【中学受験2021】関西は中堅以上が難化、全国的にコロナ疲れの影響が深刻…小川大介先生(訂正あり)

 教育家であり、「かしこい塾の使い方」主任相談員で中学受験指導のカリスマ講師である小川大介先生に、普段の指導の中から見える・感じる「2021年度中学入試」について話を聞いた。

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 コロナ禍の2021年度中学入試。不安を抱えながらも懸命に中学入試に向かう子どもと保護者に向けて、教育家であり、「かしこい塾の使い方」主任相談員で中学受験指導のカリスマ講師である小川大介先生に、普段の指導の中から見える・感じる「2021年度中学入試」について話を聞いた。

入試タイプの多様化に歯止め



--ここ数年の入試の状況、出願動向の変遷などがあればお聞かせください。

 まず関東ですが、やはり文科省のお膝元ゆえ中学受験においても大学入試の変化の影響を受けやすいといえます。

 国が「確かな学力の育成」として、
1)知識・技能の確実な習得
2)思考力、判断力、表現力
3)主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度
といった「学力の3要素」を示して以降、それを受けた出題が首都圏の中学受験において先んじています。具体的には、説明文や資料、データなどをもとにして、その場で考えて答えを導き出すような、いわゆる男子難関校が出していた骨太な問題が、昨年あたりから女子校や、共学を含めた中堅校でも出題されるようになってきました。

 また近年は、基本の4科目以外に面接やグループワークを組み込んだもの、アクティブラーニング型、2科目型や算数1科目など、工夫した入試のバリエーションが増えてきました。ただし今年に限っては接触する機会を極力減らさなければならず、子どもの個性を汲み取るための入試を採用していた学校も、ペーパー重視の入試にならざるを得ないのではないかと思います。

 フェリスや桜蔭、早大学院などでも面接やグループディスカッションの中止が発表されています。また、多様化しつつあった入試タイプが、コロナの影響で従来のオーソドックスな形式に戻ってきている状況です。

[お詫びと訂正]初出時、「聖学院でも面接が中止」と記しておりましたが、誤りです。詳細につきましては聖学院中学校・高等学校 中学入試要項でご確認ください。関係者の皆様にお詫び申し上げるとともに、訂正させていただきます。(2020年12月8日)

 これは裏返していうと、特殊な入試形式が減るぶん、4科目を勉強してきた子が併願校を選びやすいというメリットでもあります。基本知識を頭に入れたうえで、自分なりに考えて答えを出すという通常の学習の姿勢で合格しやすいともいえるでしょう。

教育家・「かしこい塾の使い方」主任相談員 小川大介先生
教育家・「かしこい塾の使い方」主任相談員 小川大介先生

--関西の傾向はいかがでしょうか。

 昨年においては、首都圏以上に変化があったと思います。関西は昔からの医学部信仰が強く、たくさんの問題を解いて覚えて点数をとるといった、知識重視の傾向がありました。ですが、さすがに大学入試改革がいわれて数年が経ち、処理スピードや知識ではなく、その場で考えて答えを出すような思考力を重視した出題に変わってきています。

 たとえば2020年度の国語を見ると、灘が2日目の詩で「さまざまな読み方ができますが、あなたはどのように考えますか。自分で想像して答えなさい」という、受験者の感性と想像力を問う問題が出ました。どちらかというと、今まで処理能力を重視していた大阪星光学院でも、じっくりと意味を考えたうえで高度な記述力を要求されるような出題に変わりました。これらは一時的なものではなく、大学入試やその先の社会を見据えた出題の方針であり、今後も変わらない傾向なのではないでしょうか。

関西では特進コースが話題



 関西では近年、中堅に位置する学校のコースが細分化しています。中でも成功したのが四天王寺の医志コース。高い偏差値と熱心な教育内容、大学進学への期待値もあり、全体的に偏差値ランクが上がりました。そうしたようすをみて、2020年では明星がS特進コースを新たに設置するなど、難関大受験に特化したコースを新設することによって学校が生き残りを図ろうとしている流れがあります。

