2025年度の医学部入試が始まった。1985年の創立以来、40年近くにわたって全国から集まる医学部受験生を指導してきた京都医塾。自身も医学部を卒業した塾長の清家二郎氏に、これまで多くの受験生を合格に導いた実績や知見をもとに、最新の動向や低偏差値からも合格させるサポートの秘訣について聞いた。
偏差値は東大・京大並み…最新の医学部入試事情
--保護者世代の多くが大学受験を経験した1990年代に比べ、近年の医学部受験は非常に難化していると聞きます。
おっしゃる通りです。私が東大の理科I類に進学したのは1988年。そのころは東大・京大の理系は他の国公立大の医学部より難しいと言われていた時代でした。その後、信州大の医学部を再受験したのが1995年。バブル崩壊などを経て90年代からは医学部受験が徐々に難化し、現在医学部に合格できる目安は国公立・私立問わず偏差値65前後と、いずれも東大・京大の理系(医学部を除く)に並ぶレベルです。保護者世代の大学受験のころととりわけ大きく異なるのは、私立大学医学部の難易度。かつては偏差値が50未満でも合格できる大学もいくつかありましたが、今ではそのような大学は1つもありません。
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--現在の医学部受験では、国公立と私立どちらの方が合格しやすいのでしょうか。
やはり私立医学部の方が合格の可能性は高まります。というのも、受験生にとって限られた時間を何にどれだけ(いかに効率良く)使うのかを考えたとき、私立の場合は英語・数学・理科2教科、小論文、面接の対策に注力できるからです。
一方で 国公立の場合は、共通テスト対策が必要になります。共通テストには社会、情報に加えて、国語では現代文・古文・漢文と幅広く勉強をしなければいけません。さらに医学部を志望する以上は、最低でも8割の得点が求められます。しかもこれはあくまでもボーダーであって、確実に合格を狙うなら9割に近づけていかないといけません。
特に共通テストは、かつて保護者世代が経験した共通一次試験、センター試験と比べて、新しい学習指導要領に基づいた柔軟な思考力や判断力、表現力や知識を使う力が求められるため、全般的に難易度が上がっています。したがって国公立医学部を志望する場合、決して易しいとはいえない共通テストで高得点を取るための準備や訓練にも時間を費やす必要があるわけです。
--医学部合格に必要な偏差値に届くタイパ、コスパを考えると国公立は負担が大きいですね。
はい。さらに、私立は複数の大学を併願可能であるという利点もあります。
国公立は前期後期で1大学ずつしか受験できません。特に近年は後期入試を実施する大学が減少傾向にある上、定員も非常に少なく高倍率の狭き門で、実際は前期勝負になります。一方で私立は、日程さえ被らなければ、多い場合は10校以上併願することも可能です。
河合塾の全統模試で偏差値65というのは、偏差値65にランクされている医学部の合格可能性がC判定、合格できる可能性が50%、2分の1ある状態です。たとえば、このランクの医学部を4校受験すると、すべて不合格である確率は、2分の1の4乗となり、16分の1に下がります。つまり理論上は、4校併願することで16分の15の確率で少なくとも1校は合格できるわけです。
言うまでもなく、医師になるには医学部に1つでも合格すればスタートラインに立てます。仮にある大学の入試で失敗をしても、私立大学医学部であれば複数受験でき、次の大学では、その前に失敗した大学の結果とはまったく無関係に合否が判断されるので、リカバーできる。ですから同じ偏差値65の力をもった受験生でも、共通テストと二次試験それぞれ一発勝負の国公立大学医学部受験に賭ける場合と、私立大学医学部を複数校受けて、どこか1校の合格を目指す受験では、翌年医学部生になれる確率は大きく違ってくるのです。
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--現役の医師からは「キャリアと生涯年収を考えたら1年でも早く医学部に入るべきだ」という声もよく耳にします。こうした見方も保護者世代とは変わってきているのでしょうか。
そうですね。2004年から必修化された臨床研修制度により、出身大学が医師のキャリア形成に及ぼす影響が小さくなりました。以前は、医学部卒業後は出身大学の医局に入ることが一般的でしたが、今は出身大学と関係なく、一定の規則に従ってどの研修医がどの病院で研修を行うかのマッチングが行われます。つまり、医学部在学中にしっかりと勉強しておけば、大学受験時の偏差値の如何によらず、希望する大学や病院において、研修を受けることが可能になっているのです。
偏差値50未満でも医学部合格は狙えるのか
--医学部に入るには国公立でも私立でも偏差値65が求められるとのことでしたが、かつてのように偏差値が50未満で医学部に合格するのはやはり難しいですか。
