おおたとしまさ氏に聞く、中学受験「塾」との付き合い方…やめませんか?親の受験テク競争

 増加傾向にある中学受験。がんばりすぎない・子どもを潰さない・親子で成長できる…“笑顔”で合格のための秘訣を、教育ジャーナリスト・おおたとしまささんが語る。第2回目は「塾との付き合い方」について聞いた。

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 増加傾向にある中学受験。がんばりすぎない・子どもを潰さない・親子で成長できる…“笑顔”で合格のための秘訣を、教育ジャーナリスト・おおたとしまささんが語る。第2回目は「塾との付き合い方」について聞いた。

 ※インタビュー第1回目 「おおたとしまさ氏に聞く、中学受験で陥りやすい「最悪な親子関係」…笑顔で12歳の春を迎えたい親子へ」はこちら

 ※インタビュー第3回目 「おおたとしまさ氏に聞く、中学受験「志望校選び」のコツ…併願校は偏差値表を活用」はこちら

--塾を選ぶ際のコツはありますか?

 どういう子がサピックスに向いていて、どういう子が四谷大塚に向いているとか、本や雑誌にいろいろ書いてますけど、あれを読んでも結局はよくわからないと思います。親なら全員、塾の合格実績を見て「うちの子も頑張ったら灘や御三家に入れるかも!」と思ってますよ(笑)

 理想としては、塾に入る前に全国統一模試を受けたり、いくつかの塾の入塾テストを受けてみて、その結果次第で選べばいいと思います。強気に行こうと思えたならサピックスや浜学園のような難関校に強い塾に入ればいいし、今の時点ではちょっと厳しいかもと思えば、もう少しペースダウンした塾を選ぶのもいい。その子によって成績の上がるタイミングはさまざまなので、もしスタート時点は低めであってもそこからぐんぐんと伸びて余裕ができれば、塾のレベルアップを考えてみるのもいいでしょう。

--親は塾と具体的にどう関わっていけばよいのでしょうか。

 第1回目でもお話ししたように、まずは自分たちがどんな受験をしたいかという「軸」を決めておかなければいけません。そのうえで、うちの子はこの軸、こういうスタンスで中学受験にのぞみますということを塾と共有できればベストです。

 特に、中学受験の準備が始まる4年生の段階は「学習習慣を身につける時期」と言われることが多いのですが、僕はそれよりはむしろ「塾と親と子どものトライアングルを安定させる時期」だと思っています。できれば4年生のうちに信頼できる塾の先生と出会って、常に家庭での状況、塾での状況を互いに情報交換しながら、何かあったら連絡し合えるような信頼関係を築いておければ安心です。子どものやる気や成績が落ち込むことがあっても、すぐにその先生に相談してアドバイスをもらえたり、親子の不安を払拭してもらえたりしますからね。

--私たち親世代の親、つまり今の子どもたちにとっての祖父母世代に聞くと「中学受験はさせたけど、テキストなんて見たこともなかった」と言われます。ところが今は、塾の先生におまかせするのではなく、親の腕次第という感じになってきています。

 そうなんですよね。僕らが受験生だった頃は、親は何もしなくてよかったんです。ところが最近は、なんとか子どものお尻を叩いて、成績を上げて合格させた!ってことが親の手柄という風潮が強まっています。

 本屋さんに行くと、「親がなんとかすれば合格させられる」「上を目指させることが親の使命だ」みたいな本がたくさん並んでいます。僕、その棚を見るとゾッとするんですよ。あれだけの本がある中で、わが子にピッタリ合う方法に出会える確率なんてものすごく低いんだから1冊も読まなくていい(笑)。

 「親が頑張ることによって成績を引き上げてやるって、何の意味があるの?」「なんでこの子はこのままじゃダメなの?!」というのが今、僕が一番親御さんに伝えたいメッセージなんです。

--おおたさんは、中学受験の「合格」は常に相対的なものだとおっしゃっています。自分が100頑張っても、ライバルが101頑張っていたら負けてしまう。Aという塾が生徒たちに101やらせていたら、Bという塾は102やらせるようになる。それでBが合格実績を伸ばすと、今度はAが103やらせるようになる。年を追うごとに中学受験勉強は過当競争になっている、と。この際限のない競争に、わが子を放り込んでいいものか、親は一度冷静になるべきでは?と問いかけていますね。

