やっと目覚めた日本の英語教育…人気英語塾長が「小学校英語教科化」を評価する理由

 2020年に小学校で英語が教科化され、2年以上が経った。「世界最高の子ども英語」の著者であり、イェール大学助教授を経て、英語塾「J PREP」代表取締役を務める斉藤淳氏に、英語習得におけるアドバイスを聞いた。

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やっと目覚めた日本の英語教育…人気英語塾長が「小学校英語教科化」を評価する理由
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 2020年に小学校で英語が教科化され、2年以上が経った。この間に小学校における英語教育は全国的に定着したものの、世間では「英語を教科化した成果が見えづらい」という声も出ている。果たして本当にそうなのだろうか。小学生が真の英語力を身に付けていくために、必要なアプローチや、保護者にできることとは。

 英語教育本のベストセラーである「世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法」や「10歳から身につくか、考え、表現する力」「世界最高の子ども英語」の著者であり、イェール大学助教授を経て、現在は英語塾「J PREP」代表取締役を務める斉藤淳氏に、日本の悩める小学生家庭に向けて、英語習得におけるアドバイスを聞いた。

発音の良さ、積極的な発言姿勢…英語教科化の成果?

--2020年4月より日本の小学校で英語が教科化されましたが、世間では「成果が出ていない」という反応もあります。昨今の日本の小学生の英語力はいかがでしょうか。

 教科化の成果は着実に出ていると思います。J PREPに来ている中学生をみると、入学時点での英語力も確実にアップしています。ただ、私が「英語力」と定義しているのは、従来日本の英語教育で重視されてきた文法や読解力ではありません。

 応用言語学の知見として、各年齢における学習特性を考えると、小学生に該当する年齢では、音声中心の勉強をすることが望ましいとされています。それを踏まえると、小学生では発音やフォニックス(発音と文字の関係性・規則性を学ぶ学習法)を中心に教えるのが良いわけですが、日本のほとんどの学校ではそうした学習成果を測定していません。中学校や高校でも、中間・期末テストで生徒と面談してスピーキング力を測定する学校はまずありません。

 J PREPでは通い始める段階で「英語力」、すなわち発音やスピーキング力を測るために、アルファベットの音読をさせるのですが、私が30年ほど前にとある英語専門塾で英語を教えていた時よりも、格段に発音が良くなっているのを感じます。当時は中高一貫制の進学校の子たちに「アルファベットを読んでみて」というと、だいたい「エー、ビー、シー、デー、イー」というカタカナ英語だったのが、今はアルファベットをカタカナで発音する生徒は全体の2割ほどしかいません。小学生のころにフォニックスを意識して英語に触れている生徒なら、trackとtruckの音の違いも把握できます。この音の違いを把握しておくというのが、後々の英語学習をスムーズにこなすうえで非常に大切なんです。

入塾待ち多数の人気英語塾「J PREP」

 そして、何よりも違うのが、生徒が積極的に質問や発言をするようになっている点ですね。英語でも日本語でも、挙手して発言することにためらいのない生徒が増えている。これは旧世代と一線を画しており、肯定的に評価できる傾向だと思います。そうしたことを踏まえると、従来の指標だけで「英語教科化の成果が見えない」と結論づけずに、もう少し広い視野をもって慎重にデータを集めるのが良いと思いますね。

年齢ごとの学習特性を最大限に生かす

--「小学校の英語教育は音声に焦点をあてる」。これは世界の小学校現場では一般的なのでしょうか。

 中国・韓国では、以前から小学校で英語が必修化されていますが、文法の細かいところは教えず、語彙の音声の習得を優先させています。これは応用言語学的にも理にかなっています。日本の小学校でも英語を教科化する時点で、そうした近隣諸国の小学校での英語教育の研究を行い、方針を組み立てました。おおまかに言うと、あいさつ表現を学ぶ、発音を学ぶ、文法的に緻密ではないかもしれないもののボキャブラリーを増やすという内容です。そのようにして母音・子音の基礎知識や、大雑把に音読できるスキル、1,000語程度のボキャブラリーを獲得したうえで中学校の英語学習に入り、本格的に文法を学んでいくという流れになっています。

