河合塾グループが運営する「河合塾Wings(ウィングス)」は、高校受験専門の進学塾として難関校に多くの合格者を輩出している。河合塾進学研究社 首都圏Wings事業部 ブロック長 斎藤北斗氏と教育情報課 課長 冨田健介氏に、東京都の高校入試動向や直前期の学習ポイント、保護者の心構えなどを聞いた。
これから難関校や上位校の合格を目指す中2生、中1生にもぜひ参考にしてほしい。
【話を聞いた人】
河合塾進学研究社 首都圏Wings事業部 ブロック長 斎藤北斗氏
河合塾進学研究社 首都圏Wings事業部 教育情報課 課長 冨田健介氏
高校無償化で広がる選択肢、2026年度の都立・私立動向
--東京都では2024年度から都立・私立高校問わず授業料が無償化となり、所得制限も撤廃されました。都立・私立高校選びの傾向を教えてください。
冨田氏:東京都の公立中3生の志望動向を見ると、都立高校を第一志望にする割合は2017年をピークに減少傾向が続いています。2017年から2018年で下がった背景には、大学入試改革で「英語4技能評価」や「外部試験活用」が打ち出され安定した進学ルートを求める動きが強まり、大学附属校の人気が高まったからです。

さらに2020年から2021年はコロナ禍における公教育に対する不安の高まりもあり低下。昨年度(2024年度)は61.9%で、ほとんど減少しなかったのは、授業料実質無償化の所得制限撤廃が報じられた時期が遅く、大きな影響を及ぼさなかったためだと思います。しかし今年(2025年度)は授業料実質無償化、所得制限撤廃の影響を受けて58.0%まで激減しました。

都立高校と私立高校の受験者数を偏差値別で分けたデータを見ると、都立高校上位校の志望動向には大きな変化はなく、中堅上位層で大きな動きがあります。都立を第一志望としていた層が、私立のワンランク上のコースや学校に単願で挑戦する傾向が強まっており、この流れは2026年度も続くと考えられます。

これまで経済的な理由などから、ランクを下げてでも都立高校を選んでいた層が、授業料実質無償化により納得できる私立を選びやすくなりました。その結果、都立の人気校により多くの受験者が集まり高倍率が続くなど、都立高校の人気は二極化していると言えます。
都立トップ校の自校作成問題は大学入試の影響も
--都立高校の種類について解説をお願いします。
冨田氏:まず都立高校で進学指導重点校に指定されているのは7校(日比谷、戸山、青山、西、八王子東、立川、国立)です。さらに進学指導特別推進校と進学指導推進校に指定されている高校もあります。これらの学校では教員の公募が実施されており、意欲の高い先生が集まりやすい状況です。進学指導推進校に関しては、加えて地域のニーズにあわせて決める形で都内全般に指定されています。下記の表中で青字の学校は、いわゆる「自校作成問題実施校」という難度が高い入試問題を実施している学校です。

--都立高校の入試について解説をお願いします。
冨田氏:推薦入試は男女合同選抜になって3年目を迎えます。多くの学校で全募集定員の2割ほどが募集人数です。調査書と個人面接が必須で、一部の学校では集団討論や口頭試問などがあります。また各校では作文か小論文を設定して、それらすべてを点数化して選抜します。入試日程は1月末で、一般入試よりも少し早くなっています。

一般入試も男女合同選抜で実施され、調査書300点+学力検査700点+英語スピーキングテスト(ESAT-J)20点の計1020点満点となっています。調査書は5教科の5段階評価を合計し、実技4教科は5段階評価を2倍で計算、合わせて65点満点とし、この65点満点(換算内申)をさらに300点満点に換算します。学力検査5教科の得点は1.4倍して700点満点に換算、ESAT-Jと合わせて合計点の高い生徒から合格していく形式です。

ESAT-Jのスコアは、まず100点満点の得点をA~Fの6段階に分けて4点刻みで20点満点とします。昨年度(2024年度)のESAT-J平均スコア(100点満点)は68.3で、前年は65.2でしたので年々、平均点は上がっています。導入から4年経過し、出題傾向がわかり対策がしやすくなったことや、小学校での英語必修化・教科化の影響があると推測しています。

