【中学受験2022】超トップ校は横ばい、共学校の人気は二極化…SAPIX

 2022年の中学受験動向についてサピックス小学部教育情報センター本部長の広野雅明先生に伺った。

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 新型コロナウイルスに翻弄されながらも、高い目標を目指して受験勉強を続けてきた子供たちがいよいよ受験本番を迎える。コロナ禍中での入試となった昨年度(2021年度)の結果をふまえて、2022年の中学受験動向についてサピックス小学部教育情報センター本部長の広野雅明先生に伺った。

男女共学別にみる志望状況



--2022年の志望状況について、貴塾が志望校別講座を開講している学校を中心にお聞かせください。

 実際の受験校とは今後変わることもありますが、現段階の模試の志望状況などから分析した傾向を、受験日ごとにお伝えします。

 まず男子の志望状況について。2月1日の午前中に入学試験を実施する校で志願者が増えているのが武蔵と麻布。自由な校風の中で多様な考え方を育み、子供を成長させてくれるという教育への期待をもつご家庭に選ばれているようです。ここ最近減っていましたが、本年度は慶應普通部の人気も高いです。毎年、早慶の附属校を目指す層はかなりいますが、早稲田実業が男子の募集を減らしていることや、慶應のブランド力、大学附属校人気も増加の要因かと思います。

 一方で、開成、駒場東邦は横ばいかやや減。渋谷教育学園渋谷(以下、渋渋)は女子の人気が高く男子が入りやすいという印象でしたが、ここ最近は男子も難しくなっています。コロナ禍での受験勉強で多少弱気になっている面はあるのかもしれませんが、開成、聖光学院、筑波大附属駒場などの超トップ校が横ばいであることを考えると、上を目指して超難関校に挑戦するというよりは、それぞれのお子さんの性格を考えたうえで我が子に合う学校を選んでいるという傾向が見受けられます。

--女子の動きはいかがでしょうか。

 2月1日で志願者が増えているのが女子学院、吉祥女子、洗足学園、フェリスです。横ばいが桜蔭、減っているのが雙葉。2日では豊島岡女子が人気です。伝統校よりも、進学校として英語や理数系の力を6年間できちんと伸ばしていけるようなカリキュラム、個人として伸びやかに成長させてもらえるという期待がある学校が人気を集めている印象です。その学校の教育内容をよく知ったうえで入学を希望しているため、2月1日に第一志望として受験し、その後2回、3回と同じ学校を複数回チャレンジするというケースが目立ちます。

--共学校についてはいかがでしょうか。

 共学校の人気については二極化している部分があります。前年減り気味だった反動で増加しているのが渋渋です。広尾学園や早稲田実業は、難しくなり過ぎたと敬遠され減少傾向に転じています。その反面、 三田国際、広尾学園小石川などに人気が集中することになり、今回も2月1日の午前中からかなり厳しい戦いになっていくと思われます。

--他に注目している学校、コースはありますか。

 模試でみていても、前年度に比べて伸びが大きいのが昨年度共学化した広尾学園小石川です。まだ1年生しかいないというマイナス要素よりも、広尾学園と同じ教育方針を掲げ、優秀な帰国生が多く集まっているといった環境に期待している保護者が多いのでしょう。

 1月入試で志願者が大きく増えているのが、埼玉ですと進学実績が年々伸び大学受験への期待値が高まる大宮開成、青山学院の系属校となった浦和ルーテル。年々難しくなっている栄東や開智に続く、埼玉栄も人気が高まっています。千葉では昨年共学化した光英VERITASが注目されています。これらの学校は、俗にいう「お試し受験」の対象でもありますが、近隣在住の子にしてみたら魅力的な選択肢になるでしょう。わざわざ東京に出ていくよりも地元の良い学校に進学したいと考えるのは当然の流れだと思います。

サピックス小学部教育情報センター本部長 広野雅明先生

1月受験が減少し、2月午後入試が増加



--コロナ禍での入試となった昨年度、志願傾向に特別な変化はあったのでしょうか。

 まず、例年に比べて併願校数、エリアに変化が見られました。その多くは感染リスクを避けるために、都内在住のご家庭が千葉、埼玉に出向いての受験を取りやめる、あるいは回数を減らすというケース。一方で、2月の午後入試の受験者は増えており、2月に入ってから短期集中で臨むという傾向がみられました。遠方の1月校より近場の午後入試を受験する、遠距離の通学に慎重になり、お住まいに近い学校を選ぶ傾向は今年も続くと思われます。

 今年の志願傾向については、第6波が来るかどうか、1月ごろの感染状況が大きく影響してくると思います。さらにワクチン接種の基準年齢が満12歳ということもあり、誕生日を挟んでワクチンを接種した子とそうでない子によっても感染リスクへの考え方にも差が出てくるでしょうね。

