【NEE2015】戦後、明治に次ぐ第三の教育改革…安西祐一郎氏
New Education Expo 2015において、日本学術振興会理事長の安西祐一郎氏が「明日の日本を創る教育改革 ~高大接続・学習指導要領改訂を中心に~」の特別セミナーを行った。
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安西氏は、まず現在の少子化問題で18歳人口が1993年以降大きく減少したことを示した。さらに、国家財政の逼迫、学生の目標喪失、不登校など、子どもたちが直面しているさまざまな問題をあげた。
その上で、現在の学習時間の減少について言及。高校生を対象にした調査によると、1990年は学力中間層の生徒は平日平均112分を学習時間にあてていた。しかし2006年には約半分の60分まで減ってしまった。大学生も同様に、アメリカでは6割近い学生が11~15時間を1週間の学習時間としているのに対し、日本では6割が1~5時間という結果になっている。
こうした傾向のなか、学生が「主体性をもって、多様な人々と協力して学び、働く力を得る」ための教育の機会をつくるため、大きな転換が必要と説いた。「明治、戦後に続く、3度めの大きな教育転換期にあたる」と、安西氏は強調する。
教育改革のひとつが学習指導要領の抜本的改定、もうひとつの大きな柱が「高大接続システム改革」である。
◆学習指導要領は、時代に合わせた指導方法へ
まず、学習指導要領の改定には、大きな特徴が2つあるという。新しい時代に備えた学習指導方法と評価だ。たとえば、英語においては従来のリスニング、リーディングだけでなく、ライティング、スピーキングも入れた4技能を身につけていきたいとしている。それにともない、今後ますます重要になってくるのが、それを指導する教員の研修だ。
また、アクティブ・ラーニングなどの新しい学習・指導方法に対応した評価方法の改善も求められている。
◆主体的な学びを目指す「高大接続システム改革」
高大接続システム改革では、「高等学校基礎学力テスト(仮称)」や「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の導入が注目されている。ただし「入試だけ変えても意味はない。立体的にシステムとして変えていく」と、安西氏は語った。
新テストの導入において、複数回テストを受けられるようにすることで、生徒が自分からテストを受けに行くシステムをつくり、主体的に自分を伸ばし学びを変えていく土台を固めていく。また、多角的評価による大学選抜で、個人の活動なども評価の対象になっていく。これにより、特色ある人材育成が期待される。
安西氏は「日本の義務教育制度は、世界に誇るもの」だとする一方で、割り算や三人称のわからない子どもが増えていると話す。「トップレベルと言われる学校でも、果たして世界に通用するリーダーシップを身につけているのか疑問」だという。
グローバル社会においては、基礎学力だけでなく教養までを身につけ、さらにそれらを“臨機応変に”活用できる思考力・判断力・表現力が必要となってくる。「自分で学び、力を身につけなくては生き残れない時代」には、主体性・多様性・協働性が何よりも大切になってくる。「自分で考えて問題を解く」ためには、ICTの活用が有効であるという。
◆ICT教育の効用と課題点
ICT導入の効果として、コミュニケーションが活発になり、子どもの学習意欲が高まることが報告されている。一方で、ICTを積極的に導入している小学校からは、「学校でICTを活用して子どもたちを育てても、その後の大学ではきちんと受け皿を用意しているのか」という疑問の声も上がっている。実際、日本の大学は、まだ現代のスピードに合った教育が追い付いていない。「端末だけを与えて授業を行うのでは何も変わらない、どうICTを使っていくかが重要だ」と、安西氏は改めて強調した。
さらに、「教育の現場で人間工学的に自然に使うためには、まだまだハードもソフトもギャップがある。もっと子どもたちが自然に使える情報端末を開発してほしい」と訴えた。
「教育の改革は社会の改革に等しい。これらの教育改革が成功するかどうかは社会の問題である。地域や企業なども協力し、小手先だけの変更にならないように、未来を生きる子どもたちの幸せを考え、努力するのは大人の義務である」として、古い教育のままでいかないよう着実に進めたいと、締めくくった。
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