入試倍率は、これまでは一般入試で2倍を超える学校も多くありましたが、現状ではほぼ2倍を超えず、超える高校は片手で数えられるほどです。都立高校の一般入試は基本的に2月21日で固定されていますが、これまで一部の学校で実施していた分割前期・分割後期の入試形式は、来春(2026年)から廃止となります。
--進学指導重点校の自校作成問題に目立った変化はありますか。
冨田氏:自校作成問題には各校が求める生徒像を示すメッセージが込められています。ここ数年、大きな変化はありませんでしたが、昨年、青山高校の英語が自由英作文問題が独立した大問となり、読解問題の中でも記述問題が多く出題されるなど、日比谷高校とほぼ同じ形式になりました。おそらく今年も同じ形式だと見込んでいます。問題の傾向としては、中学校で学んだことを正確に理解するだけではなく、知識を使いこなしてアウトプットする力が求められます。
また自校作成問題は大学入試も意識しているため、大学入学共通テストでの問題文の文章量が増えたため、より一層の情報処理力が問われているように、自校作成問題も速く正確に文章を読む、趣旨を理解した上で問題を解く、さらに記述する力が求められます。
大学進学を見据えた高校選び
--都立高校の注目校を教えてください。
冨田氏:立川高校の創造理数科です。今年(2025年)の春に初めて1期生が卒業しましたが大学の合格実績も良く、在学時代から各種外部のコンテストやコンクールで入賞する生徒も多くいました。昨年もここだけは倍率が3倍を超えているので、今後も注目校の1つです。
--私立高校の注目校について教えてください。
冨田氏:今年、話題になっているのは明治大学付属世田谷高校です。日本学園が今年、高校募集でも明治大学の付属校になり、模試の志望動向を見ても人気です。中学受験では3年前から明治大学付属世田谷中学校として募集し人気でした。併願優遇がなくオープン入試なので、入試の難易度、受験者の学力層に関心が高まっています。
附属中学がない高校単独の進学校としては朋優学院が注目です。最上位のコースは5教科入試で、これは国公立大学の進学が視野にあります。都立高校よりも理科・社会の入試問題の難易度は上がりますが、5教科入試という都立高校との併願のしやすさもあるので人気は今後も続くでしょう。千葉県の上位校はほぼ5教科入試に変わりましたが、都内も少しずつ増えてきています。開成高校はもともと5教科入試でしたが、巣鴨高校や國學院高校も5教科入試を導入していますので今後の他校の動きも注目です。
「わかった」で止まらないことが真の復習
--入試に向けた学習アドバイスをお願いします。
斎藤氏:残り2か月で過去問中心の勉強になりますが、まず都立高校が第一志望の場合、理科と社会は極めて重要です。私立高校の人気が高まり、英数国の3教科を中心に勉強を進めている生徒が多いので、差がつくのは理科・社会です。直前まで伸ばすことができる教科ですので、目を背けずに学習を進めてほしいです。
また闇雲に過去問を解くことは得策ではありません。問題を解いたら、その2倍・3倍の時間をかけて復習をすることが大切です。自分のできないところを見つけて、そこを覚え直すことが重要です。しかし多くの生徒は、解答・解説を読んで理解をし「わかった」と思い込んで終わってしまいます。「わかった」で止まらず「自分でできる」までするのが、真の復習です。1~2週間後の忘れたころにもう1度、間違えた問題を自力で解いて、丸が付くまでやることが、この2か月で効果的な勉強法です。

