【高校受験2022】偏らず学ぶことが正道…SAPIX中学部に聞く都立難関突破対策

 難関高校での合格実績が際立つSAPIX中学部 教育情報センター課長の伊藤俊平氏に、2022年度の都立高校入試の特徴やこれからの学習方法の注意点、志望校選びについてのアドバイスを聞いた。

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SAPIX(サピックス)中学部教育情報センター課長 伊藤俊平氏
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 難関大学への高い合格実績等から都立進学指導重点校人気は続いている。合格実績が際立つSAPIX(サピックス)中学部教育情報センター課長の伊藤俊平氏に、2021年度入試の振り返り、2022年度の日程や志望校選び、夏休みからの学習対策について聞いた。
(※編集部注:2021年5月27日時点の情報をもとに記事化)

コロナ禍で挑んだ
2021年度都立入試振り返り



--コロナ禍で1年間を過ごした生徒たちが挑んだ高校受験でしたが、進学指導重点校の受験者数に変化はありましたか。

 都立高校トップ7校である進学指導重点校(日比谷・戸山・青山・西・八王子東・立川・国立)の受験データを2020年度と比較すると、受験者は2,994名→2,866名(△128名)、合格者で割った実質倍率は1.62倍→1.56倍(△0.06ポイント)となりました。ただし、中学3年生全体の生徒数も76,989名→74,642名(△2,347名)と減少しているため、顕著な減少幅とは言えないでしょう。

都立高校トップ7・進学指導重点校(日比谷・戸山・青山・西・八王子東・立川・国立)受験者数推移
--入試問題にはどのような変化が見られましたか。

 2020年は緊急事態宣言が発出され、全国の学校が休校措置を行いました。その影響で東京都教育委員会は入学者選抜試験の出題範囲を削減しました。大きなところで三平方の定理(数学)や関係代名詞の一部(英語)等です。それを受け、自校作成問題校では入試問題の難易度を維持するためにさまざまな工夫をしていましたが、例年どおりの出題とは言えませんので、過去問に取り組む際には注意が必要です。

--志望校選びの傾向に変化がありましたら教えてください。

 コロナ禍という特殊な状況下での事例のためそのまま「傾向の変化」と捉えることはできませんが、今春の入試においては実力以上の学校へのチャレンジが減少、すなわち安全志向が見られました。緊急事態宣言やそれに続く営業自粛によって経済的に打撃を受けた家庭もあり、絶対に都立高校に進学したいという生徒にとっては苦しい選択を迫られたことでしょう。

中学3年生は今後10年増加…募集人員の変化は?



--2022年度の公立中学校の卒業予定者数はこの春よりも増加しますが、進学指導重点校や人気校の募集人員に変化はありますでしょうか。

 日本の人口は減少の一途をたどっています。東京都の中学3年生の生徒数もここ数年減少傾向にあり、令和2(2020)年には75,000人を下回りました。しかし、令和3(2021)年からは上昇傾向となり、今後10年間は増え続ける見込みです。

 公立高校の募集人員は、例年9月に実施の公私連絡協議会で決定される受け入れ分担比率をもとに決定されます。具体的には、東京都全体の受験予定者をおおむね都立60:私立40の割合で案分して決定されます。そのため「生徒数が多い年度は競争率が高いから不利」というようなことは起こりません

SAPIX(サピックス)中学部教育情報センター課長 伊藤俊平氏
SAPIX(サピックス)中学部教育情報センター課長 伊藤俊平氏

 また、いくつかの高校で募集クラス数が増減することがあります。これは校舎施設や立地等を考慮して調整されるもので、「受験者数が多い」「人気がある」といった理由で選ばれるものではありません。さらに例年の傾向では募集クラス数が増えれば受験者数も増えますし、クラスが減れば受験者数も減ります。ここでも有利・不利は起こらないようです。

--2022年度からの新設校・新コース等の特徴的な動きがあれば教えてください。

 立川高校が普通科の一部を改編して理数科を設置します。元からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校で理系教育に定評のある高校ではありますが、より探究的な学びを求める生徒にアピールすることになるでしょう。一方で、同校は「理系の学校を創る」ことが目的ではないとも強調しています。理系的な素養や情報リテラシーは文理に関係なく必要な能力なので、文系の生徒にも良いシナジーが生まれることが期待されています。なお、5月27日の教育委員会で、推薦入試では科学的な活動をレポートにまとめた「研究実績報告書」に関する口頭試問が行われること、一般入試では普通科と同じ自校作成問題が使用され、傾斜配点が行われないことなどが発表されました。

私立志望増加でも安心できない都立上位校志望者



--都立志望が前年よりも少し減ったようですが、2022年度の都立・私立志望の人気傾向はどのように予想していますか。

 前述の通り、募集人員は生徒数から計算されますので、生徒数が減れば募集人員が減り、それに伴って志望者も減ります。ただ、その幅以上に志望者が減っているため、原因を探ってみますと、以下の3つの事柄が考えられます。

