開学から1年「Self-Starter」が集まる国際高専の学校づくり

 昨今、学生を24時間体制でサポートする全寮制の学校、いわゆるボーディングスクールへの関心の高まりを感じる。2018年4月に開学し、今年の春には2期生を迎えた。国際高等専門学校・学校長のルイス・バークスデール氏に、開学1周年の所感と今後の展望について聞いた。

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開学から1年「Self-Starter」が集まる国際高専の学校づくり
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 学校にはさまざまな通い方がある。昨今、通信制の学校も増える一方で、学生を24時間体制でサポートする全寮制の学校、いわゆるボーディングスクールへの関心の高まりも感じる。

 この日の白山麓は雨。金沢駅から車で1時間ほど行った場所に国際高等専門学校(以下、国際高専)のキャンパスはある。2018年4月に開学し、2019年の春には2期生を迎えた。国際高等専門学校・学校長のルイス・バークスデール氏に、開学1周年の所感と今後の展望について聞いた。

--国際高専、開学から1年経ちました。ルイス先生は、それ以前から金沢工業高等専門学校(以下、金沢高専)の学校長でいらっしゃいますね。開学に至るまでの経緯を教えてください。

 はい。私は1980年から金沢工業大学で教鞭をとっていて、2014年4月に金沢高専の学校長に着任しました。着任当時はまだ具体的な構想はありませんでしたが、グローバル化に伴う時代の要請はひしひしと感じていました。「5年間で即戦力をもった技術者を育てる」ことだけでは達成し得ない、新たなミッション、それが「グローバルイノベーションのリーダーを育成する」ことです。そして昨年4月、前身である金沢高専からカリキュラムを一新し、国際高等専門学校を開校しました。

インタビューに応じる国際高等専門学校・学校長のルイス・バークスデール氏

自ら波を起こすことのできる“self-starter”が集う場所



--着想段階から携わっていらっしゃるのですね。開学して1年、一番の変化は何ですか。

 大きな変化は、入学する学生のタイプが変わったことです。金沢高専は素直で実直で非常に真面目な学生が多い印象ですが、国際高専になって以降、自立・自律していて、芯の強い学生が集うようになりました。全寮制の学校である時点でそういった子どもたちが集まる傾向にはあると思いますが、とりわけ自分の考えをもち、自ら物事を始めることのできる“self-starter”としてのポテンシャルのある学生たちだと感じます。まさに私たちが求める学生そのものの子どもたちが集まってきてくれることに喜びを感じています。

--1、2期生の皆さんについて教えてください。

 1期生は12名、2期生は13名で、各学年、石川県内から4~5名、そのほか遠くは沖縄、マレーシア、タイ、ニュージーランドなどから集まっています。海外からの学生も、現地のインターナショナルスクールや日本人学校出身者ですが、英語を第一言語とする学生も1名います。全学生のうち2割程度が女子です。

休憩時間にお話をしてくれた学生の皆さん

 文明の歴史からしても、ものづくりは本来女性の仕事でした。それにも関わらず、今では工科系の学校では男子が多い傾向にありますよね。私たちの学校だけでなく、この点は世界的にみても課題だと感じています。男女問わず、ものづくりの魅力を感じてほしいです。

今、学校づくりのプロセスを通して伝えたいこと



--開学に際してのご苦労はありましたか。

 そもそも工業高等専門学校の学校長として、英語教授法を専門とする“言葉の先生”の自分がふさわしいのかという戸惑いがありました。日々スリルとサスペンスの連続ですが、学校長としての私の立場は、学校としてのメッセージを示す役目があると感じています。

--なるほど。「国際高専のメッセージ」とは何でしょうか。

 まずひとつは、全国57校ある高等専門学校のなかで、グローバル教育にウェイトを置く唯一の高専としてのメッセージです。金沢高専から国際高専へのカリキュラム改変のなかで、大きなものに学科の再編があります。

 金沢高専時代の電気電子工学科、機械工学科、グローバル情報学科の3学科を再編し、国際高専ではどの学生も国際理工学科に属します。数学、理科、情報など大部分の科目を英語で学びます。現在4割ほどが外国人教員、白山麓キャンパスでは7割近くが外国人教員ですので、日本にいながらにして多様性を体感できる教育環境です。以前は任意だった3年次の留学も、2018年から必修化し、ニュージーランドの国立オタゴポリテクニクに3年生全員が留学します。

