受験生には欠かせない「模試」。その成績となれば、誰しも気になるところだろう。だが受験生も保護者も、模試の判定にばかり気を取られてはいないだろうか。駿台模試の司令塔、駿台予備学校 入試情報室部長 城田高士氏は「志望校判定を見るのはおまけ。最後に見れば良い」と言い切る。
「模試の成績表には確実に学力を上げ、合格に近づくロジックがある。それを生かさない手はない」と言う城田氏に、5月に実施した「駿台atama+共通テスト模試」の結果を元に、成績表の正しい見方と活用法について話を聞いた。
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模試の結果でいちばん大事なのは志望校判定ではない
--模試の成績表が返ってくると、本人はもちろん、親としてもいちばん気になるのが志望校の判定です。判定を真っ先に見てどうしても一喜一憂してしまいます。
「こんな成績だと無理なんじゃないの」「志望校変えたら?」などと親が子供にうっかりと言ってしまうのはもっとも良くないコミュニケーションです。模試の成績表をめぐるいちばんの誤解は、自分に合った大学を探す「占い」のように捉えられていることです。そうではなく、模試の結果は本来、自分の行きたい大学に対して、どこをどれくらい頑張るかを見つけるとても重要なツールなのです。
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--昨年、医学部受験に関する取材でも、毎年E判定から合格していくケースは少なくないと伺いました。この逆転合格を実現するためには模試の振り返りがとても重要なのだと。
(昨年の記事:「駿台予備学校に聞く、医学部受験生のための「模試」活用アドバイス…受験後の行動がポイント」)
受験生が陥りがちなのは、「問題集を何周やる」といったやみくもな勉強法です。別にやってはいけないわけではないのですが、この勉強法だとただ漫然と自分の得意・不得意分野を同じようなペース配分でやっていくことになるので非常に効率が悪いのです。限られた時間の中ではまず、模試の結果から自分の弱点を洗い出すこと。そして、問題集は弱点強化のため、できなかった問題の類題をやってみようという使い方のほうが効果的です。
仮に模試の判定が良くなくても、自分が間違えた問題をノートにまとめ、自分の苦手なところがまとまっているオリジナルの参考書のようにして受験前に繰り返す。そうすることで入試直前まで学力が伸び続け、逆転合格するといったケースは毎年のように起きています。
どこから見るべき? 成績表の注目ポイント
--合格するには、何よりもまず弱点を克服して学力を伸ばしていくべきということですが、弱点を洗い出すためには模試の成績表をどのように見れば良いのでしょうか。
成績表の8項目を次の順番で確認してみてください。※(数字)は項目番号
1.教科・科目別成績(1) → 2.解答番号別マーク正答状況(8) → 3.科目別得点率(2) → 4.設問別成績(4) → 5.正答率順説問別正誤表(7) → 6.志望大学判定(5)
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1.教科・科目別成績(1)
最初に科目ごとの成績を確認します。試験後に自己採点をしていると、その段階で手応えを感じているはずです。その手応えどおりの成績が出ているか、得意科目で得点できているかなど、偏差値や席次を見て振り返ってみてください。
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2.解答番号別マーク正答状況(8)
成績表の点数と自己採点が合っていなかった場合には、この成績表の最後のページに載っている「解答番号別マーク正答状況」と自己採点を見比べ、どこで自己採点をミスしたかを必ずチェックしましょう。経験のある高卒生でもピッタリ合うのは2、3割ほど。実際には何点かズレがある人のほうが多いのです。正解を書いたつもりでも、消し方が十分でなく二重に解答していたり、マークが薄くて読み取れなかったりといったミスは毎回散見されます。
本番でこのようなミスをすると、最悪の場合には2次試験の出願時に、第一段階選抜で不合格になってしまうリスクがあるので、模試では必ず自己採点をし、ミスがあれば原因を突き止め、再発防止に努めましょう。
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3.科目別得点率(2)
続いて科目別の得点率を見ます。このグラフからは平均点と比べて自分はどの科目が弱いのかをしっかりとおさえましょう。このサンプルの成績表では、主要3科目である英数国はまずまずの出来ですが、化学と地理で平均を大きく割り込んでいます。しかしこれは、5月時点の現役生にありがちなグラフの形状で、保護者はこの結果が子供の実力だと早とちりしないこと。「もうあきらめたほうが良いんじゃない?」などと水を差す発言はNGです。高校によってはまだ履修範囲が終わっていないこともあり、この時期はどうしても現役生には厳しい条件なので、落ち込む必要はまったくありません。