 1つ目は「大学附属校の人気上昇」です。今春から大学入学共通テストがスタートしました。二本柱であった「英語民間試験活用」「記述式問題導入」が断念・先送りになり、今後の大学入試改革の方向性は不透明なままです。これを不安に思って、大学までエスカレーター式に進学できる私立高校の人気が高まっています。

 2つ目は「授業料助成制度の拡充」です。都立高校のメリットの1つに学費の安さが挙げられます。「高等学校等就学支援金制度」(国の制度)により、世帯年収等による制限があるものの、都立高校の授業料は無償化されています。一方で、私立高校は授業料以外に設備費等がかかりますので、学費は高くなります。ただし最近では、自治体ごとに私立高校の授業料等も助成する制度が充実してきていますので、学費の安さによる優位性は相対的に低くなったと言えるでしょう。

 3つ目は「都立高校の二極化」です。進学指導重点校や進学指導特別推進校のような、大学進学実績の向上を謳った上位校は堅調な人気を保っています。一方で、新しい学びが叫ばれ、大学進学率が極めて高い現在では、専門学科(農業科・工業科等)は苦戦を強いられています。また、独自の教育や設備の充実を押し出す私立高校と競合する場合にも定員割れを起こす都立高校が散見されます。

 来年以降は人口流入による社会増によって中学3年生が増加傾向に転じますが、上述のような外部要因に変化はありません。しかし総合的に見ると、志望者が減少していても特に上位校志望者は安心できません。

4月から改訂となった新学習指導要領の影響



--評定の観点にはどのような変化がありますでしょうか。

 学習指導要領の改訂は「生きる力」を育成することに主眼をおきます。AIの進歩等によってこれからの未来は大きく変化していくことでしょう。そこに生きる子どもたちに必要な力とはどういうものか。文部科学省は学力の三要素として示しています。

 「知識・技能」は、従来の学習のイメージにもっとも合致するもので、すべての学習の土台となるものです。詰め込み・丸暗記等と批判的に捉える風潮もありますが、その重要性は一切否定されていません。

 「思考力・表現力・判断力」は、複雑な現代社会において答えがひとつではない問題に直面したとき、自分の考えで分析・整理して他の人へ伝えるようなシチュエーションで必要とされる力だと考えられます。

 「主体性・多様性・協働性」は学習評価にはなじみにくい概念ですが、今後はいろいろな価値観を持った人とともに問題解決を目指すことが増えてくるなかで、なくてはならない力だと思われます。また自らの学習状況を客観的に把握して方向性を整えるような姿勢も大切になると考えられます。

--通知表や調査書も改訂されることが予想されますが、学校での学習や定期テスト対策ではどのようなことに注意が必要でしょうか。

学力の3つの要素
 学習指導要領改訂にあたって、たとえば挙手や発言の回数を得点化するような評価方法は完全に否定され、児童・生徒と教師がより良い学びを目標として共有することが求められています。都立高校の入学者選抜では9教科の評定を得点化しますので、学習指導要領に含まれている内容は偏らず学ぶことが正道と言えます。自己判断で学ぶ必要のあり・なしを分けて表面的な「対策」をするだけでは、これまで以上に対応できなくなると思われます。

--推薦入試、一般入試問題にはそれぞれどのような影響が考えられるでしょうか。

 小論文のテーマとして現代社会が抱える諸問題が扱われることがよくあります。大人が考えても簡単に答えが出ないような問題に対して自分なりの意見を述べることが求められます。新学習指導要領で求められる力は、推薦による選抜においては以前から連綿と問われ続けてきたものと言えるでしょう。

 学力検査による選抜では、先行した大学入学共通テストの影響を受けた問題が多くなってきています。知識をそのまま答える問題だけでなく、その場での対応を要する問題も見かけるようになりました。新学習指導要領の言うように、まさに「何を学んだのか」だけでなく「どのように学んだのか」を問われていると言えるでしょう。

夏から秋まで取組むべきことは?教科別アドバイス



--教科について、これから秋までに取り組むべき学習アドバイスを、それぞれの教科ごとにお願いします。

英語


 長文読解に最適な時期です。時間をかけて丁寧に読む、速度を意識して読む、それぞれ大切なのでバランスよく取り組んでください。それと同時に、自信がない文法事項があればこの機に完成させておきましょう。

数学


 いろいろなタイプの入試問題をたくさん解くことが重要です。また、証明や解法、作図等「どのように解答したか」を問うものがたくさん出題されます。わかりやすく表現できるように練習を積んでおきましょう。

国語


 試験時間が足りないと感じることが多い教科です。急いで読んだり速く書いたりすることに目が行きがちですが、時間を短縮するためにはきちんと読解することが必要です。速度がつくのはもう少し後なので焦らず取り組みましょう。

理科


 この期間に典型問題の完成を目指しましょう。また、その場で与えられた条件をヒントに解答する問題が増加しています。学校の授業で行われた実験・実習について、手順や注意点、その理由等がよく出題されています。