学校長就任時には戸惑いも感じたというバークスデール氏

 もうひとつは、チームで物事を実践することの重要性を、学校づくりを通して伝えることです。国際高専では、カリキュラムの軸に「エンジニアリングデザイン」を据えています。これは、広い視野で多角的に分析・調査し、チームでアイデアを出し合いながらプロトタイプを制作し、試行錯誤を繰り返しながらブラッシュアップしていくというプロセスです。

 学校づくりは、まさにこのプロセスの実践です。イノベーションは、常にダイバーシティのなかから生まれると考えています。「グローバルイノベーションのリーダーを育成する」というミッションを掲げている我が校にふさわしく、各方面のプロフェッショナルが集い、学校づくりをしています。

学生の成長に応じた、指導とサポートのバランス



--1期生の皆さんはすでに国際高専での1年間を過ごしたことになりますね。学生の成長について教えてください。

 間違いなく成長している実感があります。私は英語教授法を専門としていますので、学生との会話でも多少気を使って、ゆっくりはっきり話すように心がけていますが、数学や理科など各教科の教員はそういった気遣いをせずに、英語で授業を進めます。それがかえって学生への刺激になっているようで、みるみるうちに英語力が付いています。国際高専ではIELTS受験を推奨しており、スコア5.5(学生ビザ取得に必要なスコア。英検2~準1級程度)を目指してほしいと伝えていますが、すでに達成している学生もいます。入学時には決して点数的に高くなくても、間違いを恐れずに頑張って使ってみるという心構えのある学生が伸びるように思います。

この日、見学した授業にもラーニングメンターの姿があった

 1・2年次は全寮制なので、19時30分から21時30分にラーニングセッションと呼ばれる補習の時間を設けています。おもにアメリカで工学分野を修了している若手教員がラーニングメンターとなり、指導体制を整えています。ラーニングメンターは昼間の授業にも同席し、進度や難度を把握しておきます。ただ、先ほどもお伝えしたとおり、非常に自立・自律している学生が多いので「指導」ではなく「サポート」に徹する方針に変更しました。当初は日本語のサポートも必要だと想定し、日本人のラーニングメンターを配置していましたが、学生からのニーズが少なかったため、今年は配置人数を調整したほどです。

--これから、国際高専はどのように発展していく計画ですか。

 私は個人的にも「ラーニングコミュニティ」という言葉が好きです。教員が学生に教えるという一方通行の関係ではなく、教員も学生も失敗を恐れずに共に成長する、学びの共同体です。たとえ失敗したとしても、それを客観的に分析し、方法を見直すことで、達成できるかもしれません。そうやってより良い学校をつくっていきたいと考えています。

教員も学生もエンジニアリングデザインを実践できるラーニングコミュニティを目指す国際高専

 ここ白山麓の、ある程度隔離された環境で、ある種、通常の日本社会と異なるラーニングコミュニティの礎ができた今、周辺地域も教室にできるような取組みを展開したいと考えています。自然の中の暮らし、地域社会の中での暮らしを通してのイノベーションは、国際高専の目指すところでもあります。学校で用意しているアクティビティをきっかけに、学生にはもっと外に出てほしいですし、この機会や環境を存分に生かしてほしいです。

教員も学生も「newby」として学び合う共同体へ



--学生にはどのような人間になってほしいと考えていますか。

 これからの時代、誰もが「newby(初心者)」としての意識をもつべきだと思います。日進月歩、新しいアプリやサービスが生まれる中で、大人も子どももはじめてのものに触れる体験が間違いなく増えます。恐れることなく、未体験のものに接する心構えを身に付けてほしいです。

インタビューに応じるバークスデール氏

 そういった心構えの上で、5年間の在学時でも卒業後でも良いので「この分野でこういった課題に取り組みたい」というミッションを見つけてほしいのです。ミッションはグローバルイノベーションのリーダーとしての大きな原動力になるはずですから。

--これからの学校の発展が楽しみです。本日はありがとうございました。

 授業の合間に話を聞いた学生の皆さんに入学の理由を聞くと「サマースクールに参加して授業が楽しかったから」「説明会に参加して、他の学校にはない魅力を感じたから」という声が多く聞こえた。短時間にもかかわらず、こちらの意図するところを汲みながら的確に応えてくれる姿は、まさにバークスデール氏が言うような自立・自律を感じさせた。

 学生たちの心を掴んだ、学校説明会サマースクールは今年も開催される。実際に大自然の麓のキャンパスを体感できるサマースクールのほか、都市圏でも学校説明会の機会を設ける予定だ。この環境だからこそ実現できるより良い教育を模索しながら、国際高専は開学2年目も進化し続けている。

《野口雅乃》

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