「世界にないものを自分が見つける」三田国際科学学園の高校生が本気で挑む研究の舞台裏

 サイエンス教育とグローバル教育を両輪とする三田国際科学学園。メディカルサイエンステクノロジークラス&コース(以下、MSTC)では、生徒ひとりひとりが自らテーマを設定し、本格的な研究活動に取り組んでいる。MSTCに在籍する高校生3名と、教頭でMST部長を務める辻敏之先生に話を聞いた。

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「世界にないものを自分が見つける」三田国際科学学園の高校生が本気で挑む研究の舞台裏
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 サイエンス教育とグローバル教育を両輪とする三田国際科学学園。メディカルサイエンステクノロジークラス&コース(以下、MSTC)では、生徒ひとりひとりが自らテーマを設定し、本格的な研究活動に取り組んでいる。

 MSTCに在籍する高校生3名と、教頭でMST部長を務める辻敏之先生が語る、研究テーマとの出会いから日々の取組み、学会等の発表の場を経て見えてきたものとは。

【インタビュイー】
辻敏之先生:三田国際科学学園 教頭、MST部長
A.Sさん:三田国際科学学園8期生。現在、高校2年生
H.Yさん:三田国際科学学園8期生。現在、高校2年生
 ・A.SさんとH.Yさんは、放線菌がもつ物質の代謝経路を用いて、新規化合物を得るための共同研究を行なっている。
A.Sさん:三田国際科学学園8期生。現在、高校2年生。
 ・ドローンの走破性と地上移動ロボットの持続性という長所を生かし、短所を補い合うロボットを開発している。

入学動機は必ずしも「サイエンス」とは限らない

--今日お集まりいただいている生徒の皆さんは、なぜ三田国際科学学園を志望されたのでしょうか。校名に“科学”とありますが、幼い頃から科学に興味はありましたか。

A.Sさん:私は、外国人の先生がたくさんいることに魅力を感じ、英語ができるようになるかなと思って志望しました。 幼い頃は、絵を描くこと、ジグソーパズル、立体迷路パズルなどが好きで、科学に強い興味をもっていたわけではありませんでした。

英語力が身に付くことを魅力に感じ志望したというA.Sさん

H.Yさん:私は小学生のときに文化祭に遊びに来て、生徒の皆さんの姿がとても楽しそうだったことが理由です。 生徒主体で運営されるさまざまなプロジェクトがあるので、自分にも何か熱中できることが見つかると良いなと思いました。小学生のころはスマホアプリのパズルゲームが好きで、数字を動かして解くパズルや、素因数分解をするゲームでよく遊んでいました。今振り返れば、そうやって数字の世界が好きだったことも、MSTCへの入り口になったのかなと思います。

幼いころから数学の技能や知識の求められるゲームが好きだったというH.Yさん

A.Sさん:僕は、この学校の魅力はいろいろなことに挑戦できる機会があるところだと思います。学校説明会でもらった資料には多彩なプロジェクトや先輩の体験談が紹介されており、夢中で読みました。 僕は幼い頃からレゴでロボットを作る習い事に通っていて、世界大会に出場するのが憧れでした。SFや科学系の本や漫画を読むことも好きで、ロボットや宇宙などにはずっと興味があり、“サイエンス”と名の付くクラスには自然と憧れを感じました。

A.Sさんは「いろいろなことに挑戦できる環境が魅力的だった」と語った

ロボットに放線菌…高校生が挑む本格研究

--MSTCとはどのようなコースなのか教えてください。

辻先生:まず、本校には3つのクラスとコースがあります。

 ひとつはIC(インターナショナルクラス&コース)で、主要教科をオールイングリッシュで学びます。次にISC(インターナショナルサイエンスクラス&コース)では、中学2年次から「基礎ゼミナール」が始まり、理系から文系まで幅広い分野のゼミを選択できます。

 そしてMSTCです。こちらは1年次はISCで学び、中2からスタートするクラスです。中学1年次に身に付けた科学的アプローチを実践していき、高校進学後は約2年間で、生徒ひとりひとりがテーマを設定して研究活動を行います。

三田国際科学学園の教頭でMST部長を務める辻敏之先生

--生徒の皆さんが現在取り組んでいる研究テーマと、関心をもったきっかけを教えてください。

A.Sさん:不整地走行ロボット」の研究をしています。これは、ドローンの走破性と地上移動ロボットの持続性という長所を生かし、短所を補いあうロボットの開発を目指すというものです。先ほどお話ししたとおり、僕は子供のころからロボットという存在に興味があり、ファンタジー作品の中のロボットも、現実の産業ロボットも、かっこいいなと思っていました。高校に進学してから、ロボットを研究できるチャンスがあると知り、研究を始めました。

H.Yさん:私は、中学の理科の授業で、自分で手を動かして実験するのが好きだと気づきました。今、A.Sさんと一緒に放線菌という微生物がもつ代謝経路を利用して、新規化合物を得ることができないか研究しているのですが、微生物を使って化学の研究をするというのはそれまで聞いたことがなく、自分の手で世界にまだないものを見つけるという点に魅力を感じたのも、テーマ決定に大きく作用したと思います。

