【親子でめぐる登録有形文化財】2017年10月に仲間入り、五島美術館を訪ねて<美術館・博物館編1>

 高崎経済大学地域科学研究所特命教授、NPO産業観光学習館専務理事の佐滝剛弘氏による「登録有形文化財」Web上ショートトリップ。休日に足を伸ばせば見学できる文化財を紹介する。第5回は「五島美術館」。

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五島美術館の入口
五島美術館の入口 全 5 枚 拡大写真
 高崎経済大学地域科学研究所特命教授、NPO産業観光学習館専務理事の佐滝剛弘氏による「登録有形文化財」Web上ショートトリップ。11月は「学び舎編」として、原則無料で見学できるキャンパス内の文化財を4か所紹介した。12月からは気分を新たに、親子で行きたい首都圏の美術館、博物館を取り上げる。

 美術館・博物館編としては第1回、シリーズ「親子でめぐる登録有形文化財」としては第5回にあたる今回は、2017年10月に新しく登録有形文化財に仲間入りしたばかりの、東京都世田谷区にある「五島美術館(ごとうびじゅつかん)」を紹介しよう。

「登録有形文化財」って何?
基礎からわかる!親子でめぐる登録有形文化財

<学び舎編>の一覧
第1回 東京大学
第2回 学習院大学
第3回 横浜国立大学
第4回 国際基督教大学


登録有形文化財、仲間入りタイミングは年3回



 登録有形文化財は、現在、年間に3回、新規の物件が文化審議会から答申されます。この時点で具体的な物件が発表になります。正式な登録はその数か月後、官報に掲載された時点です。五島美術館は2017年7月に答申が発表され、10月に正式に登録されました。直近では、11月17日に次の新規物件が発表されています。

東京・世田谷区の「五島美術館」



 さて、2017年7月の答申では、誰もが見学できる素敵な美術館が新たに登録有形文化財のリストに加わりました。東京・世田谷区の「五島美術館(ごとうびじゅつかん)」です。「五島」は、九州の五島列島ではなく、現在の東急電鉄の基礎を作り、鉄道経営の成功者として「西の小林、東の五島」と並び称された、五島慶太(ごとうけいた)翁の名前から採ったものです。実際に、五島美術館の最寄り駅は東急大井町線の上野毛駅。美術館のすぐ横の掘割(ほりわり)を、東急の電車が行き交っています。なお、ここで指す「小林」は、阪急電鉄や宝塚歌劇の創設者である小林一三(こばやしいちぞう)のことです。

 五島美術館の開館は1960年(昭和35年)。五島慶太が半生をかけて収集した美術品を広く公開するのは、彼の宿願でした。しかしようやく開館にこぎつける前年、五島は77年の生涯を閉じてしまいます。

五島美術館の本館・冨士見亭・古経楼



 今回、登録有形文化財となったのは、開館以来の歴史を刻む本館に加えて、美術館の後ろ側に広がる庭園にたたずむ二つの茶室、「冨士見亭(ふじみてい)」と「古経楼(こきょうろう)」、あわせて3つの建物です。

 本館は、貴族の邸宅の建築様式である寝殿造の意匠を取り入れた平屋の建物で、旧歌舞伎座などの建築で知られる建築家、吉田五十八(よしだいそや)の設計です。国宝の「源氏物語絵巻」と「紫式部日記絵巻」を所蔵する、この美術館にふさわしい造りと言えます。

 茶室が建つのは、多摩川に向かって落ち込むような崖に面した庭園の中です。この崖は、「国分寺崖線(がいせん)」と呼ばれる、武蔵野台地と低地とを分ける長い境目の一部で、樹々の合間から多摩川方面の景観が望めます。

 冨士見亭は古材を利用して五島が造った茶室古経楼は明治後期に造られた茶室で、ともに非公開ですが、庭園を散策すれば近くで見ることができます。

 入館料は通常大人1,000円ですが、庭園だけであれば300円で散策できます。特別展は入館料が変わりますが、五島美術館ならではの特別展は一見の価値があるでしょう。たとえば、2017年12月9日から2018年2月18日までは、館蔵の茶道具のコレクションを展示する「茶道具取合せ展」を開催予定です。

 五島美術館の周辺は、立派な邸宅が並ぶお屋敷街。五島慶太翁が集めた銘品を愛で、武蔵野の雑木林に点在する茶室を眺め、世田谷の豪邸を見て歩く―。そんな豊かな時間を、親子一緒に、登録有形文化財の美術館へのミニトリップで過ごしてみてはいかがでしょうか。

 次回は「美術館・博物館編その2:鎌倉文学館」をご紹介します。

◆五島美術館
場所:東京都世田谷区上野毛3-9-25
開館時間:10:00~17:00(入館受付は16:30まで)
休館日:毎月曜日(祝日の場合は翌平日)、展示替期間、夏期整備期間、年末年始など
入館料(特別展は別途):一般1,000円/高・大学生700円/中学生以下無料
※団体20名以上1人800円
※障害者手帳を持つ者、ならびに介助者1名は200円引
※入園のみは1人300円(中学生以下無料)
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 地域の歴史や文化と深く結びつき、築50年以上の歴史的建造物や施設が登録される国の登録有形文化財。民家や病院、工場、駅舎、市庁舎などさまざまな建物や施設1万1千件が登録されている。その多様性や活用法など登録有形文化財の概要を豊富な写真とともにわかりやすく伝える初めての一般書として、本連載著者である佐滝剛弘氏による「登録有形文化財 保存と活用からみえる新たな地域のすがた」(勁草書房)が2017年10月に刊行された。地方創生や観光資源の再発見に注目が集まる中、登録有形文化財にも光が当たりつつある。「世界遺産や国宝などの著名な建物は見飽きた」「もっと身近な文化財を知りたい」という子ども、保護者にぴったりな“新発見連続”の一冊。

佐滝 剛弘(さたき よしひろ)
(高崎経済大学地域科学研究所 特命教授/NPO産業観光学習館 専務理事)
1960年、愛知県生まれ。東京大学教養学部(人文地理専攻)卒業。NHK報道局・編成局などで、「NHKスペシャル」「クローズアップ現代」など数多くの紀行番組を制作。現在、NPO産業観光学習館で群馬・埼玉県の絹産業を中心とした観光振興策の策定やツアーの企画・引率を行っている。世界遺産は60か国およそ400件、国登録有形文化財はおよそ1万件を踏破。どんな年代の人にもわかりやすく、知的好奇心を喚起する解説には児童生徒からも定評がある。おもな著作は「高速道路ファン手帳」(中公新書ラクレ 2016)「それでも、自転車に乗りますか?」(祥伝社新書 2011)「世界遺産の真実―過剰な期待、大いなる誤解―」(祥伝社新書 2009)など。

《佐滝剛弘》

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