海外大学に進学した人たちからわかった、子供の英語力を伸ばすために大切なこと

 17万部を超える『子育てベスト100』の著者加藤紀子氏が、『海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか』を上梓。ごく一般的な日本の高校からハーバード、UCバークレー、イェールなどに進学した人たちからわかった、子供の英語力を伸ばすために大切なこととは。

教育・受験 小学生
加藤紀子さん
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 17万部を超える育児書籍『子育てベスト100』の著者である加藤紀子さんが、このたび『海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか』(ポプラ新書)を上梓した。

 インターナショナルスクールや帰国子女、海外大進学実績のある進学校ではない、ごく一般的な日本の高校から海外の大学に進学した人たちの英語学習の秘訣を体系的に紹介。さらに英語力を飛躍させるコツを脳科学、教育学、第二言語学などの専門家に取材し、学術的な見地からまとめた1冊だ。

 「日本人の英語力はもっと伸ばせる」と語る加藤さんに、リセマム読者に向けて子供の英語力を飛躍的に高めるために大切なことは何か、話を聞いた。

ネイティブと同じ土俵に立たなくても英語力は身近なツールで伸ばせる

--『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)、『ちょっと気になる子育ての困りごと解決ブック!』(大和書房)に続き、今回は「英語」がテーマですね。なぜ「英語」の本を書こうと思ったのですか。

 これまで取材でグローバルに活躍する日本人と出会うたびに、英語を身に付ければ進路や仕事の選択肢が増え、自分に合った環境を選べること、そして触れられる世界も活躍の幅もグッと広がることを実感し、これから進路を選ぶ子供たちだけでなく、その親世代や教育者をはじめ、多くの大人にもそのことを知ってほしいと強く思うようになりました。

 わかりやすい例だと、スポーツの世界では海外のトップチームで活躍する日本人選手が増えていますよね。関係者は口をそろえて、彼らの多くがハードな練習の傍らでストイックに語学力も磨いていると言います。サッカーの吉田麻也選手は朝日新聞のインタビューで、「僕は英語を勉強したから、サッカーで活躍できたと思っている」「スポーツするなら、英語もやろう」と子供たちに呼びかけています。

 確かに機械翻訳の技術は進化していますが、人と人をつなぐ感情のやりとりや抽象的な思考力まで頼ることはできません。一方で日本は、少子化による労働力不足、海外需要の取り込みやインバウンドの再開などボーダレス化が止められない中、英語の重要性はむしろ高まっていくのではないかと。

 吉田選手は公立育ちで、お金をかけずに勉強したと言っていますが、私がこの本で取材した公立高校や非進学校から海外の大学に進学した人たちも、大学の授業についていくのに必要な高いレベルの英語力を日本に居ながら身に付け、現地の学生と肩を並べて学んでいます。

 そこで彼らの勉強法を、第二言語習得など専門家の知見をお借りして学術的にも正しいことを確かめたうえで体系化すれば、グローバルなチャンスを前に「英語は無理」と安易に可能性をシャットダウンせず、一歩踏み出してもらえるのではないかと思ったのです。

--多くの日本人は英語に対する苦手意識が強いですが、この本で加藤さんは「ネイティブと同じ土俵に立たなくて良い」「英語はスキルとの掛け合わせである」というメッセージを強調されていますね。そのうえで、「単語力」や「独り言」など、誰でもすぐ実践できる具体的な勉強法が紹介されています。

 取材した人たちは、学校の教科書、動画サイト、英会話アプリといった、誰でも手に入る身近なツールを無理なく使いこなしていました。それに今は、ネット上にさまざまな情報が発信されているので、その中から自分にフィットする勉強法を見つけることや、どんな国にどういう進路の選択肢があるかを調べることで、英語の環境に自分を「浸す」こともできます。詳しくは本の中に12の秘訣としてまとめていますが、彼らの勉強法にはいくつも共通点があり、それは学術的な観点からも理にかなうものだったのです。

子供の英語教育で陥りがちな落とし穴

--子供たちを取り巻く環境でいえば、2020年から小学校5・6年生で英語が正式な教科になったこともあって、保護者の間でも英語学習への関心が急速に高まっています。

 習い事では英会話が大人気で、英検の2021年度実施分(2021年4月1日~2022年3月31日)の小学校以下のデータを見ても、志願者がぐっと増えていることがわかります。今年2月に私もお手伝いさせて頂いた、未就学児とその保護者を対象にした「リセマム国際教育フェスタ」も大盛況で、関心の高まりを痛感しました。また、中学入試でも英語を出題したり、学校説明会で海外大学への進学実績をアピールしたりする学校が増えています。

 ただ、そういった背景から保護者の関心が高まる一方で、「英語が好きではない」という小学生が増加傾向にあるというデータもあります。文部科学省の全国学力・学習状況調査によると、「英語の学習(勉強)は好きですか?」という質問に対し、「そう思わない」と「どちらかといえば、そう思わない」と答えた小学校6年生が、2013年度の23.7%から21年度は31.5%と約8ポイントも増えているのは気がかりなところです。

