伝統校・東京女子学園が取り組む、探究学習を通じた新しい学び

 未来を創造し、切り拓く力を育む。東京女子学園が取り組むDSDA(データサイエンス、デザイン&アーツ)とはどういったものだろうか。探究学習の形について取材、レポートする。

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東京女子学園の特徴ともいえる探求型学習のDSDAの授業のようす
東京女子学園の特徴ともいえる探求型学習のDSDAの授業のようす 全 8 枚 拡大写真
 2023年に創立120周年を迎え、新校舎の誕生が待ち望まれる「東京女子学園中学校高等学校」。就任2年目の河添健校長のもと取り組んでいる探究学習を軸とした学校改革をレポートする。

物事の本質を自分の言葉で考える



 東京女子学園の特徴ともいえる探究学習のコンセプトをもっとも体現しているDSDA(データサイエンス、デザイン&アーツ、以下DSDA)と名付けられた授業は、外部のさまざまな企業や人材とコラボレーションしながら進められている。今回はこのDSDAの「デザイン」における授業を見学した。

 第一線で活躍するプロダクトデザイナーを講師として招聘した「デザイン思考」の講座では、グッドデザイン賞の選考基準や過去の受賞作品を題材に取り上げ、身の回りの物事になぜデザインが必要なのか、あるいは社会にとってデザインが果たす役割は何かというデザインの本質について考えるグループワークを行っていた。

DSDA「デザイン思考」の講座のようす

 高校2年生の1クラスおよそ30名が4~5名ずつのグループとなって講師のファシリテーションに促されながら話し合い、意見をまとめ上げ、ときに発信する。生徒たちは講師から突然意見を求められても、臆することなく自分の言葉でしっかりと考えを発していて、その頼もしい姿に感心させられた。

講師の説明に聞き入る

見えないものを見る力、出せない答えを出す力



 東京女子学園では、生徒自らが問題を発見し解決していく力の獲得を目指している。正解のない世の中にあって、これからの子供たちには大学進学だけでなく、それから先の自分の将来まで見据えることが求められている。同学園の先端学習部部長で国語科を担当する難波俊樹先生は「だからこそ『見えないものを見る力、出せない答えを出す力』が重要になっていく」と理念を語った。「20年後、30年後に卒業生が東京女子学園での学びがあったからこそ自分は世の中を楽しく生きています、と言ってもらえるような教育を大切にしたい」という。偏差値だけにとらわれない、考える力や生きる力を追求する姿勢が感じられる言葉だ。

 こうした理念を基に、同学園の探究学習は「DSDA」と「探究ゼミ」という2つの軸を設けている。「DSDA」は、おもにコンピュータサイエンスやデータサイエンス、クリエイティブなワークショップなど“体験”が重視され、高校3年生まで教科の学習と並走する形で実施されている。データサイエンスを扱う授業では、データをもとにさまざまな角度から世の中の事象を見てみるという体験を通して、エビデンスベースで物事を考える力や、リテラシーを培うことが主眼とされている。

 前述したデザインに関する授業では、自分の考えを他者に伝えることを重視しながら、ものづくりや音楽、絵画、デジタルによる新たな表現方法などを学ぶことができる。

 「探究ゼミ」は、将来的にやりたいことや学びたいことを見つけるきっかけづくりが狙いだ。各教員自身も、どんなゼミがしたいのかを探究し、生徒全員に対してプレゼンを実施する。そのプレゼンを参考にしながら生徒は入りたいゼミを選択し、同じゼミを選んだ中学1年生から高校2年生までが、学年の区別なく1年間を一緒に学ぶ。同じ先生のゼミには2年連続では参加できず、5年間で5人の先生のもとで学ぶという。個人個人が「好き」な学びの種を見つけたら、そのゼミの中で掘り下げていくのだそうだ。

学びを通じ「見えないものを見る力、出せない答えを出す力」を身に付けていく

 難波先生は、こうした探究学習の取組みを通じて、生徒の成長に手応えを感じているようすだ。生徒たちのベースとなっているのは、4月最初の1週間で実施するTSP(Tokyo joshi Startup Program)というトレーニングで培った力だ。TSPでは物事を多角的にとらえることや、具体と抽象の考え方、ブレインストーミング、学習するための基本的な技能などを、全員が楽しみながら共通して身に付けることができる。

