生徒の失敗・トラブルこそ成長のチャンス…海陽学園ハウスマスターとフロアマスターが語る寮生活で磨かれる力とは

 海陽学園創立当初より16年間に渡りハウスでの生徒の生活を支え、その成長を見守ってきたハウスマスターの金木健氏と、全日本空輸(ANA)から派遣されフロアマスターとして生徒たちと生活を共にしている湊幸輝氏に、ハウス運営のやりがいや、海陽生たちの姿について聞いた。

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生徒の失敗・トラブルこそ成長のチャンス…海陽学園ハウスマスターとフロアマスターが語る寮生活で磨かれる力とは
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 ボーディングスクールである海陽学園の大きな魅力が「ハウス」と呼ばれる寮での生活だ。親元を離れて暮らす「ハウス生活」への憧れから入学した生徒も多く、前回の生徒インタビューでは、生徒たちが日々お互いを刺激し合い、勉強、部活、行事など何事にも主体的に取り組み、人間力を高めていく姿が垣間見えた。

 創立当初より16年間に渡り、基礎学力と人間力をバランスよく鍛える「全人教育」の基盤となるハウスで、生徒の生活を支え、その成長を見守ってきたハウスマスターの金木健氏と、2022年3月より全日本空輸(以下、ANA)から派遣され、フロアマスターとして生徒たちと生活を共にしている湊幸輝氏に、ハウス運営のやりがいや、海陽生たちの姿について聞いた。

ハウスの生徒たちへの思い「as a family」



--金木さんは開校間もないころハウスマスターに着任されたそうですが、ハウスマスターになった経緯を教えてください。

金木氏:私自身は大学を卒業後、神奈川県で教員として勤めたのち、一時期は青年海外協力隊として3年ほど海外に出て働いていました。帰国後は教育専門の人材派遣会社に勤務していたのですが、その際に私の担当していた学校が海陽学園だったのです。コーディネーターとして学校を訪問しお話させていただく中で、初代校長の伊豆山先生より「君の経歴や生き方が面白い。ぜひ海陽学園でハウスマスターをしてくれないか」と声をかけていただいたのがきっかけです。「これまでにない、新しいボーディングスクールを立ち上げる」という理念に賛同し、尽力できたらという思いで拝命いたしました。以来、ハウスマスターとして寮の運営に携わり、今年で17年目になります。

基礎学力と人間力をバランスよく鍛える「全人教育」の基盤となるハウスで、生徒の生活を支えるハウスマスターの金木健氏
--湊さんは社会人2年目でこの春からANAより出向されているそうですが、フロアマスターになった経緯を教えてください。

湊氏:今年の3月からフロアマスターとして海陽学園に出向してまいりました。パイロット訓練生としてANAに入社して1年目、羽田空港で客室乗務員のマネジメントを行っていた時にフロアマスターの募集がありました。大学時代は教育学を専攻しており、小学校、中学校、高校と、すべての教員免許を取得していました。そういった自分の経験を生かしたい、そして将来パイロットとして求められるマネジメント力、コミュニケーション能力といった部分を育みたいと思い、フロアマスターを志願しました。

2022年3月よりANAから派遣され、フロアマスターとして生徒たちと生活を共にしている湊幸輝氏
--生徒が暮らすハウスは12棟ありますが、どのような体制で運営されているのでしょうか。

金木氏:中学1年生が生活するハウスが2棟、中学2、3年生が生活するハウスが3棟、高校1、2年生で3棟、高校3年生で2棟。計10棟で生徒たちは寮生活を送っています。残りの2棟は現在、万が一感染症などが疑われた際の隔離施設として運用しています。

 各ハウスにハウスマスターが1人、それぞれのフロアにつき1人のフロアマスターが配置されハウスを運営しています。さらに生活面でのサポートをする女性スタッフのハウスサポーターとケアサポーターといった、多くの大人が生徒たちを見守っています。普通の学校に比べると、1人の生徒を見る大人の数が多いので、その分手厚い対応ができています。

