自らも中学2年生から不登校を経験、19歳から「不登校新聞」のスタッフとなり、不登校の子供や若者たちを数百人以上取材してきた編集長・石井志昂氏に、インタビューの前編「低学年からマウンティング・同調圧力に苦しむ子供たち」では不登校の子供たちが抱える悩みについて話を聞いた。後編となる本編では、子供が「学校に行きたくない」と言った時、周囲の大人はどのように受け止め、支えれば良いのか、具体的なアドバイスを聞いた。
まずは「わかった」と受け入れて休ませる
--子供から「学校に行きたくない」と言われた時、親はどう反応するのがベストですか。
子供が「学校に行きたくない」っていう時は、相当我慢して親に告白するときです。ただし一生涯、行きたくないと思っているわけではありません。また、腹痛、頭痛、朝起きられない、勉強が手に付かない、イライラして兄弟姉妹やペットに当たるなど、身体でSOSサインを出す子供も少なくありません。
だから、まずは「わかった」と言って子供の気持ちやサインを受け入れ、その日は休ませてあげてください。急な風邪を引いた時と同じ対応で良いです。その際、行きたくない理由やいつまで休むかという話題にまで触れる必要はありません。大抵の場合、数日間休めばまた学校に行くようになりますから。
--風邪を引いた時と同じ対応、というのはわかりやすいですね。風邪を引いた時だけ出てくる高級なアイスクリームを一緒に食べるとか?(笑)
そうそう!一緒にそうやって風邪を引いた時のように子供の好物を食べたり、子供が楽しめそうな話題でおしゃべりしたりしているうちに、子供には安心感やチャレンジする気持ちがチャージされるんです。そのうち子供のほうから学校へ行きたくない理由など話してくれるようになると思います。
「この子なりの進路を歩んでいくんだ」と覚悟を決める
--数日お休みしてもまだ行き渋る場合はどうすればいいのでしょうか。
学校に行く・行かないではなく、子供が今、一番安心できる状況は何かを考えて対応するのがベストです。「この子はこの子なりの進路を歩んでいくんだ」と覚悟を決めること。そうすれば学校に行くことにこだわらなくても済むはずなんです。でも9割の親御さんは、そこで何とかして学校に行かせようとするので、子供は傷つき、事態は深刻化してしまいます。
不登校の子は、身体は家にあっても、心では登校を続けていることがよくあります。私自身もよく覚えているのですが、学校に行かなくなったころ、時計を見るのがとにかく辛かったですね。あ、数学の時間だとか、お昼休みになったとか考えるたびに心がどんどん削られていくような感覚になるんです。そういう中で、ゲームをしたり、漫画を読んだりして気晴らしをしながら身体を休めていくと、少しずつ自分がチャレンジしたいことが湧き出てくるんですよね。
--「不登校になったからうちの子の人生は終わりだ」というような考えで親が心配ばかりしていると、子供にはマイナスの影響しかないということですね。
その思いに、不登校の子供たちは苦しみます。そういう考えにとても傷ついているんです。逆に親の笑顔さえあれば安心します。ずっとではなくて良いのですが、親が笑っていると安心できるし、その安心があるから頑張れるのです。
社会性は家族との関係から育つ
--家では元気に過ごしているが、社会性がちゃんと育つのかと心配する親御さんの声も多いですが、不登校と社会性との関係についてはどうお考えですか。
東京大学名誉教授で前白梅学園大学学長の教育学者・汐見稔幸先生は、「子供は2歳までに社会性を学んでいる」とおっしゃっています。不登校の親たちも、社会性は一番身近な家族との関係から十分育つと言っています。そういう不安を抱く親御さんの一番の問題は、「うちの子は家にずっといて外で何も学べていない。だからこの子の将来はだめになりそうだ」という目線で子供を見ていることです。それは社会性という面で、わが子に「劣等生」というレッテルを貼っているようなもの。そんなふうに見られたら、やはり本人としては辛いです。そこは親御さんは気を付けた方がいいと思います。

--不登校が長引く場合、親はどんなふうに対応すればいいでしょうか。
不登校の受け皿は、高校ではぐんと選択肢が増えた一方、小・中学校ではまだまだ広がっていません。そのため、塾・習い事や児童館など、子供の気持ちが落ち着く場所を探しながら、家庭でのホームスクール形式でやっているケースがほとんどです。
その中で、やはりフリースクールというのは貴重な受け皿です。もちろん、すぐに通うことができない子もいます。でも、「存在を知るだけで安心できた」という子も意外と多いんです。フリースクールは子供が「学びたい」と思える気持ちが出発点で、自由に自分の時間を組み立てられるので、学校に比べてその子のペースで過ごしやすい場所です。
また、コロナ禍がきっかけで、オンラインの学習機会も増えました。子供が学校に行けなくなっても絶望せずに済むという意味で、親が積極的に情報を調べ、子供と共有しておくのはとても良いことだと思います。
専門家を頼るときのポイント
--スクールカウンセラーや医療機関などの専門家を頼った方が良い場合と、しばらく家庭で見守ってあげる場合との見極めはどうしたらいいですか。
事態の「悪化」です。学校に行っていた時より家では落ち着いている、笑顔が増えているということならこれは快方に向かっていると見て大丈夫でしょう。でも、腹痛や頭痛など体調がすぐれなかったり、精神的に不安定だったりする場合は、まずは親だけで児童精神科や小児科、あるいはスクールカウンセラーに相談に行ってください。子供を無理に連れていく必要はありません。
