大学改革急務、高等教育無償化は「慎重に」…財政制度等審議会が建議

 財政制度等審議会は5月25日、「『経済・財政再生計画』の着実な実施に向けた建議」を麻生太郎財務大臣に提出した。高等教育の無償化を「慎重に検討する必要がある」とする一方、教育国債発行には否定的な考えを明示。補助金の傾斜配分強化など、大学改革の促進も求めた。

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一般会計における歳出・歳入の状況
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 財政制度等審議会は5月25日、「『経済・財政再生計画』の着実な実施に向けた建議」を麻生太郎財務大臣に提出した。高等教育の無償化を「慎重に検討する必要がある」とする一方、教育国債発行には否定的な考えを明示。補助金の傾斜配分強化など、大学改革の促進も求めた。

 財政制度等審議会・財政制度分科会は、経済界や教育界などの委員で組織。財政健全化目標の達成に向けて策定された「経済・財政再生計画」を踏まえ、基本的考え方をとして取りまとめた。建議では、主要分野において取り組むべき事項として、「社会保障」「文教」「社会資本整備」「地方財政」を取り上げている。

◆教育支出の抱える課題

 このうち「文教」では、「教育の『質』や成果といったアウトカムとは関係なく、単に支出を増加することを自己目的化すべきでない」としたうえで、「今後、どの教育段階へ財政支出を振り向けるのが高い効果が得られるのかなどについて実証的に効果を検証し、そのうえで優先順位をつける必要がある」との考えを示した。

 就学前教育については「学ぶ意欲・協調性といった非認知能力の向上などを通して、社会全体の厚生を高める効果が大きいという先行研究が多数存在する」とし、義務教育についてはすでに「無償化が実現」とした一方、高等教育は「費用負担の在り方については、その受益も踏まえて検討する必要がある」とした。

 さらに「自己投資の側面の強い高等教育についてまで無償化することは、ライフスタイル・キャリアパスが多様化する中、高等教育を受けない選択を行う個人に対して世代内不公平をもたらすことがないか、慎重に検討する必要がある」と記した。

◆教育力・魅力の乏しい大学救済に疑問、急務は大学改革

 高等教育と大学改革については、定員割れする私立大学が多く存在することなどから、大学の再編や教育力向上など「大学改革が急務」と言及。「改革が進まないままでの大学への補助金は、教育力に疑問が持たれるような大学、進学する魅力に乏しい大学を経営的に救済することにつながる可能性がある」と指摘した。

 大学改革を加速化するための改革促進策には、「地域単位で産業界と国公私の大学関係者、自治体が地域の高等教育の在り方を構想する協議会を設ける」「私学助成をはじめとする補助金配分基準に客観的な教育のアウトカム指標を導入し、傾斜配分を強化すべき」の2点をあげた。

 アウトカム指標については、「学習成果や教育成果を把握する指標は、いまだ確立したものはない」とされているが、代替する指標として、たとえば「各大学の卒業生の奨学金延滞率就業率寄付金の伸び率などが考えられる」としている。

◆国債依拠の教育財源確保は「将来世代への負担のつけ回し」

 教育支出の財源については、「まずは無駄な歳出を削減することで捻出していくべき」とし、それを超えた社会要請がある場合は「次世代に対して責任のある恒久的な財源を検討する必要がある」との考えを示した。財源を国債に求める意見に対しては、「将来世代への負担のつけ回し」と表現し、「世代間不公平を拡大するという観点で赤字国債と変わらない」「このような考え方を受け入れることは到底できない」と断じた。

 このほか、「社会保障」分野では、児童手当の所得制限について、世帯の中で所得がもっとも多い「主たる生計者」の所得のみで判断する現行制度から、共働き世帯の増加を踏まえ、世帯合算所得で判断する仕組みが考えられるとした。また、所得制限を超える者に月額5,000円を支給する特例給付について、「廃止を含めた検討を行うことも考えられる」と指摘。これらによって確保された財源を保育の受け皿拡大などに充てるべきとした。

《奥山直美》

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