 受験テクニックは塾で磨くというのが主流だったのが、今や塾では合格のために必要なメソッドはほぼ確立されていて飽和状態です。あとはそのための教材を、いかにスピーディーに効率よく、なるべくたくさんやらせるかが親の力の見せどころみたいになってしまっています。

 例えば、「叱らない」ことが効果的だと言われたら叱らない。でもそれはあくまでも、子どもをコントロールしたいから叱らないのであって、コーチングが間違った理由で使われています。何がなんでも合格させるために、親が子どもをどれだけうまく操縦できるかということが勝負を決めるようになっているのです。

「親の理想に子どもを無理に近づけようとするのではなく、その子に合ったペースでいい」

 子どもが塾で教わる受験テクニックだけでは差がつかなくなった。だから次は、親の受験テクニックで差をつけようという段階になっています。でも結局のところ「これやったら偏差値が5上がります」と言われても、それを全員がやったら差はつきません。むしろ結果として負荷だけが上がっていき、入試がどんどん難しくなる。今の「わが子の合格は親の腕次第」という動きは、親たち自身が過当競争に加担している状態です。

 さすがにこれは落ち着かせなきゃいけないなという思いがあって、僕は親御さんたちに「親の受験テクニック競争はやめませんか」と言っているんです。

--「これをやらないと子どもの成績は上がらない、それは親の責任だ」という呪縛から解き放たれるためには、第1回でおおたさんが強調されていた、自分たちの「ブレない軸」が大事になってくるということですよね。限られた時間の中で発揮できる能力は子どもによって違うわけだから、親の理想に子どもを無理に近づけようとするのではなく、その子に合ったペースでいいんだ、と。

 そのためには素人である親が、周囲やネットの情報から勝手な思い込みで判断するのではなく、プロである塾の先生にアドバイスを求めるほうがいいと思います。

 たとえば「うちの子には睡眠時間が9時間必要」という制約条件があるなら、それを先生に伝えた上で「成績が下がっても構わないので、この限られた時間の中で何を優先してやればいいのか教えてください」と相談してみる。「それなら、出ている宿題の半分でいいですよ」と言われたら、自分の子だけ半分でいいのかと確かに最初は不安になるかもしれません。けれど実際には、その半分を丁寧にきちんと勉強する方が、成績アップにつながることも多いのです。

 塾の先生たちも、全ての子どもが与えられたものを全部こなせるとは思っていないはずです。今、塾の先生たちでさえ、子供たちに与えている課題の量が過剰であると感じているのです。なのに世間では、与えられたものを全て子どもにうまくやらせる親はすごい親だと賞賛される。その刷り込み自体がそもそも間違っていると僕は思いますね。

 「これも重要だからやらなきゃダメ」「もっとできるでしょう」と全て漏れなくやらせようとするのではなく、できる分だけ「頑張ってるね」「よくできたね」と認めてあげる。我が子が伸び伸びと自分のパフォーマンスが出せるようなペースをつくればいい。そのためには、我が子のことをよく知っておく必要があります。親が我が子を見ずにゴールばかり見て独りよがりになる、それによってお互い辛い親子関係になることを防ぐ意味でも、塾とはしっかり信頼関係を築き、塾と家庭がうまく連携していくことは重要だと思います。

 インタビュー第3回「おおたとしまさ氏に聞く、中学受験「志望校選び」のコツ…併願校は偏差値表を活用」へ続く。

中学受験「必笑法」 (中公新書ラクレ)

発行:中央公論新社

<著者プロフィール:おおたとしまさ>
 1973年、東京生まれ。育児・教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。リクルートを脱サラ独立後、数々の育児・教育誌のデスクや監修を務め、現在は育児・教育をテーマに執筆・講演活動を行う。心理カウンセラーの資格、中高の教員免許を所持。小学校教員の経験もある。著書は「ルポ塾歴社会」(幻冬舎新書)、「名門校とは何か?」(朝日新書)、「受験と進学の新常識」(新潮新書)ほか50冊以上。

《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

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