【発達障害6】保護者が「食」でできること…現場の実例から

 子どもの発達の遅れや偏り、発達障害の側面から、その特徴や具体的な関わり方について紹介するコラム「発達障害」。第6回は、生きづらさを抱える子どもたちに対し、大人ができることを食生活と療育の観点から読み解く。

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児童発達支援事業所での給食のようす。最初は座って食べることもできなかった子どもたちも、職員が丁寧に接することで座って食べれるようになりました。基本的に食事は楽しいことだという雰囲気が大切です。
児童発達支援事業所での給食のようす。最初は座って食べることもできなかった子どもたちも、職員が丁寧に接することで座って食べれるようになりました。基本的に食事は楽しいことだという雰囲気が大切です。 全 5 枚 拡大写真
 このコラムでは全6回にわたり、未就学期における子育てや育ちの環境について、おもに発達の遅れや偏り、「発達障害」の側面から、その特徴や具体的な関わり方について紹介していきます。

 第5回では、発達障害とは何か、どのような症状や傾向があるのか、そして、療育を受ける場所や方法などについて包括的に紹介しました。

 最終回となる第6回では、家庭でできるアプローチについて考察していきます。生きづらさを抱える子どもたちに対し、私たち大人は一体何ができるのでしょうか。食生活や療育の観点から読み解いてみましょう。

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◆食生活の改善

 人間の身体をつくるのは「栄養」、つまり食事です。食事に気をつけることで、生活にメリハリがでたり、やる気が上がったりと、体調や気分が改善された経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。しかしながら、食生活の改善を継続していくことは難しく、いつの間にかもとの生活に戻ってしまいます。

 発達の凹凸に関わらず、食事の影響を受けるのはどの子どもも同じです。たとえば、冷たいものを大量に摂取したあとに発熱や体のだるさなどが現れたり、栄養の偏りからイライラしたり、免疫力が低下して風邪がひきやすくなったり…。

 この原理を日常生活に生かすなら、具体的には「子どもに腹巻をしてお腹を常に体を温める」「アイスなどの冷たいおやつを控える」などの対策があります。

 筆者も、真夏以外は常に腹巻をしていて、そのおかげで保育現場では風邪菌が蔓延していても、大きな病気をしなくなりました。当たり前ですが、「子どもが喜ぶから」「静かになるから」といった理由から、1日に何度もアイスやおやつを与えることはやめて、子どもの成長のため栄養バランスの整った食事を心がけてあげるとよいでしょう。

◆バランスのとれた食事をとるために

 前述の通り、昔からいわれているように「食事はバランス良くさまざまな栄養素をとる」ことが理想的です。特に、現代は加工した白砂糖や、塩分を大量にとりやすくなっているため、注意が必要です。

 さらに、「発達障害」というキーワードが大変注目されるようになった昨今では、偏食と発達の凹凸も無関係ではありません発達に凹凸がある子どもたちは偏食傾向が強い場合が多いため、野菜など、食べにくいものは口にも入れてくれないことがよくあります

 初めて口にする食材はどうしても食べてくれず、親としても「何か食べてもらえればいいから」と、食べ慣れているものだけを与えてしまったり、スナック菓子を与えてしまったりと、子どもが食べやすいものをあげてしまうことがあるでしょう。

 アメリカの研究では、子どもたちがイライラする原因は、スナック菓子や砂糖がたっぷり入ったソーダを大量に摂取していることにある、とする報告があります。逆に、発達障害に関する研究では、多動を抑える薬をむやみに与えて虚脱感を与えるよりも、単純に砂糖たっぷりのお菓子をやめるだけの方が、学校生活でも問題なく過ごせるといった報告もあります。

 バランスの採れた食事と子どもの発育についてはさまざまな論説がありますが、食事と成長、そして、発達障害の傾向については、無関係ではないように思えます。

◆実際にチャレンジ!自宅でできる偏食改善

 そもそも、バランスの整った食事を採ってほしくても、「うちの子はそもそも偏食がひどくて食べてくれない」という場合は、一体どうしたらよいでしょうか。実際の例として、筆者が運営する教育現場での例を紹介します。

