【自由研究】水に浮かべると咲く紙の花を作ろう…開成中学校入試問題に挑戦

 筑波大学で、小中高校生のための科学教育プログラムを15年にわたって企画・運営してきたサイエンスコーディネーター・尾嶋好美氏の最新著書「続 本当はおもしろい中学入試の理科」より、科学実験を入り口に、中学入試の問題にチャレンジできる自由研究テーマを紹介する。

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「続 本当はおもしろい中学入試の理科」(大和書房)/水に浮かべると咲く紙の花を作ろう
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 自分の手を動かし、目の前で起こる現象を見ることで、疑問をもち、自分の頭で「なぜ? どうして?」と考えるようになる体験は子供にとって貴重だ。子供の探究心を伸ばす科学体験の機会は、遠くへ出かけたり、大掛かりな準備をしなくても、実は家庭の中でつくることができる。

 筑波大学で、科学に強い関心をもつ小中高校生のための科学教育プログラムを企画・運営してきたサイエンスコーディネーター・尾嶋好美氏の最新著書「続 本当はおもしろい中学入試の理科」(大和書房)より、家にある材料を使ってできる科学実験を入り口に、中学入試の問題にチャレンジできる自由研究テーマを紹介する。

水に浮かべると咲く紙の花を作ろう

 しわくちゃになってしまった洋服も、アイロンをかけるときれいになりますね。今は洋服をハンガーにかけたまま使える、衣類スチーマーも人気があります。一般的なアイロンは、高温に温めて、生地に力を加えながら押し当てることで、しわをのばしていきます。でも、衣類スチーマーは力を加えずにスチームを洋服に当てるだけで、しわをのばすことができます。

 紙を花の形に切って折りたたんだものを、水に浮かべると、まるで花が咲くように開いていきます。紙の花が咲くしくみと、衣類スチーマーでしわがのびるしくみは同じなのです。さて、どのようなしくみなのでしょう?

【実験】紙の花を水に浮かべて咲かせよう

折りたたんだ紙はどうなっている?

 紙は、木や草から取り出した「パルプ」という細い繊維がからまり、結合してできています。原料となる木や草の種類によって、パルプの太さや長さは異なりますが、およそ直径20 ~ 50μm(マイクロメートル)です。「1μm = 1000 分の1mm」なので、とても細いですね。和紙などは「紙が毛羽ば立つ」といって、表面にふわふわの細い繊維が出てくることがあります。この細い繊維がパルプです。紙を折り曲げると、折り目部分のパルプのからまりがゆるくなったり、結合が切れてしまったりします。このため、折った部分は破れやすくなります。「はさみがないけど、紙を半分に切らなければならない」というときは、「紙を半分に折る。一度広げて表裏を逆にしてまた折る」ことをくり返すと、切りやすくなります。これは、その部分のパルプの結合が切れるからです。

水が吸いこまれるのはなぜ?

 水は高い方から低い方に流れますね。でも、とても細いすき間があると、水はその中を低い方から高い方にのぼっていく性質があります。これを「毛細管現象」といいます。紙はパルプがたくさんからまってできています。パルプとパルプのあいだ、そしてパルプの中にも細いすき間があります。紙は細かいすき間だらけなのです。そのため、水は紙の中をのぼっていきます。

 手を洗ったあとに、タオルで手をふくと、手から水はなくなりますね。タオルも細い繊維が集まってできているので、細いすき間がたくさんあります。そのため水は、毛細管現象により、タオルに吸いこまれていくのです。

折りたたんだ紙が開くのはなぜ?

 しわのある洋服に、衣類スチーマーを当てると、しわがなくなるのはなぜでしょう? 布は繊維を織ってできています。しわは、繊維が折れ曲がって変形し、そのままの形で固まってしまったためにできるものです。ほとんどの繊維は水分をふくむと、やわらかくなり、動きやすくなります。温度が高いと繊維はより動きやすくなります。衣類スチーマーは衣類に高温の蒸気を当てるので、繊維が蒸気を吸収して動きやすくなり、元の形にもどるのです。

 実験で、折りたたんだ花びらが開いたのは、折り目部分のパルプが水をふくんだことにより、元にもどったからです。ただし、あまりにも強く変形し、パルプ同士の結合がすべて切れてしまうと、元にはもどりません。

折り目と毛細管現象

 毛細管現象により、水は細いすき間をのぼっていきます。では、のぼっていく途中に折り目があるとどうなるでしょうか?たとえ折り目があったとしても、水は、折り目がないときと同じように動きます。ためしにコーヒーフィルターを丸く切ったものを使って、「折り目部分では水がどのように動くか?」を見てみましょう。

 コーヒーフィルターを丸く切り、8等分のおうぎ形になるように折りたたみます(下の写真)。一度広げて、中心から1cm程度はなれたところにサインペンで円を書きます。ふたたびたたんで、円の中心部分を水につけてみます。するとサインペンのインクは、折ったところも折らないところも同じように広がっていきます。

 水分子はとても小さいので、折り目でパルプ同士のつながりが少し変形していても、問題なく細いすき間を通ることができるのです。

 では、毛細管現象に関する問題を見てみましょう。

2019年度 開成中学校入試問題

解説

問1 [予想]では、「ろ紙を折り曲げたり斜めにしたりすると、水の移動する距離が変わる」としていました。でも、図2 の結果を見ると、1分後に水が移動したところも5分後に水が移動したところも、3枚とも同じです。予想はまちがっていたので、答えは「イ」です。

問2 図2 を見ると、折ったところも折らないところも、同じように水が移動しています。この結果から、折り目に関係なく水は移動すると考えられます。答えは「ア」です。


 尾嶋氏の著書『続 本当はおもしろい中学入試の理科』(大和書房)では、「オレンジジュースとアイスティーでセパレートドリンクを作る」「条件を変えて氷がとける早さを比べる」「月の満ち欠けを再現する」など、小学生におすすめの20の科学実験を紹介。実験を楽しんだあとは、同じテーマを扱った中学入試問題にチャレンジできる。イラストと写真入りでわかりやすく、子供の考える力、地頭力を育てる1冊。

 [問題掲載中学校 *50音順]麻布中学校、市川中学校、浦和明の星女子中学校、桜蔭中学校、大妻中学校、海城中学校、開成中学校、カリタス女子中学校、暁星中学校、駒場東邦中学校、三田学園中学校、須磨学園中学校、聖光学院中学校、洗足学園中学校、筑波大学附属中学校、豊島岡女子学園中学校、武蔵中学校、森村学園中等部、ラ・サール中学校

 『続 本当はおもしろい中学入試の理科』のAmazon購入者特典として、「書きこむだけで完成!自由研究シート」を配布中(2023年8月末まで)。自由研究レポートをまとめるのに便利なA4サイズのレポート用紙なので、ぜひ今年の自由研究に役立ててみてはいかがだろうか。


《編集部》

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