 小学校での教科化を受けて、中学校の英語教育の内容も増強されています。公立中学校の検定教科書も、学ぶボキャブラリーの量が3割程度増えています。私は福島県南相馬市の外国語教育推進アドバイザーとして市内の学校に何度かお邪魔したり、私の地元の山形県酒田市の中学校・高校に授業を見学したりと学校現場を見る機会がありましたが、以前に比べて教室で生徒が英語を声に出す時間が増えていると感じました。教科書の内容だけではなく、授業そのものもアップデートされており、あと数年も経てば日本の子供たちの英語力は目に見えて向上してくるのではないかと思います。

小学生のうちに英語を学ぶべき、2つの大きな理由

--年齢における学習特性のお話をもう少し詳しく教えてください。英語を効率的に学ぶには、具体的にどの学齢でどんな内容を学習すれば良いのでしょうか。

 先ほどもお話したように、まず小さいうちに音声の基礎を習得しておいたほうが良いですね。小学校低学年で英語の発音の基礎を身に付けること。そのためには、絵本の音読を通じて英語に触れることが有効です。そして多読で多くの言葉に出会うことが理想です。幼少期、多読を通じて習得する英語は、文法は滅茶苦茶でも構いません。文法は、小学校高学年以降にシステマティックに詰め込んでいけば良いのです。

--なるほど。兎にも角にも、幼少期から小学生は英語の「音」に注力すべきなのですね。

 日本語母語話者が英語を学ぶ場合、何より難しいのは英語の音声です。5・7・5の俳句や5・7・5・7・7の短歌に代表されるように、日本語は拍で言葉を把握する言語です。この拍を言語学で「モーラ(mora)」と言うのですが、このような背景から日本人は英単語もモーラで認識しようとしてしまいます。しかしモーラの考え方と、英語の核を成す「シラブル(syllable、音節)」の考え方はまったく違う。たとえば「easy」という単語は、日本語だと「イイジイ」で4拍になりますが、英語の音節は「eas・y」の2音節なんです。

 他にも英語と日本語の音声上の違いはあります。母音と子音の数もそのひとつです。日本語は、母音が5種類、子音が16種類、そしてすべての文字に母音が含まれています。母音が5種類という言語は珍しくないものの、子音が16種類というのは世界の言語の中ではかなり少ないほうです。対する英語は、母音が20種類、子音が25種類。26文字のアルファベット単体、もしくはその組み合わせで母音も子音も表現します。英語は、日本語のように1文字につき1つの音が割り当てられているような単純なものではないのです。

開放感と温かみあふれる「J PREP 四谷校」のようす

 そういった音声上の特徴を理解しないまま、カタカナ発音で英語を勉強しても上手くならないのは当然です。ここまでお伝えすれば、小学生のうちに英語の音声に関して基礎的なトレーニングを受けるのは、中学校以降の英語学習に大きな影響をもたらすと納得しやすいでしょう。

 小学校で英語の音声を学ぶ、もうひとつの大きな意義は、恥じらいなく、声を出しながら英語を学ぶ姿勢を養えるという点です。中学校から英語の学習を始めると、思春期に入りかけた子供たちが恥ずかしがって音読をしないことが往々にしてあります。そういったことが起こりにくい小学生のうちに、英語の練習は声を出すのが当然という学習態度を培うのは非常に望ましい。英語学習は音声必須ですから。

 特に進学校に通う子供たちは「自分は勉強しなくてもできる」という自慢競争をしてしまいがちです。泥臭く、声を出して下手くそな英語の練習をするのを恥ずかしがってやらない。そうしたカルチャーに染まる前に英語は声を出して練習するのが当然という習慣を身に付けることがお勧めです。小学校の教室を訪問してみても明らかで、1~2年生のほうが6年生よりも発音が上手なんですよ。音を聞き取って再現できる能力は小さい子のほうが高く、さらに恥じらいもないので、素直に成果にあらわれるんです。

ローマ字が混乱の原因?日本の英語教育のNGポイント

--ダンスや歌を通じて、英語の音に触れる活動をしていても、まだ一歩踏み込めていない感がありますね。日本の英語教育は、どんな点が欠けていると思いますか。

 日本の英語教育の改善点はたくさんあります。前提として、英語を教える先生方へのサポートが不足しています。教科担任制でない小学校の先生方のスキルアップ研修の機会が少なすぎますし、それ以前に先生方のやるべきことが多すぎて、英語力向上に時間を割くこともままなりません。

