【スペシャル対談】「親子で育む非認知能力」ボーク重子さん×TBS蓮見孝之アナウンサー

 非認知能力育児のパイオニアであり、女性のキャリア構築やコーチングのプロフェッショナルとして活躍中のBYBSコーチング代表ボーク重子さんと、3兄弟の父であり、保育士資格と教員資格をもつTBSアナウンサー蓮見孝之氏に「親子で育む非認知能力」をテーマに話を聞いた。

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【スペシャル対談】「親子で育む非認知能力」ボーク重子さん×TBS蓮見孝之アナウンサー
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 人生100年時代を迎えた現代。社会ではグローバル化や少子高齢化、デジタル・AI技術の革新など、さまざまなことが去来しており、先行き不透明なVUCA時代の様相をみせている。こうした激動の時代、これまで教わってきた常識が通用しない世の中で、私達はどう子育てをしていけば良いのだろうか。

 非認知能力育児のパイオニアであり、子育てや女性のキャリア構築などのイベントを数多く行っている、BYBSコーチング代表 ライフコーチのボーク重子さんは、過渡期の今だからこそ、「親も非認知能力を磨くことが次世代へのロールモデルとなり、子供の成長を促す」と語る。2023年2月に発売した新刊『人生・キャリアのモヤモヤから自由になれる 大人の「非認知能力」を鍛える25の質問』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、初となる大人向けの非認知能力育成の書籍。混迷の時代に何が起こっても大丈夫な自分を作り、幸せな人生を設計するヒントが詰まった1冊だ。今回はボーク重子さんと、3兄弟の父であり、保育士資格と教員資格をもつTBSアナウンサーの蓮見孝之氏に「親子で育む非認知能力」をテーマに話を聞いた。

(聞き手:リセマム編集長 加藤紀子)

学習塾・受験ありきの日本都市部の子育て

--重子さんと蓮見さんはTBSの知育教育ラジオ『オヤノココロコシラジ』の番組共演で1年ほど前に知り合ったそうですね。お2人の子育て状況について、まずお聞かせください。重子さんは全米最優秀女子高生コンテストで優勝した1人娘のスカイさんがいて、蓮見さんは3兄弟のお父さまですね。

重子さん:ワシントンD.C.で子育てをした娘ももう25歳になり、今はニューヨークで働いています。

蓮見さん:うちは上から中1、小4、幼稚園生の子供がいて、3人とも男子です。私を含めて男4人となると、家の中は動物園やジャングルに近い状況です。でも、三男坊が生まれてから少し変わりました。長男と三男が10歳くらい離れているので、長男と次男は、私と一緒に妻から赤ちゃんのお世話を学びながら、家事も一緒にやってくれていたので、今でも時々手伝ってくれます。私たち夫婦の話を子供に聞いてもらって、意見をもらうこともありますよ。

重子さん:それは素晴らしいですね。子供との関係がフラットで、お子さんもちゃんと家族の戦力になっているし、男の子が家事ができるというのが良いですね。

「子供との関係がフラット」と蓮見家の子育てに感心するボーク重子さん

--子育て真っ最中の蓮見さんは今、首都圏の子供たちはどのような環境にいると感じていらっしゃいますか。

蓮見さん:東京に住んでいるなと実感するのは受験の話題がよく出ること。多くの人が経験する高校・大学受験ではなく、小学校受験や中学校受験、ごく少数ですけど幼稚園受験の話も聞きます。

 私たち夫婦は地方出身で地元の公立校に進学するのが当然という文化に育ったので、勉強系の習い事をしている子供の方が珍しかったくらいなのですが、今の子供は学習塾がまずベースにあって、余裕があればスポーツやプログラミング、英語や楽器など「勉強プラスアルファ」の習い事をしている。ある一定の年齢をすぎるとみんな塾に行き出すので、遊ぶ相手がいなくなってしまうんです。そうすると、日本人特有の横並び意識というか、周りがなんとなく行き始めるので、 受験ありきではなくて、「なんとなくうちも行っておくか」というところから受験が始まる。そこが東京、都市部ならではだと思います。

「ホール・チャイルド・アプローチ」で子供を総合評価するアメリカ

--首都圏は中学受験者が増えていますが、コロナ禍を経て、日米それぞれ受験に対する意識に変化はありましたか?