この時期には合格ラインがあらかたわかります。都立高校ならば内申点(調査書)、いわゆる仮内申が出ますから、自分は5教科の学力検査で何点取れば合格ラインに到達するのかが見えてきます。たとえば、それが1教科80点の平均点であれば、全教科80点を目指す勉強でも良いのですが、苦手な数学は70点、得意の国語では90点を取るということでも良いです。そうした目標から逆算して効率の良い勉強をすることが必要です。
私立の場合は3教科がメインなので、大きく足を引っ張る教科があると取り戻すことが難しくなります。たとえば、苦手教科において、受験者平均よりも20点、30点ほど下回ると、ほかの2教科で挽回するのが難しくなります。まずは足を引っ張る苦手科目を作らず、底上げしていくことが必要です。さらに私立は学校によって問題傾向が千差万別なので、自分の受ける学校の出題傾向をしっかりと把握して対策することが重要です。
つまり、数年分の過去問を解きながら、時間配分を体に染み込ませたり、自分にとってこの問題は後回しにして良いといった本番でのシミュレーションをしたりすることが必要です。学校ごとに問題が違うので、自分がとるべき点数のボーダーラインと、間違えてはいけない問題を見極め、学校ごとに必要な対策をしていくことが肝要です。
--残り2か月でたとえば、私立の3教科で過去問の平均点を30点も下回っているといった場合の学習の取り組み方はありますか。
斎藤氏:目を背けずに勉強に取り組むのと同時に、最後の最後は難しい問題は時間をかけず、後回しにすれば良いという考え方が大事になることはあります。数学の苦手な子が、非常に難しい空間図形の問題などを最後の1、2か月でできるようになるのはなかなか難しいですが、最初の計算問題を落とさないようにすることはできるはずです。
英語でも、長文読解の力がグンと伸びる場合もありますが、それよりも暗記でどうにか対策できる書き換えや穴埋めなどの文法問題を落とさないように、数をこなして反復してひとつひとつできるようにしていく方が点数は伸びやすいです。まずは自分がどこの何ができないのか、どこならば穴が埋められるのかを分析して、最後はそこに目を背けずに勉強していくことだと思います。
--受験校を変えるか否かはどのタイミングで判断すると良いでしょうか。
斎藤氏:ボーダーラインまで3教科で100点ほど足りないといった場合は検討したほうが良い場合もありますが、年内で30~40点ほどボーダーまで足りないならば、諦めない方が得策です。諦めずに頑張っていると最後の最後に伸びる可能性がありますし、例年受験生たちを見ていると、ここからがもっとも伸びていく時期です。現時点で第一志望の過去問を解いてもボーダーラインにはいかないと思います。でも、ここから復習・反省・分析を繰り返せば必ず点数は上がります。
年内ならば諦める必要はなく、クリスマスや年末年始、お正月で点数をあげるという気持ちでいる方が望ましいです。また保護者の方に志望校を下げた方が良いと言われるのは、頑張っている自分を応援してくれていないと感じるものなので、ぜひ励ましていただければと思います。

--受験校を絞り込めないご家庭の場合はどうすれば良いでしょうか。
斎藤氏:ここからはもっとも学力が伸びる時期なので、まだ受験校が絞り込めていない場合は、もっとも行きたいところはどこなのかをご家庭で話しあって、出願ギリギリぐらいまで待っても、そのもっとも行きたい学校を目指すべきだと思います。過去問を何回解いてもボーダーに足りないならば、そこは少し難易度がやさしめの学校に変えることは当然、出てきますが、それはまだこの時期に決めることではありません。本人のモチベーションを考えても、いちばん行きたいところを目指すべきです。
負のスパイラルに入らない
--受験生の保護者の方へのアドバイスやメッセージをお願いいたします。
斎藤氏:受験直前のこの時期、子供たちは必ずマイナス発言をします。「もうダメだ」「もう無理」「やる気なくなった」「志望校を変える」そんな言葉が必ず出てきます。それは本心ではなく、励ましてほしいというサインで、保護者の方からの「そんなことないよ」という言葉を待っています。保護者の方が一緒になって弱気な発言をしてしまうと、負のスパイラルに陥りやすいので、ここから2か月は励ますことが大切になります。
--新しく中学1年生、2年生になる生徒さんや保護者の方へのメッセージをお願いします。
斎藤氏:なるべく早く、いろいろな学校を見学することをお勧めします。「この学校は無理だ」と決めつけず、本当に行きたい学校を、実際に見に行ってください。目標が決まることは、成績を上げる最大のモチベーションになります。だからこそ、この時期は積極的に学校見学を重ねてください。
学習面では、学校の定期試験は丸暗記になりやすく、2~3日で詰め込んで90点を取れてしまう場合もあり得ますが、その勉強法では思考力や情報処理力、表現力にシフトしている入試には対応できません。たとえば、社会でなぜこの歴史的な出来事が起きたのかといった背景や理由、数学ならば公式・定理の丸暗記ではなく、なぜその公式が成立するのかを、自分で考えながら覚えていく勉強をしてほしいと思います。これは受験に向けて低学年のうちから意識してほしいところです。
--最後に新中3になられるお子さまへのメッセージをお願いします。
斎藤氏:受験はよくマラソンにたとえられますが、私はマラソンとは違うと生徒たちに伝えています。受験にはスタートの合図がないのだから「1日でも早く受験生になれば有利」です。周りよりも少しでも早く受験生という気持ちをもち、1歩でも2歩でも前に進み、過去の自分よりも勉強するようになったことを、1日でも早く実感できれば、1年後の12月や1月には自分が楽になると伝えたいです。
--ありがとうございました。
河合塾Wings
