【無料試し読み】子供目線で描く中学受験小説『きみの鐘が鳴る』(4)

 2022年11月9日に中学受験を子供目線で描いた小説『きみの鐘が鳴る』(ポプラ社)が発売された。ポプラ社の提供を受け、この『きみの鐘が鳴る』の一部を掲載する。

教育・受験 小学生
『きみの鐘が鳴る』
『きみの鐘が鳴る』 全 1 枚 拡大写真
 2022年11月9日、中学受験を子供目線で描いた小説『きみの鐘が鳴る』(ポプラ社)が発売された。リセマムでは著者の尾崎英子氏にインタビューを実施、この作品に込めた思いを聞いた。

 ポプラ社の協力のもと、リセマムでは、読者限定で本書の一部を無料で公開する。予定調和では終わらない、ときに残酷でリアルな、4つの家庭の「中学受験」の行方はいかに…。

 前回のお話はこちら


きみの鐘が鳴る (teens’ best selections 63)
¥1,760
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)





第一章 真下つむぎ(三月) 2-2



 コンコンとノックされて、つむぎは慌ててタブレットを机の引き出しにしまった。が、間に合わなかったようで、部屋に入るなりママは大きなため息をついた。
「タブレット、勉強系の時だけって…」
「理科の動画だってば」
「だったら、隠す必要ないじゃないの。あなたが行きたい青明女子は、偏差値60以上だってわかってるよね? 」
「だからやってるじゃん」

 エイト学舎の入塾テストで疲れているんだから、少しくらい良いでしょう。そう言い返したいし、少し前までは言えたけれど飲み込んだ。

 いよいよ六年生。受験まで一年を切った。そういう言葉が、いやでも耳に入ってきて、本当はのんびりしている暇なんてないとわかっている。

 机の上の問題集やプリントには、付箋がたくさん付いている。今日するべきところがわかるようにママが貼ってくれているので、つむぎはそれを確認する。算数は場合の数か。理科は苦手なてこと滑車で、社会は江戸の文化史と白地図の工業地帯。国語は物語文、そして毎日やることになっている『漢字トレーニング』と『言葉マスター』を二ページずつ。これからやって、全部終わる気がしない。

 フローリングの上でママが丸つけをしはじめたので、つむぎは算数の問題を解きはじめる。
「ちょっと、この答えは『富岡製糸場』でしょう。四年の夏に行ったじゃないの。それに『蚕』っていう字、また間違えてる。上は『天』じゃなくて、真ん中はくっつけないようにって、しつこいくらい言ってるよね」
「ほんとしつこい」
「厳しく採点されると×になるって、塾の先生もメモしてくれてたじゃないの。しつこく言われたくなかったら…」
「うるさい! 算数解いてんの、集中させてよ」

 そう言うと、ママも納得したのか、問題集を持って部屋を出ていった。ちょっときつい言い方になったかな。ママのことは好きだし、丸つけをやってくれるのもありがたいけれど、勉強のことであれこれ言われるのはうっとうしい。


《編集部》

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