これまでお話しした通り、今は医学部に合格するには偏差値65の学力が必要です。ですが、かつてのように偏差値50未満からでも医学部に合格できる可能性はあります。
京都医塾では『偏差値40からの医学部逆転合格』という書籍も出していますが、実は毎年、京都医塾生の中からは、偏差値30台からも合格者が出ています。ただ、そのためには、基礎力を徹底的に鍛えることが不可欠です。私たちはこれを「絶対基礎」と呼んでいますが、この基盤を固めたうえで合格ラインを超えていくという京都医塾のメソッドで学習することが有効です。
--基礎力の基盤「絶対基礎」がしっかり固まっているというのは、具体的にどんな状態を指しますか。
模試や過去問を解く際、基礎的な問題を取りこぼさないことです。たとえば模試の結果が同じ偏差値50でも、基礎問題をいくつもミスする一方で発展問題の一部が偶然解けたという場合と、発展問題はまったく解けないが基礎問題をしっかり得点できている場合とでは、後者の方が、将来的に医学部合格まで届く可能性が高いのです。
前者は基礎が固まっていないので、基礎が安定しないものを3科目4科目集めても、各科目のあたりはずれが毎回あり、その4科目のトータつの平均偏差値は65どころか、実際は50にも満たない不安定な状態です。ところが基礎力が固まっている後者は、正答率が高い問題を確実に得点できるため手堅く安定しており、むしろ演習を積んでいく中で基礎と基礎を組み合わせて発展問題が解けるようになるポテンシャルが十分あると言えます。
--偏差値だけで判断するのは危ういということですね。基礎力が付いているかどうかはどのように確かめるのでしょうか。
京都医塾では入塾前に必ず「医学部合格診断」というものを丸2日間かけて受けていただきます。その中で、学習の到達度を分析するアチーブメントテストによって、科目ごとの「絶対基礎」がどの程度できているかを丁寧に調べます。また、個別の学習カウンセリングや1対1の体験授業も受けていただき、各教科のプロ講師が徹底分析した結果をご報告させていただいています。
結果を見て保護者も驚かれることが多々ありますが、伸び悩みの原因は、中学校で覚えるべき英単語だったり、小学校で教わる四則計算のルールだったり、あるいは幼少時に培われるべき能力など、さまざまです。これが不十分なまま、高校内容や医学部入試レベルの講義を受けても効果はありませんから、まずは現状を正確に詳しく、具体的に把握すること、それを補完しながら進めていくことによって、初めて学習効果が高まっていくのです。
「医学部合格診断」について詳しくみる「医学部合格診断」から作るオーダーメイドカリキュラム
--「医学部合格診断」は、全身の健康状態を詳しく調べる人間ドッグのようですね。2日間かけて改善が必要なところを徹底的に洗い出し、ひとつずつ手当てをしていく。この手当てが実際の授業になるわけですね。
おっしゃる通りです。ただ「医学部合格診断」はあくまで初診に過ぎません。我々もたった2日間でその生徒のすべてが分析できるとは考えていませんので、まずは最初の3週間程度の時間割を組みます。そのうえで、4週間経過後、それがその生徒に最適か、調整が必要かを考え、判断し、次の時間割を組むということを繰り返していきます。これは、医師が初診患者に1年分の薬をまとめて処方しないのと同じことです。
加えて、主治医1人ではなくチーム医療のように、その生徒に関わる複数のプロ講師が一丸となって、「絶対基礎」を中心に手当てが必要なところを最も効率良く、しっかりと回復できるオーダーメイドのカリキュラムを柔軟に組み直しながら進めていくのです。
--京都医塾の授業はどのような形で進むのでしょうか。
授業は個別指導と集団授業のハイブリッドで行います。個別指導では、モニターと手元のiPadを使って生徒が問題を解いている手順や、書いて消しているようすまで、思考プロセスを確認しながら、対話を進めます。思考プロセスを見ていると、解法の丸暗記をしているだけで、なぜそうなるのかを根本的に理解できていないなど、つまずきの原因がわかるケースも多くあります。これを通して「絶対基礎」の致命的な穴を探ります。
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一方で集団授業では1クラス数名の少人数で、科目ごとに各自に見合ったレベルに分けます。集団といっても、少人数ゆえ講師はひとりひとりの理解度を把握しており、一方通行の講義ではなく生徒はどんどん指名され、自分の言葉で説明を迫られます。このあたりが大手予備校の集団授業や動画配信の授業とはまったく違うところです。