 生徒達が快活に意見を交わし臆せず発言できる姿が見受けられたのも、こうした取組みを通じて、社会に出てからも役立つ考え方やスキルを生徒たちが獲得しているからではないかと感じられた。

周りの大人たちが一緒になって生徒の学びを支援



 多種多様な企業をはじめ、外部との協力体制が充実している東京女子学園の探究学習は、学園の中だけにはとどまらない。

 たとえば現在、東京女子学園の向かいにあるNECと進める「NEC未来創造会議」は、全6回の授業で先端の技術に触れていくもの。単に技術を知るだけではなく、それが生活と密接に繋がり自分の未来を切り拓いていくものであることを、生徒たち自身が体感するのが狙いだという。

 「家庭総合」の時間で行われた青森県弘前市の亀屋革具店との「カバン作り」では、生徒たち自身でコンセプトから発案し、職人やデザイナーとのやり取りを通して商品化にまで至った。クラウドファウンディングで資金を募り、売上もリアルタイムで把握しながら、動画配信サイト上に自ら制作した動画を公開して販促を実施している。

 ポイントとなったのは、どのようなシチュエーションで誰が使うか、「ユーザーを想定する」こと。生徒たちは「お父さんの鞄」と定め、コンセプトは「仕事をさせない休日鞄」になったという。「ある生徒のお父さんが、休日に家族で食事や遊びに行っても必ずノートパソコンを持ってきて仕事をしているらしく、ノートパソコンが入らない鞄を使用させることで、心から休日モードになってもらいたいという思いがありました」と、ユニークな視点を紹介してくれた。

 他にも森永乳業との「機能性素材を使った商品開発」、糀屋三郎右衛門との「味噌作り」、熊谷組との「東京女子学園新校舎建築に参加するプロジェクト」などを展開中。保護者も一度は見てみたいと思うような、魅力的なプログラムが揃っている。


 難波先生は「多くの子供たちにとって、自分の親と学校の先生以外の大人と関わり合う機会は少ない。『第3の大人』という考え方で、生徒たちが社会人との関わりを通じて、今やっている勉強が社会と関わっているということを知ってもらいたい」と多くの産学連携プログラムを展開している背景を語った。

 社会科で教鞭をとる棚橋毅先生は「これらのプログラムを通じて子供たち自身が気付きを得て、物事をどう見るのか自分自身に常に問いかけ、物事を多面的にとらえられるようにすることが大事だと考えています」と話す。

 現在、世にある探究学習と呼ばれているものの中には、子供たちの興味喚起はできるものの、実体験にまでは結び付かないものも数多く存在するという。しかし、東京女子学園のプログラムでは、既成のプログラムを購入するのではなく、教員たちが企業に直接依頼し手作りで組み上げ、まさに社会で行われていることの地続きが見えてくる内容だ。棚橋先生は「お話をさせていただいた企業の方々は快く受け入れてくださり、東京女子学園の生徒を育てましょうという思いで関わってくださっている。これからの未来や日本を背負っていく生徒を、みんなで育てようという熱がなせる業と感じています」と振り返った。

物怖じすることなく意見を発表する生徒

学びのモチベーションを変えていく



 こうした探究学習を継続することで、生徒にはどのような変化があるのだろうか。難波先生は「たとえ今、勉強しても仕方がない、やってもダメ、どうせ私なんかといった気持ちをもっていたとしても、自分たちで成し遂げる体験を重ねていくことで「取り組めば何とかなる」という気持ちに変えていってあげたい」ともっとも大切なことは自己効力感の醸成であることを示した。

 広報部部長で体育科を担当する鶴内小百合先生は「学校がこうしたさまざまな新しい取組みを導入したことで、生徒も多様な大人と接する機会が増えましたが、物怖じせずに受け答えができている姿が見受けられます。大人と触れることで『こんな世界があるんだ』と生徒自身も少しずつ気が付いているように感じます」と日常の学校生活から感じている生徒たちの変化を話してくれた。