--午後入試がより一般化していくとみて良いのでしょうか。

 もともと午後入試を実施しているのは女子校や共学校が多く、女子の午後受験率が多い状況が続いていましたが、一昨年から男子校の巣鴨や世田谷学園などが午後入試を行なうようになって以来、徐々に男子の午後入試受験率も高まっています。特に短時間で終わり負担の少ない算数一科目入試、かつ試験当日に合否が出る学校も多いので、1日のうちに合格を勝ち取っておくことで2日以降の入試に自信をもって臨めるというメリットは大きいでしょう。午後入試をいかにうまく使うかということが受験の合否のポイントのひとつでもあります。

--午後入試の人気校は。

 昨年から午後入試をはじめた神奈川大学附属、獨協医大への推薦がある獨協や、国学院久我山、東京農大の午後入試回などは根強い人気です。今年は、理数教育に力を入れている山脇学園、国際学級のある東京女学館などのほか、湘南白百合が算数1科から国算2科に科目を増やすなど、より受験層が広がるような変更もあります。午後入試を実施している学校で、6年間かけて子供をしっかり伸ばしてくれるような良い学校、自信をもっておすすめできる学校はたくさんありますので、うまく学校選びに組み込んでほしいと考えています。

併願校決定のポイントは



--男子、女子ともに平均すると延べ8校ほど出願をしているとのこと。併願校を決める際のポイントについて、あらためて教えてください。

 保護者の中ではまず、模試結果がどうであろうと「ここに行かせたい」という核になる学校を決めるのが出発点。偏差値がすべてではないとはいえ、偏差値によって合否の可能性が変わるのも事実ですので、我が子の標準的な学力を冷静に把握してください。たとえば平均偏差値が55、調子のいいときは60、悪いときで50前後とするならば、第一志望校は一番高い偏差値のところを目指して良いのです。そのぶん第二志望は平均偏差値で臨めるような実力相応校を、抑えとしては平均偏差値からマイナス5ポイントくらいでも合格ラインに達するような学校を織り交ぜてください。同時に1月校に関しては、完全にお試しなのか、東京神奈川が不合格だったときに進学させるつもりがあるのか、スタンスによって併願校は変ってきます。

 アドバイスとしては、試験本番はかなり緊張する子もいるので、1月受験はしておいたほうが良いと思います。この学校だったら進学したいという学校で合格をひとつでも手にしていれば、2月以降の受験に安心して臨めるからです。また、Web出願が浸透したおかげで、前日まで出願手続きができるようになりました。1日、2日の合否によって4日、5日に受験する学校を検討することも想定して、親の中でちゃんと学校の順位を決めておくことが大事です。

 とはいえ一番行きたい学校が残念な結果となったときにがっかりさせてしまわないよう、親御さんは子供の前では受ける学校すべてに対して第一志望、というふうにうまく接してほしいところです。

英語が必須受験科目の学校も



--注目のトピックはありますか。

 公立小で英語が必修化されたことを受けて、入試への英語科目の導入について変化がみられています。ごく基本的な聞き取り問題ですが、江戸川学園取手が通常の国算社理に英語を加えて5教科入試を実施する他、千葉市立稲毛では適性検査型入試の中に外国語が入ってきます。また、都立中、国立附属中の報告書の中には外国語の評価も記載するように変化しています。これまでの帰国生入試や英語選択入試とは意味合いが異なり、受験者全員に実施されるというのがポイントです。とはいえ、英語の習熟については各家庭の取組みによるところも多く、他教科と同じ扱いの受験科目として導入されるのは難しいのが今のところかと思います。まずは4教科の基礎学力を育むことです。

 大きく変わる学校としては、2022年度、赤羽にある星美学園がサレジアン国際学園へ、翌年には目黒星美学園がサレジアン国際学園世田谷に校名変更、共学化します。また2022年度は、武蔵野大学の附属校として開校する千代田国際、千葉市立稲毛高校が附属中と一体化し国際中等教育学校として開校するなど、学校改革が着々と進んでいます。3校に共通するのが「国際」というキーワード。毎年受験者を増やし難化している広尾学園、三田国際、開智日本橋、かえつ有明なども同様、グローバル教育に特化し、アクティブラーニングやICT活用を前提とした新たな教育への取組みが注目されています

--国際クラスというと、小学校時点での英語力が気になるところです。

 帰国生入試で入ってくる子に求められる英語力は英検1級、準1級程度ですが、それ以外は英語はゼロベースの子がほとんどです。入学段階では別々に指導をしますが、帰国生がうまく生徒を引っ張っていってくれるなど良い意味で刺激し合い、英語力を一気に伸ばしていけるのというのも魅力でしょう。

--新たな教育機関として全寮制であるボーディングスクールが注目を集めていますが、生徒、保護者の関心はいかがでしょうか。

 サピックスの通塾生のなかにはインターナショナルスクールに通っている子も一定数おり、開成のようなオーソドックスな伝統校に行くか、大学まで繋がっている慶應に行くか、広尾学園のようにオールイングリッシュで海外大学も視野に入れるような学校に行くかといった選択肢で悩んでいる方もおられます。毎年、御三家に入学してから交換留学などで刺激を受けて海外大を目指す子もいることを考えると、今後は海外の教育をベースにして学ぶことができるボーディングスクールへの進学が、選択肢として広まっていくことも考えられるでしょう。



