おおたとしまさ氏に聞く、中学受験「志望校選び」のコツ…併願校は偏差値表を活用

 増加傾向にある中学受験。がんばりすぎない・子どもを潰さない・親子で成長できる“笑顔”で合格のための秘訣を、教育ジャーナリスト・おおたとしまささんに聞く「必"笑"法」。第3回目は「志望校選び」について聞いた。

教育・受験 小学生
おおたとしまさ氏
おおたとしまさ氏 全 3 枚 拡大写真
 増加傾向にある中学受験。がんばりすぎない・子どもを潰さない・親子で成長できる…“笑顔”で合格のための秘訣を、教育ジャーナリスト・おおたとしまささんが語る。第3回目は「志望校選び」について聞いた。

 ※インタビュー第1回目 「おおたとしまさ氏に聞く、中学受験で陥りやすい『最悪な親子関係』…笑顔で12歳の春を迎えたい親子へ」はこちら

 ※インタビュー第2回目「おおたとしまさ氏に聞く、中学受験『塾』との付き合い方…やめませんか?親の受験テク競争」はこちら

--志望校選びでは、どうしても偏差値表とにらめっこ状態になってしまうご家庭が多いと思いますが、偏差値表はどのように使えばよいですか?

 偏差値表の上の方の学校はやはり余裕がありますから、実際にはいい学校が多いのは確かです。ただ、いい学校が多いからといって、一番上の偏差値帯からしか選ばない。あるいは低いレベルから1校だけ滑り止めを選んで、残り全部は一番上という選び方も、僕はちょっと違うのではと思っています。

 もちろん第一志望については、現状の偏差値は一切気にせず、どんなに高いレベルにあってもいい。それは勉強を頑張るための大きなモチベーションになるからです。

 ただし、併願校選びでは偏差値表を活用し、それぞれの偏差値帯で第一志望に似た学校を探してみるといいと思います。第一志望が偏差値60以上の学校だとすると、併願校は、偏差値が55、50、45、40という具合にグラデーションをつけて探してみるのです。私立だからこそ各偏差値帯に、気に入った環境や伝統のある学校は見つかるはずです。

--上手な学校選びのコツはありますか?

 いろいろな学校を見に行くと学校を見る目が養われてくるので、まずは実際に足を運ぶことをお勧めします。でもそうはいっても、現実には学校の数が多すぎてキリがないですよね。

 そこで、最も強く「この学校に入りたい」と子どもが感じる学校を第一志望としたうえで、現実的に家から通える範囲で

1)男子校か女子校か共学か
2)学校の歴史や設立の背景(宗教や創設者など)
3)自由と規律のバランス
4)進学実績を前面にアピールしているかどうか


 の4つの視点で、第一志望と似通ったところを各偏差値帯で探してみるといいでしょう。

 特に 2)の、歴史や設立の背景はあまり重視されないところなのですが、実はこれが子どもの6年間に大きく影響します。確かに建学の精神は難しい漢字や古風な言い回しで、その学校の生徒や先生ですらよくわかっていないこともあるくらいです。けれど、それぞれに個性を持つ私立の学校の生徒たちが、共通の「らしさ」みたいなものを身にまとって卒業していくことは経験上確かだといえます。僕はこれを「家付き酵母」と呼んでいます。

「『第一志望以外は全部第二志望』と思える気持ちの準備をしておくことが大事」

 その意味で僕は学校選びの際、校長に注目することをお勧めします。校長の立ち居振る舞いそのものが建学の精神に謳われている人物像を表しているはずで、そこでもし不一致を起こしていると感じるなら、その学校を選ぶべきではありません。

 3)の自由と規律のバランスは、文化祭と運動会を見ればわかります。運動会は組織や規律を重んじるので、どうしても全体主義的な活動になります。そのため、自由を重んじる学校では運動会そのものをやらないところもあります。

 一方、文化祭はどのくらい生徒個人に自由が与えられているかを見る目安になります。何かを表現したい人が自由に参加できるものから、クラス単位や学年単位で何か一つやらなければならない縛りがあるものまで、これも学校によって濃淡があります。

 この2つは、自由と規律のバランスが垣間見えるところなのですが、だからといって文化祭や運動会だけ見に行けばいいという訳ではありません。あくまでもこれは学校においての"非日常"です。普段の学校の"日常"を知るには、やはりここでも校長の一挙手一投足をじっくり見ているとよくわかります。校長が朗らかで、周りの教員や生徒とも垣根のない会話をしているようであれば、教員と生徒の関係もフランクであることが想像できます。

 また、4)の進学実績ですが、それを前面にアピールする学校では、受験対策に重点を置いたカリキュラムとなっているでしょう。逆に、優れた進学実績があってもアピールしない学校では、特別な受験対策はせず、学問的に幅広い一般教養や思考力を育むカリキュラムとなっている場合が多いです。

 理想は「全部受かったら選べなくて困っちゃうね」という学校選びです。中学受験を笑顔で終わらせるためには、「第一志望以外は全部第二志望」と思える気持ちの準備をしておくことが大事です。4つの全ての視点で第一志望と似通っている学校を見つけるのは簡単ではないかもしれませんが、多少妥協しながらも偏差値帯に応じて何校か見つけておくといいでしょう。

--いよいよ6年生は本番です。受験生の親御さんに向けてメッセージをお願いします。

 受験当日、試験会場に向かうわが子の背中を見送るとき、もう最後に親ができることは何もないということを実感します。6年生のその日、親は子どもが巣立っていくのを身をもって経験するのです。

「100%の力を出し切ったと子どもが思えていたら、きっとみんなで笑っていられるでしょう。」

 結局のところ、親は無力です。子どもは自分で自分の人生を切り開いていきます。そんなことを実感できるのも、中学受験という機会がもたらしてくれる宝物だと思います。

 子どもは親が自分のために頑張ってくれていることをわかっています。そしてできるなら、お父さん、お母さんを喜ばせたい!と思って頑張っています。だからこそ、中学受験をいい学校に行くための辛い苦行ではなく、家族にとって「やってよかった」と笑顔になれる経験にしたいですよね。

 今、全ての受験が終わった後に、家族みんなが笑っているシーンを想像してください。どんな結果であっても、100%の力を出し切ったと子どもが思えていたら、きっとみんなで笑っていられるでしょう。そしてお子さんは堂々と胸を張って、新しい第一歩を踏み出していくことでしょう。

 皆さんの中学受験が笑顔で締めくくられることを祈っています!

中学受験「必笑法」 (中公新書ラクレ)

発行:中央公論新社

<著者プロフィール:おおたとしまさ>
 1973年、東京生まれ。育児・教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。リクルートを脱サラ独立後、数々の育児・教育誌のデスクや監修を務め、現在は育児・教育をテーマに執筆・講演活動を行う。心理カウンセラーの資格、中高の教員免許を所持。小学校教員の経験もある。著書は「ルポ塾歴社会」(幻冬舎新書)、「名門校とは何か?」(朝日新書)、「受験と進学の新常識」(新潮新書)ほか50冊以上。

《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

+ 続きを読む

【注目の記事】

この記事の写真

/

特集