 すると、同じ学校の中でも、コースによって要求される知識や問題難易度に差が出ることになり、難関中学受験組が併願校として考えていた学校の要求レベルが上がったことで、その学校自体が難化するという現象がみられます。関西の中堅校に関しては合格基準ラインが上がることになるでしょう。

 一方、大阪の早稲田摂陵は中学入試自体が取りやめとなり、函館ラサールも1次・2次合わせて105人だった定員を80人に減らしています。進み続ける少子化の影響が、募集停止や定員削減という形になって表れているわけです。受験生の人気を集める一部の中堅~上位校はいっそう難化する一方で、受験者総数の減少によって受け皿的な学校は入りやすくなっています。つまり、手堅い学校を受ける子は合格しやすくなっているともいえるでしょう。

--2021年の入試において注目している学校を教えてください。

 文京区に開校する広尾学園小石川ですね。ICT活用を打ち出し、昔からの学校がブランドチェンジして進学校となった広尾学園の成功モデルがありますから、その姉妹校として期待を集めています。広尾学園や三田国際などの学校に魅力を感じながらも、これまでは通うには遠かった埼玉や東京の東側エリアの方たちからも人気を集めると考えています。

 また、「好きなことを好きなだけ、好きなように勉強する」という、自己判断を重視するドルトン東京学園の方針を支持する保護者も増えています。ただ、ドルトン東京学園については、この先は評価が二分するとみています。というのも、小テストで理解度を確認したり、カリキュラムありきで学習管理されることに慣れている保護者からは「何をやっていいかわからない」という声も出始めているからです。教育内容に満足している家庭と、これで大丈夫かと不安を抱えている家庭。学校側が家庭とコミュニケーションをとって一緒になって歩んでいけるかどうか、ここ数年が勝負になるのではないでしょうか。

--今年は入試日程などにも変更があったようですね。

 青山学院が2月3日の入試から2日に変更、恵泉女学院では2月2日の午後から午前に変更するなど日程を変更しているところが結構あります。吉祥女子も、3回目の入試を廃止して、そのぶんの定員を1回目と2回目に振り分けています。2月1日と2日の2日間に前倒しされている流れがあり、1日、2日の結果をみてから3日、4日をどうするかという戦略が立てづらくなっています。今年は例年以上に出願動向が読みづらいため、四谷大塚の合不合判定テストなど大きな模試を受けて、人気と予想偏差値を参考に、どの学校を受けるかという判断が必要になるでしょう。

 関西での注目は、灘が2020年度から合格発表の日程を見直したことです。難関校を目指す子は、灘の合格発表を受けてから、洛南の専願・併願の切り替えを行うのが伝統的な流れ。灘が不合格だった場合、出願時に併願で出していても後から塾や小学校を通して単願に切り替えができるシステムなのですが、灘の合格発表が遅れたぶん判断する時間が短くなっています。その後の日程管理が変わって、限られた時間のなかで後半の入試を考えざるを得ないパターンが出てくると考えられます。

例年よりも併願校選びが難航



--春にもお伺いした一斉休校の影響について、普段のご指導の中で見える受験生の学習の状況やメンタル面で、先生が気になっていることがあれば教えてください。

 全員ではありませんが、例年に比べて自信を失ったり、疲れたりしている子は多いと思います。疲れているのは子どもだけではなくて保護者の方も同様です。保護者相談の際も、あれもこれも気になって何を聞きたいかわからなくなっている方も多くいらっしゃいます。

 例年多くの保護者が入試直前の不安や焦りから、あれもこれもと子どもに学習をやらせ過ぎる傾向にあります。今年は特に休校期間やリモートワークの拡大によって、子どもと過ごす時間が長かったぶん、自分がもっとやらなければと空回りしている保護者が目立ちます。また、コロナの影響で学校見学が思うようにできなかったり、過去問に着手するタイミングが遅れたりといった要因もあって、併願校を決めきれていない人が今年はとても多い印象です。