現役生にはいちばんきつい時期である一方、浪人生には当然優位になります。けれどここから現役生が理科・地歴公民を強化し、秋以降猛烈に追い上げてくるので、好成績を取れた浪人生も気を緩めてはいけません。
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4.設問別成績(4)
3のグラフではどの科目が弱いかを見ましたが、4ではさらに詳しく、各科目でどの分野ができていなかったのかを把握します。ここでは棒グラフが本人の得点率で、三角(▼)が全国平均です。さらに、「全国平均点との差」という列では、平均点からどの位離れているかがわかります。たとえば数学IIBを見ると、「微分法・積分法」と「数列」で全国平均に届いていないということが読み取れます。
こうして見ると、自分は数学IIBが苦手だと思って漫然と数学IIBの問題集をやるのではなく、ピンポイントで「微分法・積分法」と「数列」という苦手分野を優先的に強化するという効率的な時間の使い方ができるようになります。
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また、国語や数学IAのように偏差値が55を超えていて順調な仕上がりに見えても、国語では「漢文」、数学IAでは「2次関数、データの分析」がマイナスになっていますね。
このように一見問題がなさそうな科目でも、分野によっては穴があります。この表でどこに穴があるかを突きとめ、速やかに補強していく学習法が合格への近道になるのです。
5.正答率順説問別正誤表(7)
この表は見た目が細かく、これまできちんと見たことがないという方が多いかもしれませんが、実はもっとも活用価値があると言っても良い重要なデータです。この表では、設問の正答率順に解答状況が並んでいます。正答率とは全受験生の何%が正解していたかを示すもので、この表では左にいくほど正答率が高かった、すなわち易しい問題だったことになります。
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この表を見ることでわかるのは次の3つです。
1.基礎に穴はないか
この成績表の受験生は(1)の表から英語のリーディングは偏差値60を越え、得意科目であることがわかります。ところがこの表を詳しく見ると、左から8番目の正答率75%の設問にはバツが付いています。75%の正答率というと基礎レベルの問題なので、たった2点分とはいえ痛い失点です。なぜそんな基礎レベルで間違えてしまったのか、きちんと原因を調べ、穴が見つかれば埋めておかなければいけません。
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2.伸びしろはどのくらいあるか
左から2番目、3番目の列には、科目ごとに「正解可能数」「可能得点」という欄があります。ここでは、正答率60%以上の問題を何問間違え、何点失点したかを示しています。正答率が60%以上であればそれは難問の類ではなく、正しく対策すれば得点できる問題です。
たとえば数IAでは、正答率の低い問題を3問も正解できている反面、60%以上では2問で4点落としたことになります。まだ未修範囲のありそうな化学や地理では取れるはずの得点が20点以上もあり、これはすなわち今後の伸びしろと言えそうです。このように、伸びしろがどれくらいあるかを具体的につかみ、そこを解けるようにしておけば、その後は「可能得点」で示されている点数が上積みできるのです。一方で、正答率が10%を切るような難題については、多くの時間を割いて復習する必要はありません。
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3.成績に安定感があるか
正答率が高い左側に行くほどマルが並ぶのが理想の形です。ところがこの表で国語を見ると、右側の難しい問題ができているわりには、左側の易しい問題での失点が散見され、得点の仕方に波があることがわかります。これは基礎力が安定していないことを示しているので、偏差値が55以上あったからといって安心はできません。むしろこのままでは成績が不安定で、本番では失敗してしまうリスクがあるため、今回左側で失点している問題は特に力を入れて復習し、原因を究明しておくことが不可欠です。
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6.志望大学判定(5)
受験生も保護者もいちばんに見たくなる志望大学判定は最後で構いません。気を付けたいのは、成績表で判定だけを見て「占い」にしてしまうこと。これまで細かく見てきたように、成績表はあくまでも今後の学習を軌道修正するためのツールであり、(5)で注目すべきは「あと何点取ればC判定が出るか」というところです。
表には点数が2つ並んでいますが、左側はその大学の配点、右側は今回の模試の配点でそれぞれ足りなかった点数です。目安としては右側の模試の数字を参考にし、5で見た伸びしろ(可能得点)を上積みすればどこまでC判定に近づけるかなど、自分なりに道筋をつけてみてください。
