誤って届いた合格通知、不合格を覆す力はあるか?

 合格、不合格の通知をめぐるトラブルや事件を受け、入学することはできないのか、また、合格通知を受け取ったことにより不利益があった場合何かしらの請求ができるのかを、自身も一児の母である島田さくら弁護士に聞いた。

教育・受験 保護者
島田さくら弁護士(東京弁護士会所属)
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 2016年2月、佐賀県の県立中学校の入学試験で本来不合格だった受検者に対し、学校が合格通知を送るミスが発生した。県教育委員会は合格通知の誤送付に関し謝罪したが、受検者は不合格とされたまま入学は認められなかった。

 合格、不合格の通知をめぐるトラブルや事件を受け、入学することはできないのか、また、合格通知を受け取ったことにより不利益があった場合何かしらの請求ができるのかを、自身も一児の母である島田さくら弁護士に聞いた。

◆誤送付だけでは覆せない合否判定

 県立中学校への入学が問題となる場合は、中学校がこの受検者を不合格と判断して「入学させなかった処分が違法だ」「県立中学校の生徒としての身分がある」と争うことになります。

 しかし、学校が適正な採点基準に基づいてこの受検者を不合格と判断したのであれば、入学させないという処分の結論自体は正当なので、受検者の側から入学を求めることはできません。その後、間違って合格通知を送ってしまったとしても、不合格の判断が間違いだとか、入学させないことが学校の裁量の濫用であり違法だとかいうことにはならないでしょう。

 ただし、合格発表後しばらく経って学校から「やっぱり不合格でした」と言われてしまうのでは困ってしまいますよね。たとえば、入学手続きをして実際に入学したあと、実は不合格だったということが判明しても、さすがにこの段階で入学は「やっぱりなし」というのは、信義に反し許されないでしょう。入学手続きのどの段階まで進めば学校が一度表明したことを覆せなくなるかについては、さまざまな事情を考慮して、ケースバイケースで判断されることになります。

◆公立と私立で異なる考え方、在学契約が判断基準

 公立の場合には、行政処分を争うことになりますが、私立の場合には、学校側と受検者との間で契約が成立していたかという観点から考えることになります。入学を求めるには、学校と受検者との間で在学契約が成立したといえることが必要です。

 契約は、片方が申し込んで、もう片方が承諾することによって成立しますが、合格通知が届いただけでは契約の中身もわかりませんので、学校側から在学契約の申込みがあったとはいえないでしょう。そうすると、合格通知が届いて受検者が入学したいと思っても、まだ契約は成立していないので、学校側は受検者を入学させる義務を負いませんし、受検者側から入学を求めることもできません。

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《編集部》

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