ゲームは学びの入口になる…「夏休み、子どもとデジタルゲームの上手な付き合い方」

 「夏休み、子どもとデジタルゲームの上手な付き合い方」のセミナー内容とインタビューをもとに、デジタルゲームとの付き合い方や、親が取るべきスタンスについて考える。

デジタル生活 小学生
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参加者の子どもたちと
参加者の子どもたちと 全 17 枚 拡大写真

これからの世の中はデジタルスキルが社会で活躍する前提に



 世の中はデジタル化が進み、小学校でも2020年からプログラミング教育が開始されることが決定している。何らかのデジタル教材に触れる必然性を感じ、プログラミング教室への参加を検討する家庭も少なくない。一方で、テレビやパソコンのモニター、タブレット端末などを用いて遊ぶデジタルゲームに対しては、「そんなに熱中してもいいものだろうか」と心配をしている親御さんもいることだろう。

 ではこうした世の中で、親はどういったスタンスで子どもとゲームの関係を捉えたら良いのだろうか。イベント終了後に、改めて藤本徹先生と松丸亮吾氏に話を聞いた。

没頭し続けるというのもひとつの能力…藤本徹先生



--プログラミング教育に注目が集まる中、ゲームそのもの、あるいはゲーム機やスマホなどのデジタル機器に触れるということは、これからを生きるお子さんにとってどのような利点があるとお考えですか。

藤本先生パネルディスカッションでもお話ししましたが、お子さんが熱中するゲームの種類によって培われる力が違ってくると考えています。アクションゲームやパズルゲームは気分転換に良いと思いますし、たとえば歴史ゲームで歴史上の人物に興味をもつようになったり、チーム対戦で戦略を練るようになると、「学びの入口」にもなります。

 また、デジタル機器を触ることによって培われるITリテラシーというものがあります。ゲームを繰り返し遊ぶ中で自然と身に付いてしまう。それは、デジタル社会で生き抜く力が備わっているということでもあります。

東京大学 大学総合教育研究センター・藤本徹先生


藤本先生デジタル化された社会が前提となる世の中で、こうしたスキルが身に付いていて社会で活躍する準備ができているということは非常に大きい意義をもつと思います。

 だから、頭ごなしにゲームは良くないと禁止していると、ITスキルがない状態でデジタル化された社会の中に出ていくことになりかねません。プログラミング教育でも遊びの時間でもいい、デジタルに触れるのは非常に大切なことだと思いますね。

--とはいえ、あまりにゲームに没頭していると、親としては不安になり、熱中していることを中断させてしまうことがあると思います。中断させてしまうことでのデメリットはあるとお考えですか。

藤本先生それはいろいろあると思います。禁止されたことほどやりたくなった経験はありませんか?せっかく楽しんでいるものを禁止する、我慢をすることで、余計にやりたくなってしまうという心理的側面があります。

 また、親から子へ頭ごなしにものごとを言う関係になってしまう。そうした親子関係は良くないと思いますね。むしろ、ルール付けをし、ゲームをどう生かすかという観点から考えていったほうがいい。

--ルール付けが重要なのですね。

藤本先生夢中になるといっても、サッカーとかほかの趣味だったら没頭しても気にならない人のほうが多いのではないでしょうか。ほかの趣味なら3時間やっても何も言われないのに、対象がゲームになるととたんにやりすぎと言われる。たとえば釣りだったら3時間やっても誰も怒らないですよね。

--確かにそうですね!

藤本先生ただし、体の具合が悪くなるほど没頭している場合には、親が待ったをかける必要があるでしょう。特にゲームはずっと同じ姿勢でいることが多いので、筋肉が凝り固まって、肩や背中が痛くなるなどの不調が出やすい。体調には気を付けてあげて、一定時間経ったら体を動かすよう声がけをするなどの必要はあるでしょう。でも、それ以外のところは見守るのが一番です。


--親に必要なのは、生活に支障をきたさない限りは見守るスタンスが一番である、と。

藤本先生没頭し続けるというのもひとつの能力です。何かに没頭して継続し何かをクリアするという経験は、人生には大事ですよ。もちろん、ある程度はゲームのコンテンツを親が選ぶといった配慮はあっていいと思います。そのうえで家庭のルールの中でゲームが逸脱しないで、あくまでも趣味の中で位置付けられるようにルール付けをするのが重要。それがゲームとうまく付き合っていくコツだと思います。

ゲームに熱中する中で学びの姿勢が整った…松丸亮吾氏



--このイベントへの参加を決めた理由と、終えた感想をお聞かせください。

松丸氏まず、世の中のゲームを「悪」とする風潮に対して、疑問に思っていたんですね。勉強に悪影響がとか、成績に響くとか言われることが多いと思うんですけど、実際に東大に通う身として、自分の周りではゲームをやっている人のほうが圧倒的に多いです。逆に、ゲームをやると勉強ができないというのは、僕はありえないと思っているくらい。それをきちんと否定する立場として、自分の経験を生かせたらいいなという思いがありました。

 そして藤本先生とのディスカッションができたら、大きな影響力が出て、より多くの親御さんに正しい理解を広めることができるのではないかと思ったのが参加を決めた理由です。参加した感想としては、ゲームの説明で、考える要素があること、いいところがあること、思考力のアップになることを話したときの親御さんの反応が良く、理解していただけたのがすごく良かったと思います。