 そうした根本的な問題はともかく、日本の学校教育においては、まずローマ字の扱いを検討すべきです。日本の教育現場におけるローマ字は、アルファベットを用いて日本語を表記することを指します。このためローマ字が英語学習の基礎だと勘違いしている生徒が多いです。ローマ字と英語を関連づけてしまうと、スペルや発音で大きな混乱が生じます。フォニックスを優先させて、ローマ字はもう少し遅くから、もしくはきちんと切り分けて教える必要があるでしょう。

 それよりも、母国語である日本語の正確な発音を教えることを意識すると良いのではと思います。これまでの教育現場は、方言や訛り、吃音などの問題もあって、発音を教えることにためらいがあったと思うのですが、日本語の音声上の特徴を教えず英語のフォニックスばかりやると、今度は日本語の発音が英語化してしまいます。日本語のアイデンティティを保ちつつ英語を学ぶことを目指すのであれば、国語教育で標準的な日本語の発音の仕方を教えることをお勧めします。

 加えて、国際化が進んだ昨今はJSL(「Japanese as a Second Language」、第二言語としての日本語)の問題もあります。日本は移民が増えている状況にあります。その子供たちの日本語教育ということを考えても、日本語の発音を国語の授業できちんと教えるほうが良いでしょう。これは英語教育の欠点を補うよりも大切なことだと感じます。

本当に必要なのはテストで測られない英語力

--先ほど中国・韓国の例が出ましたが、海外と日本の英語教育にはどのような違いがありますか。

 日本語母語話者が英語を学ぶ場合と、日本語以外の言語を母語にして英語を学ぶ場合で、大きく異なります。日本語を母語にする場合は、いわばハンディキャップのようなものがある。発音がそもそも難しいことに加えて、文型も違います。たとえば日本語は主語をあまり明示せず動詞中心で組み立てる言語なので、SVを表現する英語は違和感がある。それに対して、フランス語やスペイン語は英語と文型が似ているので、それらを母語にする人が英語を学ぶのは比較的簡単です。

 こういった背景もあり、他の諸外国で成果が出ている学習方法だからといって、日本語を母語にする人が同じ方法で学んでも成果が出ません。海外の英語教育の知見がそのまま日本の教育現場には当てはまるわけではなく、かなり工夫したカリキュラムが必要なんです。

英語塾「J PREP」の独自カリキュラム

 もう1点、海外との違いは、日本は上級学校への入学選抜においてペーパーテストのウエイトがきわめて大きいということ。たとえばアメリカの大学入試がペーパーテストだけでなく、高校までの成績や推薦状、授業中の発言や他の生徒の学習への貢献なども含めて総合的に評価されるのに対して、日本の大学入試は東京大学でも英語はリスニング、リーディング、ライティングをペーパーで測る3技能型です。生徒の学習態度というのは、テストをどうデザインするかで大きく変わります。

 入試で測られる能力ではないということも影響して、授業中にコミュニケーションをとったり、テキストの内容を自分なりに解釈して意見交換したりといったスキルは、日本では英語教育でも国語教育でもなかなか養われません。しかし、日本でも大学に入学してしまえば学会報告や研究発表などがありますし、就職後は企業でもプレゼンテーション力や交渉力が当然ながら求められます。世の中的には入試の形態を変えることが望ましいですが、それにはまだ当分時間がかかりそうです。先んじてこの課題に気づき、お子さまの次世代に必要なスキルを伸ばすチャンスを逃さないということは、今は各ご家庭に委ねられている状況です。

--英語以前に、大切とされているスキルや教育現場で育もうとする能力に違いがあるのですね。とりわけアメリカでは、表現力、ディスカッション力など、自分自身についてアウトプットするスキルを重視されていると。

