【自由研究】電源不要の電気!?超音波素子で発電

 夏休みの自由研究のテーマは決まっているだろうか。自由研究のテーマ選定の参考になる実験を、早稲田大学本庄高等学院 実験開発班の著書「魅了する科学実験2」(すばる舎)より紹介する。

教育・受験 中学生
【自由研究】電源不要の電気!?超音波素子で発電
【自由研究】電源不要の電気!?超音波素子で発電 全 6 枚 拡大写真
 「どうしてそうなるの?」そんな感情が子どもたちの探究の原動力になる。電源を用いていないのに電気が生じるという、不思議なエネルギーの世界へをご案内しよう。

 早稲田大学本庄高等学院 実験開発班の著書「魅了する科学実験2」(すばる舎)より、自由研究や理科の学習に役立ち、生徒をハッと驚かせる実験を紹介する。

難易度 ★★★☆☆


対応する指導要領:中学校理科
様々なエネルギーとその変換



実験のテーマ



 電源を何も用いていないのに電気が生じるという不思議な実験。原理は少々難しいものの、なぜ?と興味を惹かれること間違いなし!

熱→電気というエネルギーの移り変わりを体感できる実験



 超音波素子はそれ自体が実は電気を生み出す能力があり、その性質を利用したセンサーなども存在します。超音波での浮上実験(詳細は、本書の147 ページの実験に使用している、超音波の発生素子を利用した発電の実験を参照。)のあと、より深い理解のためにこの実験を行うと良いかと思います。電池や電源を使わずに電気が発生する現象を見せることで、「発電」を目に見える形で体感できます。また太陽光パネルのように光を当てるだけで発電するというものでもないため、一見するとわかりにくいですが、見せ方を変えると、熱エネルギーと電気エネルギーの移り変わりを見せることができます。

 エネルギーというわかりにくい概念を体感してもらうという意味では、ランジュバン素子を使ったエネルギーの移り変わりと、その原理を研究課題としてみると、より興味を持ってもらえることと思います。

基本実験01 加熱するだけで発電! ランジュバン振動子



用意するもの



・ランジュバン振動子:本多電子株式会社から発売されているものが日本国内において、調達が容易。アマゾンや楽天などインターネット通販で購入でき、「HEC-45282 」と呼ばれる製品が安価で良く、5000 円以下で購入できる
・はんだごて:安いもので十分

ランジュバン振動子ランジュバン振動子

注意事項


 ガスバーナーでも加熱することは可能だが、その場合は火の扱いに注意。また、はんだごてを使う場合も火傷などに注意する

実験手順



1.ランジュバン振動子の上部をはんだごてで数十秒加熱する


2.両端を素手で触ってみるとビリッと弱い電気ショックを感じる


基本実験02 氷でネオン管を光らせよう



用意するもの



・ランジュバン振動子
・ネオン管
・氷

実験手順



1.ランジュバン振動子にネオン管をつなぐ


2.ランジュバン振動子の上に氷を載せる


3.ピカピカと2Hz 程度で発光するのが確認できる


解説



ランジュバン振動子とは



 超音波素子による発電は「焦電効果」といい、焦電効果を確認する実験に使えるものとして、今回使用したランジュバン振動子があります。ランジュバン振動子は PZT と呼ばれるセラミックを使用した強力な超音波発生素子で、本書の 147 ページの超音波の実験でも使用しています。PZT はチタン酸ジルコン酸鉛と呼ばれる機械的な効果を得るためのセラミックとして一般的です。焦電効果も強いので実験には最適の素子と言えます。

 ランジュバン振動子では PZT 板を2枚使い、大きな振幅を得るように工夫されています。電気回路的に見ると2つ並列に接続されてるような回路構成となります。

焦電効果の発生条件



 ランジュバン振動子で焦電効果を得るには、急激な温度変化を与えるだけで OK です。熱源は今回の実験のようにはんだごてや熱湯、氷で十分です。実験1ではランジュバン振動子の上部を数十秒加熱しましたが、これだけでランジュバン振動子の両端には 100V を超えるような大きな電位差が発生します。

 ただし、ランジュバン振動子に加えられる温度には上限があります。心臓部のセラミックである PZT は、キュリー点と呼ばれる誘電特性を失う限界温度があります。機械的な機能を持たせるためPZTには分極と呼ばれる処理が行われており、あまり高温にするとこの処理が無効となって、素子として壊れてしまうことがあるので、ガスバーナーでの強熱は注意したほうが良いでしょう。一般的に PZT のキュリー点は 300度くらいなので、氷や熱湯での実験はまず問題ないと言えます。

氷でネオン管が光ったわけ



 ランジュバン振動子の焦電効果で生じる電気の電流供給能力は低いため、ある種の弛張発振回路を簡単に構成できます。実験2ではランジュバン振動子の上に氷を載せましたが、氷を載せることで、ランジュバン振動子のアルミニウムブロックが冷却され、次第に振動セラミックも冷却されます。先ほども書いたように、ランジュバン振動子の PZT は数十度の温度変化で 100V 以上を発生させることができます。ネオン管のブレークダウン電圧を超えると発光し、ピカピカと2Hz程度で発光します。ランジュバン振動子の端子電圧がブレークダウンにより低下し、光が消え、焦電効果で再び上昇しブレークダウンを起こし発光……というのを温度がある程度平衡するまで繰り返されます。実験条件にもよりますが、30 秒から 1 分程度の点滅が確認できます。