児童発達支援事業所での給食のようす。最初は座って食べることもできなかった子どもたちも、職員が丁寧に接することで座って食べれるようになりました。基本的に食事は楽しいことだという雰囲気が大切です。
児童発達支援事業所での給食のようす。食事は楽しいことだという雰囲気が大切

 筆者が運営している児童発達支援事業所では、給食の先生が子どもたちの給食を素晴らしく盛り付けてくれています。まず、先生は給食を子どもたちにそのまま見せます。次に、食べる段階では、ひとつずつ取り分け、その子の好みに合わせて細かく刻んでみたり、すりおろしたり、ほかのおかずと混ぜてみたりなど、少しづつ食べられるよう工夫しています。

 そうすることで、食材に対する苦手意識が少なくなり、さまざまな食材を摂ることができるようなります。ぜひ、ご家庭でもやってみてください。

◆見た目、味、何が嫌?

 そもそも、子どもがなぜ偏食になるのかというと、発達障害の感覚の世界が、定型発達の子どもたちに比べてものすごく敏感だからです。たとえば、肌を触られるのを嫌がっている子どもなら、それはきっと、脇の下をくすぐられるくらいくすぐったいのです。時には、耐えがたいほど気持ち悪いと感じていることもあるかもしれません。反対に、触れるよりも、強く握ったり、刺激を与えたりしたほうが、安心してくれる場合もあります。

 このような感覚の差は、口の中にも存在しています。したがって、食感が今まで経験したものでない、シャキシャキ感が強い、などを理由に何か食べることができないものがある場合、それは発達に凹凸のある子どもにとっては「本当に気持ちが悪い」という感覚でしかないのです。

実際に給食を刻んで提供している写真
実際に、筆者の運営する児童発達支援事業所では、このように給食を刻んで提供しています

 食感以外には、食べ物の「見た目が嫌」というもありますね。これは、わからないことへの不安の現れです。このような不安を解消するためにはまず、食べ物をすりおろしてみてください。次に味を確かめさせ、問題ないと納得すれば、子どもはその食材を食べる場合もあります。舌触りが問題なくなれば、味にも慣れます。そして、徐々に刻み方を大きくしていけば、すりおろさなくても食べられるようになるはずです。見た目が嫌だという子どもには、食べ物をすりおろすほか、何かに混ぜて食べさせてみる、というのもひとつの方法ですね。

 とにかく、こういった工夫はとても大変ですが、形を変え、舌触りを変え、そして、少しづつ慣らしてていくことが、偏食改善の方法です。

◆大人ができることは実にシンプル

 なんといっても、食べたものが身体をつくります。大人になるとあまり意識しない方も多いですが、成長段階の子どもにとって、良質な栄養がとても重要です。発達障害にとっても、身体に摂取るものが影響を与えないとは考えにくいです。

 もちろん、子育てが悪かったから、与える食事がよくなかったから発達障害になったなんてことではありません。さまざまな要因が重なって発達障害という症状がでてきています。

 ただ、成長する段階で、脳や身体の発達に良いとされているものを子どもたちに与えることは、私たち大人ができるひとつの方法だと考えています。

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 耳にすることも多くなった、子どもの「発達障害」。コラム「発達障害」では、全6回にわたり、未就学期における子育てや育ちの環境について、おもに発達の遅れや偏り、「発達障害」の側面から、その特徴や具体的な関わり方について紹介する。

著:株式会社SHUHARI 代表取締役 中村敏也
 1977年7月埼玉県生まれ。明治大学経営学部卒業後、企業勤務の傍ら待機児童問題に興味を持ち、保育学や法制度を学ぶ。2004年9月、埼玉県志木市にて「保育園 元気キッズ 志木園」を開園。以降、地域のニーズに対応しながら小規模保育事業、認可保育所、児童発達支援事業へと展開を拡げる。2017年1月現在、志木市・新座市・朝霞市内に7施設を運営。2018年度には埼玉県内初の小規模保育事業と児童発達支援の複合施設を開園予定(埼玉県・朝霞市)。新座市子ども子育て会議委員。

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《中村敏也》

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