スポーツ歯科とは? 2020年五輪に向け重要性が高まる歯科医の活躍

 全国の市立歯科大学・歯学部(15大学17歯学部)が加盟する一般社団法人日本私立歯科大学協会は10月21日、国民生活と密接な関わりを持つ歯科の最前線を伝える「第5回目 歯科プレスセミナー」を開催した。

生活・健康 保護者
明海大学 安井利一学長(一般社団法人日本私立歯科大学協会 副会長専務理事)
明海大学 安井利一学長(一般社団法人日本私立歯科大学協会 副会長専務理事) 全 11 枚 拡大写真
◆咬み合わせの良さが有効に作用するスポーツもわかってきた

 咬み合わせは、スポーツ全体の約70%の種目でパフォーマンスに関わってくると考えられている。たとえば、射撃やアーチェリーなどの競技種目では、咬み合わせの面積が広いことが重要と推察されている。これは、咬み合わせがなくなると頭が動き、その動きのバランスをとるために手足が動くと言う「姿勢反射」が起きるからだ。

 また私たちの体には、ある部位に力を入れると離れた部位の筋肉が興奮する「遠隔促通(えんかくそくつう)」という機能が備わっている。そのため、歯を咬みしめて咬筋(こうきん)を収縮させると足や手首で伸筋と屈筋が興奮し、関節が固定される。これを利用すれば瞬間的に関節を固定する重量挙げや腕相撲、あるいはテニスでボールを打つ瞬間などに運動の効果が高まると推察される。逆に、舌を出すなどして歯を咬みしめない状態にしていれば、関節が固定されないので素早くしなやかに動ける。テニスや野球などでボールを打つ瞬間以外はリラックスしていたほうがいいのは、こうした理由からだ。「筋力をうまく使うには練習を重ねることが重要。それも、ただ繰り返し練習するのではなく、歯科医学的なエビデンスを取り入れながらより効率的に練習することが必要」と安井学長は強調する。

◆「スポーツで前歯を失う子どもを減らしたい」―予見学習やマウスガード装着の普及啓発にも取り組む

 アスリートのパフォーマンスに加えて、スポーツ歯科では体育活動における外傷予防も重要なテーマとして捉え、啓発活動にも取り組んでいる。スポーツで前歯を失う中学生・高校生は多く、それを減らしていくには子どもたちに対する教育が重要になるからだ。

 ルールの理解や技術の習得、用具の管理に加えて、教育で特に重要なのは「予見学習」である。すでに体育活動における過去のデータを見れば、どの競技で外傷が多く起こっているか、また外傷がどの部位に多いかもわかっており、そのエビデンスを基にきちんとサポートすることが求められる。そしてもう1つ重要なのが安全具の装着だ。中学校のバスケットや高校の野球は外傷が多く、その部位も上の前歯に集中していることから、こうした体育活動でマウスガードの装着が徹底されれば外傷の可能性は大きく減る。

◆超高齢化社会を迎えた日本で歯科医療教育はますます重要に

 安井学長の講演の後には、神奈川歯科大学大学院口腔科学講座社会歯科学分野の山本龍生教授より、「歯の健康とその後の認知症・転倒・要介護の関係―歯科から健康寿命延伸への貢献を目指して―」と題した講演が行なわれた。

 日本人の「要介護」の期間は世界的に見ても長く、いかにして健康寿命を伸ばすかが重要な課題になっている。そんな中、最近の研究において歯の健康が悪化することで認知症や転倒・骨折のリスクを高めることが明らかになってきた。これは、「要介護状態になったために歯の手入れができなくなって歯の健康が悪化する」というこれまでの想定とは逆のルートであり、山本教授は要介護の約55%が歯の健康と関連していると見ている。私たちが「8020」(80歳で20本以上の歯を保つこと)を達成し健康寿命を伸ばすためにも、歯を失う原因となる虫歯と歯周病の予防がますます重要である。

 次ページでは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた認定医やスポーツデンティストの取り組み、QoL向上に向けて歯科医会取り組む啓蒙活動を紹介する。
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《編集部》

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