【高校受験】高校入試「国語」に複数採用、よく出る本…小説・評論は?

 リセマムは、平成29年度(2017年度)に行われた公立高等学校入学試験のうち、国語に出題された小説・エッセイなどを調査。44都道府県のうち、複数で出題された作品をピックアップし、ハイブリット総合書店honto広報担当 土佐勝彦氏にコメントをもらった。

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 募集定員やQ&A、入試の手引きなどが発表され始め、いよいよ本格的な受験シーズンを迎えつつある47都道府県の公立高校入試。過去の入試問題(過去問)には、早い受験生は夏休みごろから、多くの受験生は10月ごろから取り掛かっているだろう。

 リセマムは、平成29年度(2017年度)に行われた全国の公立高校入学者選抜試験のうち、国語に出題された小説・エッセイなどを調査。平成29年11月7日時点で確認できた44都道府県のうち、複数の都立、府立、県立、市立などの公立高校入試で出題された作品を5つピックアップし、どのような作品であるか、ハイブリット総合書店honto広報担当 土佐勝彦氏に聞いた。

 なお、入試制度は全都道府県により異なるため、出題作品の調査は原則、推薦入試などの特別選抜を除く一般入試を対象とした。一般入試日程が複数に分かれている場合は、1日程1作品としてカウントする。よって、同都道府県でも複数の作品を扱っている場合があり、調査対象都道府県数と作品数は一致しない。

「襷を、君に。」著:蓮見恭子


光文社(2016/2/17)
出題:茨城県、和歌山県、山口県、長崎県


 女子高校生たちの青春駅伝小説。故障に苦しんだり、記録が伸びなかったり、レギュラー争いにドキドキしたり、と同世代ならではの共感を味わえます。才能があるがゆえに悩む者、その才能に憧れる者、3年間ひたすら努力する者、あきらめが早い者、でも最後は「好き」に勝るものはない。チーム競技は、信頼は一瞬で失うが、その信頼を取り戻すには多大な時間と、「自分が変わること」が必要。「襷」を繋ぐ=信頼を繋ぐ。勝敗にこだわることも必要ですが、仲間と一緒に同じ目標に真摯に取り組んだ経験は人生のなかで何物にも代えられません。部活という身近なテーマですので、等身大の自分を投影するには最適で、中高生に読みやすくさわやかな作品です。

「おしょりん」著:藤岡陽子


ポプラ社(2016/2/15)
出題:山形県、富山県


 西洋化が浸透してきた明治時代中盤~後半に田舎に産業を根付かせたい、と挑んだ兄弟の物語。殖産興業により福井県の村で織物業を営んでいたが、火災により大打撃を受ける兄。そんな時、幼少時に都会に出ていった弟が帰郷し、都会で流行っている「めがね」製造を持ちかける。半信半疑ながらも、工場稼働に向けて、そもそも「めがね」がどういうものかわからない村人、都会の販売店や技術者を説得していく。当初はNGだらけだった製品も、やがて…。兄嫁と弟の恋心の行方も見逃せません。その土地の現象である「おしょりん」と、信じる道を説得し情熱を持って仲間と進む力がオーバーラップし、「あきらめない」という気持ちの大事さが伝わります。

「大人になるためのリベラルアーツ」著:石井洋二郎・藤垣裕子


東京大学出版会(2016/2/26)
出題:埼玉県、京都府


 タイトルに「大人になるための」とありますが、大人にも読んでほしい大学生の演習授業をまとめた1冊。あるテーマについての問題提起に始まり、論点を整理・記録し最後に議論を振り返る形式の12題。「リベラルアーツ=教養」ですが、教養とは単に知識を貯め込むのではなく、それを使ってさまざまなバックボーンの人と意見交換し思考できる力。一見○×で簡単に答えられそうな問題のなかに潜む真理に深く取り組むことで、思い込みなどの自分の思考の癖や他人の思考プロセスを理解することができます。今後求められる自分の頭で考える力を身に付けるために、ひたすらスマホにかじりついて情報収集する「物知り」ではない「教養人」を目指してください。

「日本人にとって美しさとは何か」著:高階秀爾


筑摩書房(2015/9/24)
出題:栃木県、大阪府


 日本人に生まれたことの良さを若い世代に認識してもらえる1冊。美術評論の第一人者が日本人独自の美意識を解き明かし、いかにして中国や西洋文化を取捨選択し融合していったかを講演記録や論文にまとめています。美術や芸術表現に他者の視点を受け入れて対比する複眼視点で、かな文字や絵文字、デザイン、建築、富士山、果てはロボットに至るまで多岐に渡って言及しているので、芸術系に興味がない人にも読みやすく、感性も磨かれ知的好奇心が刺激されます。今まで積極的に知ることも理解しようともしなかった世界に触れることで、新たな視野が開けるのではないでしょうか。「国際人」として外国の人に話題提供できるようになれれば最高です。

「植物はなぜ動かないのか 弱くて強い植物のはなし」著:稲垣栄洋


筑摩書房(2016/4/5)
出題:石川県、愛媛県、滋賀県


 計算で答えが出ず、覚えることも多いという、生物学のなかでも人気のない「植物学」を中高生向けにわかりやすく説明した1冊。弱肉強食・適者生存のなか、食物連鎖の底辺に生きる植物は実に優れた戦略で生き残っていく。「強さ」とは何なのか。相手を叩きのめし生き残ること、それとも…。ひたすら耐え抜くことや、正面から戦わずに争いの少ない環境に逃げることも戦略であり、オンリーワンであることがナンバーワンにも繋がるなど、含蓄のある言葉も散りばめられています。人は横を見るから不安になるが、植物は上を見るからまわりを気にすることもない。これって、まわりを気にして息苦しい生活を送る子どもたちに贈る、著者からのメッセージなのでしょう。

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 このほか、複数の都道府県にまたがり採用された作品の作者には、辻村深月宮下奈都あさのあつこが見られた。それぞれ、辻村深月は「世界で一番美しい宝石」(鳥取県)と「ロードムービー」(岐阜県)、宮下奈都は「転がる小石」(北海道)と「窓の向こうのガーシュウィン」(沖縄県)、あさのあつこは「一年四組の窓から」(東京都)と「アレグロ・ラガッツァ」(兵庫県)からの出題が見られた。

 出題された作品はこのほか、齋藤孝「コミュニケーション力」(滋賀県)、本川達郎「ゾウの時間 ネズミの時間」(岐阜県)、豊島ミホ「ラブソング」・白井聡「消費社会とは何か―『お買い物』の論理を超えて」(岡山県)、俵万智「愛する源氏物語」(北海道)、沢木耕太郎「不思議の果実」(新潟県)、森本哲郎「日本語 表と裏」・梅棹忠夫「知的生産の技術」(愛知県)、原田信男「日本人はなにを食べてきたか」、三浦綾子「千利休とその妻たち」(福岡県)などがあった。

 入試問題に起用される理由はそれぞれだが、共通しているのは「中学3年生が読んで理解できる」という点。試験対策としてではなく、勉強の合間に読んでみたくなるような作品が多数見られたことから、受験生はもちろん、保護者も一緒に読書を楽しんでみてはいかがだろうか。

《編集部》

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