大学院卒業生が語る学業と仕事の両立…慶應大学大学院で感じた学びの在り方

 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科に在籍する院生の約半数が社会人学生。研究・学業と仕事の両立のメリットと難しさについて、3月28日に卒業を迎えたばかりの河口武志氏に聞いた。

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学位を受け取る河口氏
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 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科に在籍する院生の約半数が社会人学生。学部卒業生がそのまま大学院へ進学するだけでなく、社会に出て仕事をしながら大学院で学ぶ人が近年増えているという。研究・学業と仕事の両立のメリットと難しさについて、3月28日に卒業を迎えたばかりの河口武志氏に聞いた。

◆学業と仕事の両立について

 両立が可能か不可能かと聞かれれば、可能である。しかしそこには量的・質的な負荷が強要される。仕事をする場合、平日において1日8時間+αの時間が拘束される上、講義と研究を遂行しなければならず、時間的な圧迫は間違いなく大きい。

 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科では、土曜日にも受講必須の講義があり、また学会発表なども土日に実施されるケースがある。1日の限られた時間の中で、仕事の時間、食事の時間、睡眠の時間といった必要な時間を引いた残りの数時間の大半を研究や講義に充てた生活を2年間維持することは極めて厳しいものだろう。

 また、修士課程における研究では、新規性・独創性・再現性・実用性といったものが必要であり、その分野における最先端の内容で、今後社会に蔓延る問題を解決することが想定される研究が求められる。社会人学生は、今やっている仕事をテーマにした研究が多いが、定められた期間内に新規性のある研究を計画し、実施することは、確固たるビジョンや情熱を持っていないと成し遂げることは難しいのではないだろうか。

 ただ、どの分野においても成果を出すためには、苦労することは必然だ。言い換えれば、確固たるビジョンや情熱があれば、人間は何でもできるのだ。

◆修士号取得、そしてその先にあるもの

 社会人として求められる実績を収めながら、研究・学業に取り組むことは大変な負荷が掛かるものであるが、その一方で、それを乗り越えた先には可能性が溢れている。

 仕事で求められることは、利益の追究が一般的であるが、大学院生として必要なことは知の追及である。大学院では、体系化された学問を学び、各分野における最先端の専門的な知識や技術を習得する。一般的な仕事という利益を追求した行動原理に対し、体系化された知識や技術の活用は、熾烈な競争社会において大きなメリットとなると私は考えている。

 私が取り組んだマーケティングの研究では、電子メールを通じた情報発信において、誰にいつどのような内容をどこからどのように配信することが、もっともユーザからの反響を集めることができるかを明らかにするものだった。

 現在私は、Web広告の掲載やメール広告の配信等などといったマーケティングに関わる業務に携わっており、ABテストと呼ばれる複数パターンの広告掲載による効果検証を行っている。ABテストを通じて効果を上げることはできるが、Web広告の検証では、同一条件での実施が困難であり、「最適化された」環境の証明や再現性の確認が難しい。

 仕事上利益追求が重要視される中、可能な範囲で最適化は行っていくが、莫大な時間と労力を掛けた実験的な取り組みは現場として実施することは困難なのである。大学院の研究では、より根本的・本質的なところで人がどのように動くかを体感値としてではなく、膨大なパターンとデータから有意性を示し再現性の確認を行った。この研究で得られた知識やノウハウは、今後の私の業務にも直接役立つだけでなく、Web業界全体にも貢献できるものだと感じている。

◆大学院における学びとは

 今後社会のあらゆる問題が多様化し、その規模が拡大していく中、自らの興味や専門性に対して、どこまでも広く、深く学ぶ環境は広がりつつある。大学院における講義の選択肢も研究内容も本質的には学生主動で進めるもの。自ら動かなければ何も始まらず、一度始めると最後まで突き進まなければならない。

 大学院で表現されるのは、単純に研究としての評価だけでなく、その人の生き方でもある。研究成果を上げ、学位を取得できた暁に感じるのは、非常にプリミティブな満足感と、社会貢献へと繋がる研究を成し遂げた大きな達成感だ。半学半教、独立自尊、自我作古、社会人が大学院を通して得られるものは無限にあり、卒業後もしくは在籍中に強く社会に貢献している。

《湯浅大資》

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