スタンフォード大ビジネススクール教授、千代田高等学院で特別授業

 武蔵野大学附属千代田高等学院は、スタンフォード大学ビジネススクール アジアン・アメリカンエグゼクティブ・プログラム創立メンバー兼エグゼクティブ・アドバイザーのWesley Hom氏を招聘し、公開授業を開催。IBDP取得、海外留学を志す高校生が集結した。

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千代田高等学院「スタンフォード大学 招聘公開授業」
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 武蔵野大学附属千代田高等学院(以下、千代田高等学院)は、2019年10月28日、スタンフォード大学ビジネススクール アジアン・アメリカンエグゼクティブ・プログラム創立メンバー兼エグゼクティブ・アドバイザーのWesley Hom氏を招聘し、公開授業を開催した。

 同校の在学生のみならず、海外留学に関心のある中高生や保護者らも無料で参加できるとあって、会場には100名近くが訪れた。

 公開授業は17時から開催され、荒木貴之校長によるオープニングスピーチの後、前半は、Wesley Hom氏による講義、後半は同校国際部長兼IBコース長であるドゥラゴ英理花教諭のコーディネートにより、留学経験者4名が登壇するパネルディスカッションが行われた。

アジア人はどのように世界でリーダーシップを発揮できるか



 荒木校長による「素晴らしい講師による素晴らしい講義なので、ぜひみなさんも素晴らしいオーディエンスであってほしい。つまり、積極的に参加し、質問し、インタラクティブな授業にしてほしい」との挨拶の後、Wesley Hom氏の講義は始まった。講義は通訳なしのオールイングリッシュ。テーマは「アジア人はどのように世界でリーダーシップを発揮できるか」。

 まず、今の世の中のビジネストレンドに関する概説から講義が始まった。エアー・ビー・アンド・ビーやウーバーなどのシェアエコノミーの台頭、テスラに象徴される電気自動車のインパクト、アマゾンによる流通やライフスタイルの激変、デジタルエコノミーの進展によるサイバーセキュリティの脅威、持続可能な発展へのニーズの高まり、ハードからソフトへのビジネスモデルの転換など、大学生や社会人レベルの話題が次々とスライドとともに紹介される。

スタンフォード大学ビジネススクール アジアン・アメリカンエグゼクティブ・プログラム創立メンバー兼エグゼクティブ・アドバイザーのWesley Hom氏スタンフォード大学ビジネススクール アジアン・アメリカンエグゼクティブ・プログラム創立メンバー兼エグゼクティブ・アドバイザーのWesley Hom氏

 その合間にしばしばHom氏から発せられる、「Make sense? (わかりますか?)」の問いに「Yes!」と元気に応答する生徒の声があちこちから聞こえてくる。講義中、手を挙げ質問をしたりディスカッションをしたりする生徒たちも見受けられた。

 授業の中盤は、「これからの世の中でリーダーシップを発揮していくために必要なマインドセット(考え方)、ビヘイビア(行動)、スキル」について。

 成功する人に必要なマインドセットとは、オープンマインド、つまり、リスクを恐れない、ポジティブシンキング、楽観的であること、現状に満足しないこと、ほかの人から学ぼうとすること、という。重要なビヘイビアは、人を動かす情熱、ネットワーク力、先見性、とにかくやってみる態度、自分のブランドイメージをもつこと、リスクを恐れないでチャレンジすること、機敏で柔軟であること。必要なスキルは、交渉力、関係性づくり、権威に惑わされず自分の意見をもつこと、ICTを使いこなすこと、想像力、クリティカルシンキング、自己PR力などがあげられた。


 しかし、アジア人は、一般的にクローズドマインドであり、リスクを恐れ行動しない、交渉やコミュニケーション、自己PRが苦手。「だがそれは、あなたたちが育った環境によるもので、自分のアイデンティティであり、ブランドである。変えることはできないし、その必要もない。大切なのは、欧米人とアジア人の違いを理解すること。」とWesley Hom氏は説く。

