【中学受験2023】入試トレンドからわかる「ひとりっ子」にこそ中学受験を勧める理由

 『ひとりっ子の学力の伸ばし方』の著者であり、VAMOS代表の富永雄輔先生は「昨今、難関校に入学する生徒の大半がひとりっ子」と指摘する。その理由は。中学受験にも詳しい教育家・見守る子育て研究所の小川大介先生との対談をレポートする。

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 『ひとりっ子の学力の伸ばし方』の著者であり、進学塾「VAMOS」代表の富永雄輔先生は「昨今、難関校に入学する生徒の大半がひとりっ子」と指摘する。

 「ひとりっ子は親次第で大きく伸びる」という富永先生と、教育家の小川大介先生に、昨今の中学受験事情や子育てにおける親の関わり方について聞いた。

ひとりっ子の伸びは親次第

--2018年に出版された『男の子の学力の伸ばし方』『女の子の学力の伸ばし方』に続き、今回は『ひとりっ子の学力の伸ばし方』を執筆されました。その背景には、どのような意図があったのでしょうか。

富永先生:私が経営している「VAMOS(バモス)」という学習塾で、実際に子供たちの指導にあたっていると、ひとりっ子は他のお子さまと比べ「伸びる」と感じることが多いのです。中学受験でいえば、筑駒や渋幕、開成など男子御三家や桜蔭など女子御三家に受かるような子たちのひとりっ子の割合は右肩上がりという感覚があります。

小川先生:そうですね。私は関西出身で、学生時代から進学塾で子供の指導をしてきました。関西のトップである灘に通う子たちも、多くがひとりっ子の印象です。兄弟がいるほうが珍しいので、むしろ話題になりやすいですね。

富永先生:現代はひとりっ子家庭も多いですから、必然的にそうなっている部分もあると思います。でもそれだけでなくて、ひとりっ子はさまざまな面でアドバンテージがあると思うんです。もちろん、ひとりっ子に限らず、どのような子も、その子の特徴や持っている性質を理解して適切に指導することで必ず伸びます。しかし、特筆してひとりっ子が伸びる理由は、保護者の時間や、教育費を1人に集中することができるという点ですそれだけでなく、大人との距離が近いこともメリットと言えるでしょう。ひとりっ子の場合、家庭で接するのはもっぱら両親や祖父母などの大人のみ。親をはじめとする大人が正しい情報をもち、投資を惜しまずに適切に導くことができれば、ひとりっ子は爆発的に伸びるのです。

ひとりっ子家庭こそ「複数の大人」で子育てを

小川先生:一方で、大人の影響を大きく受ける存在だからこそ、注意しなければならないこともあります。とりわけ保護者の視野が狭かったり、勉強不足だったりすると、窮屈な世界で子育てすることになってしまいます。子供への大人からの影響力が大きいというのは、「大人が子供を支配しやすい」環境であるとも言えます。でも「支配」してしまっては、大きく伸びる芽を摘んでしまう可能性もある。ひとりっ子の子育てのメリットを最大限活用しながら、デメリットを最小に抑えるために、保護者はしっかり学び、広い視野をもつ必要があります。私が、子供だけでなく保護者のコーチングに力を入れた学習指導をしている理由はここにあります。

富永先生:私が『ひとりっ子の学力の伸ばし方』を書こうと思ったのも、まさに同じ理由です。親が視野狭窄に陥らず、子供を正しく導くことで、ひとりっ子は驚くほど伸びる。これが1番伝えたいことです。伸びるひとりっ子と伸び悩むひとりっ子、小川先生は親のどんな態度がこの差をつくると思いますか。

小川先生:伸びる子に育てる要素はさまざまあると思いますが、根本的には幼少期の親のかかわり方が重要だと思います。子供の行動に対して、尊敬をもって「すごいな」と言えるかどうかが分かれ目です。

 子供が自ら興味をもってやったことに対して「すごいな、さすが」と言えるかどうか。そのうえで、「それに興味があるなら、こんなのもあるよ」「図書館に行ってもっと調べてみようか」などと追加提示することで、本来子供がもっている能力と関心がさらに伸びていきます。

 一方で、頑張っているのに伸ばせないタイプの保護者は「これやって、あれやって」とこちらから先回りして指示してしまいます。そしてその後は、たいてい「できた・できなかった」の2択で判断してしまうんです。

