「AIがあるのになぜ勉強するの?」子供への答え方

 「AI があるのになぜ勉強するの?」と子供に聞かれたら?「個別指導コノ塾」の多店舗展開を通じて教育業界の変革に挑戦しているコノセル代表取締役 CEO 田辺理氏に、AI 時代の教育について寄稿してもらった。

教育・受験 未就学児

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 「AIがあるのになぜ勉強するの?」と子供に聞かれたら?AI時代に教育は、そして保護者の役割はどう変わるのか?

 「学びを通じた一生モノの成功体験を、すべての人に。」というビジョンのもと、「個別指導コノ塾」の多店舗展開を通じた教育業界の変革に挑戦する田辺理氏が、『頑張りすぎを手放して子どもの「なりたい自分」に伴走する100の声かけ』(笠間書院)を上梓。教育現場での実践と本書の内容をもとに、AI時代の教育について寄稿してもらった。

【田辺理氏プロフィール】
株式会社コノセル代表取締役CEO。一橋大学卒業、カリフォルニア大学バークレー校MBA。日本政策投資銀行、ボストン・コンサルティング・グループを経て、2014年にQuipperへ参画。同社のリクルートグループ入り後は、スタディサプリ事業を牽引した。2020年、テクノロジーとリアルな学習空間を融合させた新しい教育の形を実現すべく、コノセルを共同創業。「個別指導コノ塾」の多店舗展開を通じて、教育業界の変革に挑戦している。二児の父。

AI時代に教育はどう変わるのか?4つの視点

 10月23日、東京の国連大学で開かれたイベントに参加した。教育や人事領域のビジネスマンがアジア各国から集まり、AI時代に仕事や教育がどう変わるかを話し合う場だった。どの国のどの領域の人も、AI時代に教育や人事がどう変わるかについて、明確な答えはまだもっていなかった。しかし、答えがないからこそ、さまざまな視点が交わる中で、私自身も大きく4つのことを考えていた。

① 社会がAIで大きく変わっていく中で、仕事の中身も変わっていく。その変化に対応するために、人はこれまで以上に社会に出てからも学び続けることになる。
② AIにより、学ぶ手段はますます多様になり、便利になる。わからないところを聞く、文章を直してもらう、といったことは、すでに日常になりつつある。
③ 学び続けられるかどうかは、手段ではなく「続ける力」で決まる。そして、学び続けるためのガソリンは、AIではなく、人との関わりだと私は考えている。
④ その意味で、教育でも、人のコミュニティの役割がこれまで以上に大きくなっていく。

 この4つの点について、家庭での子育てや教育に照らし合わせながら考えてみたい。

学び方(How)は変わる。「なぜ学ぶか」(Why)は変わらない

 「AIで教育はどう変わるのか」とよく聞かれる。私は、教育の変化を「なぜ学ぶのか(Why)」「何を学ぶのか(What)」「どうやって学ぶのか(How)」の3つに分けて考えている。

 「なぜ学ぶのか(Why)」は変わらない。社会と自分を理解し、自分らしく幸せに生きていくために学ぶ。これが学ぶということの根本的な意義であり、AIが登場しても、変わらないと考えている。次に、「何を学ぶのか(What)」は変わっていく。社会が変わるのだから、学ぶべき内容も変わる。

 ただし、学習の段階によって変化の大きさは違う。小中学校で学ぶ基礎的な科目は、大きくは変わらない。その後の発展的な内容を理解するための前提で、そもそも基礎なので、時代の変化の影響を受けにくいからだ。一方で、仕事や社会との接点に近づくほど、高度な学習内容になるほど、学ぶ内容は変わっていくはずだ。AIがあることを前提にして人が担う仕事内容を考え、AIがあることを前提に仕事で必要となるスキルを身に付けていくことになる。

 そして、「どうやって学ぶのか(How)」がいちばん変わる。むしろ、すでに変わってきている。家庭学習でわからないところをAIに確認する。自分で書いた英作文をAIに採点してもらう。そのような事例から始まり、これからは、より複雑な学習の流れをカバーするサービスも出てくるだろう。ただし、小中学校や高校で学ぶ内容は、将来働くための基礎固めであり、学ぶ内容自体が急に変わるものではない。