蓮見さん:あると思います。やはり、電子端末の導入やオンライン授業などコロナ禍の初動対応が、公立校よりも私立校の方が圧倒的に早かったと感じます。加えて、施設の充実度、課外学習や学校独自のカリキュラムもあったりします。私たちメディアの取り上げ方にも問題があるのかもしれませんが、公立校における教員不足、なり手不足の問題は深刻で、より充実した教育環境をと考えると「私立に行けるのなら…」と考えたくなる気持ちはわかります。アメリカの教育事情は今どうなんですか。

「私たち夫婦は地方出身で公立に進学するのが当然という文化に育った」と都市部の中学受験熱への戸惑い語る蓮見さん

重子さん:アメリカもコロナで激変しました。一番変わったのは大学受験ですね。アメリカの大学受験ではSATやACTという標準テストのスコアを提出するのが一般的で、これが少しずつオプショナルになり、「受けても受けなくても良い」とする学校が増えてきたところでしたが、コロナによって物理的に会場に行って受けることができなくなってしまい、一気に標準テスト不要とする動きが広まったんです。これは今後戻ることはないと思います。

 また、標準テスト廃止のもう1つの要因として、所得格差の是正があります。標準テストは無料ではないうえ、受験には会場に行くことやコンピュータが必要になる。さらに富裕層は塾に行くことで点数を伸ばすことができ、公平ではない。そうした結果、「本当に優秀な子がわからないから廃止しましょう」という大学が増えたんです。

 つまり、今のアメリカの大学は標準テストの結果といった、点数で測ることができる認知能力以外の力も考慮して学生を選んでいるんです。標準テストよりも、高校でどんなことを学んできたのか、その学校が提供している中でどれだけ高いレベルに挑戦したか、学校内外でコミュニティの一員としていかに貢献してきたのか、自分の好きなことは何なのかを問う。これはまさに非認知能力なのです。

蓮見さん:標準テストをなくして、学校内外でどのくらい社会に貢献できたかというところを見る場合、そういった体験の機会は所得に関係なく得ることができるんですかね。本当に切羽詰まっていたら、家のことをまずやらなければいけないので、外に目を向けにくいのでは。

「アメリカの大学受験は、一気に標準テスト不要とする動きが広まっている」

重子さん:アメリカの大学受験ではボランティアの内容はなんでも良いですし、家庭事情も評価になるんです。ボランティアもスポーツも何もやっていなくても、エッセイで「学校が終わったらすぐ家に帰って、仕事で忙しい親の代わりに家事をしたり弟妹の面倒をみたりしています」と伝えれば、それが評価されます。「いかに自分が所属しているコミュニティに貢献したか」「自分が置かれた環境でどれだけチャレンジしたか」が重要で、家族が世界最小のコミュニティなので、大学側はちゃんとそこを見ているんです。

 アメリカでは「ホール・チャイルド・アプローチ」といって、子供をあらゆる角度からまるごと総合的にみる評価軸が確立されています。いろいろな面からみて「この子の強みはなんだろう」、「我が校に来たらこの強みを使ってどんな貢献をしてくれるのか」「この子が我が校の名前を背負って卒業した時に、社会で何をしてくれるだろうか」というところに目が行くんです。

蓮見さん:素晴らしいですね。そういう受け皿というか、子供を包み込む場所があれば、親が正解を探る必要がなくなるので、子育てがしやすいですね。評価する側の教師も生徒の可能性を色々な観点で見てくれるんですね。ちなみに小学校だと、1人の先生が何人の生徒を受けもつのでしょうか?

重子さん:州によっても、公立と私立によっても違いますが、ワシントンDCの私立は子供15人に先生が約2人と手厚いです。また、奨学金もあるので、どんな経済レベルの子供にも開かれているし、大学においては「ニード・ブラインド」といって、入学選考の際に奨学金の申請が影響しない・わからないようになっているシステムで、家庭の支払い能力に関係なく合否を決めるところもあります。

スマホはメリハリをつけ、親子の対話で非認知能力を育む

--蓮見さんは最近子育てされている中で、悩み事はありますか。

蓮見さん:子供が3人いますので、下の子の子育てに1人目の前例、つまり経験値に頼ってしまいがちです。ひとりひとりまったく違うということはわかっているんですけど、切り替えがちゃんとできているのか不安ですね。