大学入試改革の影響をうけ、難化する中学受験

--小川先生は関東・関西ともにさまざまなご家庭を見ていらっしゃると思いますが、地域によって保護者の方のスタンスに違いはありますか。

小川先生:子育ての方向が大きく違ってきたなと昨今感じます。関西圏は「手に職」の専門職文化が健在で、極端に言うと「子供を医師にすること」が子育ての1つの成功モデルになっています。関東に比べて中高の学校数が少ないにもかかわらず、大学の医学部や医科大が多いことにも表れていますね。一方、関東圏は成功モデルが多様化してきています。専門職に限らず、一般企業勤務でも高年収の「ビジネスエリート」が身近にたくさんいる地域ですから、子育てにおいても思考力やクリエイティブなスキルを重要視している印象です。

富永先生:その地域性が中学受験の形にも影響している気がしますね。関東の中学受験は、従来の4教科入試ではない方法で受験できる「変則入試」が増えています。算数1科目や、理数だけ、算国だけなどもあり、形式が多様化しています。試験内容をみても、思考問題とそれに伴う記述問題が急増しています。

小川先生:その変化はおそらく2024年の大学入試改革が話題になった2020年ころからでしょう。大学入試改革があったときに、まず影響を受けるのは中学受験。高校受験は公立進学の比率が高いこともあり、あまり影響を受けません。一方で、中学受験は6年一貫の私立がメインなので、学校としても中学入試の時点で子どもたちの6年後を見据えることになる。必然的にいち早く反応し、試験内容に影響が出やすいのです。

富永先生:大学入試改革は結局揺り戻しがあって、現在はそこまで捻った問題は多くない印象ですが、中学受験は依然として思考力を問う凝った問題が残っている気がしますね。特に中堅校や難関校は思考力問題をどう出すか、とても模索している印象です。

小川先生:開成などは顕著ですよね。その背景には、典型的な中学受験の入試問題だけでなく、思考型の問題を取り入れたことで、多様な生徒が入学してくるようになったことを、各学校が前向きにとらえているからではないかと推察しています。

思考型入試をする学校側の狙いとは

富永先生:昨今の思考型入試の中には、受験対策をしっかりやるという努力だけではカバーできない問題が出てきているように感じます。この傾向を、小川先生はどのように捉えていますか。

小川先生:子供の成長を考えると、努力したら解けるという問題のほうが相性は良いと思っています。努力したら報われるということが子供の成長を後押しすると考えているからです。しかし、その子なりの特性や関心ごとが生かされる思考型試験も存在意義が大きい。理想は、典型的な入試問題が7に対し、思考型や変則型の問題が3くらいの入試問題ですね。

 現在、難関校の多くは世界に輩出できる人材の育成を考えています。そのような背景で作成された入試に対応するためには、幼児期の育て方や環境が重要になってくるでしょう。小さなころから文化意識や歴史観、社会貢献の意欲のある子をいかに育てるかが家庭に問われていると感じます。

富永先生:親の子育て力が問われていると言っても過言ではありませんね。小川先生のおっしゃる通り、幼児期からその子の興味や成長に合った豊かな学びが必要だという点で、ひとりっ子は非常に有利です。兄弟がいる場合の子育ては「必要最低限のお世話」になりがちですが、ひとりっ子であれば、時間的にも経済的にも、さまざまな体験をさせられる可能性が上がりますね。

小川先生:中には、兄弟全員が難関校へ合格しているというご家庭もあります。複数の子供がいる家庭でも「ひとりっ子的」に環境を整え、親が心がけることで可能性は広がりますね。

1教科入試で合格を狙うことの是非

--入試内容が難化していることもあり、1科目や2科目受験で、得意な科目だけに絞って対策するほうが確率が上がるのではないかという話もあります。この点、どうお考えですか。

富永先生:得意科目に振り切ってしまったほうが簡単に入試を突破できるのではないかという相談は私のところにも多く寄せられます。その際には、変則入試はあくまでも救済策だと説明しています。

小川先生:変則入試は合格基準を予想することが非常に難しい。ですから、最初から変則入試を狙うことは私もお勧めしません。受験間近や受験渦中、慌てて併願校を探したら、得意科目だけの入試があったから受けてみようとか、そのような万一のお守り的な使い方が良いでしょう。

 もしくは小学6年生になって、子供が急に「受験したい」などと言ってきたときに、時間がない中でチャンスを狙うということでトライするには良いでしょうね。

富永先生:実際のところ、広く生徒を集めたいからという理由だけで変則入試を導入している学校も存在していることは否めませんからね…。

小川先生:そのとおりです。ですから変則入試を実施している学校を受けるときには、教育カリキュラムやコース編成など、入学後のフォローはどうなっているのか調べる必要があります。

