WRO2018タイ国際大会…10歳の少年2人がプログラミングを通して見た世界

 6万人以上の小中高生が参加する国際ロボットコンテスト「WRO」国際大会が2018年11月16日から18日、タイ・チェンマイにて開催された。新設の「WeDo Challenge」に出場した日本代表チームに取材した。

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日本代表としてWRO2018国際大会「WeDo Challenge」出場した「Pblocs」チーム
日本代表としてWRO2018国際大会「WeDo Challenge」出場した「Pblocs」チーム 全 6 枚 拡大写真
 世界60以上の国と地域から6万人以上の小中高生が参加するロボットコンテスト「WRO(World Robot Olympiad)」の国際大会が2018年11月16日から18日、タイ・チェンマイにて開催された。

 今大会では、新たに6~10歳を対象とするコンテスト「WeDo Challenge」のエキシビション大会が開催された。主に小学校低学年を対象に、レゴ社のロボットプログラミング教材「レゴWeDo」を用いて競技に挑戦する部門だ。

 今回「WeDo Challenge」の日本代表として出場したのは、1組。2018年9月16日に行われた日本大会で優勝した、静岡のプログラミング教室「みらい子ども教室Pblocs」に在籍する森川結太さん(小4)と大塚蓮さん(小4)のチームだ。日本大会においては、Scratchを用いてプログラミングし、ミスのない操作で課題をクリアするなど高い技術力を見せた。

日本代表としてWRO2018国際大会「WeDo Challenge」に出場した「Pblocs」チーム

英語で競技にチャレンジ!いざ、WRO2018 タイ国際大会へ



 日本大会から2か月後の2018年11月16日から18日、タイ・チェンマイにあるCMECC(Chiang Mai International Exhibition and Convention Centre)にて「WRO2018タイ国際大会」が開催された。「WeDo Challenge」は、大会全体の中での「WRO 2018 WeDo Regular」というカテゴリーに属し、7か国8チームが参加した。

 「WeDo Challenge」の国際大会ルールは、各チームが競技に4回チャレンジし、その中でもっとも良い2回のスコアが評価の対象となる。獲得ポイント数が同点となる場合は、ゴールまでの速さで評価される。大会中は審判団へ英語のプレゼンテーションをする時間が設けられるなど、臨機応変な対応が必要とされる場面もある。

 国際大会のスケジュールは、1日目に開会式や競技のオリエンテーション、2日目にロボットの組立てやプログラミングの最終調整時間が設けられ、4回のうち2回の競技が実施された。2日目の競技終了後には、世界各国・地域から参加している代表チームと交流できるフレンドシップイベントが開催され、対戦相手としてではなくチャレンジャー同士、国を超えた交流の場が設けられた。英語で質問したり、日本がどんなところかを説明したりと交流を楽しみながら、選手や関係者たちとコミュニケーションを図るようすが見られた。最終日である3日目には、ロボットの最終調整のあと、残された2回の競技に臨み、審査が行われた。

最優秀賞はギリシャチームとマカオチーム

 今回の「WeDo Challenge」はエキシビション大会として実施されたため、公式な順位は付けられない。ただもっとも評価の高かったギリシャチームとマカオチームは、最優秀賞として表彰され、すべての参加チームに優秀賞としてレゴ製品が贈られた。

世界チャレンジのカギは「未来逆算思考」



 日本代表として国際大会に出場した「Pblocs」チームにインタビューする機会が得られた。「Pblocs」チームの選手、森川結太さん(小4)と、大塚蓮さん(小4)に感想を聞いた。

--チームで活動する中で、気を付けていたことはありますか。

大塚さん:一番気を付けていたことは、自分勝手に行動しないことです。そして迷子にならないこと、つまり1人で悩み、抱え込まないこと。あとは、全力で頑張るという気持ちをもって取り組みました。

--他のチームとの違いや良かったところはありますか。

大塚さん:アームが動くロボットで、ボールを取り損なっても、もう一度取れる仕組みを作ったチームがありました。ロボットの操作は難しいはずなのに、とてもうまくコントロールできていたのですごいと思いました。他にもパソコンでゲームのように操作しながら、途中で止まることのないプログラムを組んでいた中国チームのアイデアは参考になったし、とても良いライバルでした。

--日本大会では2回のところ、国際大会では競技が4回ありましたね。

森川さん:回数が多い分、その都度、戦略を変えることができたのが良かったです。最初にスピード重視でチャレンジしてみましたが、正確性も重要だと気付くことができました。練習では、16から25秒のタイムで、90%の成功率でしたが、大会本番ではそこまでの成功率を出すことができませんでした。練習と本番の環境の違いは大きかったです。

チーム一丸となって頑張り抜くことの大切さを学んだことは大きな収穫

--国際大会を終えた感想を教えてください。

大塚さん:とにかく悔しいです。もう少しで上位に入れたのではないかと思ってしまいます。特に、ボールを取るのが遅れてしまった点です。次にチャレンジする機会があるとしたら、もっと性能を良くしたいと思います。

森川さん:練習中もずっと課題だった部分が、最後までクリアできなかったところが悔しいです。出場できたことが嬉しいという気持ちよりも、やっぱり悔しいという思いが大きいまま終わってしまいました。

--一番記憶に残った試合を教えてください。

大塚さん:2番目と4番目の試合、どちらも失敗してしまった試合です。とても悔しくて記憶に残っています。最後の試合はプレッシャーもあって、特に記憶に残っています。

森川さん:2番目の試合です。一番大きな失敗をして95点ぐらいしか取れませんでした。この試合が記憶に残っているのは、もっと良くしたいという気持ちが強いからだと思います。全体的に悪い試合しかできなかったのが残念です。