--例年なら、すでに併願校を固めている時期なのですね。併願校選びのポイントはありますか。

 併願校を決めるコツは「割り切り」です。理想を追いかけたら併願校は選べない。併願校を考える=第一志望が受からないかも、ということを考える酷な作業でもあるのです。それでも、子どもがずっと努力してやってきた数年間の価値を守るために、併願校を決める必要がある。

 併願校の話をすると怒りだす子もいるくらい、子どもにとっても嫌な話題なのです。ですから、親も冷静なところがないと併願校はなかなか決まらないのです。併願校を決めるには、「この学校もいいよね」と保護者自身が納得することも大事。その材料の1つが学校説明会や見学会だったりするのですが、今年はそれも出来ないのがなかなか厳しいですよね。

--人数を制限して見学会を行う学校もありましたが、オンライン説明会で視聴するだけの学校も多く、実際に見ないと決定できないという気持ちの保護者は多いでしょうね。

 今年の受験生の親は、12月、1月に判断しなければならないことが多すぎます。併願校選びもそうですが、入試日程を考えるうえで、今年は受験校数も吟味しなくてはならない。

 1月校の入試を受けて、万が一新型コロナに罹患したら2月の本命が受けられない、かといって早い段階で合格は確保しておきたいし、といった迷いもあるでしょう。何が正解なのかわからない中で、各家庭で判断することが多すぎる。ただでさえ受験生の親というのは大変なのに、いつもの年に比べて2割3割増しの負担がかかっていると思います。

--そうした大変さを乗り切るコツはありますか。

 自分の頭の中でも、夫婦の会話を通してでもいいので、「自分は疲れているんだ」ということを認識することが大事です。いっぱいいっぱいな自分を自覚して、「できないことはやらなくていい、できる範囲のことをやればいい」と、ポジティブな割り切りをすることが、12月、1月、受験最中のしんどい時期を乗り切るための秘訣です。

各校コロナ対策を講じ、救済措置も



--感染状況をみると予断を許さない状況ですが、入試そのものへの影響もありそうでしょうか。

 開成が新型コロナで受けられなかった子への救済措置として、追試を実施すると発表しました。各学校が頭を悩ませていると考えられます。とはいえ、確実に救済をする学校は増えると思われるので、今年は最終的な進学先を決めるのが、一部とはいえ後ろにずれ込むのではないでしょうか。追試になった子の個別フォローをするなど塾の先生もサポートしていかなくてはならないでしょう。

 出題については、難関校は何ら変らない今までどおりの出し方をするでしょうけども、全体としては基本的な知識で取り組みやすいような出題となるよう、学校側も配慮しているのではないでしょうか。共立女子のように、前年度まで社会と理科が各35分だった試験時間を合わせて50分にしたり、社会の公民分野の出題割合を低くして、6年生前半までの地理歴史の学習範囲から出題するといった配慮をしている学校もあります。

 今後の学習のポイントとしては、毎年必ず出るような問題傾向のなかから、見た瞬間に解けるような問題を増やしておくこと。試験当日、緊張しても答えを引き出せるような状態にしておくことが理想です。

社会情勢を踏まえたテーマ性のある出題



--今年度において考えられる出題のトレンドを教えてください。

 今年はとにかく、社会全体の科学的な思考の弱さが露呈した年でした。1次情報に基づかないデマが飛び交ったり、根拠のない話に振り回されたり。中学入試においても「科学的思考の欠如への反省」が込められた出題が予想されるのではないでしょうか。理科や社会も資料を与えられ、そこから論理的に判断させるような問題が出やすいでしょうね。

 国語の素材文にも、科学や哲学にも似た問題が出るなど、例年以上に原因と結果、因果関係を問われるような問題が国語・社会で出やすいと思います。もうひとつ、アメリカ大統領選で勝利したバイデン氏の演説にも「結束と癒し」という言葉がありましたが、家族の絆、人と人とがつながることの意味といったテーマも出やすいでしょう。