金木氏:毎日スタッフの中でミーティングや情報交換を密に取り合い、生徒の状況について共有しています。うちのハウスは言うなれば「as a family」。私自身も我が子を育てるのと同然といった思いでハウスを運営しています。生徒たちは学校が休みの日でも、ハウスでの生活は休みではありませんから、月曜から日曜、早朝から深夜まで対応することもあります。子育てに休みがないのと同じ感覚ですよね。父親のような存在のハウスマスターがいて、頼れる兄貴分のフロアマスターがいる。年頃の男子生徒が暮らす環境の中では、大きな存在であり、強みになるのではないでしょうか。私は生徒たちにとっては「昭和のオヤジ」という印象かもしれません(笑)。

ハウス(寮)の構成。ハウスマスターとフロアマスターは、ひとつ屋根の下で生徒たちと寝食を共にしている

現場の第一線で活躍するフロアマスターの話から、生徒自身がビジョンを描く



--賛同している企業がたくさんあると伺っています。湊さんの所属するANAはじめ、賛同企業によるサポートについて教えてください。

金木氏:まず賛同企業全般ということで申し上げると、大きく3つのサポートをいただいております。

 1つ目は「人的な支援」です。企業から派遣されるフロアマスターを含め、事務職員も賛同企業からの出向という形で人材のご協力をいただいています。

 2つ目は「教育コンテンツの提供」です。実際にトップ企業の役員の方を招いて生徒の前で特別講義をしていただいたり、専門的なキャリアの方によるキャリア講座を開いていただいたりしています。他にも工場見学や企業訪問といった体験学習など、海陽生しか経験できないさまざまな教育コンテンツを提供していただいています。

 3つ目は「金銭的な支援」です。創立に際しては80社を超える企業様からご支援をいただきました。創立以降も奨学金制度の原資などについて長くご支援をいただいています。

--湊さんの所属であるANAではどのようなサポートを行っているのでしょうか。

湊氏:弊社からは、まず人材支援として私がフロアマスターとして派遣されています。また、昨年度の例でいうと、キャリア教育の一環として、弊社のパイロットを学園に派遣してセミナーを開きました。内容は、自衛隊から派遣されたパイロットとともに「空を駆ける仕事」とはどういうものなのか、生徒たちが将来のビジョンを描く手助けをするといった趣旨のもので、海陽生のためのオーダーメイドのキャリア講座です。

 パイロットというのは、子供たちにとって憧れの職業である一方、その職に就いている人と直接話せることは少ないので、貴重な機会になったのではないでしょうか。現場の第一線で活躍する方々の話を聞いている生徒たちの表情は真剣そのものでした。今年は私が担当することになるのですが、私なりに新しいアイデアを取り込んで、航空業界の特徴や弊社の取組み、パイロットの魅力などを生徒たちに還元したいと考えております。

全力で生徒たちと向き合い、寄り添う



--ハウスマスターのおもな仕事内容と役割を教えてください。

金木氏:1日の中で実際にハウスに生徒がいる時間帯がコアな勤務時間です。生徒の起床が6時なので、我々は5時半から起きて待機をしています。点呼や健康状態をチェックした後、うちのハウスでは朝学習として基礎英語のリスニングに取り組んでいます。朝食の時間は手洗いや黙食など衛生面の対策ができているかを見守り、生徒が登校した後は、ハウススタッフとのミーティングや学年の先生方との情報共有を毎日行っています。

 生徒たちが授業を受けている間は、教科の先生方が対応してくださっているので、我々はその間に各自の業務にあたります。保護者への連絡やメールの返信、私は広報関係を兼務しているので、会議や出張に出向くことも多いです。

 16時以降になると生徒たちが下校してきますので、「おかえり」と出迎えクラブ活動などに見送ります。夕食後はハウスタイムとして全員で集まり、ハウスマスターが生徒たちに話をする時間をとっています。その後は生徒たちの自由時間で、20時から22時まで学習時間と続きます。「ちゃんとお風呂行ったか、さぼらずに掃除しているか、勉強しているか」と、まるで親代わりですね。

 夜は22時半の消灯を確認した上で、フロアマスターと生徒の状況を共有したり明日への引き継ぎを行います。だいたい23時半くらいまで話していますね。業務にあたる時間が朝から夜までにはなりますけれど、やはり生徒たちに何が起こるかというのは偶発的なものなので臨機応変に対応していきます。