--今後どのような活動をしたいですか。これから挑戦する人に向けたメッセージもお願いします。

大塚さん:ロボットプログラミング教材の「レゴマインドストームEV3」の勉強も始めたので、今後はそれを使って国際大会に出場できるように頑張りたいです。大会に出ることだけでも良い経験になることが実感できたので、まずは日本大会に挑戦したいです。

 世界で頑張りたいと思った理由は、まずはとにかく楽しいということです。そして、たとえ失敗して悔しくても、達成感もある。頑張れば頑張るほど達成感があるから、これからもチャレンジしていきたいです。

森川さん:今回の大会で、たくさん悔しいと思えたからこそ、悔しいままで終わらせず、来年も挑戦していきたいです。来年は年齢制限で「WeDo Challenge」には出られませんが、今回の経験は後輩たちに教えたいと思います。

目標を決めてから今するべきことを考える「未来逆算思考」がカギ

--これから挑戦する人に向けてメッセージをお願いします。

大塚さん:これからチャレンジする人には、誰にも言わずに1人で進めてしまったり、わからなくて悩んでしまうよりも、チーム一丸となってコーチや仲間と一緒に考えながら進めるほうがいいよと伝えたいです。

森川さん:これから挑戦したいと思っている子がいたら、いくつかアドバイスしたいことがあります。まずはロボットは、手動ではなく、自動のほうが正確なのでそれを作ることをお勧めします。あと、新しいロボットをいろいろと作って練習するよりも、1つのロボットで練習すること。同じロボットで練習するほうが、気付くことがたくさんありました。

 最後に「未来逆算思考」という考え方がとても役に立ちました。どうしたら目標を達成できるのかを考えて計画を立てるのが「未来逆算思考」です。その計画をもとに、日本大会に挑戦するときからノートに記録をまとめていて、練習するときはコーチやお父さんにカメラで録画してもらって、いつでも振り返られる状態にしていました。コンセプトを作ってから練習に取り組んだことで、目標達成に向けて最後まで頑張ることができました。

子どもたちとともに「世界」に挑戦!コーチの取組みとは



 次に、選手と心を1つにして取り組んできたコーチ兼Pblocs講師の下山透氏にお話を伺った。

--日本大会から国際大会まで、長期間にわたりコーチとしてどのような取組みをしてきましたか。

下山氏:日本大会の優勝で大きな達成感があったため、選手たちのモチベーションは一旦燃え尽きてしまった感がありました。このままではもったいないので、今度はまだ知らない「世界」というキーワードでモチベーションを上げて、選手たちの「挑戦したい」という気持ちを盛り上げる取組みをしてきました。

 教室で学習するスタイルをもう一度見直して、知らないことにチャレンジするということや、世界の人とコミュニケーションすることなど、世界大会にチャレンジすることで自分たちの世界を広げるチャンスがあるということを伝え、モチベーションを高めていきました。

--世界大会が終わった今、コーチとしてどんな声をかけたいですか。

下山氏:9月の日本大会にチャレンジすることを決めてから今まで、子どもたちは十分頑張ったなと思います。保護者やその他大勢の方の支えがあってここまで来られたということに、感謝の気持ちを感じてもらえると嬉しいですね。

「子どもを信じて待つ」選手を支える保護者の心構え



 最後に、選手を親として支えてきた保護者の森川歩氏にもお話を伺った。

--9月に日本代表に選ばれてから、11月の国際大会に向けてどのようにサポートしましたか。

森川氏:9月の日本大会に挑戦するときから練習では必ず動画を撮影し、録画したものを見ながら動きを調整していくなど、トライ&エラーを繰り返しながら子どもたちやコーチと一緒になって練習に取り組みました。取組みをノートに記録して、いつでも行動を振り返られるようにサポートしてきました。

「息子の大会出場を通して、親としての心構えを学んだ」という森川氏

--世界大会が終わった今、お子さまにどんな声をかけたいですか。

森川氏:大会期間中、選手の親としての心構えをあらためて考えさせられました。初日の2試合はやはり気になるし、心配な部分もあったので、細かく助言しようとしました。でも後半の2試合は、あえて腹をくくって何も言いませんでした。 その結果、初日よりも成績自体は良くなりました。子どもを信じて待つということが大切と感じた出来事でした。

 国際大会に挑戦するにあたって、4つの目標を掲げていました。「世界を知ってほしい」「いろんな人たちと交流してほしい」「これからの社会で生きていく上での、コミュニケーションの重要性を知ってほしい」そして「トップに立つ」ということ。世界を知ることで、子ども自身が身をもって「英語が話せないと困る」と気付けましたし、いろんな国の方と交流することもできました。

 残念ながら唯一、最後の目標「トップに立つこと」は叶いませんでした。「WeDo Challenge」では正式な順位付けはなかったにしろ、もし最優秀賞がもらえたら感じることはさらに違ったはず。高い所から見る景色と下から見る景色は絶対に違うと思うんです。とは言え、大会出場前と今でも子どもたちから見えている景色は大きく変わっているはずです。親として感じることは、とにかく頑張ったなと思います。

--ありがとうございました。

 「WeDo Challenge」の世界大会に出場した日本代表チーム「Pblocs」の2人のコメントからは、悔しい思いがにじんでいた。そんな中でも、課題に挑戦することで得られる達成感や楽しさがあることを実感し、今後は新たなステージにもチャレンジしたいと言う。次の目標をもった2人をこれからも応援したい。

 目の前にせまった2020年、小学校でのプログラミング教育必修化。さまざまな教材が溢れ、迷うことも多い中で、プログラミングが、世界とつながる1つのきっかけであり、夢を実現するためのツールでもあるという大切なことを痛感した取材だった。

<協力:アフレル>

《編集部》

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