SPRIX(スプリックス)は2025年8月、「中学受験に関する調査」を行い、中学受験が子供・親に与える影響を調査した。調査結果をもとに「#中学受験は健全か」プロジェクトを始動し、特設サイトをオープン。日本の健全な受験構造の議論を喚起する取組みを推進する。
「中学受験に関する調査(2025年)」は2025年8月23日・24日、一都三県(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県)の中学受験を経験した中学1~3年生・保護者103組と、中学受験を経験していない中学1~3年生・保護者の94組を対象に、CLT定量調査・インタビュー調査にて実施。「子供」「家庭」「学びの環境」の3つの観点から中学受験の問題点を整理した。※SPRIX調べ
2025年の私立・国立中学校の受験者総数は5万2,300名にのぼり、過去40年で3番目の多さを記録。首都圏ではおよそ5.5人に1人が中学受験に挑戦している状況が明らかになった。
受験競争が過熱する一方で、「教育費インフレ」による家庭の経済的負担の増加や、長期にわたる受験勉強の重圧から生じる自己肯定感の喪失や精神的疲弊といった、受験の当事者である子供たちが「12歳のメンタルクライシス」を引き起こすなど、子供と親の両方に深刻な影響を及ぼす実態も浮き彫りになっている。
受験経験者の子供に勉強の目的を聞くと、「親をがっかりさせたくない」(50.5%)が半数以上でトップに。ついで「勉強で努力したり、いい成績をとると親が喜んでくれるのがうれしい」(44.7%)と、勉強そのものの楽しさや自分の達成感よりも親の気持ちを優先していることが判明した。
一方で、「勉強で先生や親の期待に応えるのがストレスに感じるときもある」(32.0%)と回答した子供が約3人に1人存在。また、勉強や成績の介入度を、受験を経験した親と子供それぞれに回答を聞くと、親は「関与した」が95.1%でトップ、子供は「もっと関与してほしかった」が50.5%でトップと、親と子で認識のズレが生じていることもわかった。
勉強にまつわる1番つらかったことは「遊ぶ時間がなくなったこと」(77.7%)。ほかに、「父に隠れて友だちと遊ぶ」「受験勉強中に父親に言われた言葉のせいで傷ついている」との回答もみられ、必要以上の我慢、コミュニケーション不足、恒常的なプレッシャー、自己肯定感が損なわれるなど、心理的負担を強いられているようすも感じられる。
受験経験者の親が回答した中学受験にかけた費用のトップは200万以上300万円未満が37.9%。300万円以上と回答した人が27.2%で、4人に1人以上という結果に。平均は239万円となり、高額な教育費の支出により、一度中学受験を始めると後戻りできない・失敗できないという心理的な重荷があるのかもしれない。
受験経験者の親が中学受験を意識し始めた時期は、子供が小学3年生時の33.0%が1位。子供が未就学児の時でも11.7%と1割以上が中学受験を意識。小学校3年生までで計61.2%と6割を超えており、親子で早い段階で受験を意識・準備していることが判明した。
平均勉強時間について、受験経験者の子供は平日3.6時間/日、休日5.7時間/日。受験未経験の子供は平日0.9時間/日、休日0.9時間/日と、受験経験者の子供のほうが4倍~6倍以上多い。平均通塾頻度は、4.5日/週、毎日通塾している子供も1割強が存在する。
受験経験者の子供に受験のために我慢したことを聞くと、「友達との遊び」(75.7%)がトップ。ついで「ゲーム」(68.0%)、「TV・YouTube」(61.2%)と個人の娯楽が続く。「習い事」(55.3%)も半数以上が我慢している結果に。継続していた語学やスポーツなどを辞めてしまうことで、子供の「学びの多様性」を阻害したり、好きで継続していたことの挫折に繋がっている可能性がないともいえないだろう。
中学受験経験者の親に後悔していることを聞くと、もっとも多かったのは「子供はストレスを抱えた」(25.2%)、ついで「習い事を辞めさせてしまった」(19.4%)という結果となった。
SPRIX代表取締役の常石博之氏は、「今回の調査結果が示しているのは、個々の家庭の問題ではなく、『受験という制度の構造が、子供と親の双方に心理的圧力を生み出す仕組みになっている』という現実です」とコメント。「学びの目的が『自己の成長』ではなく『親の期待に応えること』へとすり替わっている。この転倒は、学習理論的にもモチベーション理論的にも極めて重大な課題です。外的報酬(親の承認)に依存する学びは、一時的な成果を生む一方で、長期的には『学びの自律性』や『内発的動機づけ』を損なうことが、先行研究でも示されています」と指摘する。
近年、中受マーケットはビジネスとしても大きな盛りあがりをみせ、通塾の早期化が進んでいる。表向きは中受の合格体験記や成功体験などが多く語られる一方、負の側面が語られることはほとんどないことから、「妄信的に中学受験を選択するのではなく、メリット・デメリットを理解したうえで、中受をするかどうかの判断が必要です。今回の調査プロジェクトが『健全な受験のあり方』を考えるきっかけになれば幸いです」と述べている。
「#中学受験は健全か」プロジェクトの一環として、常石氏と二児の母でフリーアナウンサーの青木裕子氏が、「子供のための適度な学習」をトークテーマに対談を実施。青木氏の現在の子供と受験に対するリアルな考えや悩みを聞きながら、子供の将来、子供の幸せについて意見を交わした。
対談では、中学受験熱の高まりや早期化の実態、子供にとって「その後伸びる」学びの要素、褒め方のポイントなどについて語られた。常石氏は「『質より量、量より頻度』と私は思っていまして、どういうタイミングで褒めるのがより効果的かということを考えて、褒めることを一回躊躇するよりは、もう褒めればいいんじゃないでしょうか」とアドバイス。対談の全文は、特設サイト「#中学受験は健全か」から閲覧できる。