現役の東大生で謎解きクリエイター・松丸亮吾氏


--松丸さんご自身が子どものころにこのゲームがあったらどうだったと思われますか。

松丸氏僕、もともとポケモンが大好きだったんですよ。『ポケットモンスター ルビー・サファイア』が出たころにハマった世代です。うちは4人兄弟、全員男で、ゲーム一家だった。兄たちはみんな『ポケットモンスター 赤・緑』からやっていたような家で。「『ポケットモンスター ルビー・サファイア』面白かったよ」と兄たちに言ったら、これもやったほうがいいと、『ポケットモンスター 金・銀』『ポケットモンスター 赤・緑』全部渡される、みたいな(笑)。そこからハマりましたね。

--ハマった理由はどういったところにあったのでしょうか。

松丸氏何だったんだろう。でも、兄たちがやっているのを見て憧れていたのかな。それで自分で買って、特訓して、戦って、ボロ負けして。それでハマっていったみたいな感じですかね。

--ゲームで得たもの、ご自身の今に生かされていると感じるものはありますか。

松丸氏ふたつあると思っています。ひとつはゲームをやっていく中で、問題が発生したときに、自分のレベルが足りていないとか、敵が強すぎる、弱点は何だろうといろいろと自分で考えていけるようになったこと。誰かに「考えなさい」と言われて考えるのではなくて、自主的に学びに向かうようになった。習慣的に。それが大きかったかな。

 もうひとつは、ゲームを始めたことで負けず嫌いになったこと。もともとは仲睦まじい兄弟だったんですよ。ところが4人兄弟でゲームで対戦するようになると、やはり兄たちは強い。年齢的に早く寝なくてはならない僕に対し、年かさの兄たちはずっとゲームをやっていて遊んでいる量も違う。やはりいろいろな戦術を知っている。勝てない。

 最初はわんわん泣きわめいて「もうお兄ちゃんたちとゲームなんかやらない」と言うんだけど、翌日になるとケロッと忘れてゲームに向かうんですよね。そして次はどうやったら勝てるんだろうとか、あのとき負けた理由は何だったんだろうと考えるようになったんです。負けず嫌いになったおかげで、常に上昇志向というか、自分ができなかったところをできるように変えていこうとする、学びの姿勢が整ったかなと思います。学ぼうとするクセ、学ぶために必要だった姿勢、自分で考える力。これらがかけ合わさって、今の自分ができていると思います。

--ゲームというのは必ずしもマイナスではなく、ゲームの内容や場合によってはお子さんの学ぶ力を引き出すものである、ということですね。

松丸氏そうですね、ゲームが好きだったら、それこそ学びの入口になるゲームというのはたくさんあるので。これをやりなさいと買い与えるのは難しいとは思うのですが、特にお子さんが小さいうちは欲しがるゲームの内容を精査してもいいのではないでしょうか。

--ご自身の経験を振り返り、ゲームに没頭する子どもに対して親はどういうスタンスでいるべきだと松丸さんはお考えですか。

松丸氏いろいろな方向性があると思います。確かに没頭しすぎて、勉強をまったくしない場合は警戒が必要だと思います。でも勉強をやらなくて、ゲーム以外の時間は外で遊んでいるとしたら、必ずしもゲームは悪じゃないという気がするんですよね。遊んでいる時間の中からうまく勉強の時間を切り出してもいい。勉強をするためにどんなモチベーションを与えられるかが重要だと思います。

--1日の時間の中でうまくバランスを取れるように導くのが大事、と。

松丸氏そうですね。お子さんの性格に合わせたアプローチが必要なのではないでしょうか。

 負けず嫌いのお子さんだったら僕のやり方が合うと思います。勉強時間を決めて、それが終わらなかったら一切ゲームに触らせない。何が何でも終わらせてやるぞという気になりますから。勉強するためのモチベーションも僕の方法が効くと思います。できないところを提示して、ここがわかっていないんだねと、ちょっと悔しくなるような言い方をすると、負けず嫌いには響くんです。



松丸氏実は僕の母親は、僕が小学校4年生のときから中学受験の直前まで「弱点スクラップノート」というのを作っていたんです。テストで僕が間違えた問題だけをすべてプリントアウトした、いわば、僕が間違えた問題だけが載っている問題集を母親が手作りしていた。ノート1冊分まとまると、「はいコレ」と渡されるんです。

 これ、負けず嫌いとして燃えるんですよ(笑)。それが、僕が苦手をどんどん潰せるようになった要因でもあるし、僕が燃える要因でもあった。そうした母親の目論見はズバリあたって、それからは自分から勉強するようになりました。

 中学受験を終えて中学に通うようになってからは何も言われなくなったのですが、母親が言うには、中学生になると自分の意志が芽生えて来るから、それまでにいかにヒントを散りばめて子どもに渡せるかを考えて提案してきたんだ、と。だから、大学受験のときは自分で自分の弱点スクラップノートを自作して、そこに集めた問題を解くようにしていました。親から教えてもらったものが自分にフィットしていたからだと思います。

--とても参考になる話をありがとうございました。

 夏休み以降も、子どもとゲームの付き合いは続く。しかし子どもがゲームに没頭することに対して心配しすぎなくとも、子どもがもつ能力や学びに向かう姿勢を引き出すことができるかもしれないと考え、親は一歩引いたところから見守るのが良いのかもしれない。

 さらにゲームと「学び」を家庭内のルールで結び付けることができれば、親も子もハッピーな着地点となるに違いない。そう感じさせられる取材となった。

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《鶴田雅美》

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