ハウススタッフと先生の違い。多くの大人が関わり常に生徒たちをサポートする
--フロアマスターはいかがでしょうか。

湊氏:生徒たちが安心安全に気持ちよく暮らせるようにサポートするのが我々フロアマスターの役割です。具体的な関わりとしては、朝や夜の学習時間で勉強を教えたり、ハウスタイムの中で講話を行ったりします。生徒が困っていることがあったら相談に乗る、何か問題が起きれば叱咤激励をするといったように、成長をサポートする仕事がメインです。

 生徒が学校にいる時間帯は、ハウス以外の仕事をする時間となります。私もハウスマスターと同様、広報業務に携わっていますので、週末に向けたイベントの準備やミーティングの時間として充てています。航空業界は特殊な勤務形態というのもありますが、社会人1年目は朝3時にタクシーが自宅まで迎えに来て5時から出勤をすることもあり、かなりバラバラな勤務時間を送っていました。今は、朝は早いですが、生徒たちと一緒に規則正しい生活を送っています。

失敗やトラブルこそが成長のチャンス



--生徒たちと日々向き合う中で、ご自身が常に大切にしていることを教えてください。

金木氏:やはり、何かトラブルが起こったり問題が起こったりしたときの対応です。「ピンチはチャンス」ととらえて、そこできちんとダメなものはダメと教えることは心がけています。

 また、生徒ひとりひとりに対して嘘偽りやごまかしなく、自分自身も真摯に裏表なく付き合っていきたいということ。これは心がけというよりも、自分の生活において常にこの思いがあります。ですので私は「仕事だから」というふうには生徒たちに接していません。

--湊さんはいかがでしょうか。

湊氏:生徒の観察をしっかりする、生徒の声を真摯に受け止めて対応するといった、一般的な教育者としての姿勢も当然大切にはしているのですが、私がもっとも大切にしているのは「七転び八起き」という精神です。

 私自身パイロットを目指して日々精進していますが、パイロットというのは、同じ失敗を2回行ってしまったら免許が取得できないのです。ですので、失敗した後どうするかというのが非常に大事になってきます。それはパイロットだけではなく人生においても大切だと思っていて、「何か自分が失敗してしまった後にどう考えるか、どう行動するか」によって、その後の成長というのは大きく変わってくると思っています。中学1年生というと、まだまだ右も左もわからないような状態かもしれませんが、たくさんのチャレンジをするうえで大切なのは「失敗した後どうするのか」ということだと日々伝えています。

--これは困った、というエピソードはありますか。

湊氏:あるとき、生徒同士のいざこざがあって自分の感情をコントロールできずに物に当たってしまった子がいました。そのときも、ハウスで暮らすみんなが使うものを傷つけてしまったことをまず謝る、そして、どうすれば自分の気持ちをコントロールできるようになるのか原因を探り、改善や行動に移していくというところまでしっかり考え、その子と向き合いました。

 表面的な解決だけではなく、彼らの心の中に落とし込むというのを私は大事にしています。生徒たちがしてしまった1回目の失敗に対して私は強く叱るということはありません。2回、3回と失敗を繰り返してしまうこと、失敗した後に隠したりごまかしたりというようなことに関しては、非常に強い態度で対応しています。

生徒たちに囲まれる湊氏。「失敗した後どうするのかが大切」と伝えながら日々生徒たちと向き合っている
--これはうれしかった、というエピソードも教えてください。

湊氏:フロアマスターとしての喜びは「生徒の成長を見られる」これに尽きるかと思います。大変な部分は当然多くありますし、私も慣れていないところもあって苦しいときもあります。けれども、そういった失敗を繰り返すことによって、また、七転び八起きの精神で改善していくことによって、生徒たちがどんどん成長していく姿を見られるというのが、フロアマスターとしての一番のやりがいだと感じています。

 最近の出来事ですが、整理整頓が苦手な生徒がおり、入学当初は目も向けられないような散らかった部屋でした。ですが、彼自身がそれを自覚し頑張って克服しようと、まず自分の部屋はきれいにするようになり、さらに、共用部のゴミ箱の清掃まで積極的にやってくれるようになったんです。できなかったことができるようになり、また、できるようになるために一生懸命頑張っている姿勢を、誰よりも間近で見ることができるというのが何よりうれしいです。

金木氏:生徒たちが卒業してからも訪ねてきてくれることが、私は一番うれしいですね。生徒たちが立派に成長した姿を見るのはハウスマスター冥利に尽きます。学校にいる間はもちろんですが、その後まで続く人と人とのつながりが生まれるのがうれしいんです。

