医学部受験のスタートとなる大学入学共通テスト(以下、共通テスト)まで残り3週間を切った。共通テスト後はすぐに私立大学の入試が始まり、タイトなスケジュールだ。そこで、今から備えておきたいのが、小論文・面接対策。小論文・面接試験は医師としての適性や能力が問われる医学部ならではのものだが、どのように効率よく対策を進めていけば良いのだろうか。
駿台予備学校の医学部専門校舎・市谷校舎で国公立大医系コースを担当している秋庭孝一郎氏、同校舎の卒業生で順天堂大学・医学部医学科1年生の吉武優さん、千葉大学・医学部医学科1年生の千葉恒輝さんに、医学部入試の小論文・面接試験の対策について話を聞いた。2回にわたる小論文・面接対策連載の今回は面接対策をお伝えする。
医学部入試では面接次第で逆転合格もあり
--医学部入試では全大学で面接が行われていますが、この目的は何ですか。また、合否にはどの程度影響するのでしょうか。
秋庭氏:医学部の面接においては、コミュニケーション能力、問題解決能力、適性・倫理観の3点がまず評価されるものと捉えましょう。面接を実施するのは、これらを欠けなく備えている受験生かどうかを見るためです。
また医学部としては、入学後も医師国家試験合格までしっかり頑張りぬき、その後医師としての業務に従事していくための熱意・覚悟を有している学生を選抜したいはずです。偏差値が高いという理由で医学部に進学したものの、医師という進路への意欲が乏しければ、医学部での勉強で挫折し、学生・大学双方のためにならないからです。つまりこの医学部への熱意・覚悟の部分は、前述の倫理観・適正に含まれるものと捉えましょう。
よって面接は、どの大学でも少なからず合否に影響します。面接が配点化され、合格者開示を実施している大学は特にわかりやすいですね。ある国公立大学の入試結果開示では、面接が高評価の学生とそうでない学生で、個別試験の配点のうち1割に迫るくらいの差がついているケースもありました。面接の点数次第で容易に合否結果がひっくり返る例だと言えるはずです。
大学によって面接の配点化有無、採点基準などは異なりますが、一線で活躍する医学部の先生方が忙しい合間を縫って受験生に対面し、ひとりひとりを評価するわけですから、その時間と労力を考えても合否への影響が軽微だとは考えにくいと思います。
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医学部の面接形式を整理しよう
--医学部の面接試験は具体的にどのような形式で行われるのでしょうか。
秋庭氏:医学部の面接試験にはおもに、個人面接、集団面接、討論面接、MMI(Multiple Mini Interview)といった形式があります。まずは自分の志望大学の面接形式を把握し、事前の練習を積んでいくことが必要です。
◆個人面接:受験生1名に対し、面接官2~4名による対話型。一般的な面接形式で、個人をじっくり観察できるため、多くの大学が採用している。
◆集団面接:受験生、面接官ともに複数での面接。質問事項は全員に同じ質問をすることもあれば、調査書や面接シートの内容によって変わることもある。自分の考えをわかりやすく伝える力と共に、他の人の発言を聞く姿勢も見られる。
◆討論面接:複数の受験生が与えられたテーマについて討論を行い、複数の面接官がそのようすを評価する。他の人の意見を尊重しながら、自分の意見を論理的に述べられるかどうかが問われる。
◆MMI(Multiple Mini Interview):文字通り「複数の短い面接」。受験生は複数の面接室(ブース)をめぐり、それぞれ異なる課題に対しての質問を面接官から受ける。たとえば「あなたの家族がアルツハイマー病であることが分かったとき、あなたはそのことを正確に伝えますか」といった具体的な課題が出され、質疑応答をする。一定の時間で次の面接室(ブース)に移動し、これを何回か繰り返す。大学によって実施の形態は異なるものの、あらゆる場面に臨機応変に対処し、速やかにアウトプットする力が必要になる。
--面接では学生のどういったところを見ているのでしょうか。
秋庭氏:面接では、先に述べたコミュニケーション能力、問題解決能力、適性・倫理観の3要素はいずれもみられるものの、大学によって重視している要素が異なります。たとえば、MMIを実施する千葉大学では「あなたが研修医ならどう対処するか」というケーススタディ的な問題が示されることが多く、3要素のうちの問題解決能力が重視されているといえるでしょう。
一方、順天堂大学では、受験生ひとりひとりに、幼いころから熱心に取り組んできたことや、達成した成果などをアピールしてもらう個人面接を行っていますが、これは受験生の個性や人となりから適性を把握しようとしていると考えられます。どの大学もコミュニケーション能力がベースになっていますが、このように大学によって何を重視するかは異なっているように思います。
基本の質問には万全の準備を
--どの大学でも必ず聞かれる質問はありますか。
秋庭氏:代表的な質問として必ず聞かれるのは「なぜ医学部を目指すのか」、そして「なぜこの大学に入りたいのか」の2つです。さらに、高校時代熱心に取り組んだことや自身の長所・短所といった自分自身について、どういう医師になりたいかの将来像といったところでしょうか。その他、話題になっている医療系のニュースや、大学の立地によっては地域医療について、さらには併願校についてもよく聞かれる質問です。
