LINEみらい財団が無償提供する「プログラミング出前授業」八王子市立松が谷小で公開実施

 2020年9月17日、LINEがCSR活動の一環として設立したLINEみらい財団による、プログラミング教育のオンライン出前授業が東京都八王子市立松が谷小学校にて行われた。そのようすを編集部がレポートする。

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LINEみらい財団は2020年9月17日、東京都八王子市松が谷小学校にてプログラミング出前授業を行った
LINEみらい財団は2020年9月17日、東京都八王子市松が谷小学校にてプログラミング出前授業を行った 全 11 枚 拡大写真
 2020年度から、プログラミング教育が小学校で必修化された。新型コロナウイルスの影響があり、各学校の取組みが本格化するのはこれからといったところだが、カギとなるのは最新技術やノウハウをもつ民間企業との連携だろう。

 2020年9月、LINEがCSR活動の一環として設立したLINEみらい財団が行っている、プログラミング教育のオンライン出前授業をリモート見学した。

LINEみらい財団がプログラミングの教材と機会を無償提供



 子どもたちのデジタルリテラシー向上に取り組んでいるLINEみらい財団のプログラミング学習サイト「LINE entry」は、LINEが放送大学や千葉大学と共同で開発した。子どもたちが簡単にプログラムを書いて実行できる環境を無償提供しているほか、小学校のプログラミング教育の授業に活用できるオリジナル教材や、LINE entryオフィシャルインストラクターによる「出前授業」も無償で提供している。

LINEみらい財団公式Webページ(一部)プログラミング出前授業を無償提供しているLINEみらい財団

 リモート見学したのは、東京都八王子市立松が谷小学校で行われた4年生のクラスの算数の授業。LINEみらい財団では、現在「LINE entry」を採用した同市の小学校4年生、約4500人を対象に、文部科学省の学習指導要領に基づいたオリジナル教材「プログラミングで角をかこう!」による出前授業を行っている。

 なお、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、授業はすべてリモートで行われ、講師と教室はWeb会議ツールで接続。講師の映像とパソコン画面を教室のプロジェクターで映し出し、講師は教員がカメラ付きパソコンで撮影する教室のようすを見ながら授業を進めていった。

 教員は、担任と算数担当の2名で、授業全体を通して児童ひとりひとりが授業に参加できるように声かけを行うとともに、遠隔で繋がっている講師へ進捗を伝えることでスムーズな進行をサポートする。

LINEキャラクターからのメッセージでレッスンスタート



 いざ授業開始。授業の場所は、1人1台のパソコンが用意されたパソコン室だ。パソコンの基本操作については、昨年度の授業で児童は習得済みとのこと。また、児童はすでに角の大きさや書き方を学習しており、この日は学習してきたことを生かして、プログラミングで角を作図する。

LINEみらい財団は2020年9月17日、東京都八王子市松が谷小学校にてプログラミング出前授業を行った東京都八王子市松が谷小学校にて行われたプログラミング出前授業のようす

 LINEキャラクター、白ウサギの「コニー」からのメッセージがプロジェクターでスクリーンに映し出される。南の島へ遊びに来たコニーは、カメと一緒にスイカ割りをするそうだ。しかしスイカ割りコースは橋の上にあり、道を間違えると橋から落ちてしまう。そこで、カメがスイカにたどり着けるよう、道順をプログラミングする、というのが最初のレッスンだ。

2020年9月17日のプログラミング出前授業で用いた「LINE entry」の教材(一部)LINEキャラクターからのメッセージをきっかけにレッスンスタート

カメが海に落ちないでスイカにたどり着く道順は?



 まずは、コニーから送られてきた海の地図を見て道順を考える。

2020年9月17日のプログラミング出前授業で用いた「LINE entry」の教材(一部)コニーから送られてきた海の地図

 次に、各自に配られたプリントを使って「プログラム」を完成させる。

2020年9月17日のプログラミング出前授業で用いた「LINE entry」の教材(一部)まずはワークシートに書き込み、デジタルの画面に入力していく

 児童は、プリントの「書き方の例」を見ながら距離を書き込み、実行したい動作にチェックを入れる。今回のスイカ割りコースの場合は、「13mだけ前に進む」「90°だけ右回りに回転させる」「20mだけ進む」という3つのプログラムを組み合わせることになる。児童は真剣に取り組み、互いに教え合う姿も見られた。

LINEみらい財団は2020年9月17日、東京都八王子市松が谷小学校にてプログラミング出前授業を行った自身のプログラムと照らし合わせて教え合う姿もあった

プログラミングの基礎をアナログ&デジタルで学ぶ



 プリントに記入できたら、今度はそれをパソコンの画面に入力していく。LINE entryでは「ビジュアル型プログラミング」とよばれる、視覚的なオブジェクトを組み合わせていくプログラミング言語を使っている。そのため、ソースコード(コンピューターにわかる特定の文字列)を記述する必要はなく、直感的にブロックを選んで順番につなげていくことでプログラミングできる。

