少子化が進む中でも首都圏の中学受験率は5万人を超え、高止まりの状況が続いている。「偏差値だけでは読み解けない、新たな人気校が生まれている」と四谷大塚 情報本部本部長 岩崎隆義氏は指摘する。
11年ぶりのサンデーショックに揺れた2026年度入試の分析と、2027年度に向けた学校選びのポイントについて聞いた。
学校選びは多様化の時代に
--2026年度の中学入試は、どのような入試でしたか。
2026年度の2月1日午前入試では、合計4万2,310人が受験。受験者数は前年比マイナス345人とほぼ横ばいでした。2月1日が日曜日に重なり、女子学院をはじめとするミッションスクールが入試日を変更することで、併願パターンに大きな変動が起きる、いわゆる「サンデーショック」に当たる年でした。
今年度に入ってからいちばん良く聞かれた質問といえば「前回のサンデーショックと比べてどうでしたか」というものです。結論から言えば、前回とは学校の勢力図そのものが変わっているため、単純な比較は難しいというのが正直なところです。
あえてあげるとすれば、渋谷教育学園渋谷(渋渋)の存在感が格段に大きくなったことでしょうか。これまでサンデーショックの年は、最上位層の女子受験生にとって「桜蔭と女子学院の併願」が最大の注目ポイントでした。しかし現在は、最上位層の進学先そのものが多様化していて、渋渋を有力な選択肢として考える受験生が増えています。サンデーショックという特殊な状況により、学校選びの多様化が浮き彫りになったといえるでしょう。

偏差値帯ごとの「人気校」
--2月1日の実受験者データからどのようなことが読み取れますか。
毎年注目されるのは2月1日午前の実受験者数ランキングです。東京・神奈川の入試解禁日であり、入試がもっとも密集しているのがこの日の午前入試です。そのため、ここに表れる数字はその年の志願動向を知るうえで重要な指標になります。
1位は開成で1,175人、ここは不動です。ただ、注目していただきたいのは2位以下です。
2位には安田学園が入ります。2026年は858人もの受験生を集め、前年比110%の80人増でした。しかも実質倍率は2.69倍です。数年前までは、安田学園にこれほど多くの受験生が集まるイメージをもてなかった方が多いのではないかと思いますが、これが今のリアルなデータです。

このランキングを見ていくと、3位に早稲田、4位に麻布、5位に吉祥女子、6位に駒場東邦と難関校が続きますが、女子の最難関の桜蔭は7位であるため、単純に偏差値順に並んでいるというわけではないことがわかります。また、17位には前年比でさらに受験者数を伸ばした聖徳学園が413人で入っています。この学校は武蔵境にある共学校で、高校課程に設置したデータサイエンスコースが注目を集めています。ほか、桜丘は21位で398人(前年比114%)、日本工業大駒場は22位で396人(同123%)と、いずれも大きく受験者数が増加しています。
ここから読み取れるのは、偏差値帯ごとの「人気校」が存在しているということです。かつてのような、無理をしてでもより高い偏差値の学校を目指すという時代ではなくなってきました。わが子の偏差値帯の中で、もっとも良い教育環境を見極めて、学校選びをするご家庭が増えているのです。
「面倒見の良さ」「楽しさ」各々の特色で支持される学校
--安田学園や桜丘が受験生を集めている理由はどこにあるのでしょうか。
一言で言えば、面倒見の良さです。
学習習慣がまだ十分に身に付いていないお子さんをもつご家庭にとって、「学習面についてはお任せください」と言ってくれる学校は非常に心強い存在ではないでしょうか。勉強をめぐって親子げんかになるご家庭も少なくありませんから、学校がその部分を引き受けてくれるという安心感は大きいはずです。
安田学園はまさにその代表格で、近年は高い人気を集める学校となっています。文教大付属も前年比で出願者数が861人増えており、こちらも面倒見の良さが評価されている学校と言えます。

--面倒見の良さとは異なるアプローチで人気を集めている学校もありますか。
埼玉の西武学園文理が面白い動きを見せています。受験者数が前年比で461人増加しています。1月実施入試のみの学校ですが、1クラス増設となりました。
この学校の校長先生のメッセージは、「学校はワクワクドキドキするところでなければならない」とシンプルです。先ほどの安田学園や文教大付属が「学習習慣をしっかり身に付けさせる」というアプローチだとすると、西武文理は「学校が楽しければ興味関心が芽生え、結果として勉強に向かう」という考え方です。
どちらが正解ということはありません。お子さんのタイプによって響くアプローチは異なりますし、学校側がそれを理解したうえで、自校にあった教育を打ち出せるかどうかが、今、問われているのだと考えています。
--ほかに注目すべき学校はありますか。
鎌倉国際文理です。鎌倉女子大学の中等部が共学の新設校として生まれ変わった1年目で、前年比406人の受験者増加です。校長の漆間 浩一氏の「文理横断・文理融合の学力が求められる今日、文理は、旧(ふる)くて新しい言葉である。知と力、心と業をもって、本学の教育の理念である『感謝と奉仕』に生きるひとりひとりを世に送り出す」といった教育ビジョンへの期待感から、2026年度は多くの受験生を集めました。
埼玉栄にも注目しています。医学クラスを設置して11年が経ちました。3期目の卒業生からは2桁、その後も順調に医学部進学者を輩出しています。偏差値40台の入り口から入学した生徒を、6年間の指導で医学部に送り出しているのですから、これは注目に値します。国公立大や早慶、明青立法中の合格実績も過去最高を更新しており、大学進学実績全体が伸びている学校です。