 「日本人が欧米人になることはできない。日本人であることを恥じる必要はない。日本人には、勤勉であること、分析力に長けているなど、欧米人にない良さがある。その良さを生かしつつ、成功するためのマインドセット、ビヘイビア、スキルを身に付けることです。」とオーディエンスを見渡しながら伝えた。


 最後には、「『Learn something new.』。常に何か新しいことを学びなさい。同じことを学ぶのは時間の無駄ですよ」と講義を締めくくった。

パネルディスカッション~あなたにとって留学経験とは



 後半のパネルディスカッションでは、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス、ハワイ大学卒、外資系投資銀行勤務のWeining Liさん、群馬国際アカデミーのIB(国際バカロレア)コース2年次に文部科学省が展開する「トビタテ!留学JAPAN(以下、トビタテ)」高校生コースで留学し、IBDPを取得、上智大学国際教養学部2年生の清水さん、大学院で1年間カナダ留学、現在は千代田高等学院の教員として勤務中の田丸さん、アメリカのSwarthmore Collegeを卒業し日系不動産会社に勤務している松本さんの4名が各々の留学体験を語った。以下、おもな発言を紹介する。

--海外に行ってよかったことは?

田丸さん:いろいろな人に出会え、いろいろな考え方を知り、日本ではできなかった経験ができました。それは自分の視野を広げてくれ、社会人になってからも役立ちました。

Weining Liさん:以前は日本人だからこう、アメリカ人だからこう、という先入観がありましたが、留学をしてそういう固定概念がなくなりました。どこの国の人とか関係なく、自分自身。自分のしたいことをやることが大事だと気付きました。

--せっかく高校でも留学してIBDPを取得したのになぜ日本の大学に進学したのですか?

清水さん:私がIBコースを選んだのは留学が目的ではなく、好きなことを極められるIBコースの学習スタイルが自分に合っていると思ったからです。英語ができるだけでは武器にならない。それよりも大事なのは人と違うスキル。私の場合、それはチアリーディングでした。トビタテにもアメリカのスタジオでチアリーディングを学ぶために応募しました。


--留学の手続きはどのように行いましたか。また、奨学金は利用しましたか。

田丸さん:自分でカナダの大学にアプライし、その大学の奨学金に応募しました。留学前はまだ英語力がそれほどなかったので、英文で書類を作るのにとても時間がかかりました。メールのやりとりも時差があって迅速に進まず大変でした。先生が手伝ってくださってとても助かりました。

--留学を考えている人へのアドバイスを教えてください。

Weining Liさん:留学をして、日本ではできないことを経験したり、いろいろな国の人と出会ったりしたいと思っている人が多いと思います。それはいいことですが、海外に行ったからといって、自分のキャラクターを変えたり、自分の軸を失ったりしないでほしい。自分は何者なのかを突き詰め、自分がいかに恵まれているか気付いたうえで、将来、自分はどんな貢献ができるかを考え、学んだことを社会に還元してほしいです。

清水さん:トビタテは、自分で留学のプランを立て、自分のやりたいことができるのでとてもお勧めです。留学中だけでなく、事前研修や事後研修でいろいろな人に会え、コネクションができるのもいい点です。失敗を恐れず、できれば高校生のうちにチャレンジしてほしいです。

田丸さん:海外に留学したら日本人グループに居続けないでほしい。英語があまりできないうちは、日本人グループにいることで情報がシェアできるなど良い面もありますが、そこに居続けると英語も学べないし異文化も体験できないからです。留学中は、季節のイベントなど日本にはないことに積極的に参加して貪欲に吸収してほしいです。

松本さん:何を大切にして、何のために留学するのか、目的意識をもって突き進んでほしいです。自分の軸をもちつつ、オープンマインドで人の意見を聞いたり、自分と違う考えも積極的に取り入れて、自分がもっている軸を補強していくことが大事。それが自分という人間を作っていくと思います。

