「日本からの海外大学進学~小学生までに知っておきたい基本のキ」松永みどり氏×加藤紀子

 2024年2月18日に開催された「国際教育フェスタ~幼稚園・保育園・小学校」にて、アゴス・ジャパン ディレクター 松永みどり氏とリセマム編集長の加藤紀子による「国際教育スペシャリスト対談」が実現。国際教育の最前線をレポートする。

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2024年2月18日に開催された「国際教育フェスタ~幼稚園・保育園・小学校」での国際教育スペシャル対談「日本からの海外大学進学~小学生までに知っておきたい基本のキ」
2024年2月18日に開催された「国際教育フェスタ~幼稚園・保育園・小学校」での国際教育スペシャル対談「日本からの海外大学進学~小学生までに知っておきたい基本のキ」 全 3 枚 拡大写真

 「国際教育フェスタ~幼稚園・保育園・小学校」が2024年2月18日に二子玉川ライズ スタジオ & ホールで開催された。本イベントは幼児・小学生とその保護者を対象に、インターナショナルスクールや国際教育に積極的に取り組んでいる小学校、アフタースクール、親子留学、語学教育・サービス等を提供する14の学校と企業が参加。学校や企業の担当者と直接対話したり体験したりできるブースを展開。子供の学び体験や情報、先生と保護者の対話の機会が提供され、国際教育に関心のある多くの家族連れが参加した。

 フェスタの目玉となったのは、国際教育の第一人者と、リセマム編集長の加藤紀子が国内最先端の情報を伝える「国際教育スペシャリスト対談」。最新の海外大学進学の傾向と、奨学金制度、進学を考えたときに幼少期から取り組みたい学習について、「日本からの海外大学進学~小学生までに知っておきたい基本のキ」と題し、30年以上にわたり海外大進学を支援してきたアゴス・ジャパン ディレクター 松永みどり氏を招いて特別対談が開催された。

日本の高校生が海外大学を目指す割合は倍増

 高校卒業後の進学先として海外大学を志望することは、今や珍しくなくなってきている。長年にわたり大学からの海外進学を支援してきたアゴス・ジャパンディレクターの松永氏は、「私がこの仕事を始めた約30年前に比べて、18歳人口は約半分にまで減少している。しかし、海外のトップレベルの大学を目指し、アゴスに入学する高校生の数は増えており、割合で考えると約2倍に増えている計算だ」と語る。

2024年2月18日に開催された「国際教育フェスタ~幼稚園・保育園・小学校」での国際教育スペシャル対談「日本からの海外大学進学~小学生までに知っておきたい基本のキ」

 特に顕著な変化は、日本のトップ大学に入れるだけの高い学力をもつ高校生が、志望先を海外大学に定めるようになってきたことだ。昔は海外大学への進学といえば、アメリカの場合であれば、英語力不足でも比較的入りやすいコミュニティカレッジ(短期大学)へ入学してから4年制の総合大学に編入するといったケースが圧倒的に多かった。しかし昨今では、世界大学ランキングの上位に連なるような合格率の低い難関大学であっても、授業についていけるだけの十分な英語力を身に付けたうえで、1年生から正規で入学するケースが増えているという。

なぜ日本の大学ではダメなのか

 2024年2月、高校野球で甲子園を沸かせた岩手・花巻東高校の佐々木麟太郎選手がアメリカの超名門、スタンフォード大学に進学することが発表された。日本トップクラスの野球の腕前であれば、プロ球団はもちろん、国内の有名大学からも複数声がかかっていたことだろう。それでも日本の大学ではなく、海外で挑戦することを選ぶ。佐々木選手に限らず、日本の有名大学に入れる実力のある人材が、なぜあえて海外を志望するのだろうか。

 その大きな理由として、アメリカの大学では、学問分野を決めずに出願できるという点を松永氏はあげる。「佐々木選手の場合は、日本の大学に入れば野球一筋。佐々木選手以外でも、経済学部に入学したら経済学部生として卒業するといった具合に、ほとんどの大学は入学の段階で進路が決まってしまい、それを途中で変えたり、複数選んだりすることは容易にはできません。しかし、たとえばアメリカでは、文系・理系の垣根はなく、かつ入学時に志望していた専攻からの変更も珍しくありません。専攻を2科目、3科目にすることもでき、スポーツや楽器をしながら数学やビジネスを学んだり、コンピュータサイエンスを専攻しながら、心理学や脳科学、あるいは哲学や倫理学といった領域を同時に専攻したりすることはごく当たり前なのです」と松永氏は語る。