こうした基本的な質問に対する返答は、きちんと事前に用意して頭に叩き込んでおくべきでしょう。それさえしっかり答えられるようにしておけば、大幅に減点されるような事態にはならないと思います。
--思いがけない質問が来た場合はどのように受け答えをすれば良いのでしょうか。
秋庭氏:面接試験では想定していない質問をされる方が普通だと、まずは気構えを固めておくことが肝要です。そのうえで事前の対策としては、ある程度思考力を要する問題について、自身の主張やその論拠を発話でアウトプットする場数をできるだけ多く踏んでおくことが効果的です。
医学部を目指す受験生の多くは論理的に物事を考えることが得意なので、質問されたことに対してどう対応すべきかは頭の中に思い浮かぶと思うのですが、問題はアウトプットの力です。普段から発話の機会が少ないと、せっかくのアイデアも頭の中にとどまったままになってしまいます。
そこでお勧めなのが、家族との対話です。医学的な専門知識がない保護者の方でも、お子さんが説得力のある説明ができているか、医師や大学への興味関心の高さがきちんと伝わるかなどは評価しやすいでしょう。もちろん、実際の面接の形式を踏まえてアドバイスをする必要はなく、食事をしながら日常的な出来事や身近なニュースについて話し合うだけでも十分です。そういう気軽な対話を頻繁に交わすだけでも、日々の積み重ねでコミュニケーション力が磨かれ、思いがけない質問に対応できる力がついてくるはずです。
--当日のマナーや服装、身だしなみなどで気をつけるべき点があれば教えてください。
秋庭氏:服装については、清潔感と礼節をわきまえた身だしなみ・服装であれば問題ありません。制服がある現役生は学校の制服をしっかり着こなせばOKです。浪人生は迷ったらリクルートスーツのセットを一式揃えましょう。
マナーについては、ノックの回数のような瑣末なところまで意識する必要はありません。入退室時のお辞儀や「失礼します」「よろしくお願いします」「ありがとうございました」といった基本的な挨拶など、面接官への敬意が伝わる最低限の所作と、しっかりとした姿勢・目線で、ハキハキと発声ができていれば十分でしょう。
模擬面接や先輩の体験記…駿台生だけの貴重なリソース
--医学部生のおふたりは、面接対策をいつから始めましたか。やっておいて良かったことや、やっておけばよかったと悔やんでいることがあれば教えてください。
吉武さん:本格的に準備を始めたのは、1次試験合格後からです。そこから親に協力してもらいながら準備を進めました。先ほどお話があったように、順天堂大学の面接では人柄をみられます。そのため受験生はスーツケースに、自分のポートフォリオや思い出の品などを詰めて面接に臨みます。私も、高校時代の長期留学で書いていた留学報告書、入賞した小論文コンテストのコピー、ピアノの楽譜、小学校時代の自由研究を持っていきました。親にはその資料集めを手伝ってもらいました。また、浪人時代はあまり人と話さず、自分の考えを誰かに伝えるような機会が少なかったため、母には面接の練習相手になってもらいました。
一方で、国際医療福祉大学の面接では医療ニュースについての質問が多く、答えられなかったものもあったので、もっとニュースを見ておけば良かったと思いました。
千葉さん:僕の場合は駿台市谷校舎で開催された校内生向けの模擬面接に参加した以外は、本格的な対策はやりませんでした。ただ、第一志望の面接に向けて、それよりも早い時期に試験がある私立大学の面接で本番の空気感に慣れるようにしました。
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--駿台での模擬面接はどのようなものですか。
千葉さん:駿台の模擬面接は集団面接のスタイルです。集団面接のおかげで他の受験生のようすも確認でき、自分の良い点、悪い点が浮き彫りになりました。集団で模擬面接ができる機会があれば、積極的に参加した方が良いと思います。
秋庭氏:模擬面接は駿台生向けのイベントです。校内生は無料で集団面接や討論面接が受けられるほか、直前期には必要に応じてクラス担任や講師が個別で面接練習に対応しています。
千葉くんが言ったように、集団面接では他の人と自分との差を確認でき、非常に良い刺激になります。「何とかなるさ」と気長に構えていても、隣で志望理由や将来の展望をしっかりと受け答えをしている準備万全のライバルに出くわすと、うかうかしてはいられなくなります。
集団面接を行う際には、受講生同士が切磋琢磨できるよう、志望大学ごとにグループ分けをするなど配慮をして実施しています。
千葉くん:一方で、私も失敗したと感じた経験があります。それは、防衛医科大学校の面接で「第一志望ではない」と正直に答えてしまったことです。その後の回答でフォローできたので合格することはできたものの、果たしてあの回答が良かったのかどうか、今も悩むところです。