明治大学付属世田谷も外せない存在です。男子校だった旧・日本学園が明治大学の系列校となり、共学化した初年度の2026年度入試では、実受験者数ランキングで25位に入りました。明治大学の高いブランド力と都心からの優れたアクセスを背景に、一気に注目を集めています。
受験率30%超…中学受験生が増え続ける理由
--少子化が進む中で、なぜ中学受験者数は増え続けるのでしょうか。
東京都23区の中学受験率は30.2%で過去最高を更新しました。文京区57.1%、港区50.5%と、都心部では2人に1人が受験する時代です。

しかも来年度入試を控える現小学6年生数は1都3県で前年比1,800人弱増加しており、4大模試すべてで受験者数が増えています。来年度はさらなる受験者数の増加もあり得るでしょう。

背景にあるのは、「わが子にあった教育環境を確保したい」というご家庭の思いです。お子さんを地元の小学校に通わせる中で、「このまま中学もこの延長線上で良いのだろうか」と考え、中学受験が視野に入ってくるご家庭は今後も増えていくのではないでしょうか。
AI時代に求められる「考え続ける力」
--AI技術の急速な進展は、教育にどのような影響を与えるとお考えですか。
今年の共通テストでChatGPTが9科目で満点を取り、15科目の平均得点率は97%でした。東大文科I類の合格ボーダーラインが88%ですから、AIはらくらくと東大合格ラインを超えているのです。
このニュースから「もう人間が勉強する意味がない」と考えるのは早計です。AIがこれだけの成績を出せるようになった今、「覚えた知識をテストで書き出す」という従来のものさしでは、人間の能力を測ることができなくなったと考えるべきです。
では何が求められるのか。AIが出してきた答えを鵜呑みにせず、「本当にそうだろうか」「別の切り口はないか」と問い続ける力です。問いを立て、仮説を検証し、対話を通じて思考を深めるといった一連の力をしっかり身に付けることが今、求められているのではないでしょうか。
--探究学習も質が問われますね。
おっしゃるとおりです。まず教科書の内容をしっかり理解し、基礎学力を積みあげたうえでの探究でなければ、深い思考にはたどり着けません。特に数学的な論理的思考力は、どの分野に進むとしても不可欠です。
基礎基本をしっかり身に付けたうえで、主体的に考える力を積みあげていく。こうした教育ができる学校かどうかを、保護者にはしっかりと見極めてほしいと思います。
偏差値だけで学校を選ばないために
--学校選びのポイントを教えてください。
偏差値の高い順に志望校を並べるだけの学校選びでは、お子さんに本当にあった学校には出会えません。まずは合不合判定テストの志望者データや、ご自宅から通える範囲の学校を調べてみてください。人気校には、人気が高いなりの理由があります。



また、気になった学校には実際に足を運んでみることが大切です。生徒のようすや先生との関わり方、学校全体の雰囲気などは、現地でこそ実感できるものです。
--子供のやる気は、どのように引き出せばよいのでしょうか。
お子さん自身が、行きたい学校を見つけることが非常に大切です。お勧めは、まず親が候補校を3校程度に絞り、その学校に子供を連れていって「どこがいちばん良かった?」と選ばせる方法です。「うちの子は主体性がなくて」とおっしゃるご家庭にも、このやり方は有効です。
子供自身が行きたいと思える学校が見つかれば、勉強への姿勢が変わります。小学6年生の夏以降に大きく成績を伸ばす子がいますが、そのための条件は2つあります。ひとつは、勉強のペースを上げる余地が残っていること。もうひとつは、行きたい学校が見つかっていることです。憧れの学校が見つかれば、親に言われなくても頑張れるものです。この内発的な動機こそが、中学受験を乗り越えるためにいちばん必要な力なのです。

学校は「友」を作る場所
--最後に、2027年度の受験生と保護者にメッセージをお願いします。
子どもの力を引き出すために親ができることを突き詰めると、「どういう環境を用意するか」に行き着きます。ここで言う環境とは、先生の質だけではありません。いちばん大きいのは「友」の存在です。切磋琢磨しあえる友がいれば、人は苦しくても踏ん張れます。自分だけが勝てば良いのではなく、周りの仲間と一緒に勝とうとする心を育てること。これこそが私学の6年間で身に付けてほしい力です。
小学校高学年から中学生にかけては自我が芽生え、子供が自分で考え、自分らしい価値観を育んでいく大切な時期です。だからこそ今、わが子にあった環境を丁寧に選んでほしいと思います。偏差値にかかわらず、素晴らしい学校はたくさんあります。お子さんが自分らしく成長できる「人間力を育てる学校」が、きっと見つかるはずです。
--ありがとうございました。
従来のものさしでは測れない学校が次々と台頭する今、学校選びの軸もまた変わりつつある。大切なのは、親子で学校に足を運び、「ここだ」と感じる直感を信じること。データが示す人気校の顔ぶれが、その第一歩を後押ししてくれるはずだ。
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