教えることで自分も成長…独自の英語プログラムで「地域に不可欠な学校」を目指す大妻嵐山中高

 「地域に開かれた学校づくりの推進」言うは易し。埼玉県西部にある大妻嵐山中学校・高等学校は「地域にとってかけがえのない学校」を目指して、独自の英語プログラム「OREEP」に取り組んでいる。イベントのようすを取材した。

教育・受験 小学生
大妻嵐山中学校・高等学校「OREEP」のようす
大妻嵐山中学校・高等学校「OREEP」のようす 全 31 枚 拡大写真
 「地域に開かれた学校づくり」を推進している学校は日本全国に多くある。ただ、それを通して「地域にとってかけがえのない学校」に成熟している学校は、一体どれだけあるだろうか。地域に活力を与えてくれる学校、地域から活力を得ている学校。つまり地域に学びを還元し、地域資源から学ぶことのできている学校は、決して多くないだろう。「地域にとってかけがえのない学校」になるためには、どのような要素が必要だろうか。とある学校の取組みを通して、考えたい。



 埼玉県西部に位置する嵐山(らんざん)町。人口2万人足らずのこの小さな町は豊かな自然に恵まれており、国蝶・オオムラサキの保護を行う「オオムラサキの森」や、地質学的に有益な岩畳を眺めることのできる「嵐山渓谷」などがある。そのようなのどかな環境にあって、都内からも1時間程度とアクセスにも困らない。その嵐山町の地で長年、私学として地域の女子教育の一端を担っているのが大妻嵐山中学校・高等学校(以下、大妻嵐山)だ。

才能発揮の舞台は「地域」…教えて学ぶ、実践の場



 大妻嵐山には、独自の英語学習プログラム「OREEP(オリープ)」がある。これは、大妻嵐山の生徒自ら「先生」となり、地域の小学生に向けて英語で授業を行う「Otsuma Ranzan English Empowerment Program」。2019年に入り、1月26日、2月23日、そして今回取材した3月16日と3回の開催を重ねた。

アクティビティのようす:4年生
普段は学ぶ立場である生徒たちが「先生」になる実践の場


 プログラム開催のきっかけは、生徒の英語力を伸ばすための実践的な場を作りたいという先生からの提案だった。提案をした英語科教諭の工藤貴子氏は次のように語る。

 「本学の生徒たちにはさまざまな才能が芽吹き、日頃の指導でもその成長を感じています。自分たちでいろいろなことを発案して実行できる力がある。でも通常の授業だけでは、それを発揮する機会が足りないのです。力を発揮することで、自信につながるような実践の場をつくってあげたいと常々考えていました。」

 工藤氏からの提案を受け、「OREEP」が構想された背景には地域のニーズもあった。大妻嵐山で渉外を担当する村松靖夫氏はこう話す。

大妻嵐山中学校・高等学校「OREEP」のようす
開催当日、笑顔でイベント会場へ向かう小学生たち


 「立場上、地元の役場の方とお話しすることが多いのですが、近年核家族化が進み、地域の子どもたちが少し年上のお兄さんお姉さんと触れ合う機会が非常に少なくなったということを耳にしました。そこで、生徒たちの多様な経験の場を作るという学校としての主眼はそのままに、近隣地域の方々のためにもなるものをと考え、現在の形で始動することとなりました。」

課題解決力&遂行力が試される“嵐山生オリジナルイベント”



 「OREEP」の最大の特徴は、プログラムの企画段階から実施に至るまで、すべてを生徒たちが自ら考えて行うという点だ。

 実施内容は前日まで綿密に練られる。最終打合せでは、グループごとに当日のレッスンプランを他のメンバーに向けてプレゼンテーションする。「違うグループのプランに対して、教師では気付かないような鋭い角度からの意見も挙がり、内容をブラッシュアップして当日を迎えます。生徒たちは私たち教師が思っている以上に、自分たちできちんと物事を決めて実行できる能力を秘めているのです。」(工藤氏)

