「科学の力でいじめ撲滅」大阪大学大学院・和久田学氏

 日本では、数十年前からいじめ問題に関する研究が進められてきた。しかし、いまだに解決方法は確立されておらず、教育現場の教師たちは対応を模索し続けている。

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科学の力でいじめ撲滅を目指す〈前編〉WorMo'より
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 日本では、数十年前からいじめ問題に関する研究が進められてきた。しかし、いまだに解決方法は確立されておらず、教育現場の教師たちは対応を模索し続けている。

 このような現状を変えようと公益社団法人子どもの発達科学研究所では、いじめを科学的に研究し、いじめ予防プログラムを開発し、教育関係者や児童・生徒に向けたセミナーを通じて精力的に普及活動を行っている。同研究所で主席研究員を務める大阪大学大学院特任講師の和久田学氏は、「科学を活用すれば、いじめの予防法や対処法が見えてきます」と強調する。科学の力を使っていじめ撲滅を目指す手法についてお聞きした。

いじめなどの問題行動には「再現性の確保」の観点から科学的にアプローチするべき



 和久田氏は大学卒業から20年以上、特別支援教育の分野から、不登校や非行、いじめなどの問題行動を起こすこどもと向き合ってきた経歴の持ち主だ。それぞれのケースに対処する中で、常に感じていた疑問があるという。

「例えば暴力行動を起こしたこどもに対して、先生ごとに見解や対応が異なるうえ、次に問題が起きたらまたイチから対処する繰り返しでした。いじめに関しても同じです。いじめは一つひとつ内容が異なり、被害者と加害者の関係性もさまざまです。ですからその都度対応するわけですが、根本的な解決策とはいえません。このままではいじめを含めた問題行動をなくすことはできない、正解がほしいと強く感じていました」

 和久田氏はその後、大阪大学大学院で、こどもの問題行動を解決するための行動科学を学ぶ。そこで知ったのが、こどもの問題行動に関する海外の研究状況だった。

「日本では、教師たちの経験則によって問題行動にアプローチするケースが目立ちますが、実際の効果については十分に検証が行われていない状況です。一方、欧米では、ノルウェーの心理学者ダン・オルヴェウスらの研究によっていじめ防止プログラムが開発され、導入されるといった建設的ないじめ対策が進んでいます」

 このようないじめ対策について、和久田氏は次のように説明する。

「私たちはこのような研究方法を、物事を実証的・論理的・体系的にとらえるという意味で『科学的』だと考えています。科学的な方法で研究を行うことで、どのような環境下でいじめが起こりやすいか、といった事実がわかるので、その環境をつくらなければいじめは起こりにくくなるという予想が立てられます。つまり、根本的とはいかないまでも、いじめ予防に対する再現性の高い(同じ条件のもとでなら同じできごとを繰り返し起こせること)アプローチができるわけです」

いじめに関わったすべてのこどもが負の影響を受け続けることに



 さらに和久田氏は、問題行動の中でもいじめがこどもの将来に及ぼす影響について強調する。

「例えば、アメリカのいじめ問題研究者として知られるアラン・L・ビーン博士は1999年に、『小学校4年生から中学2年生の25%が、いじめが原因で学力が低下した』という研究結果を発表しています。また、1987年にはアメリカの研究者、レオナード・D・エロン博士から『8歳のときに攻撃的な男子は、大人になってから何らかの犯罪者になる確率が高い』という報告が、2004年にはアメリカの研究者グレゴリー・R・ジョンソン博士から『いじめの傍観者も、いじめの被害者と同程度の心理的苦痛を抱く』という報告が挙がっています。つまり、被害者だけでなく、加害者・傍観者もいじめによる負の影響を受けやすいことがさまざまな研究結果から明らかになっているのです」

環境にフォーカスする欧米型のアプローチでいじめと向き合う



 では、いじめの起きない学校現場をつくるにはどうしたらいいのか。和久田氏は二つの面から指摘する。続きはこちら

科学の力でいじめ撲滅を目指す〈前編〉

《WorMo'より》

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