A.Sさん:三田国際科学学園には3つのサイエンスラボがあり、それぞれに「カルチャーラボ」という、高度な実験のできる施設が併設されています。大学の研究室レベルの設備で、私は中学生のころからこの「カルチャーラボ」でデータ分析などをしている先輩の姿を見て、自分も同じように実験を伴う研究がしてみたいという憧れがありました。ただ、テーマについて具体的に考えるようになったのは高1の4月ごろ。「ターム留学」から帰ってきてからです。

辻先生:本校では中3の3学期に「ターム留学」があります。これは中学校3年生の希望者が約3か月間オーストラリアに滞在して現地の学校で授業を受けるもので、中学のうちに留学を経験することで視野を広げ、英語力をさらに伸ばすことを目的としています。MSTCからも約半数の生徒が参加します。

A.Sさん:帰国後、先生方からさまざまな話を聞く中で「微生物の研究をしよう」と決めたものの、先輩のテーマを引き継いで生物系の研究を続けるか、新しいテーマに挑戦するかで悩んでいました。そんなときに、H.Yさんから「悩んでいるなら、化学系の研究を一緒にやらない?」と声をかけられました。思いがけない提案でしたが、一緒に研究するのも面白そうだと思い、挑戦することにしました

A.Sさんはテーマ選択に悩み「一時期は親にMST辞めていい?と泣きついたほどだった」と当時を振り返り笑った

生徒自らの興味関心が研究の種になる

--研究テーマを選ぶプロセスについて教えてください。

辻先生:先ほど申しあげたとおり約半数の生徒がターム留学に参加するため、高校生になったタイミングで、先輩や担当教員、スタッフが自身の研究事例を紹介する機会を設けるなどして意識付けをしています。

 スタッフというのは、教員以外で生徒の研究に伴走する専門家です。科学的アプローチのプロフェッショナルで、それぞれが専門分野をもち、高度なサイエンス教育を実現しています。

 生徒のテーマは、高1の4月半ばから6月ごろにかけて固まります。テーマ決定にあたっては、これまで先輩が取り組んできた研究の中から方向性を選び、そこから枝分かれさせていくことを勧めています。同じテーマであっても、人によって着眼点や興味は異なるため必ず個性が生まれてくるものです。3年次には大学受験の準備が始まるため、高校で研究できる期間は実質2年ほどしかなく、新しいテーマをゼロから立ち上げるとなるとデータを取る時間が短くなってしまうため、先輩のデータを引き継げるのは生徒にとってメリットが大きいのです。

 もちろん、新しいことに挑戦したい生徒もいます。学校としての制約はありますが、その条件を満たすのであればできるだけ実現できるようサポートしています。たとえば、レッサーパンダが大好きで、レッサーパンダの行動と環境条件の関係を研究している生徒などもいます。

高校生の探究に博士らが伴走

--ゼロから始めた高校生の研究が認められるまで、研究はどのように進めるのでしょうか。

辻先生:1人の生徒、1つのチームに対して1人の教員またはスタッフが研究指導をします。10の専門分野に各1名、 教員とスタッフ合わせた10名がそれぞれの専門性を生かしながら、生徒たちの研究を伴走しています。博士号をもつ教員は8名います。

A.Sさん:最初から3D CADやプログラミングの知識や技術があったわけではなく、ロボットに詳しいスタッフの方にゼロから教えていただきました。僕がお世話になっているそのスタッフの方は、ものづくりを介したサイエンスコミュニケーションを研究されている方で、ロボットだけでなくさまざまなものづくりに精通されています。

 ロボット本体の製作や実験、ロボットを動かすためのプログラム作成は、放課後に学校で取り組んでいます。スタッフの方が週1~2回ほど学校に来てくださるので、わからないことはその時に聞いたり、オンラインチャットで質問してアドバイスをいただいたりすることもあります。

H.Yさん:私たちは2人で研究をしています。サイエンスラボにある「カルチャーラボ」で一緒に作業していることが多いです。私たちの研究は微生物を扱うため、1日たりとも放置することができません。データを取るための観察や抽出実験はもちろんですが、放線菌を継続するための継代(新しい培地に植え替えること)も欠かせないからです。1人が来られないときは必ずもう1人が作業をしなくてはいけません。そうやって2人で助け合いつつ、学会での研究発表に向けて一緒に相談しながら頑張っています。

「データを取るための観察や抽出実験、放線菌の継代など、1日たりとも放置できない」とH.Yさん

A.Sさん:私たちを担当してくださっているスタッフの方は微生物の専門家で、大学では放線菌が作る新規化合物の探索やその合成メカニズムの研究に従事されています。学校には週5日来てくださっていて、私たちにとってとても心強い存在です。研究を始めたころは、道具の名称も操作方法も知りませんでしたが、スタッフの方から道具の使い方や培地の作成方法、そこで菌を培養する方法など、付きっきりでとても手厚く指導していただきました