 ちなみに私たちは教科を教える先生ではないので、名前や親しみを込め名前で呼び合うことも当たり前のようにあるのですが、たまに「オヤジが…」と言っている生徒の声が聞こえてくることがあります。なぜか、それもうれしいんですよね(笑)。

自律心が育つ唯一無二のボーディングスクール



--お二人からの視点で、ハウスから巣立っていく生徒たちに身に付いていると感じる、海陽生ならではの「力」とはどのようなものでしょうか。

金木氏:彼らはそれこそ12歳という早い学齢から、親元を離れて大人と対応しなければいけない環境に置かれることになります。人前に出ることや集団の中で前に立つという経験、自分自身のプレゼンテーションも含めて、周りと交渉する力などをアドバンテージとして身に付け、大学、社会へと出ていけるのではないでしょうか。

 このハウス生活自体が自主自律の精神を育てる環境にあります。失敗する経験も含めてさまざまなことを体験するので、自己同一性や主体性も早く身に付いていくのではないかと思います。

湊氏:海陽学園の生徒たちは、高い向上心をもった生徒が多く、朝晩の勉強やスポーツ、部活動への取り組みも個人個人がとても熱心に取り組んでいる印象があります。

 私がハウスから学校に行く彼らの背中を見送りながら感じているのは、やはり「自律」に関わる力だと思います。親元を離れて少し寂しいと感じる中でも、モチベーションが高い生徒に感化されて「自分自身もここで頑張ろう」という覚悟を決めて、自律へと向かう生徒の姿をこの2か月の間でたくさん見てきました。海陽学園は「自分が頑張ろうと思えば、その可能性は無限に広がる、自分が本気になったことをどこまでも大人がサポートして共に歩んでくれる」という環境があります。海陽学園で過ごす日々そのものが、彼らが未来に向けて飛躍する大きな力になっているのだと感じます。

--最後になりますが、海陽学園ならではのハウスの魅力を教えてください。

金木氏:やはりボーディングスクールであることが大きな強みです。60人もの生徒が同じ屋根の下で暮らす中で、偶発的に起こるトラブルや問題に対する問題解決能力は間違いなく培われると思います。今、目の前にある問題を把握して、振り返って、本人の頭で考えて答えを導いていく。その出した答えに対して責任をもって行動するという態勢が、自ずとサイクルになっていきます

 海陽学園のハウスは、そういった数値化できない非認知能力を伸ばせる場所。対人能力や問題解決能力、自己管理能力を軸に据えて、生徒たちの日々に寄り添いながら力を伸ばしていけるのが最大の強みだと感じています。教育ではなく「養育」の視点で、学力だけではなく「生徒ひとりひとりの生き方全般」を見ている学校だと我々は自負しています。

生徒ひとりひとりの生き方を見つめて17年目。ハウスマスターの金木氏
湊氏:海陽学園の魅力はたくさんありますが「一緒に生活する大人たちが大きな魅力」だと思います。それは金木さんのような経験豊富なハウスマスターの存在、そして私達フロアマスターの責務だと思っています。

 日本を代表する名だたる大企業から優秀な若手社員がいろいろなバックグラウンドをもって、海陽学園にやってきます。1年間で約20人が各企業から派遣されてくるので、6年間で120人もの社会人と触れ合えることになります。人生の先輩である彼らが、中学生のときに知っておきたかったこと、これまでの人生で気づいたことや教訓を惜しみなく提示してくれる。そこから学べることは非常に多いと思います。そうやってさまざまな価値観に触れることが、生徒の大きな成長につながっていくのではないかと思います。

--ありがとうございました。

 「ハウスマスターとフロアマスターがいるというのは世界中を探しても海陽学園だけの取り組みです」と胸を張る金木氏。我が子を想う父親のようなハウスマスターの包容力と、本物の兄のようなフロアマスターの頼もしさ。海陽学園の生徒を取り巻く大人たちの真摯な思いに触れることで、海陽生たちはいっそう優しくたくましく成長していくのだろう。

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海陽学園 海陽中等教育学校

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●海陽学園 生徒インタビュー「自由・自律・自学…生徒が語る海陽学園『ハウス』生活の中身」はこちら
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●生徒インタビュー第2弾「行事・キャリア教育」 2022年9月下旬公開予定

《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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