 保護者の関心も高い進学には、どのような影響があるのだろうか。同学園では現在、一般受験を希望する生徒には校内予備校の活用を、学校推薦型選抜や総合型選抜には志望理由書の作成などのサポートを行っているという。その成果として、今年度は慶應大学、上智大学にも合格者を出している。また、一昨年度の入試結果では、GMARCH合格率(延べ数)は同じ偏差値レンジの高校では群を抜いた結果を出している。この他海外大学協定校の進学には推薦制度を活用するなど、多様な進路に向けたきめ細やかな指導が行われている。そこに、探究学習による主体的な学びが加わったことになる。

 難波先生は「一般受験で経済学部に行くとしても、お金の流れ等、もともと世の中の動きに興味がある人間と、単に世界史と英語の成績が良いから入学したという人間とでは、やはり学びのモチベーションが変わってくるはず」という。昨今、難関大学でも選抜方法は多様化しており、その採用拡大の速度も増している。東京女子学園が目指す探究学習を通じた科目横断的で文理融合した学びは、今後の進路を考えたうえでも生徒の強みや自信につながっていくことだろう。

尖った個性を温かく受け入れる校風



 校長の河添氏に「DSDA」や「探究ゼミ」を基盤とした、文理融合の探究学習を軸に取り組む学校改革への思いを聞いたところ、「男子は理系、女子は文系といった固定観念の根強い日本の教育の歪みを変えたいという思いがあります」という言葉が返ってきた。たとえば数学の面白さを伝えるために、文科省や大学で力を入れている「データサイエンス」を楽しく体験してもらおうと、「DSDA」や「探究ゼミ」を取り入れたのだという。生徒たちがワクワクしながら自発的に学ぶための仕組みづくりが、今、まさに行われているのだ。

 今回、東京女子学園の生徒全員がiPadを持ち、適宜、調べ学習に臨み、素材やツールを組み合わせて、自在に自分の考えを表現・発信する授業のようすを見学させてもらったが、こうした学びを提供する背景には、卒業したその先に広がる生涯を意識して能力を育成しようとする、東京女子学園としての思いを感じられた。

 卒業生も毎日のように遊びに来て、キャリアの成果や悩みを打ち明けてくれるという。ライフステージのさまざまな段階で来校する卒業生もまた、同学園の生徒たちのロールモデルとなっているのだという。

 学園を訪れてみて感じたのは、明るい生徒たちが多いということ。「尖ったところや個性が大事にされる校風」と話すとおり、この校風があれば、現在展開されている探究学習はきっと、生徒たちの学びに向き合う楽しさをさらに引き出してくれるであろう。

校長の河添健先生

 河添氏の改革のビジョンは、教育全般にも及ぶ。「日本は今、ジェンダーギャップ指数が世界156か国中120位です。この学園の卒業生にはぜひ、これを変えていってほしい。そのためには自分の考えをしっかりと主張できる必要がある。また将来どのような日本にしていきたいかといった意識づくりも必要でしょう。日本の教育には社会を自分たちが動かしていくものだという意識の醸成が必須と感じています」(河添氏)。

 最後に保護者に向けてのメッセージを聞いた。「今の中学受験では、いかにテストの点数を上げて有名私立中学にチャレンジするかが重視される側面がありますが、既存の勉強に疲れてしまった子供たちが本校に来れば、改めて勉強の価値を見直して6年間を楽しく学びながら自分のやっていくことを見つけられると考えています。私たちは、自分を大切にしながら人生を切り拓き、力強く生きる人を育てていきたいと考えています」(河添氏)。

 東京女子学園の新校舎は120周年の2023年に完成予定だ。現在、校内には校舎ができていく過程から得られる、探究的な学びを深めるようすが掲示され、都心ならではの利点を生かして社会とつながる学園の今後に、さらに期待が高まった。

 東京女子学園では現在、個別相談は希望があれば受け付けているという。なお今年度からは中学の入学試験で、適性検査型入試が導入されることになっており、都立中高一貫校を目指す受験生や保護者の注目も集まると予想される。スマホ持ち込み入試など複数の入試形態から、受験生自身が試験を選択できるのも心強い。一度、親子で相談に訪れてみてはいかがだろうか。

東京女子学園 中学校入試情報
東京女子学園 高等学校入試情報

《佐久間武》

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