 得意科目だけで入学できたものの、4教科で受かった子供たちと同じカリキュラムしか用意されていなかった場合、入学後に他の子たちのペースに合わず、苦労することになるでしょう。変則入試を実施している背景を、入学後のカリキュラムと照らし合わせながら、確認しておくことが大切です。

富永先生:関西では、変則入試を実施している学校は少ないですか。

小川先生:そうですね、典型的な中学受験の問題がメインです。医学部進学を1つのステータスと考える関西圏では、正確に基礎を実践できることを重視している学校が多く、今後も入試問題の多様化のスピードは緩やかでしょう。関西の受験は灘がリードして文化を作っていることもあり、やはり理数に注力する学校が多いですね。

富永先生:関西と関東の中学入試は、文化の違いから、大きく異なりますね。関東では、昨今の共学人気もあって、別学校の共学化ブームも見られます。

小川先生:別学が共学化する予定の学校、または直近で共学化した学校を目指すのであれば、創設時からの学校理念や哲学、共学化の目的、共学化以降のビジョンや構想をしっかり確認してほしいですね。学校はトイレの位置1つとっても、しっかりデザインされているもの。今までの文化をリデザインしてまで共学化するということは、それはそれは多くの労力と思いが込められているはずです。哲学なくして共学化すると、それ以降伸び悩むということも起こりえますので「人気校・注目校だから」という理由だけではなく、裏に込められた学校の思いをしっかり確認する必要があります。

富永先生:関東、特に東京は、ルーツが東京ではない人も多いので、学校の歴史よりも「今からどこを目指すか」というメッセージや「人気」というワードに人が集まりやすいですよね。倍率や偏差値は重要な指標ではありますが、受験回や模試の種類、受験生向けのマーケティングの上手下手によって、いかようにも変わりうるということを念頭においてほしいです。

 特にひとりっ子の中学受験では、前例がないがために、保護者も情報をすべて鵜呑みにしてしまいがちになります。それよりも、学校の理念や哲学にわが子が合っているのか。1人に時間を割いてあげられる分、丁寧に、注意深く見てあげてほしいと思います。

小川先生:さまざまな学校があり、入試内容や入試制度が多様化していくことは、マッチングがより適切なものになる可能性が上がるため、子供の成長にとって良い傾向だと思います。時代によって変化していく、または変化しない学校の理念と、ご家庭のポリシーが一致するのかどうかを、しっかり見ていく必要があるでしょうね。

わが子に向き合い、運命の学校を選ぶ

 ひとりっ子だけでなく、第一子の子育ては親にとって“初めて”の連続だ。可愛さ余ってついつい転ぶ前に口出しをしたくなるが、まずは適度な距離間を保って見守り、必要なタイミングで支えることが重要だ。子供のことが心配になったときは、まずは親である自分のスタンスを見直すタイミングなのかもしれない。

 「中学受験は情報戦」と言われるが、頭上を飛び交う情報に翻弄されることなく、目の前にいるわが子に丁寧に向き合い、そのわが子のために必要な情報を取捨選択すること。前例のない子育てで不安を抱えつつも、冷静さと愛を忘れずにわが子との二人三脚の中学受験を勝ち抜いてほしい。


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 後編の記事では、「甘えん坊で競争心がない」と言われるひとりっ子が受験を乗り越える方法と、受験直前にわが子の実力を最大限引き出すための声かけについてお伝えする。

富永雄輔氏


進学塾VAMOS(バモス)代表
幼少期の10年間、スペインのマドリッドで過ごす。京都大学を卒業後、東京・吉祥寺・四谷・御茶ノ水・浜田山に幼稚園生から高校生まで通塾する進学塾「VAMOS」を設立。入塾テストを行わず、先着順で子どもを受け入れるスタイルでありながら、毎年約8割の塾生を難関校に合格させている。受験コンサルティングとしての活動も積極的に行っており、年間300人以上の家庭をヒアリング。その経験をもとに、子どもの個性にあった難関校突破法や東大生を育てる家庭に共通する習慣についても研究を続けている。


小川大介氏


教育家・見守る子育て研究所 所長
1973年生まれ。京都大学法学部卒業。 学生時代から大手受験予備校、大手進学塾で看板講師として活躍後、社会人プロ講師によるコーチング主体の中学受験専門個別指導塾を創設。子供それぞれの持ち味を瞬時に見抜き、本人の強みを生かして短期間の成績向上を実現する独自ノウハウを確立する。塾運営を後進に譲った後は、教育家として講演、人材育成、文筆業と多方面で活動している。受験学習はもとより、幼児期からの子供の能力の伸ばし方や親子関係の築き方に関するアドバイスに定評があり、各メディアで活躍中。

《田中真穂》

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