個別指導だけではなく集団授業も行うもう1つの理由は、ペーシングと競い合いの要素を取り入れるためです。受験勉強というのは、個別に取り組むとどうしてもペースダウンしてしまいがちです。その点、集団であれば自分と同じ理解度、同じ課題を抱えている複数のライバルと一緒に授業を受けるため、「負けられない」という意識が自然と芽生え、お互いに切磋琢磨した結果、双方が伸びていくということが起こりうるのです。
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偏差値30台からの医学部受験、明暗を分けるのは…
--偏差値30台からでも合格できる医学部受験、最終的には何が明暗を分けるのでしょうか。
繰り返しになりますが、多くの受験生が正解できる正答率の高い問題でミスをしない力を付けることが合格には不可欠です。
その力を身に付けるためのポイントは2つ。まず1つ目は、適切な優先順位で学習を進められたかです。受験までに残された時間は有限です。その有限な時間で、あれもこれもと全部仕上げようと思わないこと。そのためには学習の優先順位を正しくつけないといけません。その順位付けは次のような基準で考えると良いでしょう。
●その内容が「絶対基礎」であるかどうか
●その問題を見たときに“嫌な気分”になるかどうか
●その問題が頻出問題かどうか
受験生なら誰しも、見たときに“嫌な気分”になる問題があるはずです。私は「嫌いリスト」と呼んでいますが、解くことにモチベーションが上がる問題ではなく、つい目を背けたくなるような問題、自信のないままにそっとしまっておいてしまっている問題に取り組み、苦手をつぶします。ただ「嫌いリスト」に入っても、あまり出題されない問題であれば優先してやる必要はありません。
そして2つ目は、勉強の質です。すべての受験生に、年度が始まってから試験本番まで300日程度が与えられます。睡眠時間と食事や衛生に必要な生活時間を除けば、勉強に費やせる時間は1日最大でも14時間ほどです。この14時間のパフォーマンスを最大化するには「覚醒度」が重要です。私が生徒に朝6時の起床を勧めているのも、8時からスタートする朝の自習や9時からの授業でしっかりと頭を働かせるためです。
学習の優先順位、勉強の質に加え、試験本番に心身の状態が整っているかどうかも明暗を分けるポイントだと言えます。合格するには、努力を積み重ねて伸ばしてきた学力を当日最大限に発揮することですから、これらの要素が掛け合わされてこそ合格できるのです。
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医学部合格には親子間のほどよい距離感を
--わが子が医学部を目指す場合、保護者はどのようなサポートができますか。
成績が思うように伸びない、あるいはお子さんがちょっと息抜きをしているだけでも親としては心配になりますが、「本当に大丈夫なの?」「このままではダメじゃない?」といった聞き方はしないこと。本人の不安を煽り、学習に悪影響を及ぼすだけです。ぜひ「よく頑張ってるね」「体にだけは気をつけてね」と声をかけてあげてほしいですね。
そういう意味でも、京都医塾への「京都留学」は良い選択肢だと思っています。1年間親元を離れて京都に移り住み、講師や心理カウンセラー、管理栄養士や寮母、整体師など、さまざまな人に支えてもらいながら、同じ志をもつ仲間と共に受験勉強に没頭する。信頼できる人たちが周りにいるから、しんどい時も続けようと思える。今までに経験をしたことのない密度で全力で戦っている、そんなときに遠くの親から「よく頑張ってるね」などと言われたら、子供のモチベーションは自然と上がるものです。
--医学部を目指す受験生に向けて、メッセージをお願いします。
今、まさに渦中にいる受験生には、「1校1校集中」と伝えたいです。合格の可能性が50%まで力が付いているなら、仮に今日失敗しても、たとえ3連続で失敗しても、次の試験でベストパフォーマンスが出せればまだ合格の可能性は残っています。だからこそ引きずらず、1校1校、さらには1科目ずつ全力で集中し、その都度リセットして前だけを見ること。決して最後まであきらめないでほしいと思います。
また、これから医学部を目指す受験生には、今日お話しした「絶対基礎」を着実に身に付けること、そのための優先順位と勉強時間の質を大切にして頑張ってもらいたいですね。
--本日は貴重なアドバイスをありがとうございました。
医学部受験の保護者世代からの変化、それらを踏まえて受験生が何を重視すべきかがよくわかるインタビューだった。「医学部受験の難化」と聞くと太刀打ちできないイメージがあったが、清家氏のお話から、自分の現状を正しく把握し、足りない部分は優先順位を付け、基礎をしっかりと固めることで、合格を手繰り寄せることができると感じた。医学部を目指す受験生には、京都医塾への「京都留学」の門を叩いてみることをお勧めしたい。
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