丙午の迷信「気にしない」8割、この先どうなる出生率…令和ママ調査

 ベビーカレンダーは2025年12月23日、妊娠中・育児中のママを対象とした「丙午と妊娠・出産に関するアンケート」の結果を発表した。2026年が60年に1度の「丙午」にあたることについて、8割が迷信を気にせず自分たちの計画を優先すると回答。専門家は1966年のような出生数激減は起きないと分析する。

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「丙午生まれの女性」に対するイメージや迷信への認識
「丙午生まれの女性」に対するイメージや迷信への認識 全 3 枚 拡大写真

 ベビーカレンダーは2025年12月23日、妊娠中・育児中のママ935人を対象とした「丙午と妊娠・出産に関するアンケート」の結果を発表した。2026年が60年に1度の「丙午」にあたることについて、8割が迷信を気にせず自分たちの計画を優先すると回答。専門家は1966年のような出生数激減は起きないと分析している。

 2025年12月23日に厚生労働省が発表した2025年10月分の人口動態統計速報によると、2025年の出生数は66万7,542人程度(前年比2.7%減)になる見通し。日本の出生数は2年連続で70万人を割り、統計開始以来の過去最少を更新する深刻な状況が続いている。

 来年2026年は干支が60年に1度巡ってくる「丙午」の年にあたる。前回の丙午である1966年には、「この年に生まれた女性は気性が激しい」などの迷信が広まり、出生数が前年比で約25%も激減した。

 今回の調査では、妊娠中・育児中のママ935人に2026年が60年に1度の「丙午」であることや迷信について知っているか聞いたところ、「よく知っている」31.2%、「なんとなく聞いたことはある」49.0%をあわせて、約8割が認知していた。

 「丙午生まれの女性」に対するイメージや迷信への認識について調査した結果(複数回答)、「ただの迷信なので、気にする必要はない」が44.7%で最多となった。また、「特にイメージはない」も39.4%で2番目に多く、丙午生まれの女性に対して特定の人物像を想起していない人が少なくないことがわかった。

 具体的なイメージの内容に注目すると、ポジティブなイメージがネガティブなイメージを大きく上回っている点が特徴的だ。延べ回答数で比較すると、ポジティブな回答は616件、ネガティブな回答は251件となり、ポジティブな回答がネガティブな回答の約2.5倍に達した。

 ポジティブイメージ(計616件)では、「芯が強く、自立したしっかり者(282件)」「エネルギッシュで、リーダーシップがある(239件)」「強運で、才能豊かな個性派(95件)」が上位を占めた。

 一方、ネガティブイメージ(計251件)では、「気性が激しくて怖い(191件)」「縁起が悪く、苦労しそう(60件)」となった。

 かつて忌避された「女性の強さ」は、ジェンダー平等が進む現代において「自立」「リーダーシップ」といった魅力として再定義されており、令和のママたちに前向きに受け止められていることが明らかになった。

 2026年の丙午の出産について自身の考えを尋ねた質問では、「迷信は気にせず、自分たちの計画やタイミングを優先したい(優先した)」と回答した人が76.2%で最多となった。さらに、「メリットも考えられるので、あえて選びたい(選んだ)」は5.2%で、両者をあわせると、約8割が丙午を理由に出産を避けない判断をしている。

 この結果から、妊娠・出産を考える世代の多くは迷信に左右されず、自分たちの生活設計やタイミングを重視して判断している実態が明らかになった。

 一方で、丙午の迷信について、家族や周囲の人から「2026年の出産は避けたほうがいい」「女の子だと大変」といった言葉をかけられた経験があるかを尋ねたところ、12.4%が「ある」と回答。実際に言葉をかけてきた相手は、「実母」49.1%がもっとも多く、ついで「祖父母」23.3%、「親戚」16.4%など、親・祖父母世代が多くを占める結果となった。

 丙午に対するネガティブなイメージは、子育て世代よりも上の世代に強く残っているようすがうかがえる。

 今回の調査結果および今後の出生動向について、人口問題や地方創生に詳しい日本総合研究所調査部主席研究員・藤波匠氏に話を聞いた。

 藤波氏は、「1966年のような丙午ショックが再現される可能性は低い」と指摘する。最大の理由は「親世代の年齢構造の変化」だ。

 藤波氏は次のように説明する。「前回の丙午(1966年)の親世代は平均25~26歳と若く、迷信を理由に「1年待つ」余地がありました。しかし、現在の親世代は平均30歳前後。妊孕性(妊娠するための力)や年齢リスクを強く意識する世代にとって、迷信のために妊娠・出産を1年先送りするような時間的な猶予はない、というのが現実です。そのため、今回の丙午では産み控えをする人は少ないと考えられます」