--英語の勉強が好きではなくなってしまう理由は何なのでしょうか。

 幼少期の英語教育の専門家によると、子供は本来英語が大好きなのだそうです。歌をうたったり、ゲームをやったりしながら、子供にとって英語は勉強するというより純粋に遊び感覚で楽しむものなのだ、と。ところが「できたかできていないか」「正しいか否か」に焦点をあてすぎた指導になってしまったり、親が成績という結果ばかりに一喜一憂したりすると、子供はあっという間にやる気を無くしてしまうというのです。

 先ほど触れた英検も、子供自身がどんどんチャレンジしたい場合は良いのですが、身近なお友達が合格したら「わが子も~級くらい取らせないと…」といった親の焦りから無理にやらせようとすると、英語嫌いを助長してしまうことになりかねず注意が必要です。

--とは言え、「英語は幼児期に始めないと手遅れになる」といったフレーズをしばしば目にすることがあり、親としては不安を感じてしまいます。どうしても親はこうした情報に煽られがちですが、やはり英語は早く始めないといけないものなのでしょうか。

 もちろん、英語を早くから始めるメリットは大いにあります。特に幼いほど「聞く力」に長けており、乳幼児は世界の言語に存在するすべての音を区別することができると言われています。幼いころの外国語習得能力の高さには目を見張るものがありますが、だからといってある一定の時期を過ぎると言語の習得が難しくなるのかという点についてはまだ学術的な合意はありません。ですから今のところ、「大きくなってからでは遅い」「手遅れになる」とは言い切れません

 本の中で取材した人たちも指摘していましたが、幼少期から英語を学ぶうえで一番気を付けたいのは、子供自身が望んでいないにも関わらず、親が成果ばかりを求め過ぎないこと。英語嫌いにさせないことです。英語を通じてワクワクする楽しい世界に触れさせてあげれば、子供はいずれ自走するようになります。

 英語学習は長い道のりです。大人になれば、TPOをわきまえた大人が使う英語を身に付ける必要があります。ですからもっとも大切なのは、自分から望んで学び続けられる力、学びに向かう主体性を身に付けることです。

「英語は関係ない」と思っている人にも読んでほしい

--英語力を飛躍的に伸ばすコツとして、記憶に残る「英語は楽しい」という経験が大事と書かれていますね。楽しい経験が英語を学び続けられるエンジンになるのだ、と。では親が「自分は英語が苦手」というケースでも、子供が楽しく英語力を伸ばせるようにしてあげられることはありますか。

 学校で英語を習い始めた小学生であれば、英語の教科書を一緒に読んでみることです。もしそれもハードルが高いと感じたら、思い切って子供に「教えて」とお願いしてみると、かえって子供は得意な気分になって意欲的に取り組もうとするかもしれません。

 また、英語の絵本の読み聞かせも効果的です。親が読めない、発音に自信がないといった場合でも、オーディオブックを使えば親子で一緒に聞く楽しみ方ができます。日本語で慣れ親しんだ絵本を英語で聞いてみると、ストーリーがわかりやすいのでおすすめです。

 それでも子供が英語にあまり興味を示さない場合には無理をせず、野球やサッカー、ディズニーのキャラクターやポケモンなど、その子が好きなことを入り口にしてみると良いでしょう。あるいは親が好きな音楽やドラマなど、親自身が楽しめることを英語で触れていくのもひとつです。親が好きではないことを渋々やっているより、たとえばBTSの曲を一緒に歌って踊るとか、サッカーや野球のゲーム中継を英語で観るとか、心の底から好きなことを楽しんでいる姿を見れば、子供も自然と目を向けるようになるはずです。

--この本はどんな人に届けたいですか。

 純粋に英語力をもっと上げたいけれどどうして良いかわからない、海外に留学・進学したいけれど何から手をつけて良いかわからないといった人はもちろん、自分は英語には関係ない、英語どころではないと思っている人。特に今、やりたいことが見つからないとか、今の環境にはしっくりこないと感じている人や、お子さんにそういった悩みをもっている親御さんにも読んでもらえたらと思います。英語を身に付けて一歩広い世界に出れば、これまで気づかなかった才能が開花したり、一緒に楽しく過ごせる仲間と出会えたりするかもしれません。

 この本を通じて、今いるところからご自身あるいはお子さんが英語力を伸ばすヒントを得ていただけたら、そして広い世界触れることで人生が豊かになったと感じていただけたらとても嬉しいです。

--今日はありがとうございました。


 この本は私たちにも例外なく、英語と掛け合わせれば世界がぐんと広がる可能性を秘めていることを感じさせてくれた。世界は思っているほど遠くないのかもしれない。

 英語の習得に関して、決して特別な環境にいなかった人たちから編み出された秘訣は、これから世界を目指す子供たちはもとより、そんな子供たちの未来を応援する大人たちにとっても心強い足がかりとなるだろう。



《編集部》

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