 だからこそ、その学齢のお子さまをもつ保護者の方たちには、お子さまが今学んでいることがムダになることはないのでご安心いただきたい。たとえば、電卓が普及しても、計算力や数値感覚が不要にならないのは、計算すべき目的や桁が間違っていないかといった数値のスケール感…そうした判断に人間の感覚が今なお必要だからだ。同じように、AIが普及した時代にも基礎的な知識とそれを組み合わせて考える力は必要であり続けるだろう。

 もっとも、「なぜ学ぶのか」の根本が変わらないことと、子供が「なぜ学ぶのか」を納得できることは別の話だ。大人にも将来が見えない今のような変化の時代には、「なぜ今これを勉強するのか」が子供にはいっそう見えにくくなる。そのため、こんな問いを投げかけられる家庭が増えているのではないだろうか。

「AIがやってくれるんだから、人間は勉強しなくて良いでしょ?」

子供がこう聞きたくなる気持ちもよくわかる。調べ物も文章づくりもAIが手伝ってくれる時代に、「じゃあ人間はなぜ勉強するのか」と感じるのは自然なことだ。しかし、AIは聞かれたことには答えてくれるが、何を聞くかを決めるのは人間だ。

 AIに「面白い物語を書いて」とだけ頼めば、ありきたりな物語が返ってくる。ところが「江戸時代を舞台に、猫が活躍する、ミステリーを書いて」と具体的に頼むことができれば、面白いものが返ってくる確率は上がる。この設定を思いつくには、歴史の知識や本のジャンル、一見珍しい組み合わせを考える発想力が求められる。勉強は、AIと勝負するためではなく、AIを使いこなす「賢い司令塔」になるためのものなのだ。

学び続けるガソリンは、人との関わりから入る

 理屈がわかったからといって、子供が机に向かうとは限らない。「なるほど」と思うことと、「やってみよう」と思うことは、別だからだ。では、子供が「やってみよう」と思うために必要なものは何だろう。学ぶ手段がこれだけ増えると、わからないことはいつでもAIに聞ける。学ぶ意欲さえあれば、いくらでも学べる時代になる。だからこそ、いちばん重要になるのは意欲だ。

 私たちはコノ塾という小・中学生向けの学習塾を運営している。塾運営を通じて多くの生徒と接する中で、意欲というのはAIが与えてくれるものではないと感じている。卒業生の声を聞くと「人とコミュニティ」の影響力を実感する。家ではスマホばかり触ってしまう子が、自習室で集中する仲間の空気に「不思議とやる気になれた」と語る。偏差値が足りず志望校を諦めかけた受験生が、先生の「まだまだ伸びるから一緒に頑張ろう」という一言で覚悟を決める。

 「あの人のようになりたい」と感じる憧れ、「やってみたい」という欲求、「自分にもできるかもしれない」という確信。こういったものは、人との関わりの中から入ってくる。そばにいる人が、子供の気持ちを動かし、学び続けるガソリンになるのだ。

いちばん小さなコミュニティは、家庭

 冒頭に「学び続けるために、コミュニティが重要になる」と書いたが、私は家庭こそ重要なコミュニティだと考えている。子供にとって、家庭はいちばん小さく、身近で影響力のあるコミュニティだ。一方で、身近すぎるからこそ、適切なバランスを取ることは非常に難しい。私自身も1人の保護者として、日々悩みながら子供と向きあっている。いちばん難しいと感じるのは、自分の価値観の押しつけにならずに、本人の考える力や意志をどう尊重するか、ということだ。

 「なぜ学ぶのか(Why)」、つまり子供が「なぜ学び、どんな自分になりたいのか」を考えるのを手伝うこと。この点にフォーカスをあて、子供の考えや意欲を引き出すこと。そして、子供の意欲を支える「学び続けるガソリン」の供給者になること。そのようなコミュニケーションのコツを、教育現場の知見や心理学を元に整理し、「『なりたい自分』を実現するための声かけ10箇条」としてまとめた。ここでは、そのうち3つを紹介する。

ガソリンを入れる3の声かけ

第1条【主体性】芽を出すのは子供自身

 保護者がさせたい方向にコントロールする「誘導」は捨てよう。保護者にできるのは子供に水をやることまでで、いつ、どんな芽を出すかを決めるのは子供自身の意思だ。

NG:「この学校に行きなさい」
OK:「本当はどうしたいの?」(本人の意思を出発点にする)