秋庭氏:「第一志望でない」と言うべきかどうかは難しい問題ですね。多くの私立大学では「国公立大学に受かった場合、どちらに行きますか」といった質問がよく聞かれるようです。いわゆる面接のセオリーとして方便を使う方が良いのか、それとも将来医療に携わる人間として正直に返答すべきなのか、何が正解かは一概には言えません。
こうしたときに参考になるのが、駿台卒業生の医学部合格体験記をまとめた「サクセスレポート」です。これは駿台生のみに公開しているものですが、合格者による学科試験の出来栄えはもちろん、面接・小論文で問われた内容や、自分がどのように事前対策をして、本番ではどのように答えたかという貴重な生のデータが集められています。
この「第一志望」問題について「サクセスレポート」を見ると、正直に答えた人も、本音を隠して答えた人も、どちらも合格していることがわかります。つまりこの質問は、きちんと理由を述べ、順序立てて説明できていれば、合否に大きくは影響しないと読み取ることができます。このような先輩たちの体験談はとても貴重で、答えにくい質問に対しても心の準備をしておけるので非常に心強いと思います。
自分の立場と回答の理由をはっきり伝える
--面接で印象的だった質問と、それにどう答えたかを教えてください。また、今振り返ると、面接ではどんなところを重点的にみられていたと思いますか。
吉武さん:印象的だったのは「幼いころから今まで続けてきたことはなんですか」という質問でした。ピアノを13年間続けたことを話したら「ピアノをやってきた中で得たものは何かありますか」とさらに聞かれ、「人の前に立ち、自分の努力の成果を発揮する力です」と答えました。
順天堂大学の面接では、幼少期からこれまでに醸成された性格や気質をみられていると感じます。実際入学してみると、同級生は皆、社交性があるのはもちろん、いろいろな経験をしてきている人が多い印象です。医師を目指すという同じ目的をもった集団の中に、多様な背景や人柄の人たちを受け入れているような印象があります。
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千葉さん:千葉大学の面接はMMIの形式で、実際の医療問題について触れられることが多かったです。印象的だったのは「自分が研修医の立場で、自分の叔父から『担当医に気に食わないところがあるから替えてほしい』と言われたときにどう対応しますか」という問題です。これには結論を求められている意図をあまり感じなかったので、2つの行動案とそれを考えた理由を説明しました。結論が出るまで考え込んで黙ってしまうのは良くないと思い、考えながら話し続けました。
今思えば、面接では結論の内容を評価するというより、考えるプロセスを見られていたのかなと思います。同級生をみていると、自分の考えに固執して物事を一面的に捉えるのではなく、多様な視点から柔軟に考えられる人が多いなと思います。
秋庭氏:吉武さんのエピソードは順天堂大学らしいなと思います。また、千葉大学のMMIでは、大切な人間関係と板挟みになってしまうような場面を想定して回答させる問題が過去にも見受けられ、これも特徴的だと感じます。千葉くんの場合は、複数の考えとそれぞれの理由を説明するという大変高度な答え方でしたね。
ふたりの話からもわかるように、大学によって面接で重視される点は違いますが、もっとも避けたいのは、言いたかったことが言えないまま終わってしまうことです。千葉くんのような高度な回答を目指さなくても、まずは自分の立場を明らかにして、ちゃんとその理由を説明できることを目標にすれば、難しい質問に対しても過度に恐れる必要はないでしょう。
医師としての意識をもつことが面接に必要
--最後に、面接対策について、医学部を目指す受験生にメッセージをお願いします。
秋庭氏:医学部の面接では「この受験生は将来人々の生命や健康に従事するに適した人物か」という観点が少なからず盛り込まれていることを忘れないでほしいと思います。医学部を目指す皆さんは、この観点で自分を客観視し、自分には何が足りないか、どう改善していけばよいかを常に自問することが効果的な面接対策になると思います。
そして何より、面接は練習が大事です。保護者の方には、受験生のストレスにならない程度に、対話の壁打ちの相手になってあげていただけたらと思います。もちろん私たちもとことん面接練習に付き合いますので、ぜひ駿台を活用してください。
--ありがとうございました。
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家庭での会話で、考えながらアウトプットする練習を
小手先の一問一答対策では通用しない、医師としての適性を見られる面接試験。今一度基本に立ち返り、志望理由と、どんな医師になりたいのか、自分はどんなことをしてきたのかについて確認を行い、自分の考えを自分の言葉で、理由とともに論理立てて話す経験を積んでおきたい。そのためにも、ご家庭では考えを伝え合う対話の機会を増やしてはいかがだろうか。また、駿台の講座でプロの目からみたアドバイスを受けるのも効果的だろう。
【対象】高3生・高卒(浪人)生・高1生・高2生・中学生冬期講習・直前講習 12/11(月)~3/13(水)
【対象】中学生・高1生・高2生/保護者
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