アゴス・ジャパン ディレクター 松永みどり氏

 さらに、自分の学びたいことが既存の専攻領域で見つからなければ、教授と相談して新しい専攻をつくることも可能だという。また、専攻が決まっていて、もっとハイレベルなことを学びたいと望めば、学部生であっても大学院のクラスを受講することもできる。こうした柔軟なカリキュラムが、「今はやりたいことが見つからないが、じっくり幅広く学問に触れてみたい」「既存の枠組みにとらわれず、自分の可能性を広げたい」と考える積極的な若者には魅力的に映るのではないかと松永氏は分析する。

海外大学進学に立ちはだかる3つのハードル

 それでは、海外の大学へ進学したいと考えたとき、越えなければならないハードルとはどのようなものだろうか。松永氏は「ざっくり言えば、ハードルは3つ」と説明する。

 1つ目は「費用」だ。最近では物価高と円安もあいまって、以前にも増して高いハードルとなっている。ただし、奨学金は年々充実しており、クリアしやすくなっていると松永氏は言う。

 2つ目は、専攻時にテストのスコアや成績以外の評価項目である「課外活動」だ。日本の受験ではこのような課外での活動を問われることが少ないため、非常に悩む学生が多いのだそうだ。勉強と並行して自分なりの探究を続け、それを興味・関心とともにエッセイでまとめなければならないというのはそれなりの負担となる。

 3つ目は「出願のサポート」だ。進路指導にあたり、日本のほとんどの高校では大学から海外に進学したいという生徒の対応に慣れておらず、推薦状の作成などに対するノウハウもなく、出願のサポートができないケースがまだ圧倒的に多い。

 「私たちも、こうしたハードルを受験生自身が何とか克服できるようにサポートしていますが、本人に代わってすべてを代行してあげることはできません。大学からの海外進学を目指すなら、何よりも重要なのは本人の主体性。海外の大学でマイノリティーとして4年間、多くの修羅場を潜り抜けながら学び続けていくには、学校の先生を含め、自分で周りを巻き込みながら、創意工夫して出願をやり切るだけのパワーが必ず必要なのです」と松永氏は強調する。

返済不要の奨学金 最新事情

 海外大学に進学するとなると、国や学校によって異なるものの、非常に多額のお金がかかるケースが多い。そのような厳しい費用面で海外進学を支えてくれるのが奨学金だ。

 海外大学進学に使える奨学金制度は、主要なものだけでも9つほどある。採用人数が少ないものもあるが、奨学金制度は年々充実してきている。採用されれば、現地での生活費までほぼ賄えるものもあり、「資金の問題で諦めざるをえないと考えている場合には調べてみてほしい」と松永氏はいう。メジャーな奨学金として、グルー・バンクロフト基金、ユニクロ柳井正財団、笹川平和財団、孫正義育英財団、江副記念リクルート財団、フリーマン奨学基金、船井情報科学振興財団、日本学生支援機構(以下、JASSO)、エン人材教育財団をあげた。

 特にインパクトが大きいのが、ユニクロ 柳井正財団と、2023年に始まったばかりの笹川平和財団だ。それぞれ40名ほどの学生を支援しており、留学先はアメリカとイギリスに限定されているものの学費だけではなく、交通費や現地での生活費などもカバーする金額を現地通貨建てで支援してくれる。また、JASSOはアメリカ・イギリス以外の海外大学への進学も支援し、たとえばヨーロッパの大学であれば学費が安い分、生活費も含めて十分に賄えるケースも少なくない。昨年は78名に奨学金を付与した実績があり、多くの学生が支援を受けて留学を果たしている。「こうした奨学金は、国や専攻分野などそれぞれ条件が独自に規定されているので、入念に調べてみてほしい。受給できれば留学の大きな後押しとなる」と松永氏は語った。

 そのほか、受け入れる国や大学側が奨学金を用意している場合もある。アメリカでは、佐々木選手のようにスポーツや芸術、あるいは学業に秀でた生徒のためのスカラシップ制度や、家庭収入を申告したうえで学費を補助してくれる、さらに家庭収入が一定水準以下であれば学費がすべて免除になる奨学金もある。「大学の奨学金制度は、卒業生からの寄付で成り立っている。奨学金を支払ってでも優秀な人材が育てば、結果として大きく戻ってくる仕組みがあるのです」