 ただ、自分の意志を聞いても、最初は答えられない子も多い。答えたくないのではなく、自分なりのモノサシをまだもっていないからだ。「行きたい学校がない」と言う子も、多くは「何を基準に選べば良いかわからない」だけだと思う。そんなときは、もう少し具体的に想像ができるような話に絞っていく。たとえば、「この部活があるなら楽しそう」という、小さなワクワクから始める。「オープンスクールに行ってみようか」と誘い、「どう感じた?」と聞いてみる。小さな感想を引き出すことで、進路や将来は少しずつ「自分ごと」になっていく。

第4条【言語化】成功の理由は、保護者が語らず子供に語らせる

 子供がうまくいったとき、保護者が解説するのではなく、「どうやって解いたの?」「何がヒントだった?」と問いかける。拙くても、自分の言葉で成功パターンを語らせることで、再現性が高まる。

NG:「あなたが頑張ったからよ」
OK:「今回はどういう作戦でうまくいったの?教えて」

 たとえば、テストが返ってきた日。保護者が先に「良い点数」「悪い点数」と評価すると、子供の中での思考が止まってしまう。まずは「この点数、自分ではどう思ってる?」と聞く。「悔しい」と言えば「どこがいちばん悔しかった?」と、答えを否定せずに拾う。そのうえで、「今回はどうやって勉強したの?」「どこを見直したから解けたと思う?」と、点数に至る過程を語ってもらう。最後は「じゃあ、次どうする?」と未来につなぐ。正解を出させる必要はない。「もう少し見直す」くらいの小さな気付きで十分だ。保護者が答えを渡すのではなく、子供の言葉を待つ。その積み重ねが、「自分の考えを言葉にする力」になる。

第6条【意義】勉強は将来の自由を守る「思考の筋トレ」と心得る

「なんで勉強するの?」と聞かれたら、「考え方の筋力をつけるため」と伝える。プロ野球選手でなくても腕立て伏せをするように、勉強は将来の選択肢を広げ、自由に生きるための基礎体力づくりだ。

NG:「良い大学に入れないよ」
OK:「大人になった時に、自分の好きなことを選べるように力をつけているんだよ」

 ただし、この説明で、子供が一度に納得するとは限らない。「今すぐ意味がわからなくても、あとで『あ、これか』って思う日が来るよ」と、軽く付け加えるくらいがちょうど良い。理解させようとしすぎず、「今はそういう時期じゃないだけ」と位置づけることがポイントだ。勉強の意味は、保護者が説明して納得させるものではなく、子供自身がいつか自分の言葉で見つけるものだ。保護者にできるのは、その日が来るまで、「考える力は、自分の自由を守ってくれる」という見方を、さりげなく渡し続けることだと思う。この3つに共通するのは、決めるのは子供、保護者は子供が自分の言葉を探すのを待つ、という姿勢だ。保護者の声かけは、子供に答えを渡すものではなく、子供が自分で動き出すためのガソリンになる。

手段が増える時代に、人にしかできないこと

 AIが社会に浸透し、学ぶべき内容は変わり、学ぶ手段も増えていくだろう。AIがわからないところに答えてくれて、練習問題をつくってくれて、作文を直してくれる。それはとても心強いことだ。ただ、学び続けるためのガソリンは、AIが入れてくれるものではない。子供にとっては、そのいちばん近くにいる人、つまり保護者の声かけが、その入口になる。学ぶ手段の話だけでなく、学ぶ意味や学んだ先の明るい未来を、子供本人が考えるきっかけをもつこと。そのことが、これまで以上に重要になる。

 書籍では、「進路・将来の不安」「毎日の勉強・やる気」「メンタル・自己肯定感」「勉強の面白さ」「社会とのつながり・自立」の5つの章に分けて、子供の「こんなとき」にかけたい言葉を、NG例とOK例、会話を広げるヒントとともに紹介している。「AIがやってくれるから勉強しなくて良い?」と言われたときの答え方も、その1つだ。保護者も人間だから、完璧ではない。時には感情的になることもある。それでも、子供にとって「最強のセーフティネット」となり、前向きな言葉をかけ続ければ、子供は安心して自分の人生を歩み始める。そのための声かけに、少しでも興味をもっていただけたら嬉しい。

《編集部》

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