学校内外からの参加者の声



 講義とパネルディスカッションに参加した高校生に感想を聞いた。

 千代田高等学院IBコース1年生 岩崎寿知さんは「講義を聴いて、自分がこれから何をしていくべきか、どうやって自分を極めたらいいかが見えてきた気がします。パネルディスカッションでは、海外留学は単に英語や異文化を学ぶだけでなく、ほかにもいろいろな価値があるとわかりました。いろいろ経験して、理想の自分に近づいていきたいです」と語っていた。

千代田高等学院IBコース1年生岩崎寿知さん

 千代田高等学院IBコース1年 忠政威吹さんは「講義では、グローバル社会で必要なスキルについて聞き、どれも大切だと思いましたが、結局は人間性が問われるということが心に響きました。パネルディスカッションでは、“軸”という言葉が響きました。まだ自分の軸が何なのか見えていませんが、いろいろな人からインスピレーションを受け、紆余曲折しても、軸さえあれば正しい方向に進めると思いました」と言う。

千代田高等学院IBコース1年 忠政威吹さん

 他校から参加した郁文館グローバル高等学校3年 風間美海さんは「今年、海外の大学を受験するつもりです。リーダーシップ論に興味があり、たまたま公開授業の情報を見て、わくわくしながら参加しました。リーダーシップにもこれだけいろいろな見方があるんだと興味深かったです。授業中、先生と英語で質疑応答もできたので、海外の大学に行ってもやっていけそうと、自信になりました」と目を輝かせていた。

郁文館グローバル高等学校3年 風間美海さん
郁文館グローバル高等学校3年 風間美海さん

今後も公開授業を開催し、留学をしたい生徒の後押しを



 参加した生徒たちのようすを見守っていた千代田高等学院の荒木貴之校長は、「スタンフォード大学から講師をお招きしたこと、英語のみで講義を行ったこと、外部の高校生にも公開したこと、すべてが初めての試みでした。これだけの講義はなかなかできることではありませんから本校だけで行うのはもったいない。留学したい、海外に興味があるという生徒は本校以外にもたくさんいるはずです。本校は東京の中心にありアクセスもいいので近隣の高校生にも公開することにしました

 あえて通訳なしで英語だけの講義にしたのは、英語がわからなくてもこの雰囲気を感じてほしかったからです。英語で積極的に質疑応答する生徒もいましたが、あの姿を見て『自分もあんなふうになりたい』と思った生徒は少なくないはずです。今はできなくても、これをきっかけに勉強しようと思ってくれればいい。今回は、すべての参加者にとって意義深い会になりました。公開授業は今後も継続し、海外留学をしたいという生徒たちの後押しをしたいと考えています」と、今回の公開授業について感想を語っていた。

千代田高等学院 荒木貴之校長
千代田高等学院 荒木貴之校長

 会場は公開授業が終わってもしばらく冷めやらない熱気に包まれていた。帰り際に聞いてみると、英語だけの授業は「半分くらいしかわからなかった」という生徒もちらほらいたが、その目は、興奮に光り輝いていた。本物を見たという感動か、荒木校長の言う「自分もああなりたい」という心の高まりか。若いうちに本場を体感させることの大切さを実感する公開授業だった。

《石井栄子》

石井栄子

子育てから、健康、食、教育、留学、政治まで幅広いジャンルで執筆・編集活動を行うフリーライター兼編集者。趣味は登山とヒップホップダンス、英語の勉強。「いつか英語がペラペラに!」を夢に、オンライン英会話で細々と勉強を続けている。最近編集を手掛けた本:『10歳からの図解でわかるSDGs「17の目標」と「自分にできること」』(平本督太郎著 メイツ出版)、『10代から知っておきたいメンタルケア しんどい時の自分の守り方』(増田史著 ナツメ社)『13歳からの著作権 正しく使う・作る・発信するための 「権利」とのつきあい方がわかる本』(久保田裕監修 メイツ出版)ほか多数

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