Web手続きの見落とし・締切りに注意



--コロナ禍での受験ということで、今年度も何らかの影響があると思われます。注意点はありますか。

 昨年度に続き、ほとんどの学校で出願や合格発表などの手続きをオンラインで行うでしょう。ネット出願は前日まで受け付けているところも多く、ギリギリまで検討できるのがメリットですが、迷っているあいだに出願時間が終了してしまったというケースもありました。

 入学手続きについても同じで、「〇時までに入学金を納入してください」という期限を見落とし、入学の権利を失ってしまったケースにまま直面します。何校も出願しているので混乱してしまったり、書面ではなくWeb画面なのでメモを取る習慣がなかったり。こういった失敗だけは悔やんでも悔やみきれませんので、くれぐれも保護者の方のダブルチェックをお願いします。

求められるのは4教科の基礎学力



--2022年の出題傾向と、これからの時期の学習のポイントについて教えてください。

 2021年の目立った設問としてコロナ関連の出題もありました。ですが、学校が求めているのはあくまで算国理社4教科の基礎学力と、その教科の学びをベースにして考える力、書く力です。

 よく誤解されるのが、いわゆる志望校対策です。志望校に特化した勉強をしていると捉えられがちですが、あくまで基礎学力がきちんと備わっていることが大前提で、その教科に対する応用的な学びができる子が、「最後の仕上げ」として志望校の傾向に合わせていくイメージです。過去問をやり込んだとしても、一度出た問題は二度と出ません。過去問を完全攻略するというよりも、出題レベルや記述や問題の分量などを知り、出題形式に慣れることが重要です。過去問対策はしたほうが良いですが、まずは基本的な力を固めること、これに尽きます。

 時事問題はもちろん、地震、コロナ、選挙などが出題テーマになる背景には、社会に目を向けることで成長してほしいという学校側の意図でもあります。試験では、小学生として最低限知っていてほしいことについて興味や関心をもっているかどうかが求められます。新聞を読んだり、ニュースに触れて世の中の気になる出来事について家族と話をしたり、日ごろからコミュニケーションをとることを大切にしてください。

 また、インプットももちろん大事ですがアウトプットはもっと大事です。どれだけ教わったとしても、自分のものにできなければ身に付いたとは言えません。過去問や塾のプリントをやるときも、必ず自分の力で解くこと。現時点の力よりもはるかに難しい問題を、解説を聞いてなんとなく解いたとしても、同じようなタイプの問題が再び出たときにできるとは限りません。現時点で解ける問題、解けるはずだったけれど間違えた問題、ちょっとしたヒントがあれば解ける問題といった、あと一歩力を伸ばせば点数をとれる問題をものにしていくことが成果に繋がっていきます。

 この時期になるとできることは限られています。歯が立たないと思ったら捨て問にすることも必要。だいたいどこの学校も受験生全体の得点率の平均が5割、合格者が6割ほどに設定しています。満点を取らなければ合格ラインに届かないということではありません。そう考えると、苦手な教科ばかりに時間を割くよりも4教科どの教科もバランスよく勉強して苦手教科をカバーできるとベストですね。

評価すべきは合否ではなく「どれだけ頑張れたか」



--これから受験日までラストスパートをかける小学6年生、保護者へのアドバイスをいただきたく思います。

 受験の合否というものは1点2点の差で合否が決まります。合格したか残念だったか、結果のうえでは大きな差ですが、実力のうえで差がついているかというとそうではありません。当日の体調や、自分の実力が発揮しやすい問題、そうでない問題もあると思います。試験でできなくても後でやってみたら解けるとしたら、それは実力がついているということ。あくまでひとつの結果として、たまたまその試験時に一定のラインより上に来たか下に来たかというだけのことです。

 第一志望に受かることが中学受験の成功ではありません。受かった学校でどんな6年間を過ごすかどうか。第五志望の学校に進学した子で、6年後東大に合格したという話も毎年聞きます。ギリギリで合格してピラミッドの下位にいるよりも、上位にいる方が先生に目をかけてもらえてむしろ良かったと話してくれた子もいます。大事なのは、そこに至るまでにいかに努力したかということ。結果よりも、どれだけ自分が成長したかということを大事にしてほしいと思います。

--ありがとうございました。

 いよいよ出願校を絞り込む時期となったが、「昨年に続き今年も、学校選びにあたって十分な情報を入手できない状況に苦心されているご家庭は多い」と広野先生。学校に足を運べないぶんオンライン説明会で情報を集めることになるが、「学校紹介動画やオンライン文化祭などは、生徒が主体となって制作されているので、その学校のICTへの取り組みが見られるのがメリット」とも話してくれた。

 Web化で一見手続きが楽になったようにも思える。しかし、親のミスで入学の権利を失うことだけはないように、入念過ぎるくらい入試要項を確認することをおすすめする。

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《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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