当日のレッスンで使う資料もすべて嵐山生の手づくり


 プログラム開催のお知らせは、大妻嵐山のWebサイトのほか、近隣の小学校へチラシを配布する。参加希望の小学生は、1~2年生、3年生、4年生、5~6年生の4つのクラスに分かれ、それぞれ異なる内容が実施される。

事前準備中のようす
ある教室では「トレジャーハンティング」の宝物を隠す準備の真っ最中


 取材当日の3月16日のテーマは、1~2年生は「アニマルハンター」、3年生は「職業」。歌やダンス、ゲームといったさまざまなアクティビティが行われた。4年生と5~6年生のテーマは、ともに前置詞+名詞を用いた「トレジャーハンティング」。特に5~6年生は、学校で外国語活動の時間が設けられているため、より多くのアウトプットができるよう、工夫しているという。こうしたテーマの決定から各アクティビティの企画・実施に至るまで、全過程を通じて、教職員は見守るだけだ。

前回の教訓を生かし、今回は機材の接続も難なくクリア


 イベント開催には、トラブルがつきものだ。過去2回の開催でも、用意していた物品が足りなくなったり、機材がうまく作動しなかったりと、何らかのアクシデントが発生したという。取材当日も、レッスンプランの内容が予定よりも早く終わってしまったクラスがあった。一瞬表情が曇るも、生徒たちは機転を利かせ、参加した子どもたちとコミュニケーションをとるなど、残りの時間を有効に使ってアドリブのアクティビティを展開した。「今回も私たち教職員は見守っているだけです。ひとりひとりが考え、じっくり解決する力だけでなく、臨機応変に対処できる判断力も最大限発揮できる、発揮せざるを得ないのが『OREEP』の良い点だと思います」(工藤氏)。

“お姉さん”に教えてもらう英語のアクティビティに、子どもたちの笑顔があふれる


 見学していた保護者からは「子ども目線に立って、小学生のレベルに配慮した単語なども考えてくれていてとても良かったです」「英語を身近に感じられ楽しく参加できたようです」といった感想が聞かれた。なかには「近隣でこのような英語を楽しむためのイベントは、なかなか開催されません。あっても英会話スクールなどが集客目的で開催していることも多く、敷居が高く感じます。嵐山生主催のイベントという安心感もあり、気軽に参加できます」という、地域ならではの意見も聞くことができた。

大妻嵐山中学校・高等学校「OREEP」のようす
生徒たちも子どもたちとのやりとりを楽しみながら、イベントを進行しているようす


 また、複数回参加しているというお子さまの保護者からは「前回、家に帰ってから子どもに『お母さん、英語でクイズ出して』と言われてびっくりしました。その日の学びをしっかりと持ち帰っていて、参加させて良かったと思いました」という声も。それ以降、学校のWebサイトをチェックして、イベント情報を探すなど、大妻嵐山を身近に感じるようになったという。

「より愛されるプログラムに」反省会はさらなる成長の機会



 たっぷり2時間のプログラム終了後には、よりブラッシュアップを図れるよう、毎回必ず反省会を開く。

準備期間から開催当日までを通しての思い入れのある企画を振り返る生徒たち


 今回の反省会では「小学生に対する指示の出し方には工夫が必要。『なんでも良いよ』では、かえって小学生が困ってしまう気がする」「時間配分は重要だと感じた」「どのくらいの難易度にしたら良いのか、どこまでの単語を出して良いのかを考えるのが難しかった」「今の小学生は自分たちが想定していたよりもはるかに英単語を知っている」などの感想が共有された。自分たちが教える立場になって初めて気付く「先生」としての思いや、英語という言語の特性を再認識したことなど、次回開催に向けたプログラムのブラッシュアップの機会でありながらも、生徒たちが自分自身の成長を感じられる貴重な時間だ。

