文科省に聞く「小学生の学びはどう変わる?」保護者の疑問解決

 いよいよ2020年春から全国の公立小学校で全面実施される新学習指導要領。「何が変わるの?」「準備は必要?」「子どもがついていけるか不安…」。初等中等教育局教育課程企画室長の板倉寛氏に聞いた。

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インタビューに応える文部科学省初等中等教育局教育課程企画室長の板倉寛氏
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 いよいよ2020年春から全国の公立小学校で全面実施される新学習指導要領。「何が変わるの?」「準備は必要?」「子どもがついていけるか不安…」といった疑問や不安の声があちこちから聞こえてくる。

 そこでリセマム編集部は文部科学省を直撃取材。新学習指導要領で小学生の学びがどう変わるのか? 初等中等教育局教育課程企画室長の板倉寛氏に聞いた。

2020年度から、小学校の教育はどう変わる?



--まず、学習指導要領とは何か、改めてご説明いただけますか。

 学習指導要領とは、全国どこの学校でも一定の教育水準が保てるよう、文部科学省が定めている教育課程(カリキュラム)の基準で、約10年に一度、改訂しています。子どもたちの教科書や時間割は、これを基につくられています。

--2020年度から小学校の学習指導要領が新しく改訂されますが、これまでと変わらない点はどこですか。

 これまで大切にされてきた、子どもたちに「生きる力」を育むという目標は変わっていません。その目標のための、「何を学ぶか」という点については引き継いでいます。ただし、知識や技能はテストなどのためにただ覚えればいいというものではなく、他の教科の学習や日々の生活、社会での出来事などとも関連付けて深く理解し、活用されるものとして位置付けています。
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--では、どこが変わるのでしょうか。

 これまでは「何を学ぶか」という点に主眼が置かれてきましたが、加えて、新しい学習指導要領では、「何ができるようになるか」や「どのように学ぶか」という点を重視しています。

 社会がこの先、どう変わっていくかを予測することがますます困難になっていくといわれる中で、ひとりひとりの子どもが、自分の良さや可能性を認識し、他者を尊重し、多様な人々と協働しながら豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会のつくり手となるような環境を作っていかなければなりません。

 このために、子どもたちには3つの柱となる資質・能力を身に付けてもらいたいと考えています。

 1つ目の柱は、冒頭にお話しした「知識や技能」。2つ目の柱は、知識や技能を日々の生活や他の教科の学習などとも関連付けて深く理解するための「思考力」「判断力」と、それを伝えていくための「表現力」。3つ目の柱は、学んだことを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力、人間性等」の涵養です。

 特に3つ目の柱は、未知の世界や社会の課題、想定外の困難などから逃げずに挑戦したり、人生100年の時代で生涯学び続けたりするためには欠かすことのできないものです。これらの資質・能力を育てていくことが、新しい学習指導要領の目指す方向性になります。
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--注目されるキーワードとして「アクティブラーニング」という言葉をよく耳にしますが、これはわかりやすくいうと、どういうことなのでしょうか。

 これからの時代に求められる資質・能力を育成するためには、「どのように学ぶか」という点も大変重要です。新しい学習指導要領ではこの点も重視して、授業の改善についても強調しています。

 まず、子ども自身が興味や関心をもって、自分から学ぼうとする姿勢をつくれること。そして周囲との対話やディスカッションを通じて自分の視野を広げたり、新たな気付きを得たりすること。また、深掘りしたり、いろいろな教科で学んだ知識や生活で身に付けた知識を関連付けたり、自分なりに解決策やアイデアを創造したりして、自分の学びを深めていけること。我々は「主体的・対話的で深い学び」という表現を使っていますが、アクティブラーニングとは、このような視点で授業が行われていくということです。

具体的な変化は、外国語の教科化とプログラミングの導入



--来春からは外国語が教科化され(外国語の教科化は5・6年生が対象)、プログラミング教育も始まります。これはどういう背景から導入が決まったのですか。

 先ほど「生きて働く知識・技能の習得」「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力の育成」「学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性の涵養」を偏りなく実現することがベースだと申し上げましたが、この3つの資質・能力を育むためには、すべての学習の基盤となる力として、言語能力、情報活用能力を育成することが重要と考えられることから、小学校段階から外国語、プログラミングを学ぶことが重要だと判断されました。

 これからの時代は、一部の職業の人だけではなく、あらゆる人に国内外で英語を使う機会があります。英語を学ぶことは子どもたちの将来の可能性を広げることにもつながります。

 これまでは小学校5年生から「外国語活動」を行い、「聞くこと」「話すこと」を通して英語に慣れ親しむ学習を行っていましたが、中学校以降の学習にどう円滑につなげていくかという課題がありました。このため、外国語活動を3年生から開始することにし、5年生からは教科として段階的に「読むこと」「書くこと」も学んでいくこととしました。また、外国語を学ぶことを通して国語への理解が深まるという意味でも、小学校から英語を学ぶことには意義があると感じています。