重子さん:うちはひとりっ子なんですけど、アメリカでは珍しくて、みんな子供が多いんですね。どうやって子育てしているのか聞いたところ、ひとりひとりに向き合うのが非常に大事だから、その子だけにフォーカスする「ひとりっ子タイム」というのを作っていると。週末1人に2時間とか、その時間はその子がやりたいことをやるんです。

蓮見さん:それは良いですね。子供のスマホの問題はどうすれば良いでしょうか。

重子さん:これはもうテクノロジーありきで、できないと学習にも生活にも困るくらいなので、使う時のオン・オフだけ決まっていれば良いのではと思います。メリハリが重要で、我が家では夕飯の時だけは絶対にスマホもテレビも何もなしで、家族でちゃんと話をする、その日にあったことを話すルールです。

--家庭における「対話」の力ですね。

重子さん:対話ってコミュニケーションの基本なんですね。伝えて、相手の反応があって、受け取って、共感をして、キャッチボールをする。非認知能力は実際の対話を通して学べることで、非常に重要です。コロナによって実際の対面で会う場面が少なくなったからこそ、話をすることが非常に大事。

 また、講演会に行くと「子供が動画ばかり見るがどうやったらやめさせられるか」という質問が毎回出ますが、お子さんがそれをしている時に親が何をしているか聞くと「スマホを見ている」と。大人がやっているのをみたら子供もやりたくなるのは当然で、子供の環境を作るのは親の実践が非常に大事なんですね。一定の時間が来たらWi-Fiを切って、親子みんなでネットを断つ、一緒に頑張るというのもひとつの手かもしれません。

 スマホに頼ることで、たとえば道に迷ったときに人に聞くとか、地図を見るといったアナログの部分、つまり主体性やコミュニケーション力、問題解決力などの非認知の部分が発達していないところもあると思うんですね。

蓮見さん:以前、こんなことがあったんです。当時、幼稚園年中だった次男と駅ではぐれてしまって、どうしようと焦っていたところ、妻のスマホに知らない番号から電話が来て、それが駅のそばの交番からだったんですね。どうやら次男は、1人で交番に行って、暗記していた妻の携帯番号を警官に伝え、電話をかけた。このサバイブ能力を親としては大いに評価したいんですけれど、学校の成績に反映されるような数値化される学力とは違いますし、私たち大人も、どう気づき、どう認めてあげられるか、そこが難しいなと思います。

「スマホがなくてもサバイブした次男を大いに評価したい」と語る蓮見さん

重子さん:素晴らしい力ですね。それこそ、大人が子供のそうした学力では測れない能力を認めてあげるには、大人も非認知能力を知らないといけないし、子供は親を見て育つので、まずは大人が非認知能力を育む必要があると思います。自己肯定感や自分軸、主体性、オープンマインド、共感力などの非認知能力は、これまではレールにさえ乗っていれば良かった時代だったのであまり必要とされていなかったんです。でも、激動の今の時代は非常に大事であるとされていますよね。

 「子供に自己肯定感を高めてほしい、でも自分自身は低い」という声が私のところにたくさん届くのですが、親が自己肯定感を高めなかったら、子供だけ高めるのは難しい。大事なのは、「自分が好き」なことなんですね。私たちはどうしても自分に厳しくて、ダメなところばかり覚えているものの、これもリフレーミング、見方を変えれば良いだけで、1日1回、「自分のこんなところが良かった」というところを探して褒める。ご飯を作ったとか、朝起きられたとか、そんなことで良いんです。「どう見るか」が重要で、「やって・できて当たり前」を今一度見直して、自分を毎日褒めることを繰り返す。

 学校はなかなか変わらない部分があるので、家庭の方こそいち早く非認知能力に対する認識をもって、家族で認めて伸ばしていくことが大事ですね。

蓮見さん:本当にそうですね。そのとおりだと思います。

「いち早く非認知能力に対する認識をもって、家族で当たり前を見直し、お互い認めて褒めて伸ばしていくことが大事」

親は「家庭で評価されない時間」を楽しみ、次世代のロールモデルになる

--最後に読者へメッセージをお願いします。まずは蓮見さんから、子育て中のお父さんへ。

蓮見さん:僕自身は「評価されないことをいかに楽しめるか」ということを意識しています。古い考え方かもしれませんが、男性には「仕事を通じて家族を養う」とか「それに見合った対価をちゃんと手にする」「求められることを形にしていく」という、漠としたイメージがあると思います。それだからこそ「求められない時間を作る」ことがより大事だと思うんですね。