まず何から?海外大進学を叶える準備の進め方

 松永氏は、海外トップ大学の入学試験を「大手企業の幹部候補生向けの入社試験のようなもの」と表現する。入試で決まる日本の受験とは違い、TOEFLやIELTSなどで高い英語力を証明したうえで、出願書類として学校の成績や課外活動、受賞歴、エッセイや推薦状などを提出する。

 さらに、面接のほか、アメリカ国内の高校生が受けるものと同じ学力テストのスコアを求める大学もある。さまざまな視点から評価されるため、大学合格だけを目的とした付け焼き刃の対策では合格できないのだ。つまり、英語はもちろん、課外活動なども長い期間をかけて準備する必要がある。「海外大学を目指すのであれば、高校2年生の夏あたりまでにTOEFLまたはIELTSで必要な点数を取っておくと、その後の出願までのスケジュールがスムーズになる」と松永氏はいう。準備が多岐にわたる海外大への進学だからこそ、しっかりと全体像を俯瞰して取り組みたいところだ。

小学生までにやっておきたいこと

 最後に「30年間の留学支援をしてきた中で、海外のトップ大学に進学する生徒に共通していた資質は何か」という加藤からの質問に対し、松永氏はあらためて「主体性」だと強調した。高いハードルがあり、長期戦となる出願プロセスでは、親が主導権を握り、前のめりになってしまうケースが珍しくないそうだ。特に、自分自身に留学経験があるような場合には、先回りして子供のサポートをしてしまう傾向にあるという。しかし、「あくまでも留学するのは子供だ」と松永氏は念を押す。

リセマム編集長 加藤紀子

 「海外で良い経験をさせてあげたいという親心は素晴らしいと思う。しかしながら、いちばん大事なのは子供自身が本気になること。口や手を出したいところをグッと我慢してほしい」。そのためには「子供が好きなこと、夢中になっていることを尊重してほしい」という。

 「できれば小学校低学年までに好奇心を育てる手伝いをしてあげてほしい。幼少期の体験がエッセイの題材になることもある。かつては、“泥団子”についてのエッセイを書いて、アメリカの名門大学に受かった生徒もいました。こんなことに熱中しても将来役には立たないなどと打算的に考えず、『これなに?』と聞いてきたことを一緒に調べたり、些細であっても子供が夢中になっていることを『へぇ、そうなんだ』と面白がったりしてあげてほしいです」

 もうひとつ、松永氏が勧めるのが家庭での「対話」だ。しっかりと、主語、述語、目的語を使った正しい日本語で、意思疎通をしてほしいと松永氏は語る。「自分の思いや考えを、母国語である日本語ですら語れないなら、母国語以外の言語でも難しいはず。自分の思考のアウトプット能力は、日々の経験の積み重ね。家庭でたくさん対話してほしい」と話す。そのためには読書も有効だ。エッセイや面接で「今まであなたにもっとも影響を与えた本は何ですか」といった質問をされることも珍しくない。「小学生までに、さまざまなジャンルの本を読み聞かせすると良いでしょう。言葉に親しむことは英語学習時にも役立ちます」

誰かのマネより「自分らしさ」を育む

 30年にわたり海外大学への進学サポートに携わってきた松永氏。「この仕事をしていなければ、私もどこかにロールモデルを探し、その人のマネをして同じような人生を歩むことを追い求めていたかもしれない。ただ、30年間、たくさんの生徒たちを見てきた今の私が言いたいことはたったひとつ。子供本人がすごくやりたい、めちゃくちゃ楽しいと思えることに出会ったなら、躊躇せずに『やってみれば?』と背中を押してあげてほしい」と訴える。

 「科学系のオリンピックでメダルを取ることも、ディベートやコンクールで入賞することも、もちろん高く評価されることでしょう。しかし今は、そのようなステレオタイプな実績だけではなく、自分にしかできないこと、好きなことを突き詰めれば、それがオンリーワンの武器になる時代だと思うのです。ロールモデルがいないからといって、その道を進もうとするお子さんを止めないでほしい。心配な気持ちをグッとこらえて、子供を信じ、応援する立場に徹してあげてください」

 「自分らしさ」の芽を摘まないこと、邪魔せず伸ばしてあげること。これこそが、海外トップ大進学を考える親にとって、わが子が小学生になるまでにできる最大のサポートなのかもしれない。

《田中真穂》

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