【被災地で学習支援】震災復興はゼロからプラスの段階へ

 被災地を訪れるのが5回目となるボランティア参加者の一人は、現在の東北での教育ボランティアが「ゼロをプラスにする、子どもたちの将来の選択肢を広げる教育をしているのでは」という。

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インタビューに協力してくれた「学びの部屋」参加者の下野高平さん(右奥)
インタビューに協力してくれた「学びの部屋」参加者の下野高平さん(右奥) 全 6 枚 拡大写真
◆リピートすることで得られる距離感と満足感

--今回被災地に来るのが5回目という下野さん。これまでボランティアを続けられた経緯を教えてください。

 関西出身で、阪神淡路大震災のときに遺体の安置所になっていたのが、ぼくが通っていた高校だったりして“震災”自体は昔から身近に意識していたのです。

 3.11のときは、自分と似た顔立ちをして同じ言葉をしゃべっていて、そして自分と同じような家に住んでいる人たちが、テレビの中で想像のつかないような苦難を強いられている一方で、ぼくの住んでいた関西は放射能も地震も関係なくて、主観的なような客観的なような宙ぶらりんな自分がいました。

 でも、やはり何かしたいという思いは強くて。大学の合格発表の前から被災地に足を運び、大学に入っても活動を重ねました。現地での活動後にぼくの名前を書いて、また来てほしいという子もいたりして。そういったことがとても嬉しくて続けてきました。

--活動を重ねていくうちにどのような変化を感じましたか。

 活動を通じて変わったことは2つあります。1つ目は、リピートして訪ねることで、より子どもたちと仲良くなれたことです。距離が縮まる実感も、自分も「この子、前は騒がしかったのに、学年が上がってしっかりしてきたな」だとか「前よりも心を開いてくれるようになったな」など、子どもたちの変化に気付けたりするので楽しみが増えました。

◆マイナスからゼロ、ゼロからプラスへ「地方との教育格差是正と似ている」

 2つ目は、活動の効果がマイナスからゼロではなく、ゼロからプラスの段階にきていることです。

 どういう事かといういと、震災後ぼくが初めて被災地に行ったときは、仮設(住宅居住の)の人たちが本当に多いし、メディアなどで騒がれる中であまり落着けない様子だったようです。恐らくこの活動ができた当時は“安心して学習できる場を提供する”という趣旨に沿った活動ができていたんだと思います。

 ただ、現在実際にやっていることはぼくたちが子どもたちに親身に話を聞くというより、向上心を持たせ、子どもたちが受身の姿勢では知ることができないような情報を提供する。東京の大学や仕事について話してみることで、将来の選択肢をひろげていくような活動で。これまでの“被災地ボランティア”とは違った形になりつつあると思います。“地方の教育格差是正”とやっていることが似ているというか。今やっていることが被災地でしないといけないのか、というとそうとは言いづらい状況ではないでしょうか。

 ただ、だから何もしないというわけではなくて、ぼくたちが接しているのは紛れもなく将来の東北復興の担い手なので。被災地の子どもたちが未来の東北を変えるような広い視野を提供することに貢献できたらよい、と考えています。

--ありがとうございます。

 “復興”とはどこまでのことを指すのか、明確な定義もなく、さらに復興の担い手への教育は、見えにくいものが多く、どこまでが十分なのかを示しづらいものである。

 ただ、そんな中でも復興への参加を続けた下野さんの目には、明らかな変化が見て取れているようだった。そして、“また会いたい”という子どもたちの声がある限り、このボランティアを続けるのかもしれない。
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《北原梨津子》

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