SAPIX小学部に聞く(後編)…2012年中学入試と受験準備
前編につづき、サピックス小学部(以下、SAPIX)代表の高宮敏郎氏と、執行役員 広報企画部長で教壇にも立つ広野雅明氏に、2012年中学入試と受験準備について聞いた。
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
--受験準備は何年生から始めるのがよいでしょうか?
高宮氏:中学受験をされるなら新4年生、つまり3年生の2月から受験準備をされるのがスタンダードです。この時期までに、算数・国語については何かしら学校以外の勉強もしておいたほうがよいと思います。そのためにSAPIXでは、1~3年のコースもありますし、通信講座(ピグマキッズ)もあります。毎日少しずつでよいので、算数と国語の勉強をする習慣をつけることが大切です。
--入塾前の準備は必要ですか?
広野氏:入室テストには少し長めの文章も出ますので、普段から読書の習慣をつけておくとよいでしょう。入室説明会のときに、講師にお子さんの状況を話して、テストまでにどんなことをしたらよいかを聞いていただいても結構です。基本的には学校の勉強が理解できていれば問題ありません。準備体操くらいの気持ちで、プレッシャーにならない程度に準備していただければよいと思います。
--志望校選択についてアドバイスをお願いします。
広野氏:親御さんは4年生くらいから、どんな学校があるか訪ねてみるとよいでしょう。親御さんがある程度フィルターをかけてから、お子さんと一緒に学校見学に行くとよいです。4年生ではまだ成績が安定しませんが、5年生からはだんだん安定してきますから、少しずつ絞り込んでいきます。文化祭、体育祭、オープンスクールなどの機会も利用してください。実際に学校を見ると、学習のモチベーションも上がります。
5年生の秋から6年生の前半にかけて、SAPIXでは志望校診断テストを実施します。この結果を参考に最終的な志望校を絞り込み、夏休み前には第1志望を確定しましょう。そこから具体的な目標に向けて学習を進めていきます。もちろんこの段階になっても絞り込めないお子さんもいます。その場合は、ご家庭と塾とで相談しながら、遅くとも夏休みの終わりには決めます。
--志望校選択の傾向に変化はありますか?
高宮氏:偏差値による判断はもちろんですが、近年はそれよりも、学校の雰囲気が子どもに合っているかどうかを重視する傾向が強いように思います。学校説明会にはお父様の参加も増えており、家族揃って納得のうえ学校を選びたいという気持ちが伝わってきます。
--中学受験自体に変化はありますか?
広野氏:少子化の影響で、生徒や親の立場に立った入試制度にシフトする学校が増えています。たとえば、「1.難問奇問が減り、本来の力を発揮できる試験問題に変わってきている」「2.特待制度や奨学金制度の充実」「3.説明会やオープンスクールの機会の増加」「4.入試回数の増加」といったことです。これらが上位校においても見られるのが近年の特徴です。
少し話がそれますが、大学受験も変わってきています。たとえば東大のアドミッションポリシーには、「知識の量を問うのではなく、知識を運用して解を導き出す力のある子を求める」と明記されています。それが中学受験にも影響を及ぼしていて、詰め込みの知識よりも考える力のある子が求められるようになってきています。
SAPIXではもともと自分で考える「思考力」、自分の言葉で表現する「記述力」の育成に力を入れていますから、それが学校側のニーズと合って、高い合格実績にもつながったのだと考えています。
--2012年の中学受験はどうなるとお考えですか?
高宮氏:公立の中高一貫校が注目されるでしょう。なぜなら、平成17年に創立し、今年始めて卒業生を出した東京都立白鴎高等学校・白鴎附属中学校が、東大5名合格などめざましい結果を出したからです。
上位校を目指す層にはあまり変化はありませんが、中堅校を目指す生徒のなかで、公立の中高一貫校を検討する動きが増えそうです。
--夏休みの過ごし方についてアドバイスをお願いします。
広野氏:基本的な生活リズムを崩さないことが一番です。漢字、計算、理社の語句問題など、機械的にできることは毎日計画を立ててやること。また、1つの教科を長時間やるのではなく、4教科をバランスよく毎日継続して取り組むことが大切です。苦手なことを長時間やり続けることはお勧めできません。
精神面では、お母様がストレスを溜めるとお子さんにも影響しやすいので気をつけてください。お子さんを塾に送り出したら、一旦お子さんのことは忘れて気分転換をする。そしてお子さんが帰宅したら満面の笑みで迎えてあげてください。
--中学受験を目指す方へメッセージをお願いします。
広野氏:中学受験は必ずしなければならないものではありません。長時間塾に拘束され、家族団らんの時間も削られるなど、失うものもあります。それだけの犠牲を払ってもやるだけの価値があるとの家族の共通認識がないと、乗り越えるのは難しいでしょう。
お子さんの発達段階によっては、中学受験が向いている子、高校受験が向いている子などいろいろなタイプがあります。そうしたことも含め、十分に時間をかけてご家族で検討してほしいです。そして、一度決めたら、迷わず家族一丸となって目標に向かって突き進んでほしいですね。
中途半端にズルスルと続けて、途中でやめてしまうのが一番いけません。
高宮氏:今年は節電のための制限などもありますから、一層厳しい夏になります。また、震災によってわれわれ大人でさえストレスを感じているのですから、子どもはなおさらでしょう。でも、だからこそ、どうして今、世の中はこういうことになっているのか、電力はどうなっているのかなど、家族で話し合うきっかけにしていただくとよいと思います。
広野氏:例年は、少しでも暑いと子どもたちは大騒ぎをして冷房の温度を下げようとしていたのですが、今年は少々暑くても「今、どういう時代かわかっているのか、少しぐらい我慢しようよ」と子どものほうが言う。子どもたちのなかに、被災者を思いやる気持ちが芽生えていることがわかります。
また、子どもたちの将来の夢にも微妙に影響を与えています。SAPIXに来る子はもともと医者になりたいという子が多かったのですが、今は政治家になりたいという子が増えています。東北の様子を見て、自分はもっと良い対応ができる政治家になりたいと。こういう子どもたちが、これから知恵のある社会を築いてくれるのではないかと期待しています。
高宮氏:東大の総長が、「次の世代に同じ苦しみを味わわせないようにすることが、学問の務めだ」と仰っています。子どもたちもそれを感じてくれているのではないでしょうか。我々としては、未来を担う子どもたちの夢に精一杯応えていきたいですね。
--ありがとうございました。
開成221名、桜蔭141名、筑駒89名など、2011年入試でも難関校に多数の合格者を出したサピックス小学部であるが、“講師は子どもたちのことだけを考える”ことを徹底しているという。また、躍進の理由として、教材でもカリキュラムでもなく、「子どもたちが頑張った成果の積み重ね」を一番にあげられたのが印象的だった。
《聞き手:田村 麻里子》
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