 これには二重の意味があります。昔は専業主婦が大多数で、家事・育児は女性が担うものとされてきた。誰にも評価されないし、対価も支払われない。それを男性にも身をもって体感してほしいという意味です。もうひとつの意味は「評価されない、求められていないって、結構自由で楽しいよ」というところ。1歩外に出ればまた仕事の査定や給与・ボーナス、昇進など、難しいことがたくさんあるでしょうけど、家庭の中はもうみんなフラット。一緒に生活するチームなんだし、ママだって、パパだって、初めはみんな初心者ですもの。評価されないということをぜひ楽しんでほしいと思います。

重子さん:素敵ですね。「うちの中でやることはもう評価されない」とすると、できないことも挑戦しやすいし、やりたいことから始められますね。

--ボーク重子さんから、子育て中の親へメッセージをお願いします。

重子さん:今は教育においても、社会の認知・非認知能力への評価においても、過渡期なので、子育て中のお父さん、お母さんが1番大変だと思います。社会の評価もこれまでのような認知能力のみに戻ることはもうないので、いかに早く柔軟に変わるかが求められているんですね。

 でも今の親世代は、今まで誰も経験していないことなので戸惑いもある。働き方改革でいろいろな働き方が出てきたり、人生100年時代で60年働かないといけなかったり、女性活躍で女性の選択肢が増えたり、男性は男性で家のこともやらなきゃいけなかったりで、大人にロールモデルがいないという戸惑いの中で、もっとも大変な世代だと思うんですね。

 でも、この世代が日本を変えていく。戸惑いがあるということは正解がないということなので、自分らしい生き方を模索することを子供と共有して一緒に育ってほしい。自分にとっての心地良さ、自分軸のウェルビーイングを見つける姿を子供に共有していく。これは大変な作業なんですが、今の親世代にやらないという選択肢はない。皆さんが次世代のロールモデルになるように、自分らしい正解を作っていく。これを踏襲していくのが子供たちなので、子供たちのためにも是非とも自分らしさを発見していってほしいなと思います。

--ありがとうございました。

「自分軸のウェルビーイングを見つける姿を子供に共有していく」子育て世代に大切なメッセージをいただいた

 ボーク重子さんのポジティブなメッセージが詰まった『人生・キャリアのモヤモヤから自由になれる 大人の「非認知能力」を鍛える25の質問』。「自分らしい正解を探しながら子供と一緒に育っていく」という気持ちで日々を過ごすことができるよう、良いサポート役となってくれそうだ。

【プロフィール】


蓮見孝之さん/2004年TBSテレビ入社
現在は「ひるおび」、TBSラジオ「蓮見孝之まとめて!土曜日」「ジェーン・スー生活は踊る」などを担当。2022年「イクメンオブザイヤー」受賞。
知育教育ラジオ「オヤノココロコシラジ」はTBSラジオ公式YouTubeでも配信中。

ボーク重子さん/BYBSコーチング代表。ICF(国際コーチング連盟)会員ライフコーチ
「非認知能力育成のパイオニア」として知られ、140名のBYBS非認知能力育児コーチを抱えるコーチング会社の代表を務め、全米・日本各地で子育てや自分育てに関するコーチングを展開中。大人向けの非認知能力の講座が6か月の予約待ちとなるなど、好評を博している。著書に『しなさいと言わない子育て』(サンマーク出版)、『子育て後に「何もない私」にならない30のルール』(文藝春秋)、『「非認知能力」の育て方』(小学館)、『世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)など多数。



《羽田美里》

羽田美里

執筆歴約20年。様々な媒体で旅行や住宅、金融など幅広く執筆してきましたが、現在は農業をメインに、時々教育について書いています。農も教育も国の基であり、携わる人々に心からの敬意と感謝を抱きつつ、人々の思いが伝わる記事を届けたいと思っています。趣味は保・小・中・高と15年目のPTAと、哲学対話。

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