者の雇用・活用状況に関する調査研究」の報告書を取りまとめ公表した。日本の博士号取得者は、大学教員以外の活躍の場が乏しいが、米国や韓国では公的機関が積極的に活用していることがわかった。

教育・受験 大学生
米国連邦政府の上級管理職の学歴別割合
米国連邦政府の上級管理職の学歴別割合 全 5 枚 拡大写真

 文部科学省は2023年9月29日、「公的機関における博士号取得者の雇用・活用状況に関する調査研究」の報告書を取りまとめ公表した。日本の博士号取得者は、大学教員以外の活躍の場が乏しいが、米国や韓国では公的機関が積極的に活用していることがわかった。

 報告書は、文部科学省の2022年度先導的大学改革推進委託事業による委託業務として未来工学研究所が実施した「公的機関における博士号取得者の雇用・活用状況に関する調査研究」について、成果を取りまとめたもの。日本の公的機関(特に国家公務員)での博士採用や活用の向上に資する知見を得ることを目的としたもので、海外の公的機関における博士号取得者の採用・活用状況や、国内の博士号取得者へのインタビューなどの調査を行っている。

 米国連邦政府職員のうちPhD取得者(博士号取得者)の割合は約4.0%で、ここから軍、研究所、教育機関、病院に所属する人数を除くと約2.5%。省庁別に見ると、「米国科学財団」37.3%、「連邦準備制度」18.1%、「米国芸術人文科学基金」13.3%、「環境保護庁」12.9%、「米国航空宇宙局」10.9%、「米国国際貿易委員会」10.8%など。また韓国では2018年時点で、博士号をもつ中央省庁の公務員は合計で5,522人で、全国家公務員15万3,276人のうち3.6%を占めている。

 これらのデータから、米国や韓国の連邦政府機関や中央省庁では、複雑な課題や問題に対処するために、高度な専門知識をもつ職員を積極的に採用し活用していることが明らかとなった。また、米国では専門的な知識が必要な分野で、PhD取得者の割合が高くなる傾向が見られ、PhD取得者の雇用と専門知識の活用との間には因果関係があることが推測される。

 米国の連邦政府職員へのヒアリングでは、PhD取得者が政府のポジションにいることは価値のあることであり、技術的な専門知識、分析能力、規律が政府の職務において重要であるとの意見が聞かれた。一方、日本の中央省庁職員の博士号取得者へのヒアリングでは、博士号を取得したことで得られた能力、知識を行政職としての仕事に直接的に生かすことについては、入省時に考えていなかったとの声が多く、入省後に博士号を取得する場合でも、博士号取得後に専門知識を生かせるポジションに就くなどの配慮は基本的にはあまりないという。

 米国の連邦政府職員の平均年収をみると、「高校卒業者」7万7,633ドル、「学士号取得者」10万5,663ドル、「修士号取得者」平均11万9,633ドル、「博士号取得者」13万8,915ドルと、学歴と明確に相関関係がみられた。一方、日本の博士号取得者の待遇面は、博士号をもつことで昇進や給与面、あるいは人事配置で配慮されていることはないとの指摘が多くあがった。

 また、博士号取得者の採用を増やすためには、博士号取得者のモデル的なキャリアを調べて広報すること、あるいは、博士号取得者の待遇を上げること、などが必要との指摘もあったという。

 今回の調査研究から、今後、日本では博士号取得者が、公務員試験を受けずに、あるいは受験の負担を減らして、政府での勤務を好ましい条件(給与面などの待遇や魅力的な仕事内容)で数年間経験することを可能とし、そのうえで雇用継続の希望者を選抜するような制度も考えられるとしている。

 また、米国のようなポジションごとの採用(ジョブ型雇用とオープンシステム)と、それに付随した、博士号取得者が多い職種でのPhD取得者の昇進上の好条件の付与などは全面的に採用することはすぐには困難かもしれないが、韓国政府のように部分的に実施することはできるのではないかとの見解を示した。

《川端珠紀》

【注目の記事】

この記事の写真

/

特集