社会


 多くの問題を解いて必要な知識を確立させましょう。写真や資料を読み取って解答する問題が頻出なので意識的に取り組んでください。また、時事問題に対応するために社会問題にも関心をもっておきたいところです。

併願する私立校選びについて



--まだまだコロナ禍が続いていますが、私立併願校選びに変化はありますでしょうか。併願する私立を選ぶ際のポイントを教えてください。

 2021年度入試は緊急事態宣言下の入試となりました。各高校はそれぞれ感染症対策を徹底した実施となり、受験予定者が感染した場合の追加日程も準備されました。私立解禁日(2月10日)以前の平均受験校数が減少しましたが、これは感染のリスクを少しでも減らすためと思われます。

 ここからは一般的な私立併願について説明します。まず、東京都には200校を超える私立高校が存在していて、それぞれ独自の教育を実践しています。そのため高校の受験難易度(偏差値)がそのまま学校の優劣を表すわけではないことを前置きしておきます。

 都立高校を第一志望とする受験生の併願パターンを考えてみる(下記イメージ図参照)と、都立よりも前に、自分の実力からやや下の安全校(私立1)を受験して合格しておきます。さらに、私立高校の中で第二志望を作る(私立2)こともできます。第一志望に不合格になったとしてもたくさんある私立高校の中からセカンドベストを選べるのが首都圏受験のメリットである一方、私立高校を第一志望とする受験生との競争になるということも頭に入れておく必要があります。

都立高校を第一志望とする受験生の併願パターン例

--都立高校の入試日程が発表になりました。私立と都立の受験スケジュールの注意点を教えてください。

 都立高校の入試は2月21日に行われますが、首都圏の私立高校入試は1月中旬の千葉県私立から順次始まっていきます。東京都私立の解禁日は2月10日ですが、それでも都立高校に比べて2週間ほど早い日程です。都立高校を志望する場合、受験期間が長期間にわたりますので体調面で気をつけなければなりません。また、都立高校の入試日よりも私立高校の入学手続日が前になるため、入学金を納入しなければならなかったり延納制度を利用したりする必要があります。それぞれの高校で制度が異なりますので、入学案内等でよく確認しておきましょう。

東京都立高等学校入学者選抜の日程
東京都立高等学校入学者選抜の日程(2021年5月27日 東京都教育委員会発表資料をもとに編集部作成)

保護者ができる受験生サポートはまず「笑顔」から



--コロナ禍での生活も2年目になります。志望校選択の準備のための学校見学等は、現2年生、3年生はいつ頃から始めると良いでしょうか。注意点やアドバイスを教えてください。

 昨年は学校説明会が軒並み中止やオンライン実施となりました。今年も感染症対策を講じながら慎重な対応をとっている学校が多いようです。オンライン説明会やホームページから進学実績やカリキュラム、教育理念等の情報は入手できたとしても、実際に足を運んで雰囲気を感じる機会は少なくなっています。せっかく合格した後で「こんなはずではなかった」と後悔するような事態だけは避けたいものです。自分が通学することをイメージしながら情報収集することを心がけてみてください。緊急事態宣言による外出自粛等の外部要因はありますが、学校見学・説明会なども早い時期から始めたほうが良いと思います。

--勉強のリズムがつかめず、焦りを感じている子供たち、心配が募る保護者にはどのようなアドバイスをされていますか。子供たち、親、それぞれに必要な心構えやアドバイスをお願いします。

 物事をシンプルにするための行動をとってみることをお勧めしています。以前「毎日が忙しくて勉強する時間がない」という相談を受けたことがあります。部活動やクラブチームに一生懸命取り組む真面目な生徒でした。その彼に「何にどれだけ時間をかけているか」を書き出してもらって検討しました。1日は24時間なので、それ以上詰め込むことはできませんし、睡眠時間を削るのは無謀です。しかし、書き出して視覚化することで無駄な時間、隙間の時間を見出すことができました。

 また、新型コロナウイルス感染症については社会全体の問題なので、自分ひとりが不利になっていると考えないことが大切です。むやみに不安になったり苛立ったりしても自分ではどうしようもありません。コロナ禍に限らず、誰しも与えられた環境の中でより良い選択をするのみです。

 保護者の方も同様で、まず自分がイライラしないことです。親のイライラは子供に伝わります。コロナ禍等が原因で子供が不安やストレスを抱えているかもしれません。それをくみ取るのは親密なコミュニケーションです。保護者の方は意識的に笑顔を作って子供をサポートしてあげてください。

SAPIX中学部 夏のテスト・講習情報



入室テスト


2021年7月3日(土)、7月10日(土)
入室テスト

夏期講習


2021年7月24日(土)開講
対象:高校受験を考えている小学6年生/中学1・2・3年生
夏期講習

小5夏期特別ゼミ


2021年8月20日(金)~21日(土)
小5夏期特別ゼミ

公開模試 第2回サピックスオープン


2021年7月4日(日)
対象:中学3年生
公開模試 第2回サピックスオープン
※その他の模試のラインアップはこちらから

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