 そのおかげで、今は基本的に自分たちだけで研究を進められるようになり、144通りの実験を実施する計画のうち、現段階で終了しているのは約60通りです。スタッフの方には、危険が伴うような実験などをお手伝いいただくほか、何かわからないことがあればアドバイスをいただいています。

--A.Sさんは「高校生国際シンポジウム」にも参加し、口頭発表において優秀賞を受賞されたそうですね。参加のきっかけと、そこで得た学びについて教えてください

A.Sさん:きっかけは、先生からクラス全体に案内があったことです。多くの人に自分の研究を知ってもらい、多様な視点からフィードバックをもらうことに興味があり参加を決めました。発表までの過程で感じたのは、自分の研究を人に伝える難しさです。自分が日常的に使っている器具や専門用語でも、他分野の人にとっては馴染みのないものであることが少なくありません。自分の主観で説明してしまいがちなので、それをどうやって分かりやすく伝えるかを考えさせられました。

 そのため、発表資料を作る過程で、自分自身の研究をより深く理解できました。極端に言えば、最終的には「この研究については世界で自分がいちばん理解している」と思えるくらいまで、理解を深めることができたと感じています。

「他の人に説明をする経験を通じこの研究については自分が一番知っているといえるくらいまで理解が深まった」(A.Sさん)

生徒を「ひとりの研究者」として扱う

--三田国際科学学園はさながら1つの研究機関のように感じられますが、どのようなこだわりをもち生徒に接しているのですか。

辻先生:教員やスタッフが共通して意識しているのは、「ただ答えを教えることはしない」ということです。生徒が不思議に思っていることを共有しながら一緒に考えていくことを大事にし、研究においては生徒たちをひとりの研究者として扱うことを意識しています。

 そのため、発表の場への参加も積極的に勧めています。先ほどA.Sさんが話していたように、何も知らない人に自分の研究を説明する経験を積み、どうやったら人に伝わるのかを考えてほしいからであり、賞を取ることが目的ではありません。もちろん成果が形に残ることは素晴らしいことですが、誰もやったことがない研究に挑戦しているからこそすぐに結果が出ないのであり、そこに希少な価値があるのです。

A.Sさん:私たちは、去年発表した段階では、実験結果はすべて失敗でした。だからといって、「こんなに苦労しています」とアピールするような発表にはしたくないと思いました。ただ、結果だけを見ると何も形になっていない状況であるのは確かで、こうした研究のことを知らない人から見れば、それは評価に当たらないのだなと、今でももやもやした気持ちが残っています。

辻先生:A.Sさんのような感情を抱くこと自体、彼ら・彼女らが「研究者」であることの表れだと思います。研究はタイミングもありますし、運もあります。理解してくれる審査員に当たれば評価されるし、そうでなければ評価されないこともあります。成果を出すことも大切かもしれませんが、それ以上に、自分たちが何をやりたいのか、何を追い求めているのかを大切にしてほしい。自分たちの研究に対して静かなプライドをもっていることは、とても大切なことだと思っています。

辻先生の言葉の節々から「生徒をひとりの研究者とみている」ということがにじみ出ていた

--高校生という立場で、一般の学会にも積極的に参加されていますね。

辻先生:はい。それも積極的に推奨しています。大学院生や大学の先生たちのポスターの横で、生徒たちが発表していることもあります。具体的には、日本農芸化学会、日本放線菌学会、日本蛋白質科学会、日本バイオインフォマティクス学会など、高校生部門ではないところにも参加させていただいています。

 研究者同士として議論ができるため実りが多いと感じていますし、生徒たちの満足度も高いようです。

世界がもっと面白くなる学び舎に

--中学受験生の保護者の皆さまへメッセージをお願いいたします。

辻先生:生徒たちの可能性は無限大です。我々はただ、「幸せになってほしい」と願っています。その幸せの形を自分で決め、自分がなりたいと思う姿、面白そうだと思ったところに向かって進んでいってほしい。 私たちは、そこへ向かうための力をできる限り渡しますから、ぜひ、この学校で「挑戦する自由」を謳歌していってほしいと思っています。

 いろいろなことに興味をもつ仲間に囲まれ、背中を押されて挑戦すれば世界がもっと面白くなる。そんな学び舎を目指しています。ぜひ文化祭などにも遊びに来てください。

--ありがとうございました。


 「生徒たちを『高校生』ではなく、『1人の研究者』として見ている」。辻先生のこの言葉どおり、3人の生徒の皆さんがお互いの興味や取組みを尊重し合う、研究者仲間のような雰囲気が印象的だった。自分だけの問いを深め、自分らしい答えを見つけていく…この学園での学びは、まさにそのような営みなのかもしれない。


<公式>三田国際科学学園中学校・高等学校
三田国際科学学園の【MSTC】についてはこちら

《なまず美紀》

なまず美紀

兵庫県芦屋市出身。関西経済連合会・国際部に5年間勤務。その後、東京、ワシントンD.C.、北京、ニューヨークを転居しながら、インタビュア&ライターとして活動。経営者を中心に600名以上をインタビューし、企業サイトや各種メディアでメッセージを伝えてきた。キャッチコピーは「人は言葉に恋♡をする」。

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