 ランジュバン振動子が冷えて温度変化が緩やかになると、ネオン管が発光するだけの電圧を発生させられなくなります。そこで今度は上の氷を取り除いて放置すると、冷却時よりは弱いものの、たまに発光する様子が確認できます。冷却された状態から室温に戻る過程で発生した焦電効果で発光しているためです。 ランジュバン振動子が室温に戻る頃には、プラス・マイナスが逆転しています。

加熱する際の注意点



 本実験でははんだごてを使用していますが、バーナーでの加熱も可能です。その代わり、火を使うのでそれなりの注意は必要で、ランジュバン振動子が冷えているとバーナーの燃焼で生じた水蒸気が水滴となって、表面にまとわりついてしまいます。水滴が電極部についてしまうと電荷がリークしてしまうので注意が必要です。

 また、強く熱しすぎてしまうと誘電体特有のキュリー点に達して特性が劣化する可能性があります。あまり熱しすぎないほうが良いと言えるでしょう。

教育のポイント



焦電効果とは



 焦電効果とはセラミックなどの強誘電体に急激な加熱や冷却で温度変化を与えた時に電位差が発生する現象です。焦電効果は温度変化で電位差が発生する特徴を持っており、わかりやすく言い換えると、温度変化で発電するということです。天然のものとしては電気石(トルマリン)が知られています。

 電気石はその名のとおり電気を帯びる性質があります。ショーケースなどに展示しておくと、照明器具の熱で熱せられ電位差が発生します。数kV の電位差とそれなりに強い静電気を生じて周囲の埃を集めてしまうため、博物館などに展示されているトルマリンの標本は埃まみれのことがよくあります。

 似たような効果にゼーベック効果というものもあり、温度差で起電力を発生する現象です。これはペルチェ素子などの冷却を行う素子で使われています。ペルチェ素子はパソコンの CPU 等を冷却するほか、車載冷蔵庫などに使われている冷却用素子で、温度差によって電気が生じるゼーベック効果を利用して電気を流すことで熱を移動するという素子です。

 話は戻って、焦電効果の特徴は大変大きな電位差を簡単に得られる点です。汎用的に売られているPZTなどの汎用のセラミックを用いたランジュバン振動子でも簡単に数 kV を発生させられます。ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムを使っているものでは数十 kV の超高電圧を容易に得られます。

焦電効果を利用した製品



 この焦電効果を利用した製品はすでにあり、最も身近なところでは人感知センサーがピンと来るかと思います。人間から発せられる赤外線で結晶が温められ、発生する起電力を利用するものです。非常に焦電効果係数の高い結晶を使い、さらに超高感度のアンプを利用することで実用化に至っています。

 こうした意外な実験を行った上で、我々の日常生活でもその現象を利用した製品があると紹介することで、「こんな知識が何の役に立つのか」という疑問に答え、「さらなる応用方法を考えてみては」と指し示すことができるのではないでしょうか。

※実験に当っての注意事項
・本書に掲載されている実験は、主に高校生以上を対象に、教師が立ち会って行うことを想定して書かれています。教師の目が届かないところで、生徒だけで実験することは絶対に避けてください
・火を使う実験では、火の取扱いには十分注意してください
・書かれている薬品は、必ずSDS検索(https://www.j-shiyaku.or.jp/Sds/)などで注意事項を確認し、事故防止に努めてください
・使用する実験器具、薬品は実験前に異常がないか確認してから使用しましょう
・実験の手順はあらかじめよく読んだ上で、必ず手順どおりに実施してください
・実験時はなるべく肌の露出は避け、必要に応じて防護眼鏡、手袋などを着用してください
・電気を使った実験では、感電、火傷の恐れがあるので注意してください
・難易度が高ければ高いほど、危険を伴うことがあります。その場合は、予備実験および徹底した安全管理を行った上で実験してください
・万が一事故が起こった場合は、まずは落ち着いて事故の内容・程度を把握した上で、適切な応急処置を取ってください
・上記を踏まえて上で、本文中に記載された注意事項は必ず守り、安全第一で実験に臨みましょう
・本書を参考に実験を行い、事故等により何らかの損失・損害を被ったとしても、著者並びに出版社、その他関係者には一切の責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください

<協力:すばる舎>

魅了する 科学実験2

発行:すばる舎/著:早稲田大学本庄高等学院 実験開発班
 数々のサイエンスコンペティション入賞者を輩出した、科学部による「学校の理科室でここまでやるか!?」と驚愕間違いなしの実験を15収録。
 日常生活に役立ちながらも科学的好奇心を爆発的に揺り起こす!誰もが夢中になる実験手法を大公開です。大好評を博した「魅了する科学実験」の続編がついに出ました!第2弾は、光や音、超音波といった「目には見えない」事象を大きく扱っています。授業でとりあげたくても、なかなか生徒たちに興味を持ってもらえない分野ですが、エキサイティングな実験の数々が、生徒たちの好奇心を満たします。中学校理科から高校化学・生物・物理と幅広く網羅しているので、「理科」の先生は必見です。ご家庭で実験を行うには危険な実験もありますが、ご家庭でもトライすることが可能な実験も収録。実験マニア・科学マニアにもうってつけの1冊です。

《編集部》

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