--良い専門家を選ぶ際のポイントを教えてください。
決め手は、親御さんが相談に行った際に「大変だったね」という眼差しがあるかどうか。医療機関もスクールカウンセラーも、玉石混交は事実です。スクールカウンセラーは、小学生なら中学校、中学生なら高校と、次に進学する学校に相談するのがお勧めです。残念ながら小学校の不登校対応は「20年遅れ」とまで言われていますが、学年が上がっていくほど経験値も上がるので、不登校への対応が良くなっていきます。
また、噂では評判の良い専門家でも、行きたくないと言っている子供を無理にでも連れてくるように言ったり、上から目線で責められているような気分にさせられたりする場合は頼らなくていいです。そういう人からは、子供の立場に立った発想なんて出てくるはずはないですから。
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ポプラ社より2021年8月上旬に発売予定
社会の「ひずみ」に苦しむ子供たちの声に耳を傾ける
--「20年遅れ」という表現がありましたが、なぜ小学校は対応し切れていないのでしょう。
先生方は毎日本当に忙しくて必死で、それでもやることがどんどん増えているからだと思います。それに、学校の設計自体にそもそも無理があると思います。勉強って、つまずいたところから始めないと学力が付かないのに、全員が同じペースで学ばないといけないのは、先生も生徒もしんどいはずなんです。なのに同じ教室の中で、ある子にとっては「わかっていることをずっと聞いていないといけない」一方で、別の子にとっては「わからないままずっと座っていないといけない」という状況が今もまだ続いているわけです。AIを使った無学年式の優れた教材がこれだけ進化してきている中で、学校もそうしたものを活用して変わっていく必要があるのではないでしょうか。
--最近は「ブラック校則」も問題視され始めました。そうやって紐解いていくと、学校現場のひずみのようなものを敏感に察して、行きたくなくなってしまう子供が増えているのかもしれません。
「不登校は炭鉱のカナリアみたいだ」と言う人がいます。炭鉱にカナリアを置いておくと、炭鉱の中でガス漏れが発生した時、カナリアがいち早く鳴いて、「ここは危険だ」と教えてくれるのだそうです。
おっしゃる通り、学校で苦しんでいる子たちは、学校の中で起きているさまざまなひずみを、自分の身体を通して「行けない」と表現しているのでしょう。その声にもっと耳を傾けてみると、確かに学校が今の社会から取り残されているところや、学校自体のひずみなんかがよく見えてくるんです。親御さんも今の学校はちょっときついなと、そろそろ気付いているのではないでしょうか。
--台湾の天才IT大臣のオードリー・タン氏も自身が不登校であったことを告白していますし、不登校新聞には宮本亜門さん、中川翔子さんなど、多くの著名人が自らの不登校体験を語って下さっていますね。
自分ひとりじゃないんだって思えることはすごい力になりますよね。親御さんにとっては、子供の笑顔が見られたらそれで100点だって思ってほしいです。
--あらためて、わが子が不登校で悩む親御さんに向けてメッセージをお願いします。
不登校も成長の仕方のひとつだと思います。冒頭にも話したように、不登校を経験した子たちのほとんどは、休んだらそれで大丈夫だったんですよ。彼らは確かに不登校によって、人より多く悩み、苦労したかもしれないけれど、今は一生懸命自分の人生を生きています。親御さんが「うちの子は大丈夫」と思えたら、子供は安心して休むことができます。「今休んでも大丈夫」と思って、温かく見守ってあげてください。
--貴重なお話をありがとうございました。
「不登校は炭鉱のカナリア」という表現は言い得て妙だと思った。Z世代、α世代と呼ばれるデジタルネイティブの子供たちは、親世代とは異なる価値基準や世界観をもっている。むしろ私たち大人は、彼らから盲点を突きつけられ、ハッと気付かされることも少なくないはずだ。
世界中で多様性の尊重が叫ばれる今、学校のあり方、子供たちの受け皿は、まだ決して多様とは言えない。不登校の増加は社会のひずみの表れだと受け止め、今こそカナリアたちの鳴き声に、真摯に耳を傾けなければいけないだろう。
発行:ポプラ社 編集:全国不登校新聞社
企画から取材まで、不登校の当事者・経験者が、大先輩たちに体当たりでぶつかって引き出した「生き方のヒント」。第一弾「学校に行きたくない君へ」は、樹木希林、荒木飛呂彦、西原理恵子、リリー・フランキー、辻村深月ほか20名、第二段「続 学校に行きたくない君へ」は、中川翔子、ヨシタケシンスケ、りゅうちぇる、立川志の輔、谷川俊太郎、庵野秀明、糸井重里、坂上忍ほか17名のインタビューを収録。
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1973年京都市生まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、子どものメンタル、子どもの英語教育、海外大学進学、国際バカロレア等、教育分野を中心に「プレジデントFamily」「NewsPicks」「ダイヤモンド・オンライン」「ReseMom(リセマム)」などさまざまなメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。一男一女の母。2020年6月発売の初著書「子育てベスト100」(ダイヤモンド社)は、2021年2月現在累計16万部発行のベストセラー本となり、教育関連の書籍では異例の大ヒット作に。(写真撮影:干川修)