学生フォーミュラ「京都工芸繊維大」2年連続1位

大学生たちが自ら構想、設計、製作した車両で“ものづくりの総合力”を競う「学生フォーミュラ」。第21回となる今回は65チームもの学生たちが8月28日~9月2日の約1週間をかけて、今年度の活動の集大成となる車検・動的審査に臨んだ。

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第21回 学生フォーミュラ日本大会2023で総合1位となった京都工芸繊維大学
第21回 学生フォーミュラ日本大会2023で総合1位となった京都工芸繊維大学 全 48 枚 拡大写真

大学生たちが自ら構想、設計、製作した車両で“ものづくりの総合力”を競う「学生フォーミュラ」。第21回となる今回は65チームもの学生たちが8月28日~9月2日の約1週間をかけて、今年度の活動の集大成となる車検・動的審査に臨んだ。

本来は2日の動的審査終了後に表彰式がおこなわれるが、今回は集計に時間を要する事態が発生したため最終結果発表と表彰が延期に。5日に正式発表され、エンデュランスでトップを飾った京都工芸繊維大学が856.49点を獲得、昨年に続き総合1位となった。

◆「失敗できることも学生フォーミュラの良さ」

学生フォーミュラは、「速いクルマを作ってレースに勝つ」ことが目的ではない点が、他のレース競技などと異なる。学生たちは自ら「車両開発ベンチャー企業」となって、参戦車両の設計や開発はもちろん、販売戦略やコスト計算、製造管理など、ものづくりに関わるあらゆるプロセスを実践する。エンジンやパーツの提供を請うため、自らメーカーやサプライヤーに飛び込み営業をし、プレゼンテーションもおこなうという。まさにものづくりの一から十までを体験し、その成果を競う。

フォーミュラスタイルの4輪であること、ホイールベースのサイズや排気量、出力などの規定がある中で、学生たちは車両開発をおこなう。審査はコストの妥当性や、ビジネスプランのプレゼンテーション、デザイン・設計などの静的審査と、エンデュランス、効率など5つの項目に沿って実際に走行する動的審査があり、合計1000点の配点で最も得点が多かったチーム(大学)が勝者となる。毎年この時期に開催される審査に向けて学生たちは、勉学に勤しむ時間も惜しみつつも学生フォーミュラに全力投球する。

近年はエンジン車だけでなくEVでの参戦も増加している。総合成績では、これまでの知見が豊富にあるエンジン車にまだ及ばないが、来るべきEV社会に向けEVに挑戦するチームは来年度もさらに増える見通しだ。地元、静岡大学もEVに挑戦するチームのひとつ。昨年度は初挑戦で完走ならず、今年もリベンジが期待されたがリタイヤとなってしまった。しかしチームリーダーの山本さんは「失敗できること、そこから考えて、学んでトライできることも学生フォーミュラの良さ」と瞳に宿る闘志は消えていない。

「EVでの参戦は2年目ですが、電気がわかる先輩がいない中で、自分たちで独学で知識をつけて、動かない理由を探して…と大変なことは多いです。去年は車検で時間をとられてギリギリになってしまいましたが、今年の車検では1位をいただいて手応えはあった。来年に向けてはまずは完走しきるというのが第一。電気はやってみなければわからないことが沢山ありますが、エラー出しの時間もしっかり取って、来年タイムを残しながら完走するというのが目標です。今回の結果もしっかり検証して、来年挑戦する後輩にパスできれば」

そんな学生たちによる熱い戦いの裏で、もうひとつの戦いが繰り広げられるのも学生フォーミュラの大きな特徴で、それがサポート企業である自動車メーカーやサプライヤーによる「リクルート合戦」だ。

◆「即戦力」獲得へ自社の魅力をアピール

主催する公益社団法人自動車技術会(自技会)が、大会趣旨として「学生が自ら構想・設計・製作した車両により、ものづくりの総合力を競い、産学官民で支援して、自動車技術ならびに産業の発展・振興に資する人材を育成する」と掲げている通り、次世代のものづくり、クルマづくりを担う人材を育成・発掘する現場でもあるのが学生フォーミュラだ。