この時期、特に現役生だと、第1志望でAまたはB判定が取れるケースはそう多くないと思います。仮にAまたはB判定だとしたら、本当にその大学に行きたいなら順調な仕上がりですが、これからの伸びしろを考えるともっと上が狙えるので少しもったいないくらいです。
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天王山と言われる夏休み前には、C判定までの点数を参考にしながら、次の模試に向けて各科目で目標点を定め、そのための計画を立てて進めていってください。特に英数国の主要3教科は配点が高い分、しっかりと時間をかけて取り組みましょう。
なお、(3)の成績集計コース別成績、(6)志望大学度数分布・席次ラインは現在の立ち位置の目安です。ここは参考程度に見ておくだけで十分です。
模試の成績表活用3つの心得
--模試の成績表について、ここまで詳しく見る方法は知りませんでした。特に「正答率順説問別正誤表」は、活用次第で今後の勉強が効率的に進められ、得点力アップにつながりますね。ここであらためて、模試の成績表を見るときの心得を教えていただけますか。
気を付けていただきたいのは3つです。
まずひとつ目は、受けっぱなしにしないこと。志望大学の判定で一喜一憂し、合格占いのように扱うだけでは、せっかく丸一日かけて模試を受けた労力も時間も台無しになります。
2つ目は、点数の取り方に注目すること。「正答率順説問別正誤表」を見ながら、正答率の高い問題を着実に得点できているか。正答率の低い問題を運よく正解できていたとしても、正答率の高い問題にいくつも穴がある場合には、学力がまだ安定していないという現状をしっかりと把握することが大切です。
そして3つ目は、正答率の高い問題を落としている場合、ケアレスミスで片付けず、その原因を分析し、必ず復習をして補うこと。未履修範囲や苦手分野をしっかりと穴埋めすることで、着実に得点力はアップしていきます。
--模試の成績表には点数アップのロジックが詰まっているんですね。共通テストの傾向と対策についてアドバイスをお願いします。
3回実施された内容を見ると、知識を詰め込んでパターンを暗記すればなんとか乗り越えられるといった試験ではなくなってきていることは明らかです。そして、どの教科にも共通して特徴的なのは、「国語力」が問われていることです。
こうした点で、過去問はまだ3年分しかありませんが、模試はその傾向を研究し尽くしてつくられたものであり、共通テスト対策に生かせる教材としてマストアイテムと言って良いでしょう。
今後は毎回、ここでご紹介した成績表の見方にならってしっかりと振り返り、そこで洗い出した弱点を強化してひとつずつ着実に穴を埋めていくことが最善の対策です。
今年度の共通テスト模試はあと4回(7月、9月、10月、12月)ありますので、時間配分やマークミス、あるいはケアレスミスの撲滅など、回ごとに自分なりの課題や目標を決めながら本番に向かっていってほしいですね。
--最後に、受験生と保護者の方にメッセージをお願いします。
共通テストは、保護者の方が受験されたころのセンター試験と比べて難易度が上がっており、詰め込み型の勉強で対応できる問題ではありません。しかし、今日ご紹介したような方法で模試の成績表を存分に活用し、苦手な教科、さらにはその中でも苦手な分野を強化して土台固めをしておけば、共通テストだけでなく2次試験にも通じる学力が養えます。
特に現役生にとっては、努力の成果が現れるのは秋口以降になるかもしれませんが、それまでは夏休みを含めて辛抱強く頑張ってほしいと思います。
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また、現在の高校2年生からは新しい学習指導要領のもと、共通テストにも「情報I」が新たに加わるなど、カリキュラムが変わります。今年の受験生はそれを避けようと安全志向の出願が予想されますが、我々が長年見てきてはっきりしているのは、こういう変わり目こそ、実は初志貫徹が報われる最大のチャンスだということです。
ご自身の模試の成績表を正しく理解し、共通テスト対策を効率的に進めることで、しっかりと得点力をつけて第一志望合格を勝ち取ってください。
--本日はありがとうございました。
共通テストが始まってから3年が経ち、読解力・思考力を重視した設問は、詰め込み型の対策では太刀打ちできず、高得点が取りにくいという傾向が見えてきた。過去問がまだ少ないだけに、傾向と対策を研究し尽くした模試を貴重な教材とし、その成績表をおおいに活用して、タイパ・コスパ良く志望校合格へと近づいていってほしい。
2023年 駿台の共通テスト模試スケジュール
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9/10(日)第1回駿台ベネッセ大学入学共通テスト模試 マーク式
10/29(日)第3回駿台ベネッセ大学入学共通テスト模試 マーク式
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