ドキドキしながら参加してくれた小学生へ、心のこもった感謝のメッセージ


 反省会後には、クラスを担当した小学生に向けて「Thank youカード」を手書きする。今日は来てくれてありがとう、一緒に過ごせて楽しかった、また遊びに来てほしい思いを込めた、おもてなしのカードだ。リピーターの保護者からも「前回参加後、嵐山生のお姉さんからのカードが届いて、とても喜んでいました。子どもが次の開催を楽しみにしていたので、今回も参加しました」というエピソードも聞かれた。

 職員としてプログラム事務局を担当する廣田小有里氏は、「参加者やその保護者に対するサポートが、私たち事務局としての仕事です。プログラムへの参加申込みや『Thank youカード』の送付も含めた個人情報の扱いなどは、学校として責任を負い、事務局が担当しています。生徒たちが企画する魅力的なプログラムに、安心して、継続的に足を運んでもらえるようサポートしています」と語ってくれた。

「先生になりたい」「国際貢献したい」…キャリアイメージのヒントにも



 「OREEP」の開催が、生徒たちに与えるもう1つのメリット。それは、キャリア教育としての側面だ。

教職を目指す、地域の活性化をする、英語で途上国支援をする…さまざまなキャリアの可能性を拓く


 設置者を同じくする系列校の大妻女子大学には、児童学科や人間福祉学科など、将来子どもと触れ合う職業に進むことも可能な学科が多数設けられている。なかには大妻嵐山入学時から、当該学科への進学を見据えている生徒もいるとのこと。そういった動機のある生徒にとって「OREEP」は1つの経験として興味関心と直結する。

 「近隣の中学校を回っていると、どの市町村にも大妻女子大学出身の家庭科の先生がいるという話を耳にします。『OREEP』は、そのような立場をある種疑似体験でき、地域への貢献を体感できるプログラムです。大学進学以前に、地域の教育に携われることでキャリアを考えるきっかけになると良いと考えています。」(村松氏)

 地域の子どもたちと触れ合うという経験は、その他の生徒にとってもキャリアについて考えるきっかけとして機能しているようだ。実際、この日の反省会でも生徒たちから「将来は発展途上の国で、教育が行き届いていない子どもたちに活力を与えたい」「教える立場の人の苦労や気持ちがわかった」といった、将来の進路に関連した意見も聞かれた。この取組みによってまかれた種はすでに芽吹きはじめ、生徒たちの将来に影響を与えるであろうことは想像に難くない。

子どもたちの学びを助けながら、自らも大きく成長する大妻嵐山の生徒たち


 「『OREEP』は嵐山生、教職員、地域住民の皆さんどれか1つのピースが欠けても成り立たず、すべての要素が相まってこそ成功するものだと考えています。生徒のためであり、学校のためであり、地域のためのプログラムであるべきです。こうした活動を通じて『この町には大妻嵐山がないと困る』と言ってもらえるように、地域のなかに学校を位置づけたいと考えています。生徒には授業のみならず、こうしたさまざまな取組みに主体的に参加することで、自立心や、社会とつながる心を養ってほしい。生徒たちが『自立する自信がつきました』と言って巣立っていけるような学校にしたいと考えています。」(村松氏)

直前の準備、レッスン中のトラブル発生にも笑顔を絶やさなかった大妻嵐山の生徒たち


 大妻嵐山では他にも、理科実験を中心とした学校開放イベント「わくわくワークショップ」を開催している。今後は「OREEP」もこの学校開放イベントの一部として通年で開催されることが決まった。2019年度の「OREEP」の開催は、全7回を予定しているという。詳細は随時Webページに掲載されるので参考にされたい。

 地域ぐるみの教育機会を創出する大妻嵐山の取組みは、今後も進化を続ける。そして近い将来、これらの取組みで得た経験を糧として成長した生徒たちが、社会で生き生きと活躍する日がやってくるに違いない。

《鶴田雅美》

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