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インタビューに応える文部科学省初等中等教育局教育課程企画室長の板倉寛氏
インタビューに応える文部科学省初等中等教育局教育課程企画室長の板倉寛氏

--プログラミングについても、なぜ今、小学校から学ぶ必要があるのでしょうか。

 スマートフォンやゲーム機、ICカードなど、今の子どもたちを取り巻く環境は情報化の急速な進展で便利になっている反面、どのような仕組みで動いているのかわからないブラックボックス化しているといえます。情報化社会を生きていくうえで、こうしたブラックボックスの中は、人間によってはめ込まれた命令に従って動いているということを実感としてわかっておくことは、きわめて重要です。

 小学校にプログラミング教育を導入するねらいは、プログラミング的思考とよばれるこの思考力を、体験を通して育み、プログラミングでどんなことが実現できるのか、世の中とどうつながっているのかを小学生のうちから“肌感覚”で学んでもらうことなどです。この力は、コンピューターに自分が意図する活動をさせるために、どのような動きの組合せが必要かを、試行錯誤しながら考えていく論理的な思考力です。なお、誤解がないようにお伝えしたいのは、小学校のプログラミングではプログラミング言語を覚えたり、プログラミングの技能を習得したりすること自体を目指しているわけではありません。
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成績が付く5・6年生の英語



--英語についてもう少し具体的に伺います。小学校での外国語が教科化されると、どのような授業が行われるのですか。

 これまで小学校で行われてきた「外国語活動」は、英語に慣れ親しむため、歌やゲーム・絵本の読み聞かせなどを通じた「聞く」「話す」のコミュニケーションを中心とした活動です。これまでは5・6年生を対象に行われてきましたが、来春からは3・4年生が対象となります。5・6年生に対しては「教科」として、「読む」「書く」という内容も加わり、中学校以降の学習につながるよう、慣れ親しむだけでなく、学習内容の定着も目指したものになります。

 ただし、小学校段階では文法を指導したりするのではなく、簡単な表現を使って英語で自分の気持ちや考えを伝え合う体験を通じて、今までの活動のように楽しみながら習得することを目指しています。

 まず音声に十分慣れ親しんでから、それを書いたり読んだりするという学習になるため、教材も、音声を聞いて考えることから授業が始まることが基本となっています。現在でも、ほとんど(95%以上)の小学校で、音声や動画を使ったデジタル教材を英語の学習に活用しており、自然な音声、会話を聞いて学ぶことができます。

--英語の授業は担任の先生が行うのですか。

 学級担任が担当する場合と、中学校の英語の教員免許をもつなど専門性の高い教師が担当する場合との両方があり、学校によって体制はさまざまですが、ALT(外国語指導助手)や英語が堪能な外部人材とチームティーチングを行ったり、音声や動画を使ったデジタル教材を積極的に活用したりして授業を行います。

 誰が指導する場合でも、小学校の外国語教育では、子どもの発達の段階に応じて、子どもの意欲を引き出したり、失敗を恐れず会話ができるような学級の雰囲気作りが大変重要です。こうしたことは、学級担任の先生が得意としているところであり、学級担任のよさと専門性のある先生のよさの両方を生かしていきます

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--英語の授業時間はどのくらいあるのでしょうか。また成績はどのように付けられるのですか。

 3・4年生の「外国語活動」は年間35時間、5・6年生の「外国語」は年間70時間に増えます。5・6年生では教科となることで、数値による評価が付くことになります。定期テストなどではなく、授業の中で、英語を使ってコミュニケーションを行うことを通して「何ができるようになっているか」「相手に配慮して伝えようとしているか」といったことを評価します。
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既存の教科等の中で実施されるプログラミング



--次はプログラミングについて詳しく伺います。プログラミングという教科は設けないとのことですが、実際の授業にはどのような形で導入されるのでしょうか。わかりやすい授業の事例があれば教えてください。

 プログラミングといった教科が新設される訳ではなく、既存の教科等の中で実施することとなります。たとえば5年生の算数で正多角形を、コンピューターを使って描いたり、6年生の理科でセンサーを用いて電気の働きを自動的に制御させ、プログラミングが身の回りのものといかに密接につながっているかを学ぶといった事例があります。そのほか、総合的な学習の時間で、「プログラミングが社会でどう活用されているか」に焦点を当てる事例もあります。
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--各自治体や学校の裁量に任せている部分が大きいということですが、保護者としては学校ごとに授業の内容に大きな差ができるのではないかと不安を感じます。

 プログラミング教育については、プログラミングやICTに関する高度な専門性が求められるものではありませんが、実践事例を「小学校を中心としたプログラミング教育ポータル」(※)において積極的に公表するなど、全国への情報提供に努めています。
※ 官民協働の「未来の学びコンソーシアム」において、「小学校を中心としたプログラミング教育ポータル」を立ち上げ、プログラミング教育の具体的な指導事例等を掲載している。