それは自技会に参画し、学生フォーミュラを支援する企業の顔ぶれを見れば何より明らか。トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、スバル、スズキ、マツダ、三菱自動車といった日本を代表する自動車メーカーをはじめ、二輪メーカーのヤマハ発動機、カワサキ、そしてデンソーやパナソニック、ボッシュをはじめとするサプライヤー、アフターパーツを開発・販売するメーカーら計160社が名前を連ねている。これら錚々たる企業が、手弁当で人材の派遣やアドバイスから、部品などの提供までおこなうというから、その力の入れようがうかがえる。

会場である静岡県袋井市の「エコパ」には企業PRコーナーが設けられ、学生フォーミュラに参戦することで「即戦力」を身につけた学生たちをリクルートしようと、70社以上もの企業が軒を連ね自社の魅力をアピールしていた。特にいま求められているのは制御技術をはじめとするソフトウェアを扱うことができる人材だという。ある出展企業の担当者は、「競技の様子を見て、優秀な結果だったチームの学生さんに声を掛けたりしていますが、ブースに立ち寄ってくれる学生さんは皆、じっくりと展示をみたり質問をしたり、とても熱心です。皆さん即戦力級ですから、どの企業も喉から手がでるほどほしいと思っていますよ」と話していた。

◆エンジン、モーター提供するヤマハ「答えを教えないのが原点」

今年1位となった京都工芸繊維大学など約10校にバイク用エンジンを、前出の静岡大学や名古屋工業大学にEVモーターやインバーターを提供し、第2回大会から20年にわたり活動を支援し続けているのがヤマハ発動機だ。

ヤマハとしては現在45名ほどの社員が、本来の業務とは別に学生支援活動をおこなっている。そのメンバーの多くは、学生フォーミュラ経験者だ。長い人では15年にわたりチーム支援をおこなっているという。具体的には、支援校ごとにひとり担当者を立てて窓口となり、月の活動をチェック、パーツの支援やアドバイスのほか、開発者を集めた講演会を開催するそうだ。

「担当は、最大で5%程度の工数を学生フォーミュラに割くんです。だけど、それぞれが所属する部署も学生フォーミュラ経験者は伸びることがわかっているから活動を理解してくれているんです」と、10年来、学生たちの活動をサポートし続けてきたヤマハ発動機 技術・研究本部 NV・技術戦略統括部 技術戦略部 管理グループ主査(取材時点)の西城雄二さんは話す。F1やMotoGPのエンジン開発に携わってきた経験を活かし、未来の後輩たちに檄を飛ばす。

ヤマハ発動機は企業PRコーナーにEVモーター、インバーターを展示し学生にアピール

「学生フォーミュラの経験者として企業に入られた方は、入社後も非常に活躍しています。学生のうちから様々な企業の方々とのつながりを持ち、1年の中でPDCAを回しながらプロジェクトに取り組む。設計に使うCADも解析ソフトも、我々が開発に使うものと全く同じ。技術はもちろんですが、協調性やリーダーシップ、そういったところを含めて即戦力になってくれる。だから企業は、ここから良い人材を採りたいんです」。だからこそ、育成にも力が入る。

西城さんが学生たちを支援するにあたって心がけているのは「答えを教えない」ことだという。「それが活動の原点。最初は教えてしまっていたんですが、それではダメだと気づいた。考える機会を与える。そして、面白いと思ってもらう。やってみたい、やれるかもしれない、と思わせたらそこまで。大会の成績も本当はどうでもよくて、楽しさを伝えることが第一なんです。1を教えるより、10楽しいと思わせれば、あとは100まで自らすすんでやってくれますよ」とその理由を話した。

学生たちを支援し、さらに自社の強みをアピールしたいという企業は今も殺到しているという。学生たち、そして企業の“決戦の場”として長年親しまれたエコパでの開催は今回が最後。来年度、第22回の会場は明かされていないが、舞台は変われど熱い戦いが繰り広げられることは間違いないだろう。

「求む、即戦力」熱戦の裏で繰り広げられるリクルート合戦、学生フォーミュラの真の意義とは

《宮崎壮人@レスポンス》

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