教科書会社12社によるデジタル教科書共通プラットフォーム、成功のカギは?

 CoNETSは、デジタル教科書普及の妨げのひとつである、コンテンツフォーマットや操作性の不統一を解消すべく設立された業界コンソーシアムである。

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記者発表に参加した13社の代表ら
記者発表に参加した13社の代表ら 全 17 枚 拡大写真
 光村図書出版、大日本図書、教育芸術社、開隆堂出版、帝国書院など教科書会社12社、および日立ソリューションズは9月5日、デジタル教科書の共通プラットフォームを推進するコンソーシアム「CoNETS(コネッツ)」の発足を発表した。

 CoNETSは、デジタル教科書普及の妨げのひとつである、コンテンツフォーマットや操作性の不統一を解消すべく設立された業界コンソーシアムである。発表会の冒頭に登壇した光村図書出版 代表取締役社長 常田寛氏は「デジタル教材や教科書の仕様や操作性の統一化は、かねてより業界の課題でありましたが、この問題には1社での対応は困難なものです。2010年代は、電子黒板やデジタル教材のみならず、生徒・児童1人が1台の端末を持つ時代になります。その中で、学習者向けのデジタル教科書の共通プラットフォーム化は急務であると考え、業界が一致団結するかたちでコンソーシアムを設立しました。」と語った。

 教師が利用する指導用デジタル教科書において、プラットフォームの共通化の意義はそれほど高くない。しかし、すべての学校で生徒・児童が1台ずつ持つ端末向けの学習者用となると、コンテンツのフォーマット、配信プラットフォーム、ビューアー、操作性やUIの共通化は大きな意味をもつ。

 共通化により、利用者は教科書ごとに操作パネルが異なっていたり、アイコンの意味が変わっていたりという煩わしさから解消される。教科書会社やコンテンツプロバイダーにとっては、OSや端末ごとのコンテンツを用意する必要がなくなることから、開発コストの低減や普及につながるメリットは大きい。このような環境が整わないと、生徒・児童全員にタブレットを配布してもコンテンツの利用が進まない可能性がある。

 CoNETSが提供する共通プラットフォームは、コンテンツの共通フォーマットと、クラウドを利用した配信環境によって構成される。フォーマットはEPUB3をベースに、デジタル教科書向けに独自拡張をしたものになる予定だ(CoNETS事務局 森下耕治氏)。配信プラットフォームは、クラウド上に構築され、常に最新の教科書コンテンツとOSごとのビューアーが用意されている。先生や生徒は必要に応じてそれらをダウンロードして使う。

 現在のところ対応しているOSはWindows7、Windows8、iOSとなっている。Androidについては、現状で正式採用している学校が少ないため対応していないが、今後の市場動向によっては対応を検討すると言う(日立ソリューションズ 真山美樹氏)。

 CoNETSビューアーの画面は、平均的な電子書籍リーダーと似ている。これは、コンテンツがEPUB3ベースであることもあるが、一般の電子書籍との連携やリンクも見据えているからだそうだ。読書用の電子書籍リーダーとの違いは、他メディア(他教科の教科書)や外部ネットワークとのリンク機能、カメラやグラフィック機能、書込み機能などだろう。内部的には操作やメモなどの記録機能、通信による情報共有機能もデジタル教科書向けに強化されている。

 CoNETSとしては、この共通プラットフォームをデジタル教科書の標準とすべく活動をするとしている。業界としては大きな取組みといえるが、発足時には、業界最大手である東京書籍が加わっていない。業界標準とするには、同社をはじめ教科書会社が足並みを揃えることが鍵を握ると思われるが、CoNETSとしてはすでに声掛けはしていると言う。

 CoNETS事務局は、次の教科書改訂のタイミングである2015年に小学校、2016年に中学校、2017年に高等学校のサービスを開始することを予定している。また、サービスが開始されれば、順次各出版社等にCoNETSへの参加、配信プラットフォームの利用を呼び掛けていくとする。

 ただし、「紙の教科書とデジタル教科書は、市場としては別物で、とくにデジタル教科書は新しい市場です。一企業としてのシェアの大小よりも新しい市場を広げていくことを考えたい。」と事務局の森下氏は、業界としての取組みを強調する。

 一方、配信プラットフォームを手掛けるのは日立ソリューションズだ。同社は電子黒板ベンダーのひとつでもあるが、CoNETS自体は学習者向けにタブレットなどを意識したデジタル教科書だが、教師側もタブレットを利用し、既存の電子黒板や大型モニターなどと連動させることができる。その意味で、CoNETSは特定の電子黒板システムに依存するわけではないが、日立ソリューションズのクラウドだけで、全国の小中高校生のすべての端末を処理するのも現実的ではないかもしれない。コンソーシアムとしては、システムのライセンス化やCoNETSフォーマットの公開などによる配信クラウドプロバイダーの参入も考えているだろう。

 学習者向けコンテンツの標準とするには、未参加の教科書会社の出方と、プラットフォームをどこまでオープンにするかにかかっていると言えそうだ。

◆参加教科書会社12社
大日本図書
実教出版
開隆堂出版
三省堂
教育芸術社
光村図書出版
帝国書院
大修館書店
新興出版社啓林館
山川出版社
数研出版
日本文教出版

《中尾真二》

中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。エレクトロニクス、コンピュータの専門知識を活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアで取材・執筆活動を展開。ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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