 女子校では鴎友、女子学院、田園調布学園あたり、男子校では世田谷学園などでも、近年において社会における人の在り方を考えさせるような記述問題が出ています。その傾向は今年より色濃くなるでしょう。

 対策として、今年1年を振り返って、どんなことが起きたのかについて家族で話すのもいいでしょう。コロナが世界的大流行となり、アメリカでは大統領選挙があり、日本でも政権が代わりましたよね。社会が大きく変わったことをふまえて、これからどんな社会になってほしいかということを親子で考えてみるのもお勧めです。

頑張りを確認する時間が必要



--これからラストスパートをかける小学6年生、保護者へのアドバイスを頂きたく思います。

 これからの直前期、学習の効率を上げるコツは、ちゃんと寝ること。しっかり寝てスッキリした頭で集中して問題に取り組むこと。それだけでだいぶ違います。また、学習面の不調は必ず睡眠や食事に影響が出てきます。まずはちゃんと寝られているか、食べられているかといった、当たり前のことをやれているかどうかを保護者の方は見てあげてください。気付く目をもっている親御さんは、疲れているので休ませようとか今日はゆっくりさせようという対応もできるでしょう。

 また、いっぱいいっぱいな状況にある今年度は特に、冷静になるのはなかなか困難なことかもしれません。しかし子どもを心から応援するには、親が冷静になって、子どもが本人なりに頑張っているところを再確認する作業が絶対に必要です。不安や気になることはあるでしょうが、各教科、取り組めていること、できていることを棚卸しして再確認する時間をつくってください。

 それをふまえたうえで、やるべきことを絞り込み、子どもにやらせ過ぎないことが大事です。親は「ここまででいい」という判断を付けづらい。だからこそ塾や個別指導の先生、家庭教師などプロに相談し、絞り込みを手伝ってもらうことも有効です。

塾に電話相談するのは迷惑ではない



--塾との付き合い方について、アドバイスはありますか。

 先生も忙しいのに電話したら悪いと遠慮している親御さんも多いと思います。しかし、塾の先生の助けをもらわずにやっていく自信はあるのかと、まず自分に聞いてみて、自信がないなら迷わず塾の先生に相談しましょう。「なんて聞けばいいのか…」と悩む方も多いでしょうけど、先生への質問は「先生、困っています助けてください」でOK。それだけ言えば「どうしました?」と、先生はプロだから汲み取ってくれるはずですから。なんなら「先生怖いです」「先生!」だけでもいい(笑)。

 塾の先生と家庭は1つのチームです。子どもについて相談する権利もありますし、先生も子どもが困っていることを知って、それに答えるのは当然です。ふだんの会話の中で、子どもの口から名前が出る先生に相談できると、先生もその子のことを見ていてくれている可能性が高いので、より的確なアドバイスがもらえると思います。

 最後になりますが、今年はみな頑張りすぎの傾向にあるため、特に受験が終わってからの過ごし方についても、親御さんは少し考えたほうがいいでしょう。頑張った反動でどっと疲れが出たり、張り詰めていた気持ちが切れそのあと意欲が湧いてこない子もいるかもしれません。勉強の仕方を完全に忘れてしまい、入学してから大変になるケースを例年見ていますが、今年はそれが起きやすいと考えています。生活リズムを保つこと、漢字や計算練習といった基本的な学習メニューを入れることが、燃え尽き症候群を防ぐのにお勧めです。

--ありがとうございました。

 インタビューの中で何度も「やらせ過ぎないこと」が大切と話してくれた小川先生。休校中の家庭学習、短い夏休みの中でこなした夏期講習、二学期の追い上げ…。教育現場がコロナ禍に奔走される中で、もう十分すぎるほど頑張ってきた親子を見てきたからこそなのであろう。残り3か月、かつてない状況下での中学受験を乗り越えた子どもたちに、笑顔の春が訪れることを心から願っている。

《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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