東大、食物アレルギーを抑える分子を発見…治療への応用に期待

 東京大学は7月10日、雑誌「Nature Communications」オンライン版にて、食物アレルギーの症状を抑える分子を発見したことを発表。アレルギー反応の原因となる細胞が産生する分子が、症状の悪化を防ぐ作用があることがわかった。

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PGD2は食物アレルギー抑える
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 東京大学は7月10日、雑誌「Nature Communications」オンライン版にて、食物アレルギーの症状を抑える分子を発見したことを発表。アレルギー反応の原因となる細胞が産生する分子が、症状の悪化を防ぐ作用があることがわかった。

 発表を行ったのは、同大大学院農学生命科学研究科の村田幸久准教授と中村達朗特任助教らの研究グループ。同大によると、日本における食物アレルギーの患者は約120万人いるとされ、増加の一途をたどっているという。しかし、発症原因の解明や治療方法の開発は遅れている。

 アレルギー反応の主役となるのが、免疫細胞の一種であるマスト細胞。これまでの研究から、この細胞の消化管を中心とした組織で増加が、食物アレルギー症状の発現に関与することがわかっていたが、その増加のメカニズムは不明だった。研究グループでは、マスト細胞が大量に産生するプロスタグランジンD2(PGD2)と呼ばれる生理活性物質が、食物アレルギーにおけるマスト細胞の数や活性、症状発現に与える影響を調べた。

 マウスを用いた実験で、食物アレルギー症状の悪化に伴って増加したマスト細胞が、造血器型のPGD2合成酵素(H-PGDS)を強く発現していることがわかった。このH-PGDSを欠損させたマウスに卵白に含まれるアルブミンを与えると、欠損していないマウスに比べ、食物アレルギー症状が劇的に悪化。また、H-PGDSを欠損させたマウスを解析した結果、PGD2が産生できない消化管やマスト細胞では、マスト細胞の浸潤や増加を促進するSDF-1αなどの分子の発現・活性が上昇していた。SDF-1αの働きをとめる薬剤を投与するとアレルギー症状が改善したという。

 このことから、マスト細胞が産生するPGD2が、食物抗原の刺激に対するマスト細胞自身の浸潤を抑えて(数の増加を抑える)、症状の悪化を防ぐブレーキとしての働きを持つことが証明された。

 今回の研究成果は、PGD2を標的とした食物アレルギーの根本治療への応用が期待される。同大は、PGD2がどのようにマスト細胞へ情報を伝達し、その浸潤を抑制するのか、さらなる解析を進める予定。

《黄金崎綾乃》

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