 実際に今回のベビーカレンダーのアンケート調査では、第1子出産時の平均年齢は「30.7歳」となっており、「理想としていた年齢より遅かった」と回答した人が半数以上を占める結果となった。

 また、2025年の動向を見ても、前回起きたような「前年への駆け込み出産」の波は起きておらず、このことも大幅な出生数減少が起きにくい根拠だと言う。

 足元の2025年の出生動向について、藤波氏は「減少傾向は続いているが、急減フェーズからは脱しつつある」と分析する。

 藤波氏は続ける。「2025年の出生数は前年比で減少するものの、減少幅はやや落ち着く見込みです。注目すべきなのは、2024年時点のデータで見ると、結婚から第1子出産までの平均期間が約2.8年となっている点です。これは、今の日本における平均的な出産のタイミングを示しています」

 コロナ禍において結婚が先送りされた反動により、現在の婚姻数は一時的に下げ止まり、ほぼ横ばいで推移している。藤波氏は、こうした時期に結婚した夫婦が、結婚から第1子出産までの平均期間である約2.8年を経て、2025年後半から2026年にかけて出産期を迎える点に注目する。

 藤波氏は言う。「丙午による心理的なマイナスがあったとしても、婚姻数が下げ止まり横ばいとなった時期に結婚した世代の出産が重なり、2026年はむしろ出生数の減少幅が緩和される可能性もあります」

 今回のアンケート調査で、「最初に妊娠・出産を決めるにあたり、もっとも不安に感じたこと」を尋ねたところ、「金銭面」が32.0%で最多となった。ついで「自身の年齢や体力」24.8%、「仕事やキャリア」10.5%と続き、経済や生活設計に関わる不安が上位を占めている。

 藤波氏は、この背景にある構造変化として「経済状況と女性の社会進出」の相関を指摘する。高度経済成長期には「年上の男性が専業主婦を支える」モデルが主流だったが、経済成長の鈍化とともにその構造は崩れた。

 藤波氏は説明する。「経済状況が悪化すると、女性も自立して家計を支えることが求められます。女性も男性と同じように社会に出て経済的な基盤を築くためには、相応の時間が必要です。その結果、結婚のタイミングが後ろ倒しになり、男女ともに結婚年齢が上昇。男性も、妻となる女性にある程度の経済的な地位を望むようになってきていることもあり、同世代と結ばれる『同い年婚』が増加しました。近年では同い年婚が最も多くなっています」

 こうして増えた「同い年婚」は、経済的に対等なパートナーシップである一方、「2人で働いて初めて生活水準が維持できる」という前提がある。そのため、景気の先行きが不透明になると、「今の生活を維持できるか」「片方が働けなくなったらどうするか」という不安に直結しやすく、結果として妊娠・出産に踏み切れなくなる傾向が強まっていると藤波氏は分析している。

 藤波氏は言う。「少子化を進めているのは、経済不安と将来設計の難しさにあります。迷信のような一時的な要因よりも、日々の暮らしや将来の見通しが立てにくいことこそが、妊娠・出産の大きな壁になっています」

 藤波氏は今後の出生動向や課題について次のように語る。

 「出生数について、大きな回復を見込める状況ではありませんが、子育て支援策の拡充や賃上げの動きなど、環境面は以前に比べて確実に改善してきています。こうした変化が下支えとなり、出生率や出生数は横ばい(下げ止まり)に向かう可能性もあります。重要なのは、若い世代の経済的不安をひとつずつ取り除いていくこと。周囲の声に左右されるのではなく、自分たちのライフプランを軸に判断できる社会であるべきだと思います」

 かつて大きな話題となった丙午だが、結果的には同級生が少ないことによる受験や就職競争の緩和といった側面もあった。迷信そのものが、個人の人生に不利益をもたらす根拠は、現在では見当たらない。

 妊娠・出産において自分自身のタイミングを何よりも大切にし、周囲の雑音にとらわれることなく、夫婦ふたりにとって最良の時期を選ぶことこそが、現代における自然な選択と言えるのではないだろうか。

《風巻塔子》

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