 はい。日本の学生はきれいな発音こそできても、いざ自己紹介する場面になると発言できない子が多いんです。その点を克服し、世界で活躍できるよう、J PREPでは英語で自分を表現するトレーニングを重視し、種まきをしています。最近では、さまざまなテーマで動画教材を制作し、日本の文化や趣味についての表現の仕方を学べる環境をつくっています。世界文化遺産でもある白川郷の茅葺き屋根を英語でどう表現するのか、日本の学校での日常生活をどう紹介するのかなど。授業内容を自宅でも繰り返してみられる簡単な操作できるスマホアプリも導入しました。自らの興味関心のあるテーマについてのボキャブラリーを増やし、のびやかに自己表現することを目指しています。

「貪欲に学び続ける」ことはかっこいい

--英語教育の常識が、我々が中高生だったころからは大きく様変わりしているのがわかりました。お子さまを通して「新たな英語教育」に向き合っている日本の小学生保護者にアドバイスをいただけますか。

 テストの点数に結びついていないからといって、英語力が伸びていないと思うのは時期尚早です。小学校での教科化を経て、日本の小学生の英語力は着実に伸びています。「宿題やった?」「音読しなさい」と、従来の価値観を押し付けて、子供を叱るのはNGです。そうして親子関係が崩れて、子供が英語嫌いになってしまった例をたくさん見てきました。

 家庭でできることとすれば、親も一緒に楽しんで英語を学ぶことです。これはお子さまの英語習得の何よりの近道で、特に小さい子ほど効果が高い。お子さまがフォニックスをやっている横で、親はTOEICの問題を解いていても良いです。そして、それを楽しそうにやるのがコツです。

 「楽しんで英語を学ぶ」とは言え、英語力の習得には時間がかかります。英語習得は、まさに「No pain, no gain.(苦痛なくして得るものなし)」。いくら効率的に学んでも、成果が出てくるにはある程度の時間が必要です。そのためにも知的好奇心を失うことなく、そして学ぶモチベーションを枯らすことなく、「勉強が辛すぎる」と思わずに学び続けることが大切です。

--学び続けること。大人の心に響く言葉ですね。

 ネイティブスピーカーの多くは、日常的に良く英語を勉強しています。アメリカの進学校の読書課題では、1週間に何百ページと読まされます。ネイティブスピーカーでさえ日々貪欲に学び、自らの英語力をアップデートし続けているんです。そう思えば、幼少期に英語教室に通った程度で世界に太刀打ちできないことは明白です。

 日本の進学校に通っている子たちには「試験に受かればそれで良い」「良い点を取るために勉強する」と、学びを楽しむことなく、受け身の勉強しかしない子が多いように感じます。それに、貪欲に学ぶことをかっこ悪いとさえ、誤認している子が多い。試験で良い点数を取るためだけの勉強は、一見効率的に思えますが、実はとても疲れます。そして試験での点数を重視してきた日本には、残念ながら、社会に出て、学びを止めてしまった大人が大量発生しているんです。

 まずは保護者である大人が従来の「勉強」の概念を払拭し、楽しく学び続けること。英語はそのきっかけになり得るでしょう。お子さまと一緒に、貪欲に学びながら、最新の英語に触れてみてはいかがでしょうか。

--ありがとうございました。

親も「最新の英語」を学び続ける姿勢を

 インタビュー中、表情豊かに軽やかに話す斉藤氏の姿に、世界標準のコミュニケーション力を垣間見た。斉藤氏が肯定的に評価する小学校の英語教科化の取組みは、そういった発言姿勢や表現力を養うための礎になっていると言えよう。

 今回の取材を通して教えてもらった、子供たちの英語力をもう一歩飛躍させるためのコツは、斉藤氏が展開するJ PREP斉藤塾で体験することができる。入塾に際してキャンセル待ちが出るほどの人気塾が、2022年10月から全6回のオンラインセミナーを開催する。参加費は無料。対象は小・中学生のお子さまとその保護者。学びに向き合う姿勢、そして最新の「生きた英語力」を身に付けるヒントを得るために、参加してみてはいかがだろうか。

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《羽田美里》

羽田美里

執筆歴約20年。様々な媒体で旅行や住宅、金融など幅広く執筆してきましたが、現在は農業をメインに、時々教育について書いています。農も教育も国の基であり、携わる人々に心からの敬意と感謝を抱きつつ、人々の思いが伝わる記事を届けたいと思っています。趣味は保・小・中・高と15年目のPTAと、哲学対話。

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