 全員が入力し終わったらプログラムの実行だ。各自が画面のスタートボタンを押す。カメが歩き出し、橋の曲がり角でうまく回転してスイカまでたどり着くと、歓声が沸き起こった。自分たちのプログラムどおりにカメが動くのを見ることで、自分の考えが合っていたことをリアルなものとして体験できる。

 ここで児童のひとりに、自分のプログラムを発表してもらう。道順をたどるひとつひとつ動きがプログラムであり、それが入力したとおり上から順番に実行されること(順次)を理解することがレッスン1の狙いだ。

2020年9月17日のプログラミング出前授業で用いた「LINE entry」の教材(一部)プログラミングの基礎「順次」を学ぶレッスン

内角?外角?算数での学びが生かされる瞬間



 再びコニーからLINEメッセージが届く。今度は新しいコースのプログラミングをコニーが考えたという。果たして成功するのか…。

2020年9月17日のプログラミング出前授業で用いた「LINE entry」の教材(一部)授業中盤、コニーから新たなメッセージが。考えたプログラムを実行すると…

 コニーのプログラムが成功すると思う人、失敗すると思う人に意見が分かれた。講師が実際にコニーのプログラムを実行してみると、カメは海に落ちてしまった。コニーのプログラムのどこが間違っていたのだろうか。

 「75°くらいだったのかな?」「右回りだから落ちたんじゃないかな」。児童たちが考えを出し合う声が聴こえてくる。しばらく話したところで、各自で正しいと思うプログラムをプリントに記入し、また周りの人と話し合う。

 今度は、プリントに書いたプログラムをパソコンで実際に実行してみる。再びカメが海に落ちてしまった人もいた。失敗しても角度を調整して再び試す。課題に対して仮説を立て、それを検証する、という試行錯誤が自然と始まっていた。

 しばらく試したところで、成功した人のプログラムを発表してもらう。

5mだけ前に進む
180°から115°を引いて65°だけ右回りに回転させる
19mだけ前に進む


 このレッスンのポイントは、カメが曲がる方向をカメの進行方向から考えてみることにある。そうすれば、橋の内角ではなく外角で曲がるようにプログラムすればいいことがわかる。

2020年9月17日のプログラミング出前授業で用いた「LINE entry」の教材(一部)算数の知識をプログラミングでも活用できるという新たな学び

 65°だけ右回りに回転させるプログラムを実行してみると、見事カメはスイカにたどり着いた。

「難しかったけれど、楽しかった」子どもたちの主体的な学びに



 レッスンの終わりに、講師は児童たちに「算数で学習していることをもっともっと使えば、いろんなプログラムに挑戦できるかもしれません。ぜひこれからも算数の学習も楽しんでチャンレジしてください」とメッセージを送った。

LINEみらい財団は2020年9月17日、東京都八王子市松が谷小学校にてプログラミング出前授業を行ったスクリーンに映る講師と現場の教員との連携でスムーズに授業が進行

 プリントでやり残したレッスン3は、LINE entryのWebサイトにもあるため、興味のある人は自宅に帰ってからも取り組めるようになっている。

 授業が終わった後、児童2人から授業の感想を聞いた。

「(レッスン2で)どの角度なら成功するかを考えるのが難しかったけれど、楽しかった」(Aさん、小4・男子)
「プログラミングに算数が関係していることを知らなかったので、おもしろいと思った。算数は好きだけど、いつもよりおもしろい気がした」(Bさん、小4・女子)

 いずれも、レッスンにしっかり取り組めたようだ。また、「プログラミングでしたいことは?」という質問には、2人から「ゲームをつくってみたい」という答えが返ってきた。

 2013年、当時のアメリカのオバマ大統領はCode.orgのキャンペーンの一環で、「ゲームソフトやスマートフォンアプリを買うのではなく、自らつくってほしい」と国民にメッセージを送った。これからの時代に欠かせないコンピューターの仕組みを知っておくことは、プロダクトやサービスをつくるときに役立つ。また、プログラミングを通して得た論理的思考や問題解決能力はあらゆる場面で活用できるスキルだ。

 担当教員は今日の授業を「子どもたちが興味をもって取り組めていた。自分から積極的に試したり、思考したりできていてよかった」と振り返った。

 今回の授業にあたっては、教員とLINEみらい財団との間で事前に接続テストを行い、教員も実際にLINE entryを使いながら基本操作を覚えたという。担当教員も「少人数を相手にしたプログラミング教育は昨年までやっていたが、今回のような全体指導は初めて。しかしルールが徹底していれば20人でも問題ないのでは」と語り、今後のプログラミング教育の授業にも手応えを感じていた。

 LINEみらい財団では引き続き、2021年3月にかけて、全八王子市立小学校70校の4年生(約150クラス、約4,500人)に「プログラミングで角をかこう!」の出前授業を無償で行っていくという。

《柏木由美子》

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