--コンピューターが整備されていない学校では、プログラミングはどうやって学ぶのでしょうか。

 たとえば低学年でコンピューターを用いずにプログラミング教育を実施することも考えられますが、コンピューターを活用して、試行錯誤を繰り返す体験が必要であるため、プログラミング教育全体として、児童がコンピューターをほとんど用いないことは望ましくありません。学校におけるICT環境整備は国としても全力をあげて取り組んでいるところですが、準備が十分ではない場合、ほとんどの小学校ですでに整備されているコンピューター教室などを効果的に活用することが考えられます。

 なお、コンピューターを用いずに実施する場合の例としては、たとえば、誰かをロボットに見立て、ハンカチをたたむ、カップラーメンをつくるといった動作を、紙のカードに指令を書いて作業をさせてみるというような方法があります。人間同士なら短い会話で済むことが、ロボット相手だとカードを何枚も追加したり修正したり、作業を細かく分解して指令しなければ思いどおりに動かない。このような気付きが得られることは、低学年段階においては、プログラミング的思考の原体験につながると思います。
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地域や家庭とともにつくっていく教育のかたち



--英語の教科化やプログラミング的思考力の育成など、現場の先生方や子どもたちの負担が大きくなっているようで心配です。

 まず、今回の新しい学習指導要領が目指すところが、これからの社会の変化が予測困難な中で、子どもに豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となるために必要な力を育成するために、学校で学んだことが将来につながっていくための教育課程、授業の改善であることが関係者の皆様で共有できるとうれしく思います。主体的・対話的で深い学びの視点からの授業の改善は、より多くの子どもたちの主体的な授業参画、そして子どもたちのさらなる成長につながると考えています。

 知識・技能の習得についても、これまでの方法にとらわれるのではなく、今後はICTを積極的に活用し、子どもひとりひとりに誰一人取り残さない個別最適化された学習スタイルを構築していくことも未来の学びのために重要なカギになってくると思います。効率化できるところはどんどん合理化していくことも、併せて非常に重要になってくると考えています。

--国が目指す教育のかたちを実現するには、我々親世代が受けてきた教壇からの一斉授業のスタイルではなく、子どもたちに関わる大人がもっと必要になるのではないでしょうか。

 学校の中で働く人の構成は、我々親世代が小学生だったころと比べて随分と変わってきていることは確かだと思います。たとえば30~40年前にはいなかったスクールカウンセラーが、現在はいじめや不登校の子どもたちのケアや相談などで活躍していますし、チームティーチングで教員以外の人材に授業に入っていただく機会も増えています。

 私たちが目指すのは、「社会に開かれた教育課程」の実現です。これは、保護者の皆さまや地域の皆さまのお力添えをいただきながら、より良い学校教育をつくっていくということです。教育課程を編成するのは学校が主体ですが、その理念や目標に共感し、学校・地域の特性に合った形で、家庭や地域の方々がご自身でできることでご協力頂けたらと思います。

--学校教育というのは、国が決めた枠組みをそのまま受け入れなくてはいけないということではなく、自分たちの手で学校・地域の特性を生かし、発展させていく伸び代があるということですね。

 おっしゃるとおりです。私が以前出向していた島根県では、離島や中山間地域が多く、過疎化・少子高齢化が深刻な課題でした。地域の結び付きの強さや強い危機感の中で、70代の方々が地域の親御さんたちの子育てをサポートする中心的な役割を果たしたり現役保育士として活躍したり、隠岐諸島の海士町にある島前高校へ「島留学」というコンセプトで都会から生徒を集め、教育を通じて島を魅力化するというプロジェクトが生まれるなど、その地域の特性を生かした取組みが多く見られました。このような地域に根差す事例において、家庭だけでなく地域みんなで子どもたちの成長を見守ろうという姿勢に、現地で強く感銘を受けたのを今でも覚えています。

 子どもたちが社会に出たときに必要な力を育むうえでも、教育の現場は学校の中だけに閉じてしまわず、より社会へと開いていくことがますます大事になってくると思います。

--小学生の子をもつ保護者の方へ、どのようなメッセージを伝えたいですか。

 国内ではあまり知られていませんが、日本の初等教育は学力面だけでなく、学校給食を通じた食育や清掃活動など、全人格教育として世界的に高く評価されています。こうして世界からも評価されている良い部分は大切に守りつつ、新しい学習指導要領の内容を、保護者や地域の皆さまとも共有し、お力添えをいただきながら、さらに一歩先を目指し、子どもたちの学びを社会全体で応援していきたいと考えています。

 来春からは、親世代にはなかった新しい教育内容も小学校で学習することになりますが、生きる力を育むには、学校での学びを日常生活で活用したり、ご家庭での経験を学校生活に生かしたりすることがとても大切です。お子さんの学校での話にじっくりと耳を傾けてあげてください。保護者の皆さまの子どもたちへの働きかけが、彼らがこれから社会で必要となる力を育む大きな原動力になります。私自身も子をもつ親としての当事者目線も大事にしながら、将来につながる子どもの学びの進化に、少しでも貢献できるよう努力していきたいと思っています。

文部科学省初等中等教育局教育課程企画室長の板倉寛氏

--ありがとうございました。

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《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

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